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連続講座:映画批評_新しい映画と観客のために
第4回 ニコラス・レイ生誕100年

2011年12月30日(金)15:20(講座の前に参考上映あり/終了予定19:00)
 
講師:藤井仁子(映画批評)
 気鋭の映画批評家たちによる連続講座。「映画批評はいまだ有効か」の堂々巡りを超えて、何度も新しくよみがえり続ける映画と観客のための批評の実践です。
 今回は、ニコラス・レイ生誕100年を記念し、『わたしは邪魔された―ニコラス・レイ映画講義録』(みすず書房)の翻訳者のお一人でもある藤井仁子氏を講師に迎えます。講座の前に参考上映あり。
 
[関連企画] ニコラス・レイ監督『孤独な場所で』
 
ニックス・ムービー、善悪の彼岸   藤井仁子
 彼らはわれわれが生きるこの世界に一度たりとも適切に導き入れられたことがない――ニコラス・レイの監督第一作『夜の人々』の冒頭を飾るこの前口上は、そのまま彼の全作品への前口上にもなっている。実際、銀行が泥棒同然のことをやる時代に追われる身となった若い恋人たちの短すぎる蜜月を描く『夜の人々』は、映画製作倫理規定の厳格な適用を受けていた当時のハリウッドにあって、普通なら許されないはずの題材だったのだが、その後も彼は気位の高い酒浸りの癇癪持ち(『孤独な場所で』)、銃を棄てた男と共同体から疎外される薹の立った守銭奴の女(『大砂塵』)、思春期の不良少年(『理由なき反抗』)、果てはロマ(『熱い血』)やイヌイット(『バレン』)といった、主流のハリウッド映画が決してしかるべきかたちで導き入れようとしなかった「夜の人々」の物語を紡ぎつづけるだろう。同時にそれは、いっさいを善と悪との二元論で解釈しようとする古典的ハリウッド映画のイデオロギーに逆らって、善悪では割り切ることのできない世界のあいまいさ、人間の複雑さをありのままに見据えようとする困難な試みでもあった。世界は深い。昼が考えたより深いのだ。その事実を生涯を挙げて示した作家の生誕100年が、伝説的な遺作『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』の日本初上映まで実現してしまったというのにあくまで昼の晴れやかさとは無縁のまま、「孤独な場所で」ひっそりと暮れようとしているのは、むしろ彼とその映画に似つかわしいことなのかもしれない。アルコールの力でも借りなければ到底乗りきることのできない、そんな夜が人生には一度ならず訪れるということを知るすべての人々のために、ニックの映画はあるのだから。

藤井仁子(ふじい・じんし/映画評論家)
1973年生まれ。映画評論家。早稲田大学文学学術院准教授(映画学)。映画批評サイト『テアトル・オブリーク』主宰。編著書に『入門・現代ハリウッド映画講義』(人文書院)、共著書(分担執筆)に『成瀬巳喜男の世界へ』(筑摩書房)、『映画の政治学』(青弓社)、『日本映画とナショナリズム 1931-1945』『映画と「大東亜共栄圏」』、『映画と身体/性』(いずれも森話社)などがある。2011年秋出版の『甦る相米慎二』(インスクリプト)を木村建哉、中村秀之と共編。

 

《参加費》 1500円(講座+参考上映)
*ご予約受付中 
info@kobe-eiga.net 宛に、お名前、連絡先(電話)、参加希望日を書いてお送りください。
追って予約受付確認のメールを差し上げます。
 
《割引》
講座参加者はニコラス・レイ監督『孤独な場所で』の鑑賞料200円引き

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