プログラムPROGRAM

「KOBEデザインの日」記念イベント2011 [映画とブックデザイン]
本にしたい映画人
2011年10月15日(土)・16日(日)
映画とブックデザインをテーマにした、展示・上映・対談の3つのスペシャル企画。
この人の本をつくりたい     山根貞男
 今回の特集では鈴木一誌氏の仕事を展示し、鈴木氏とわたしが対談するが、映画の本なのだから、ぜひ映画も上映したいということになり、何を選ぶかを話し合った。
 鈴木氏とわたしが組んでつくった本や雑誌などは数多くあり、それに関係のある映画を上映するという案がまず出てくる。阪東妻三郎や市川雷蔵の主演作、加藤泰の作品などで、つぎつぎ題名が思い浮かぶ。だが、そんなにストレートな選び方ではなく、何かヒネリがほしい。そこで出てきたのが、ふたりで「この人の本をつくりたい」と思う人の映画を、というアイデアである。
 これまた、たちまち何人もの名前が挙がり、どれもこれも捨てがたい。あれこれ話すうち、2本立てだから、ひとりは俳優、ひとりはスタッフに、と絞り込む。と、俳優のほうはすぐ決まった。小林旭である。鈴木氏もわたしも昔からアキラの大ファンで、彼の本はすでにあるが、映画の本とはいいがたい。よし、小林旭の映画の本をつくろう、と、その場は一気に盛り上がった。ちなみに鈴木氏もわたしもアキラの歌を何曲も歌える。
 さて、もうひとりは、となって、ふたつの名前に行きつく。プロデューサーの黒澤満とキャメラマンの仙元誠三である。監督や脚本家の名前も挙がったが、映画づくりの仕掛け人たるプロデューサー、映画の画面を実際につくるキャメラマン、という人選はより面白い。では、どちらを選ぶか。これには迷ったが、悩みはすぐに解消した。黒澤満と仙元誠三が組んだ作品を選べばいい。
 こうして『やくざの詩(うた)』と『ヨコハマBJブルース』が決定した。数ある作品のなか、なぜこの2本が選ばれたかについては、いろいろ理由をつけられるが、要するに好きな映画なので、みなさんと一緒に見たい、という以外ない。横浜を舞台にした活劇で、主演俳優が歌うことでは、2本は共通している。
 
[関連企画]
10月16日(日)
[映画の本を作る_ブックデザインと編集]
対談:鈴木一誌(ブックデザイン)× 山根貞男(映画評論)

10月7日(金)〜18日(火)[水・木休み]
展示:[映画のデザイン_鈴木一誌の仕事]
 
 
「やくざの詩(うた)」                              (C)日活
(1960/88分/35mm)日活
監督:舛田利雄 原作:山崎豊子
脚本:山田信夫 撮影:藤岡粂信
音楽:中村八大 美術:佐谷晃能
出演:小林旭、芦川いづみ、金子信雄、
二谷英明、垂水悟郎、南田洋子、和田浩治
 横浜のナイトクラブへ流れてきたピアノ弾きの男が、かつて行きずりに恋人を殺した何者かを捜し出して復讐しようとする。犯人の正体は判らないが、スペイン製の拳銃ゲルニカの持ち主で、主人公は恋人の命を奪った弾丸をペンダントにして下げている。
 小林旭がピアノを弾きながら主題歌を歌う。そのムードたっぷりの抒情歌と、彼がペンダントを手にとって見つめる弾丸とが、もうそれだけで独特の世界を成立させる点で、当時の日活アクションの一典型といってよかろう。小林旭は1959年に「渡り鳥」「流れ者」の両シリーズが始まり、人気が急激な上り坂にあったが、この作品は、西部劇タッチの「渡り鳥」とも、現代やくざ映画の「流れ者」とも違って、ロマネスクな魅惑をくりひろげる。
 二谷英明と垂水悟郎による拳銃ブローカーの兄弟、金子信雄の老医師、南田洋子のクラブ歌手と、周りの諸人物がそれぞれのドラマを熱く感じさせる。過去へのこだわりという一点で、彼らは主人公と同じ煩悶を抱えているのである。
 脚本の山田信夫は1959年にデビューした新鋭で、この作品は4本目。多彩な登場人物の抱える記憶の痛みを組み合わせ、立体的なドラマをつくりだす手腕は、この作品から本格化した。その延長線上に、石原裕次郎・浅丘ルリ子の『銀座の恋の物語』『憎いあンちくしょう』(ともに1962年)が生まれる。
 監督の舛田利雄は1958年にデビューし、1960年代の日活アクションの全盛期を担う。どちらかといえば石原裕次郎の主演作が多いが、小林旭とも初期に『夜霧の第二国道』『錆びたナイフ』『完全な遊戯』(以上1958年)、『女を忘れろ』(1959年)で組み、『やくざの詩』は5本目に当たる。この作品では、登場人物の想いやそれゆえの激情を切れ味のいいアクションと重ねて、みごとなカット割りで描き、これが日活アクションの魅力だと思わせる。(山根)
 
 
「ヨコハマBJブルース」                              (C)東映
(1981/112分/35mm)
東映セントラルフィルム
プロデューサー:黒澤満 監督:工藤栄一
原案:松田優作 脚本:丸山昇一
撮影:仙元誠三 美術:今村力
出演:松田優作、内田裕也、辺見マリ、
蟹江敬三、財津一郎、田中浩二、宇崎竜童
 横浜のうらぶれたカフェバーのブルース歌手の男が、歌の合間に私立探偵の真似事をするうち、親友の刑事が殺された事件に首を突っ込む。親友の死には麻薬シンジケートが関わっていて、主人公は身の危険にさらされつつ、見えない敵を追ってゆく。
 松田優作が劇中で何曲もブルースを歌う。彼が歌手としても活動しているのは周知のことで、レコードも出ているが、映画のなかで歌うのはこれが唯一ではなかろうか。冬枯れの横浜の風景、オーバーにマフラー、長髪にヒゲ。それらが哀切なブルースと渾然一体となり、ほかの作品にはない魅力を見せる。松田優作のアクション映画といえば、彼の鮮やかな疾駆がすぐ目に浮かぶが、ここではむしろ仙人のような格好と表情でゆったりと歩む姿が印象深い。
 黒澤満は日活出身で、1970年代には日活ロマン・ポルノの中枢で腕をふるったが、単独のプロデューサーとして手掛けた最初は東映セントラルフィルム作品『最も危険な遊戯』(1978年)である。いうまでもなく主演は松田優作で、キャメラは仙元誠三。そこから『殺人遊戯』(1978年)『処刑遊戯』(1979年)が生まれ、脚本の丸山昇一が『処刑遊戯』でデビューする。
 仙元誠三は大島渚の『新宿泥棒日記』(1969年)でキャメラマンとしてデビューし、『最も危険な遊戯』が6本目、この『ヨコハマBJブルース』が14本目に当たる。大都会のなかに人間をとらえる流動的なキャメラワークは鮮烈で、ここでもその持ち味が発揮される。以後、黒澤満・仙元誠三・松田優作のトリオ、あるいは丸山昇一を加えてのカルテットは数多くの魅惑作を生み出す。
 監督の工藤栄一は1959年デビューのベテランで、時代劇と現代劇の別を問わない活劇の名手として活躍する。意欲的な若い俳優に慕われることで知られ、松田優作と意気投合したであろうことは画面に歴然とあらわれている。(山根)
 

《料金》2本立て
特別料金 1000円

後援:神戸市

これまでのプログラム|神戸映画資料館

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