プログラムPROGRAM

昭和桃色映画館 50年目の幻のフィルムと活動屋たち 前編
 
成人映画系の「ピンク映画」とも呼ばれる「独立プロ映画」が誕生して、今年で「50周年」を迎えた。今もなお製作を続けるのは老舗の大蔵映画一社という情況は、「消え行くピンク映画」の印象は拭えない。だが、逆に昭和の「独立プロ映画」への郷愁とオマージュ、マニアックなファンの心理は高まっているようだ。2009年の「60年代・独立プロ伝説 西原儀一と香取環」、2011年の「まぼろしの昭和独立プロ伝説」と神戸映画資料館ならではの「発掘上映」に各方面からの注目と賛辞が集中した。
戦後の日本映画史における「独立プロ」「成人映画」の実態と全貌は、「50周年」を迎えて、ようやく明らかになろうとしているようだ。神戸映画資料館のフィルム収集、保存、修復という活動もまた、「独立プロ」の仕事、成人映画の「まぼろしの女優たち」を発掘・研究して、「娯楽映画の裏面史」「もうひとつの映画史」に光を当てる。本邦唯一のプリントが、伝説から目覚める時を待っているようだ。それらが伝説の活動屋たちによって、いかに作られたかを検証してみよう。また、神戸のスクリーンで、新しい「伝説」が刻まれるかも知れない。
 
小林悟 元祖独立プロ監督
8月31日(金)・9月1日(土)
「不能者」
(1967/86分/パートカラー・ワイド/16mm)
監督:小林悟 撮影:浜野誠之 音楽:竹村次郎
出演:仲小路彗理、島たけし、清水世津、谷ナオミ、白川和子、鶴岡八郎、椙山拳一郎、松井康子
桃色映画を開拓した監督の一人小林悟は、ヌーベル・ヴァーグを担う監督となってもおかしくはなかった。幼馴染みの恋人は理解してくれたが、少年の悩みは晴れなかった。身体的コンプレックスから、性的関係が上手にできない主人公たち。都会の風俗の中で揉みくちゃになっていく。放浪と多作とに明け暮れた異能の活動屋が、当時パートナーだった女優・松井康子を製作者に、果敢に挑戦した意欲作。異形だが、ならではの青春映画の佳作。
 
「女紋交悦」
(1971/71分/パートカラー・ワイド/16mm)
監督:小林悟 脚本:岡田昇平 撮影:池田清二
出演:宮下順子、山本昌平、保津美アヤ、吉田純、田中敏夫、市村譲二、日野伸二
幸せな夫婦生活を送っていたが、交通事故で不能になってしまった夫。看病しながら酒場で働く甲斐甲斐しい妻。だが、夫婦の絆は、肉欲の前にはもろく愚かしいものでしかなかった。乱心と絶頂。二人の葛藤や絶望を照らし出すように明滅する光、幻想と迷宮へ招待するような音楽。脚本にも参加した山本昌平の迫真演技。デビューまもなく体当たりで悩殺する宮下順子。日活ロマンポルノ裁判の参考試写作品になったことでも知られる作品。
 
「ニッポン発情地帯」
(1971/68分/パートカラー・ワイド/35mm)オムニバス全5話 
監督:小林悟 脚本:神谷伸之、千葉隆志、小林悟 撮影:池田清二
出演:杉村久美、野沢はるみ、志野原千恵、島江江梨子、小池ジュン、相原香織、野上正義、大河原功、久保新二、今泉洋、浅川洋子、宮本圭子、市村譲
緊張感と才気の漲る作品から捨てばちな作品まで、起伏の激しいエロスのアルチザンだった小林悟。旧知の西原儀一に再会、葵映画で作品を撮るように。失神を売り歩く男、妻の秘密、関西パンマの実態など艶笑小話をオムニバス形式で巧みに撮った。女優たちをはじめキャストもスタッフも若々しく新しかった。大手のポルノ攻勢に、業界は変貌していった。小林も、この頃から開き直ったように、女の裸体を舐めるように撮り始めるのだった。

※『ニッポン発情地帯』フィルム状態不良の為、急きょ差し替えて上映いたします
「好色回春物語」
(1970/69分/パートカラー/16mm) 
製作:葵映画 監督:武田有生 脚本:中原圭司(石森史郎) 撮影:舵川常義
出演:白川和子、青山美沙、黒瀬マヤ、鶴岡八郎、里見孝二、今泉洋、関多加志
『約束』『同棲時代』など青春映画の名脚本家として知られる石森史郎先生の「ピンク映画時代」の脚本作品が見つかった! 斎藤耕一の助監督などを経て成人映画で一本立ちした武田有生監督作品。「有生は文芸調のなかなかいい作品を撮ってね。気も合って何本もホンを書いているんだ」(石森)。亀松(鶴岡八郎)は会社を経営していたが、別荘に引きこもり回春法に精を出し、女中相手に発散していた。ある日、純情そうな娘が女中としてやってきたのだが……。ピンク時代の白川和子の愛らしい姿も見られる貴重な発掘作品である。
 
   
時代を作った活動屋たちと発掘フィルム
9月2日(日)・3日(月) 
「禁じられた乳房」
(1966/80分/白黒・ワイド/16mm)
監督:小川欽也 脚本:五里木純一郎 撮影:岩橋秀光 美術:宮坂勝巳 音楽:長瀬貞夫
出演:新高恵子、左京未知子、森美千代、飛田八郎、大原百代、九重京司、野上正義、椙山拳一郎
若々しく力強い演出を見せる小川欽也。「50年間撮り続けた活動屋」である。小川監督自身が保持されている貴重なフィルムは、関西地区初上映。子供に会いたい一心で脱走を図る女囚。転がり落ちていくように、運命の坂を走らされ殺人を犯した。ヒロイン新高恵子は、桃色映画界初期を代表するスター女優の一人。ラテン系歌手だったが、憧れの映画の世界に飛び込む。美貌と演技力は、同郷の寺山修司に見出され演劇界へ転進していった。
「女体開花」
(1968/61分/パートカラー・ワイド/16mm)
監督:奥脇敏夫
出演:水咲陽子、青木マリ、椙山拳一郎、渡辺允雄、泉田洋志、中野歩、立花加幸
結婚、それは何? 幸せ、人間の絆、家庭、どうして? 問いかける男女。蜜月旅行に出た新婚男女たちは、ホテルの部屋で。男女には「性生活の知恵」こそ必要と説き、味のある演出ぶりの奥脇敏夫監督。初代「ピンクの女王」香取環のパートナーだったこともある、黄金時代を代表する「桃色活動屋」だ。売り出し中の新人女優水咲陽子、青木マリの新妻ぶり。屈指の演技派ぶりを見せる椙山拳一郎。当時求められていた、典型的なヒット作品だ。
 
「濡れた紅薔薇」
(1972/64分/カラー・ワイド/16mm)
監督:向井寛
脚本:棟由多歌 撮影:鈴川芳彦
出演:武藤周作、千原和加子、沖さとみ、芹河美奈、嵯峨正子、三条聖子、安藤麗子、丸美園子、港雄一、吉岡一郎、吉田純、他
60年代に数々の傑作を発表した俊英監督向井寛は、70年代に入っても軽快なフットワークで作品を撮り続けていた。「処女喪失」をテーマにしたレコードを企画した主人公が、テレコを片手に街頭インタビューに飛び出した。OL、女子高生、女優、歌手など、様々な女性の性的エピソードがオムニバス風に描かれる。一億総ハレンチ時代といわれたが、女性の「処女性」はまだまだ大きなテーマだった。冒頭、監督自身も颯爽と登場して懐かしい。
 
「パンマSEX裏のぞき」
(1973/63分/カラー・ワイド/35mm)
監督:関孝二 撮影:長島訓 照明:明地五郎 編集:中島照雄
出演:港雄一、北見マリ、西条マリ、城モニカ
関孝二は、「女ターザン」を皮切りに桃色映画初期からアイデアマンといわれ、時代風俗に敏感で作品にも取り入れた。「パンマ」も、昭和の風俗。「パンパン・マッサージ」の略と言っても、既に「パンパン(街娼)」が死語だが。ヤクザ(港雄一)は情婦(北見マヤ)と温泉に来た。頼んだアンマ(河森真樹)の顔を見て驚く。それは、以前そのヤクザの女房だったが、彼に酒をかけられ盲になり捨てられ、この温泉に流れてきた女だったのだ。
 

9月1日(土)トーク
《本木荘二郎と桃色映画の50年を考える
 前篇:黒澤明の盟友、撮影所を去り桃色映画の開拓者となる!》
鈴木義昭
(映画史家・ルポライター)
ピンク映画第一号は『肉体の市場』だが、半年遅れて本木荘二郎監督『肉体自由貿易』が公開される。「50年」の歴史がスタートした。それまで黒澤明のなくてはならない相棒、盟友プロデユーサーとして『羅生門』を始め数々の名作を生み出した本木は、ある理由から東宝撮影所を追われ、いつしか「街場」といわれる桃色映画の監督となる。それは、その後「ピンク映画」と呼ばれるジャンル、市場を切り拓くこととなった。本木の助監督だった小川欽也を筆頭に、小林悟、関孝二、向井寛、奥脇敏夫、草創期の監督たちは根っからの活動屋たちばかりだった。本木と競うように、桃色映画を撮った監督たち、その知られざる作品と素顔をも検証する。関連映像の上映あり。
 
鈴木義昭
1957年、東京都台東区生まれ。76年、「キネマ旬報事件」で竹中労と出会い、以後師事する。ルポライター、映画史研究家として芸能・人物ルポなどで精力的に執筆活動を展開中。
著書に「ピンク映画水滸伝」(青心社)、「風のアナキスト・竹中労」(現代書館)、「日活ロマンポルノ異聞 国家を嫉妬させた映画監督・山口清一郎」(社会評論社)、「若松孝二 性と暴力の革命」(現代書館)、「ちんこんか ピンク映画よどこへ行く」(野上正義著・責任編集/三一書房)、近刊に「昭和桃色映画館」(社会評論社)がある。

*プリント状態が悪く映写機にかからない場合は上映作品が急遽変更になる場合があります。
企画協力:鈴木義昭、東舎利樹
後編 9月28日(金)〜10月1日(月)

《料金》入れ替え制
1本あたり
一般1200円 学生・シニア1000円
会員1000円 会員学生・シニア900円

トークイベント 1000円
《割引》
2本目は200円引き

これまでのプログラム|神戸映画資料館

※内容は予告無く変更する場合があります。

※作品によっては、経年退化で色褪せしている場合がございます。予めご理解ご了承の上、ご鑑賞くださいますようお願い申し上げます。