伝説の映画集団NDUと布川徹郎
 
60年代末から70年代を疾走したNDU(日本ドキュメンタリストユニオン)の主要メンバー布川徹郎が今年2月に亡くなった。NDUは広河隆一(現「DAYS JAPAN」編集長)と立ち上げた早大カメラルポルタージュ研究会を出発点として、70年代の日本のドキュメンタリーを牽引した早大中退者で作る映画創作集団である。
これらの作品は、山形国際ドキュメンタリー映画祭で時折上映されたり、各地で希に自主上映されたりするものの、まとめて見る機会は少なかった。今回は、NDUと布川作品を一挙上映する。      ──安井喜雄(プログラムディレクター)
 
お寄せいただいたコメント
特製パンフレット
 

 
10月21日(日)16:00〜
鬼ッ子 闘う青年労働者の記録
(1969/78分/16mm)
NDU作品
米軍燃料タンク輸送阻止の闘いを主に、ベトナム反戦、反合理化闘争、日米安保阻止を旗印に共闘する青年労働者の姿を追う。
 

10月21日(日)17:40〜
沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー
(1971/94分/DVカム[原版16mm])
NDU作品
[最終部分及び音声の一部欠落]
日本から沖縄へ密航し、コザ吉原、Aサインバー、ヤクザのたまり場、全軍労ストなど復帰前沖縄の底辺を描く。
 

  
10月28日(日)11:00〜
倭奴(イエノム)へ 在韓被爆者 無告の二十六年
(1971/53分/16mm)
NDU作品
広島・長崎の被爆から26年。在韓被爆者8名は訪韓した佐藤首相への直訴状を持って日本大使館へ。唯一被爆国・日本の矛盾を問う。
 

 
10月28日(日)13:00〜
アジアはひとつ
(1973/96分/16mm)
NDU作品
沖縄本島、先島列島、西表炭坑を経て、国境を流浪する台湾人労働者を追いかけ八重山群島から台湾へ。最後に大和魂が残るタイヤル族の部落に辿り着く。
 

 
10月27日(土)13:00〜
太平洋戦争草稿
(1974/61分/16mm)
制作:小野沢稔彦、小柳津幸介、布川徹郎、菅孝行、斎藤晴彦、佐藤信、平岡正明
スペイン、ドイツ、日本の植民地からアメリカ統治に移行したマイクロネシア。朝鮮から徴用で来た人など太平洋戦争の生き残りを追い、侵略の近代史を問う。
 

 
10月27日(土)14:20〜
bastard on the border 幻の混民族共和国
(1976/74分/16mm)
監督:布川徹郎(布川プロダクション作品)
建国200年祭を祝うアメリカ。スラム街、ベトナム復員兵、強制収容された日系人、先住民族などアメリカの正史が覆い隠してきた叛国家の歴史を描く。
 

 
10月27日(土)17:30〜
風ッ喰らい時逆しま
(1979/88分/16mm)
監督:布川徹郎(布川プロダクション作品)
伝説の芝居集団・曲馬館は「地獄の天使たち」をひっさげ山谷、釜ヶ崎、沖縄コザ、網走、横浜寿町など日本列島を疾走し公演の旅を続ける。
 

 
10月26日(金)15:00〜(2本立)
ベイルート1982
PLO撤退からパレスチナ大虐殺まで

(1982/19分/16mm)
布川プロダクション作品
イスラエル軍のレバノン侵略に対しPLOは三ヵ月間戦い抜いたがついにベイルートを撤退。瓦礫の中で再び生活が始まるが、難民キャンプで大虐殺が起こる。
 
パレスチナ1976—1983
パレスチナ革命からわれわれが学んだもの

(1983/111分/16mm)
布川プロダクション作品
ベイルート難民キャンプの現状、勝利を鼓舞するアラファト議長、ベカー高原の開放戦士など、レバノン戦争前後のパレスチナ人に共感を持って描く。
 

 
10月26日(金)17:30〜
タックルセー 国体解体のためのプロローグ
(1987/48分/16mm)
「タックルセー」上映実行委員会作品
旧作『モトシンカカランヌー』に、沖縄戦、ひめゆりの塔火炎びん事件、コザ暴動、読谷高校日の丸引きずり下ろし事件などの映像を加え、沖縄解放に向けた団結のために編集。
 

 
10月28日(日)18:10〜
出草之歌 台湾原住民の吶喊 背山一戦
(2006/112分/DVカム)
NDU作品
撮影・編集:井上修
台湾原住民タイヤル族の高金素梅さんは、運動組織「原住民族部落工作隊」、原住民音楽グループ「飛魚雲豹音楽工団」と共に靖国神社に合祀された祖霊奪還の戦いに挑む。
 

 
10月26日(金)18:40〜(金稔万監督舞台挨拶)
長居テント村に大輪の舞台が立った
(2007/82分/DV)
撮影・編集:布川徹郎、金稔万
2007年春、行政代執行が行われようとする大阪長居公園のテント村の野宿者と支援者は、舞台を立て「しばい」を演ずることで行政権力と対峙する。
 
 

ゲストトーク 無料
10月27日(土)15:55〜 長田勇市(撮影監督)×上野昂志(映画評論家)
 
10月28日(日)15:00〜 井上修(NDU日本ドキュメンタリストユニオン)×上野昂志
 
■長田勇市
『ファンシイダンス』(89)、『がんばっていきまっしょい』(97)、『ウォーターボーイズ』(01)、『幽閉者 テロリスト』(06)など多数の作品で撮影監督を務める。その出発点となったのが『パレスチナ1976-1983』など布川徹郎との仕事であった。
 
■上野昂志
評論家。映画、文学、マンガ、写真等、文化現象全般にわたる批評を展開。「映画=反英雄たちの夢」(話の特集、83) 、「鈴木清順全映画」(立風書房、86/編著)、「映画全文1992〜1997」(リトルモア、98)など著書多数。
 
■井上修
NDUの創立から解散までの4作品に関わった主要スタッフで、その後はルポライターの竹中労と併走し、『アジア懺悔行』(76)、『山上伊太郎ここに眠る』(77)を作る。『出草之歌 台湾原住民の吶喊 背山一戦』は久しぶりの布川徹郎との仕事だった。


コメント
「モトシンカカランヌー」という映画のタイトルと布川徹郎の名前を聞いたのは、たしか映画監督の中江裕司氏からだ。
この数年ほどで警察と自治体、住民が一体となった「浄化運動」により壊滅させられてしまった真栄原新町(宜野湾市)や吉原(沖縄市)についての取材をはじめたころで、たまたま別用で会っていた中江氏に話をふってみたら、映画の名前と布川徹郎氏の名前が出た。たしか二年ほど前だったと思う。
中江氏から聞いたあと、監督の布川氏に会ってみたかったのだが、ぐずぐずしているうちに布川氏が今年の二月にすでに亡くなっていたことを知った。中江氏から話をうかがったときにすぐにアポイントメントをとっていればと悔やまれた。
どうすれば40年近く前につくられた映画を観ることができるのか調べ、大阪のプラネット映画資料図書館にたどりつき、拝見することができた。その後、布川氏といっしょに「モトシンカカランヌー」をつくった共同監督の人たちにお目にかかり、話をうかがう機会を得た。撮影後、沖縄に住み着いた共同監督の今氏と、井上氏である。井上氏は数年前に布川氏と共に「モトシンカカランヌー」の続編をつくるために、「アケミ」をさがしていたことがあったことを教えてくれた。が、中途で断念したという。
「モトシンカカランヌー」は私の取材テーマともろにシンクロすることもあり、私は井上氏からアケミさがしを託されることになった。井上氏からいくつかのヒントをいただき、映画に登場する元ヤクザにも会いに行ったし、人脈をたどってアケミがいたという真栄原新町で「アケミ」の顔写真を持って、取材で知り合った古参の売春商売の関係者に見せてまわった。また他の沖縄の売春店や、現役ヤクザにも消息をたずねている旅を続けている。結果を言えば、いまだ消息はわかっていない。「アケミ」という源氏名はどこにでもある名前だし、いかんせん「アケミ」についての情報が少なすぎるということもあるが、40年という沖縄戦後史の時間の濁流にのまれた布川氏たちが沖縄市の吉原で出会った「アケミ」の幻影は、追いかければ追いかけるほど消えていってしまうようだ。
私は「アケミ」さがしの旅は、もちろん続けようと思っている。そして、おそらく『沖縄アンダーグラウンド』と題されるであろう沖縄の売春街の戦後史のノンフィクション作品を書き上げることが、布川氏に対する時空を超えたぼくなりの追悼なのだと思っている。

藤井誠二(ノンフィクションライター)

 
「カメラ」という、謎の、なぞなぞの、「もの」が、この地にかつてあらわれ、今もなお現実に「ある」。
それを使って、様々なことが、なされている。
 
─この世界。イメージ。眼前。─
 
カメラを使って、お金儲けをするひともいるでしょう。
そうそう旅行のお供にはカメラ持って、記念写真。想い出になるよね。
そして。
イメージを限定し、決めつけ、広める使い方も「ある」。
とてもマッチョな道具だ。
「力」にとても近く、利用されやすい「もの」。
 
ただ、それらとは違うカメラの使い方がここには「ある」。
NDUの映画。
「力」の在処を探し、「力」を解きほぐし、さらに奥へ、別の「ちから」へと向おうとしている。
カメラは「からだ」と、ともに。
もちろん答えなど無い。
 
「俺たちは『あなた』と会うために映画をつくる」
そういう声が、NDUの映画群から、聴こえてくる。
 
しかも今回はフィルムだ。
「必ず」って言葉、あんまり使いたくないんやけど、今回だけは。
必見。必聴。御自由に。皆、集れ。

野口雄介(アーキペラゴ/俳優・『堀川中立売』『サウダーヂ』)

 
「伝説」にするには、早すぎる。
なぜならNDUが提起した既成権力への/運動内への「異議申し立て」は未消化のままだからだ。だから単純な回顧や批評を一蹴せねばならない。もしそれに甘んじるならば、それは最も反NDUではないだろうか。NDU機関誌「モトシンカカランヌー—企画書にかえて」(1969年7月刊)に「映画と映画を観る人間との間に夥しいスパークを発生させるような映画でありたい」とある。NDUの実践と思考の連続性は、鑑賞者を何かへと駆り立てる。またそれは、今日の「右」でも「左」でもないという曖昧な批評態度から発する閉塞的状況を解体する突破口であると私は確信している。私の発言に嫌悪感を示すならば、とにかくNDUの映画を観てから判断してほしい。ナショナリズムに対するインターナショナリズムの映画がここにある。

田中芳秀(編集者、1981年生)

 
布川徹郎さんと現場をともにしたことがある。
現場で感じた感覚を早急に判断し、待つことをしない風のドキュメンタリストは
いささか読み違いも多かった。
しかし、その読み違いがさらなる読み違いを呼び、反転し、最終的に本質に辿りつくような
アクロバティックは、世界を見る行為に勘違いはないのだと言っているようだった。
カメラは対象の表面を滑っているようでいて、その映像の波は、どこまで行っても
平面の映画の世界の中で、観る者を深い海底へと連れて行ってくれる。
表面には、すべてが映っている!

佐藤零郎(中崎町ドキュメンタリースペース)

 
『モトシンカカランヌー』にしても『アジアはひとつ』にしても、NDUの傑作は人と人とが邂逅することの事件性、その絶え間ないスパークの連なりで成り立っている。そのスパークの前では、国境などあってなきが如し。島々を南下しながらフィルムにその瞬間ごとの火花を託す、どこにも収斂しようとしないそのロマンの強靭さゆえに、上映の終わった後はいい酒に酔ったような気分にもなる。
「出会いの映画とは何か? ……それは一つの“作品”の創造の現場に人々が出会うことではなく、人々の出会いから“作品”が生まれていくことなのだ」
(竹中労「さらなる幻視の海へ」、「キネマ旬報」1972年5月下旬号)

岡田 秀則(東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員)

 
今年2月に開催された第3回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルで 『倭奴へ』をお借りして上映させてもらった。
カラカラと16ミリ特有の音をたてながらの上映を見ていると、とても幸せな気分になった。
社会に対して人々が大きな声をあげていた時代、ドキュメンタリーは運動と共にあった。
人々の強い想いや熱気が画面を通して伝わってくる。そんな時代を少しうらやましく感じながら映画を見させてもらった。
布川徹郎さんが亡くなってしまった今、私たちはこのドキュメンタリーや布川さんの生き様から何を引き継ぎどんな作品をこれから作っていくことができるだろうか?

加瀬澤 充(ドキュメンタリージャパン)

 
出会いは1971年、京都の西部講堂だった。映画は『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』。おったまげた。あるのは圧倒的な映像だけ。教条や正義は無かった。一発でもっていかれた。以来四十年来のファン。長い冬眠から醒め再浮上した2005『出草之歌 台湾原住民の吶喊 背山一戦』にも震えた。1973『アジアはひとつ』のエンディング「もう一度戦争がしたい、あはは」から一直線に繋がっている。力も志もまったく衰えていない。
小川紳介もいい。土本典昭も悪くはない。けど、NDU布川徹郎はもっといいのだ。きっと何度でも再浮上するに決まっている。
生涯「監督」を名乗らず、「共同制作」を貫いた布川が残した「取材現場・備忘録」にこんな項がある。《未来よりも現在が豊かで大事。現在よりも過去が豊かで大事》 《現場の成り行き、最優先。匿名・無名・無告の人たちからのメッセージを聞け》

山田 哲夫(映画プロデューサー)

 
正直に言うと、これまで私はNDU初期の『鬼ッ子』(69)も『モトシンカカランヌー』(71)も『倭奴へ』(71)も全くピンとこなかったのだが、今回、東中野でそれ以降の作品群をまとめて観てびっくりした。面白い!特に『アジアはひとつ』(73)から『太平洋戦争草稿』(74)へと展開する、映像による思想的営為に圧倒された。沖縄から台湾そしてミクロネシアへ──幻の大日本帝国の膨張領域をなぞるかのように、あのゴジラが北上してきたマリンロードをNDUは南へと遡行する。その営為は30年を隔てて『出草之歌』(05)に再び収斂し、台湾先住民の野太くも美しい歌声とともにNDUのラディカルな健在ぶり熟成ぶりが示されるだろう。

石坂 健治(映画研究者)


特製パンフレット
 
〈エッセイ〉
NDU日本ドキュメンタリーユニオンとはいったいなんなのだ?:井上修
 
〈作品解説〉
全13作品:中村葉子
+布川徹郎によるエッセイ
〈論考〉
NDUは、境界を往く:上野昂志
遠けれど、まなざしは近く:ローランド・ドメーニグ
追想 布川徹郎:鈴木義昭
 
〈記録〉
布川徹郎の足跡:安井喜雄
NDUと布川徹郎 関連文献
 
 
定価:1000円(税込み)
*別冊英語版:500円(税込み)

※内容は予告無く変更する場合があります。