プログラムPROGRAM

妄想の操り師 石井輝男
2012年6月22日(金)〜24日(日)
〈キング・オブ・カルト〉の石井輝男監督が、晩年に自らプロダクションを興し製作した3作品を一挙上映。フィルムによる保存を目的として作られた『盲獣vs一寸法師』の35ミリプリントを関西初公開する。
 
「山根貞男 連続講座 〈新編:活劇の行方〉 5」でも石井輝男を取り上げ、その活劇世界を論じていただきます。
[関連企画] [山根貞男 連続講座〈新編:活劇の行方〉5]
 
写真右:『盲獣vs一寸法師』撮影中の石井輝男監督 左:丹波哲郎
 
「盲獣vs一寸法師」
(2001/95分/35mm)
製作: 石井プロダクション
監督・脚色・撮影:石井輝男
原作:江戸川乱歩
美術:鈴屋港、八木孝
音楽:藤野智香
 
出演:リリー・フランキー、塚本晋也、平山久能 、藤田むつみ、リトル・フランキー、丹波哲郎、及川光博、しゅう、手塚眞、園子温、中野貴、熊切和嘉
 
江戸川乱歩の「盲獣」と「一寸法師」をもとにした猟奇ミステリー。石井輝男が製作・監督・脚色、そして撮影まで手がけた異色の自主製作映画にして遺作である。デジタルカメラで撮影された低予算映画ではあるが、石井輝男の職人的な演出術がきわだっている。フィルムによる保存を目的として今年2012年に作られた35ミリプリントで上映する。当時映画初出演のリリー・フランキーが主演。
 
「注目すべきは、呆然とするほど安っぽいのに、全篇、どの画面もきちんと形をなし、有機的な関係のもとに画面が展開されていって、運動感を刻み出すことである。だから、チープさにほとほと呆れつつ、見る人によるかもしれないが、馬鹿馬鹿しさを楽しめる。つまりショットが成立しているのである。そして、そのことはDVカメラで撮影されたという製作過程のあり方と何にも関係がない。」(山根貞男/「キネマ旬報」2004年5月下旬号「日本映画時評188」より)
 
 
「地獄」
(1999/101分/35mm)
製作: 石井プロダクション
監督・脚本:石井輝男
撮影:柳田友貴
音楽:竹村次郎
美術監督:原口智生
出演:佐藤美樹、前田通子、斉藤のぞみ、丹波哲郎、平松豊、鳴門洋二、大地輪子、若杉英二
 
世紀末の日本を騒がしたカルト教団、連続幼女殺害事件、毒入りカレー事件…。これら実際に起きた事件の犯人たちが地獄で裁かれる。石井輝男のキワモノ魂が炸裂。伝説のグラマラス女優・前田通子が閻魔大王を演じている。
 
 
「ねじ式」
(1998/85分/35mm)
製作: 石井プロダクション
監督・脚色: 石井輝男
原作:つげ義春
撮影: 角井孝博
美術:松浦孝行
音楽:瀬川憲一
 
出演:浅野忠信、藤谷美紀、金山一彦、丹波哲郎、アスベスト館
 
つげ義春の漫画4篇(「別離」「もっきり屋の少女」「やなぎ屋主人」「ねじ式」)をオムニバス形式で映画化。主人公である売れない貸本漫画家ツベを浅野忠信が演じている。スーパー16ミリからのブローアップ。
 
「つげ義春も石井輝男も、明らかに現実体験にこだわるぶん虚構意識が強い。妄想性がそれを示している。
つくりものに対する尋常ならざる執着といいかえてもいい。つげ義春でいえば、なによりの現れは漫画「ねじ式」のデタラメなまでの超現実性であり、(略)それらはまさに夢でしかない荒唐無稽な世界だが、石井輝男はストレートに受け止め、忠実に模型やセットでスクリーン上に描き出す。」(山根貞男/「ねじ式」パンフレットより)
 

わが狂気をえがくためには、
  
 理屈はいらない、ストーリーもいらない、予算と役者はほどほどでいい。
 イメージさえあればいい───。
 石井輝男監督の遺作となった『盲獣VS一寸法師』は、2001年にビデオで作られたものだったため、なんとかフィルムで保存しておこうということになり、最近その試写が行われた。東映時代の問題作『恐怖奇形人間』(1969年)と原作が同じ乱歩ということもあって、32年の間隔はあるものの連作の思い入れがあったと考えられる。晩年、「キング・オブ・カルトムービー」ともてはやされていた石井さんは、本当に確信をもってわが狂気に向かい合っている。あんなにも折り目正しい紳士である石井さんに、その覚悟がごく自然に膨らんでいったのはなぜなのか。1950年代から60年代にピークを迎えた日本映画の一角を確実に支えた石井さんが到達した表現が女体であり、流れる血であり、バラバラにされた手と足だった。単なる猟奇趣味では決してない。一部の浮世絵にみられるような血みどろの世界、そして春画が石井さんの心象の奥に拡がっていたことは間違いない。彼は青春時代を浅草で過ごし、浅草で映画を学んでいる。あのダンディーは、江戸文化に裏打ちされていたのだ。
 「来なかったのは軍艦だけ」と言われた東宝大ストで、共産党にコリゴリという人達が新東宝に結集。石井さんもその一員。新東宝の組合は当初みどりの旗をかかげて東宝の配給網を支えていたが、経営側にも分裂が伝染して東宝と対立し、私たちが新東宝に助監督として入社した1955年頃にはもう赤旗を振っていた。その頃、石井さんはチーフ助監督。清水宏、成瀬巳喜男という日本映画の中軸ともいうべき監督に付いていた。57年に石井さんは監督デビュー、われわれは喜んで石井組に付いた。ところが配給網が弱体だった新東宝は、6社体制から弾き飛ばされて61年に潰れる。東映から移籍した石井さんは、しゃれたギャングものから『網走番外地』でヒットを飛ばし、68年から73年にかけ独自のエログロ路線を突っ走る。その東映京都撮影所で、石井監督排斥運動が起きたことも忘れられない。女優さんを裸にして縛り上げ拷問するとかいうことで、ハレンチに騒がれたのだが、石井さんはビクともしなかった。東映大泉からは小松範任・伊藤俊也両氏から京都批判が展開され、私たち新東宝時代の石井組の面々も両氏に共感した。撮影所の中で、監督の表現をめぐる排斥運動があり、撮影所横断的に石井監督支持の動きもあったという事実は正当に伝えられるべきだ。そうしたねじれの続く映画史の中で、石井さんはわが狂気の表現に到達した。上記の乱歩原作2作をぜひ見たうえで検証してほしい。
 
 山際永三(日本映画監督協会会報「映画監督」2011.9 №656より転載)

石井輝男(1924-2005)
清水宏や成瀬巳喜男などの助監督をつとめた後、1957年『リングの王者・栄光の世界』で監督デビュー。代表作に『花と嵐とギャング』(1961)、『黒線地帯』、『黄線地帯(イエローライン)』(1960)、「網走番外地」シリーズ(1965-67)などがあり、『徳川女系図』(1968)、『徳川いれずみ師・責め地獄』、『江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間』(1969)などの〈異常性愛路線〉が再評価され、〈キング・オブ・カルト〉の監督として人気を博す。90年代に入り、10年以上のブランクの後、映画界に復活し石井プロダクションとして3作品を自主製作した。

《料金》入れ替え制
1本あたり
一般1200円 学生・シニア1000円
会員1000円 会員学生・シニア900円

《割引》
2本目は200円引き

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