うつしえるのか ここにあるもの
──スクリーンで不死の生を新たに得る身体表現

2013年10月20日(日)〜22日(火)、 25日(金)〜27日(日)
会場:神戸映画資料館

演劇・舞踏など肉体を使って表現されるパフォーミング・アーツ、またコンサートなどの一回性の高い表現。これらを映像にいかにうつしえるのかをテーマにした特集上映です。

「オトン」
Les yeux ne veulent pas en tout temps se fermer, ou Peut-être qu’un jour Rome se permettra de choisir à son tour
(1969/88分/35mm/西ドイツ=イタリア)
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウーゴ・ピッコーネ、レナート・ベルタ
出演:アドリアーノ・アプラ、アンヌ・ブリュマーニュ、エンニオ・ラウリチェッラ
暴君ネロ帝亡きあとのローマの権力の座をめぐる政治と恋の駆け引きを描くコルネイユの戯曲『オトン』を、ジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレが映画化した彼ら初のカラー作品。ローマの小高い遺跡で、古代ローマの衣装をまとった俳優たちがコルネイユを演じる。しかし眼下には、車道を走る車が見え、絶えず聞こえてくる現代ローマの喧噪が異化装置のように働く。ストローブ=ユイレは、フランス語を母語としない俳優たちに、コルネイユのテクストをあえて暗唱させることで、かれらの訛りや様々なセリフのテンポ、その瞬間に捕捉された俳優たちの声にわれわれを注目させる。これほどキャメラが動き回るストローブ=ユイレ作品も珍しい。

「エンペドクレスの死」
Der Tod des Empedokles
(1986/132分/35mm/西ドイツ=フランス)
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ、ジャン=ポール・トライユ、ジョヴァンニ・カンファレッリ
出演:アンドレーアス・フォン・ラウフ、ヴラディミーロ・パラッタ、マルティナ・パラッタ
ヘルダーリンの未完の二幕悲劇『エンペドクレスの死』の第一稿をストローブ=ユイレが映画化した、『黒い罪』『アンティゴネー』へと続くヘルダーリンものの最初の作品。古代シチリアの詩人哲学者エンペドクレスが民衆と訣別し、誇り高き死を決意してエトナ山の火口に向かって消えていくまでが、原作テクストの厳密な暗唱と圧倒的なイメージを通して描かれてゆく。本作には別テイクを用いた四つのネガ編集版が存在するが、その違いはじっと目をこらして見てもほとんどわからない。なにも動くもののない画面のぎりぎりの緊張感の中で、雲の流れ、陽の光の移ろい、風の動き、俳優のわずかな身振りさえもが、とてつもない豊かさを帯びてくる。


「風の景色」
(1993/67分/16mm/日本)
製作・監督・脚本:大内田圭彌 撮影:堀田泰寛 照明:伴野功 音楽:大野松雄
協力:アスベスト館
出演:土方巽、芦川羊子、和栗由紀夫、雨宮一光、山本萌、大内田光穂
世界的なブームを呼んだ「暗黒舞踏」の創始者で、カリスマ的に人々を虜にした舞踏家・土方巽は、文学、美術、哲学、演劇、音楽など様々な分野に衝撃を与え、『恐怖奇形人間』『1000年刻みの日時計 牧野村物語』などの映画にも出演した。映画『風の景色』は、舞台空間での舞踏をひたすら追及し続けた土方が、膨張する街・東京の闇という外的空間を舞台にして風のように自在に舞うアートドキュメンタリーの傑作として語り伝えられている。1976年に製作したものの監督自身が不満足で封印したが、1986年に死去した土方の姿を後生に伝えるべく再編集し、ディレクターズ・カット版として1993年に新たに完成したもの。監督は『地下広場』『疱瘡譚』などで知られる大内田圭彌。


「バッコスの信女」
(1978/92分/16mm[DVCAM上映]/日本)

製作:岩波ホール 制作:岩波映画製作所
監督:羽田澄子 撮影:西尾清、成瀬慎一、渡辺重治
出演:観世寿夫、白石加代子、蔦森皓祐

鈴木忠志演出による岩波ホールでの公演『バッコスの信女』(1990年以後『ディオニュソス』と改題上演)の記録。能楽師・観世寿夫をディオニュソス役に迎えた野心的なギリシア悲劇の公演で、観世寿夫の最後の出演作となった。後に『AKIKO─あるダンサーの肖像』『歌舞伎役者 片岡仁左衛門』などを手がける羽田澄子が監督。公演の模様のほか、稽古風景も記録されている。当時をふりかえり羽田は、10分しか続けて撮れない16mmフィルム、カメラ3台で、繰り返すことのない舞台を切れ目なくすべて記録するにはどう撮るか悩んだと語っている。

「ラスト・ワルツ」
The Last Waltz
(1978/116分/35mm/アメリカ)
製作:ロビー・ロバートソン 監督:マーティン・スコセッシ 撮影:マイケル・チャップマン
出演:ザ・バンド、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ドクター・ジョン、ヴァン・モリソン、ジョニ・ミッチェル、エリック・クラプトン、マディ・ウォーターズ、ニール・ダイヤモンド、リンゴ・スター、ロン・ウッド、ロニー・ホーキンス、ポール・バターフィールド
伝説のロックバンド、ザ・バンドの1976年に行われた解散コンサートの記録。主役であるザ・バンドがホスト役にもなり、次々とステージに上がる豪華ゲストミュージシャンたちと素晴らしい競演を見せる。監督は『タクシードライバー』『ヒューゴの不思議な発明』などで知られる巨匠マーティン・スコセッシ。



©Eurospace+T&C film

「書かれた顔」
Das geschriebene Gesicht
(1995/100分/35mm/日本=スイス)
製作:ユーロスペース
監督:ダニエル・シュミット
撮影:レナート・ベルタ
出演:坂東玉三郎、武原はん、杉村春子、大野一雄
特異な美学で知られるスイスの映画作家ダニエル・シュミットが、「女形」の坂東玉三郎に密着し、日本の舞踏、とりわけ歌舞伎を描いたドキュメンタリーともフィクションとも区別の付かない夢幻的作品。男と女の、舞台と楽屋の、大地と水の、光と影の間のトワイライトゾーンを、その移ろいゆく薄明の時間のなかを、玉三郎が狂乱のクライマックスを踊り、大野一雄が夕闇の埠頭で幻想的に舞う。優雅な所作を見せつつ映画について語る杉村春子。そこに不意に成瀬巳喜男の『晩菊』の一場面が挿入される。黄昏についての映画であると同時に、映画の黄昏をも捉えた希有の作品。「書かれた顔」というタイトルはロラン・バルトの日本論『表徴の帝国』より取られた。

©AAC

「KAZUO OHNO」

(1995/15分/35mm/日本=スイス)
製作:愛知芸術文化センター
監督:ダニエル・シュミット
撮影:レナート・ベルタ
出演:大野一雄、大野チエ
「身体」をコンセプトに、愛知芸術文化センターが企画製作する「オリジナル映像作品」の第4弾。『書かれた顔』と並行して撮影された。世界的な舞踏家・大野一雄が、東京・晴海埠頭に異空間を出現させる。


「バッハの肖像 ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2009より」
(2010/120分/HD[ブルーレイ上映]/日本)
製作:堀越謙三 監督:筒井武文
撮影:芦澤明子、御木茂則 録音:鈴木明彦
出演:ミシェル・コルボ、鈴木雅明、勅使川原三郎、タチアナ・ヴァシリエヴァ、ルネ・マルタン
毎年日本で開催されているクラシック音楽祭、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン。「バッハとヨーロッパ」をテーマに行われた2009年の模様を映画監督で批評家の筒井武文が記録した作品で、関西初上映。第一線で活躍する音楽家たちによって繰り広げられるミサ曲、カンタータ、ヨハネ、マタイ受難曲の公演、そしてミシェル・コルボや鈴木雅明の指揮によるリハーサル風景も興味深い。勅使川原三郎の舞踏とタチアナ・ヴァシリエヴァのチェロの素晴らしい共演も見られる。音楽そのものはもちろん、演奏するという行為の美しさが立ち上るドキュメンタリー。


「不気味なものの肌に触れる」
(2013/54分/HD[ブルーレイ上映]/日本)
製作:LOAD SHOW、fictive
監督:濱口竜介 脚本:高橋知由
撮影:佐々木靖之 音楽:長嶌寛幸
振付:砂連尾理
出演:染谷将太、渋川清彦、石田法嗣、瀬戸夏実、村上淳
今夏、特集上映「濱口竜介 プロスペクティヴ in Kansai」で発表された濱口竜介最新劇映画を神戸初上映。構想段階にある長篇『FLOODS』、その壮大な物語へのプロローグと位置づけられる。物語の中心人物を演じる染谷将太と石田法嗣のダンスが作品の不穏な基調を作っており、振付を担当するダンサーの砂連尾理も出演している。『親密さ』で、演劇をユニークな手法で取り入れた濱口竜介の新たな挑戦を感じさせる。


トーク(参考上映有り) 追加決定
2013年10月20日(日)13:30『風の景色』上映後

大谷 燠(NPO法人DANCE BOX代表)
大学在学中の1972年に土方巽の舞踏と出会い、土方の弟子であるビショップ山田率いる「北方舞踏派」の創立に参加。その後、TORII HALLプロデューサーなどを経て2002年NPO法人DANCE BOXを設立。アートと地域社会の関わりを軸にコンテンポラリーダンスの公演やワークショップの企画・制作などを精力的に行っている。

参考上映

「Project Rebirth 幻の万博映画「誕生」——アストロラマで踊る土方巽へ」

(2011年/17分/慶応義塾大学アート・センター)


座談会
2013年10月27日(日)15:45〜(『KAZUO OHNO』上映につづいて)
出席者

越後谷卓司 (愛知県文化情報センター主任学芸員)
愛知芸術文化センターのオリジナル映像作品『KAZUO OHNO』(1995、ダニエル・シュミット監督)、『HAND SOAP』(2008、大山慶監督)、『Generator』(2011、牧野貴監督)などをプロデュースするほか、テーマ上映会「大野一雄ビデオ・ライブラリー」(2003)、「映像アート90年史」(2013)や、現代アートを軸にした複合的な国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2013」ではキュレーターとして映像プログラムを担当。

筒井武文 (映画監督)
東京造形大学在学中より映画を撮り始める。フリーの助監督、フィルム編集者を経て、自主制作映画『ゆめこの大冒険』(1986)を完成させ劇場公開。映画制作と並行して、東京藝術大学大学院映像研究科、映画美学校などで後進の育成につとめるほか、映画批評を執筆。現在、「キネマ旬報」のレビューコーナーを担当している。最新監督作は、映画美学校第10期高等科生とのコラボレーション作品『孤独な惑星』(2011)。

濱口竜介 (映画監督)
2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了製作『PASSION』が国内外の映画祭で高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011-2013、共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)を監督。精力的に新作を発表し続けている。最新作は今回上映する『不気味なものの肌に触れる』(2013)。

*内容は予告無く変更する場合があります。

*作品によっては、経年退化で色褪せしている場合がございます。予めご理解ご了承の上、ご鑑賞くださいますようお願い申し上げます。

※内容は予告無く変更する場合があります。