ドキュメンタリーの宝箱
山形国際ドキュメンタリー映画祭セレクション

選者:矢野和之

(山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局/シネマトリックス代表)

1989年に始まった山形国際ドキュメンタリー映画祭も、今年2015年で14回目になる。この間特集等を含めれば、毎回100〜200本の作品を上映してきたが、インターナショナル・コンペティションでは、毎回約15本上映し、そのなかのかなりの本数の作品が、映画祭後にも各地で上映されてきた。今や多くの劇場でドキュメンタリー作品が公開されるようになったが、映画祭が始まった頃は、劇場公開される作品は少なく、ドキュメンタリーというとある固定観念があるようであったが、映画祭ではそれをぶち破ろうと思っていたところ、実に多様な作品を上映していくことができたのであった。今回の5本は、映画としての魅力にあふれたものであると思う。山形のライブラリーからの提供のみに限ったので、配給されて劇場公開された作品、ペドロ・コスタ監督『ヴァンダの部屋』や王兵監督『鉄西区』『鳳鳴』などの作品は挙げられなかったことを付記しておく。

 

route-one01ルート1 Route One/USA
(フランス/1989/255分)35mm上映
’89山形市長賞
監督:ロバート・クレイマー

アメリカからヨーロッパに移住したロバート・クレイマーが10年ぶりにアメリカに戻り、友人であり同志のポール・マクアイザックとともに、ルート1(国道1号線)を旅するロード・ムーヴィー。カナダ国境から東海岸を南下しフロリダまで、ポールは医者ドクとして風景の中に入り人々と接していく。カメラの後にいるロバート、被写体ポール、そしてポールの演じるドクが、複雑に絡み合い、ドキュメンタリーとフィクションの境界を彷徨う。

 

アフリカ、痛みはいかがですか?Afriques: Comment ça va avec la douleur?
(フランス/1996/165分)35mm上映
’97山形市長賞
監督:レイモン・ドゥパルドン

南アフリカの喜望峰から、アンゴラ、ルワンダ、ブルンジ、ソマリア、スーダン、エジプトのアレキサンドリアまで、アフリカを縦断し、フランスの監督の実家まで旅をする。そこに描かれるのはアフリカのそれぞれの地の過去と現在の姿—アパルトヘイト、飢餓、病い、内戦などのアフリカの「痛み」。写真家としても何度も訪れたアフリカに対する監督の想いが画面からほとばしり、突き刺さってくる。

 

S21_01S21 クメール・ルージュの虐殺者たち S21, la machine de mort Khmère rouge
(フランス/2002/101分)DVCAM上映
2003優秀賞
監督:リティー・パニュ

カンボジアのクメール・ルージュ時代の悪名高き政治犯収容所「S21」。1975年から1979年にかけて1万7千もの人々が尋問、拷問を受け、処刑されていった。大虐殺を生き残った被害者と看守たち加害者をその場所に集め、非人間的で過酷な日々を再現していく。証言で明らかになる真実の数々、対峙する2人のやりとりの迫真性が25年という時を越える。リティー・パニュ監督が故国を舞台に作り続ける作品のなかでも、ひときわ戦慄を誘う。

 

apuda01阿仆大(アプダ) 阿仆大的守候
(中国/2010/145分)ブルーレイ上映
2001優秀賞
監督:和淵(ホー・ユェン)

中国雲南省北部。ナシ族の農夫阿仆大(アプダ)は、老いて体の自由のきかなくなった父親と二人暮らしをしている。暗い室内で、父が服を着て、煙草に火をつけ、床の上に起き上がるのを助ける。阿仆大自身は、父の介護のかたわら、果樹の手入れや水汲みにいそがしい。時には近所の老人が来て、不人情な息子の愚痴をこぼす。山の奥深い村に生きる父子を、悠揚たるリズムと深みのある映像で見つめ、生と死のドラマを映し出す。

 

kumo-no-chi01蜘蛛の地 거미의 땅
(韓国/2013/150分)ブルーレイ上映
2013特別賞
監督:キム・ドンリョン、パク・ギョンテ

ほどなく取り壊されるであろう、韓国・京畿地方北部にある米軍キャンプ近くの旧歓楽街。沈黙だけが残された町で、3人の元売春婦の女性が、それぞれの体と心に刻まれた傷、記憶、幻想に悩まされながらひっそりと生きている。今は廃墟となった跡地をさまよう彼女たちの姿、そして記憶の断片が、入念に作り込まれた忘れがたい映像とともに、置き去りにされた哀切極まりない真実を暴露する。

 

後援:山形国際ドキュメンタリー映画祭


Kobe Documentary Film Festival 2015
第7回神戸ドキュメンタリー映画祭
10月17日(土)、31日(土)〜11月10日(火)

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