実験と遊び 戦前のアマチュア映画作家たち

【特集2】 実験と遊び 戦前のアマチュア映画作家たち

映画愛好家たちが製作する「アマチュア映画」の文化が日本に生まれたのは、1920年代後半である。戦前は主に9.5mm、16mm、8mm(レギュラー8) が、1965年以降はレギュラー8に加えてスーパー8やシングル8が主に使用され、1980年代以降はビデオカメラでの撮影へと移行する。アマチュア映画は、35mmフィルムに対する「小型映画」と呼ばれたり、家族の日常風景を記録したジャンルとしての「ホームムービー」とも呼ばれたが、それらの映像は、商業映画では映しだされることのない市井の人々の日常を現代の私達に伝えてくれると同時に、戦災や災害などによって失われてしまった風景や建造物などが記録された重要な歴史資料でもある。最近は「ホームムービーの日」のイベントが全国各地で開催され、アマチュア映画の再活用と再評価が進みつつある。

今回は3つのプログラムによってアマチュア映画文化の多様性を紹介する。1930年代には全国に愛好家のサークルが生まれ、定期的な撮影会・上映会・コンクールなどが実施されていた。当時精力的に製作していた作家のうち、今回は東京の荻野茂二と大阪の森紅もり・くれないの作品群を紹介する。荻野のフィルムは現在、東京国立近代美術館フィルムセンターに所蔵されており、今回はじめて関西圏で特集上映が実現した。なお本映画祭のQプログラムも1930年代のアマチュア映画の作品群をまとめた関連プログラムなので合わせてご覧いただきたい。

板倉史明
(映画研究/神戸大学国際文化学研究科准教授)

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◎企画協力
浅利浩之(東京国立近代美術館フィルムセンター 客員研究員)
松谷容作(神戸大学大学院人文学研究科 研究員)

*記載以外はすべて無声作品

 

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AN EXPRESSION

AN EXPRESSION

抽象映画・実験映画的な手法とコンセプトで製作された作品群と、当時のアマチュア映画サークルの活動がわかる作品群を集めたプログラム。『?/三角のリズム/トランプの爭』は抽象的なモチーフを扱ったアニメーション作品。『RIVER』は渓流の流れを美的対象として詩的に描く。『PROPAGATE(開花)』は花の種が成長する様子を幾何学的デザインで表現したアニメーション。『AN EXPRESSION(表現)』と『RHYTHM』は幾何学的なイメージを用いた抽象映画で、前者はフィルムのコマを赤と緑に手作業で塗り分け、秒間32コマで高速上映することで色彩を生み出す「キネマカラー」方式の作品。『A STUDY』は鏡をモチーフにした抽象映画。『球面衝撃 高速度撮影』は高速度撮影を使って物体が割れる瞬間をスローモーションで捉えた作品。戦後作品の『光の幻想』と『水の幻想』は特殊フィルターを用いた抽象映画。『或る日のP.C.L』はアマチュア映画サークルの会員がP.C.L.撮影所で撮影会を実施したときの記録で、俳優の大川平八郎や千葉早智子を撮影している。『SCREEN GRAPH オール・ニッポン』は全日本パテーシネ協会関東支部が主催した浦安での撮影会の記録。(板倉史明)

?/三角のリズム/トランプの爭 (1932/4分/9.5mm/ブルーレイ上映)

RIVER (1933/6分/9.5mm/35mm上映)

PROPAGATE(開花) (1935/4分/9.5mm/ブルーレイ上映)

AN EXPRESSION(表現) (1935/3分/9.5mm/ブルーレイ上映)

RHYTHM (1935/2分/9.5mm/ブルーレイ上映)

A STUDY (1937/3分/9.5mm/ブルーレイ上映/音声あり)

球面衝撃 高速度撮影 (1930年代前半/6分/9.5mm/ブルーレイ上映)

光の幻想 (1967/12分/シングル8/ブルーレイ上映)

水の幻想 (1981/13分/スーパー8/35mm上映/音声あり)

或る日のP.C.L (1933/6分/9.5mm/ブルーレイ上映)

SCREEN GRAPH オール・ニッポン (1937/10分/9.5mm/35mm上映)

 

作品提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

 

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FELIXノ迷探偵

FELIXノ迷探偵

抽象アニメーション以外の多様なアニメーション作品と、戦時下の「文化映画」的な記録映画作品を紹介するプログラム。『FELIXノ迷探偵』はフィリックスの人形を使った実写アニメーション。『百年後の或る日』は、未来の戦争で死んだ男が百年後の世界で目覚めるというSF的な影絵アニメーション。『色彩漫画の出来る迄』はアニメーション作家・大藤信郎が『かつら姫』を制作している風景を記録したカラー作品。今回は編集段階でカットされた素材映像もあわせて上映。『寒天』は、寒天の採取から加工までのプロセスを記録した作品で、水中撮影や微速度撮影が活用されている。荻野自身はパートカラーで制作したが、今回上映するのは当時市販された白黒版。『器用な手』は日舞を踊る娘の小物や衣装の作成過程を記録したカラー作品。『隣組』は防災訓練や慰問袋作りなどの「隣組」の活動を記録した戦時下の作品。荻野作品の全容については、浅利浩之「荻野茂二寄贈フィルム目録」(『東京国立近代美術館研究紀要』18号、2014年)をご覧いただきたい。(リンク先はPDFファイル)(板倉史明)

FELIXノ探偵 (1932/10分/9.5mm/35mm上映)

百年後の或る日 (1933/11分/9.5mm/35mm上映)

色彩漫画の出来る迄 (1937/5分/16mm/ブルーレイ上映/音声あり)

色彩漫画の出来る迄 素材 (1937/1分/16mm/ブルーレイ上映)

寒天 (1937/16分/16mm/神戸映画資料館収蔵)

器用な手 (1938/12分/16mm/ブルーレイ上映/音声あり)

隣組 (1930年代後半/12分/16mm/ブルーレイ上映)

 

作品提供(記載以外):東京国立近代美術館フィルムセンター

 

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開会の挨拶

開会の挨拶

昭和初期の大阪でアマチュア映像文化を牽引したアマチュア映像制作者森紅もり・くれない(1895?-1941)の作品を紹介するプログラム。彼はパテ・ベビーを手に映像制作をし、国内外の作品競技会で数々の秀作を発表した。本プログラムでは、アマチュア映画倶楽部のメンバーと共に制作した『開会の挨拶』、劇仕立ての『遺訓によりて』、昭和初期のメディア文化を前景化する『競馬放送』、家族との日々を記録した『納骨の日』、『四天王寺/森展利二歳/或る日の母/淀川公園にて露子つ多子/散策の榮子/スケッチ』そして『寂光』、ヨーロッパの実験映像の雰囲気漂う『臺所の戯曲』や『千鳥の曲』、多彩な映像技巧で自身の子供たちの日常を描く『私の子供』を上映する。これらの作品は、バラバラで統一感がないようにみえるが、「日常」をライトモチーフとし、時間への深い洞察が通奏低音として流れている。なお、『私の子供』、『四天王寺/…』、『寂光』は、神戸映画資料館で新たに発掘された作品であり、今回が初上映となる。また『開会の挨拶』は、フランス国立図書館によって復元された森紅の肉声と共に上映する。(松谷容作)

開会の挨拶 (1930年代後半/3分/DVカム上映/ホノマトンの復元音声付き)
遺訓によりて (1937/11分/35mm上映)
競馬放送 (1931/9分/35mm上映)
四天王寺/森展利二歳/或る日の母
/淀川公園にて露子つ多子/散策の榮子/スケッチ
(1932/9分/DVカム上映)
寂光 (1930年代初頭/13分/DVカム上映)
納骨の日 (1930年代初頭/10分/DVカム上映)
臺所の戯曲 (1935/6分/35mm上映)
千鳥の曲 (1930年代/3分/35mm上映)
私の子供 (1934/6分/DVカム上映)

 

作品提供:神戸映画資料館(オリジナルはすべて9.5mm)

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