プログラムPROGRAM

年別アーカイブ: 2014

差別と迫害を告発する問題作
熊井啓監督「地の群れ」
2014年5月16日(金)〜18日(日)
「地の群れ」
(1970/127分/35mm)
製作:えるふプロダクション、ATG
製作:大塚和、高島幸夫
監督:熊井啓 原作:井上光晴
脚本:井上光晴、熊井啓 撮影:墨谷尚之
音楽:松村禎三 美術:深民浩
 
出演:鈴木瑞穂、松本典子、瀬川菊之丞、寺田誠、原泉、奈良岡朋子、佐野浅夫、紀比呂子、北林谷栄、宇野重吉
  
熊井啓──
若干22歳の映画青年は『ひろしま』で映画人生をスタートした。
被爆八年後の広島で不条理を見、
『ひろしま』で映画を学び、
『地の群れ』で日本人の・・・人間を抉った。

          小林一平(映画プロデューサー)
  
『帝銀事件 死刑囚』(1964)、『黒部の太陽』(1968)、『海と毒薬』(1986)などの作品で知られる熊井啓監督が、井上光晴の同名小説を映画化。未開放部落・在日朝鮮人・被爆者・基地を通し「戦後の暗黒」を告発。感傷を拒否した鋭い映像で人間を描く。
佐世保の診療所に、原爆病の疑いがある少女がやってくる。この地の被爆者部落のものと思われることを恐れ、被爆者であることを頑固に否定する少女の母親。そして、未解放部落の出身の医師は、かつて炭坑で冒した罪を背負っていた……。

 
企画・配給:綜映社
協力:小林一平
 

《料金》
一般1200円 学生・シニア1000円
会員一般1000円 学生会員・シニア会員900円

万田邦敏監督 最新作
「イヌミチ」
2014年6月6日(金)〜10日(火)
「イヌミチ」
(2013/72分/HD[ブルーレイ上映])
監督・編集:万田邦敏 脚本:伊藤理絵
撮影:山田達也 照明:玉川直人
録音・整音・効果:臼井 勝
音楽:齋藤浩太、下社敦郎 音楽監修:長嶌寛幸
美術:萩原周平、赤松直明、鈴木知史
製作・配給・宣伝:映画美学校
映画美学校 2012年度高等科コラボレーション作品

出演:永山由里恵、矢野昌幸、小田篤、小田原直也、古屋利雄、茶円茜、古内啓子、中川ゆかり、古川博巳、柏原隆介、兵藤公美

向き合うことを知らない若い男女の孤独と異形の愛を描いた、
進化し続ける映画監督 万田邦敏 5年ぶりの最新作!

目の前の物に満足し、信じて待つ「イヌ」。その目をみつめて可愛がり、惜しみなく与える「飼い主」。男女がセックスを介在させず肉体関係を結べるもの、それは「イヌ」「飼い主」の関係になる事だけかもしれない。
仕事や恋人との生活において選択する事に疲れている編集者の響子はある日、クレーマーや上司に簡単に土下座をする男・西森と出会う。プライドもやる気もない西森の、無欲な「イヌ」の目に興味を持つ響子。出来心から訪れた西森の家で、二人はおかしな「イヌ」と「飼い主」という遊びを始める。「イヌ」としての盲目的な生活に浸る響子と、その姿に安らぎ「飼い主」になる西森。ほの暗い家の中で、決して交わることのない身勝手な愛を垂れ流す二人の遊びはどこへ向かうのだろうか。

『UNLOVED』(02)、『接吻』(08)で国内外に衝撃を与えた映画作家・万田邦敏監督が5年の沈黙を破り、放つ最新作『イヌミチ』は、個性的で精力的な映画監督を輩出し続けている映画美学校のフィクション、アクターズ、脚本の3コースによるコラボレーション作品である。
第一線で活躍する高橋洋、三宅隆太、村井さだゆき三人の講師陣が揃って太鼓判を押した伊藤理絵によるリアルな女性心理が描かれた独創的なシナリオに、響子役の永山由里恵、西森役の矢野昌幸らがみずみずしくも大胆で躍動する演技と表情で挑み、そして映画に対し熱い血潮を滾らせるフィクション・コース15期生がスタッフとして現場を支える。これからの映画を担う若い世代の感性と万田監督の鋭い演出が混じり合うことにより、『イヌミチ』は現代の若者の孤独と倒錯した愛を描いた、新しい万田邦敏作品としてここに誕生した。

[公式サイト]

《料金》
一般1400円 学生・シニア1200円
会員一般1200円 学生会員・シニア会員1000円

《割引》当日、『坂本君は見た目だけが真面目』関連プログラムと連続鑑賞の場合200円引き

「坂本君は見た目だけが真面目」+中短篇
2014年6月6日(金)〜10日(火)
Aプログラム「坂本君は見た目だけが真面目」
(2014/57分/HD[ブルーレイ上映])
監督・プロデュース:大工原正樹
脚本:鳥井雅子 撮影・照明:四宮秀俊
録音・整音:光地拓郎 音楽:長嶌寛幸
編集:和泉陽光 美術:浅雄望 鈴木知史
製作:映画美学校
出演:藤本泉、伊藤凌、ジェントル、宮田亜紀、よこえとも子、大久保了、美輪玲華

大人げない女教師×超マイペース天才中学生。
勝つのはどっち!?

聡子のクラスには問題児がいた。自分の出たい授業にしか出ずに、必要ない授業だと思ったら家に帰ってしまう坂本君。ところが彼は成績優秀、教室で暴れるわけでもなく、出ている授業態度はいたって真面目。そんな坂本君を他の先生もどこか容認していた。しかし、生真面目な聡子は彼がどうしても許せなかった。実力行使、彼が抜け出そうとする廊下や昇降口で待ち伏せては教室へ引き戻そうとする。最近は、面白がる他の生徒が坂本君の脱走に加担するようになって事態はエスカレート。生徒指導に燃える聡子は、あきれる坂本君の誹りにもくじけず、授業に出るよう説得を続ける。ある日、あまりのしつこさに坂本君がついに反撃開始!引くに引けない聡子の教師生命は?!ついにクラスを巻き込んで二人のバトルが始まる!!
映画美学校から、新たなエンターテインメントを発信!
富田克也、古澤健、横浜聡子ら個性的で精力的に活動し続ける映画監督を輩出してきた映画美学校が、2011年にシナリオライター開発に着手。日本映画に新たなエンターテインメントを発信すべく選ばれた第1回作品は、村越繁の脚本、『ただいま、ジャクリーン』を大久明子監督(『モンスター』)が映像化し好評を博した。
第2回にあたる今回は、「もしスティーブ・ジョブスが中学生だったら」という出発点から、お互い何かかけている生徒と教師がぶつかり合いながら分かり合う『坂本君は見た目だけが真面目』が選ばれた。脚本は講師、小中千昭の指導を受けた鳥井雅子のオリジナル作品。講評会では映画監督である高橋洋、篠崎誠、大工原正樹の3人に映像化したいと惚れこまれ、実際に大工原により映像化され、生き生きと、さらにポップにしあがった。

[公式サイト]
併映『純情No.1』(2011/20分/HDV)
監督・脚本:大工原正樹
出演:長宗我部陽子、北山雅康、猪原美代子、市沢真吾
映画美学校に通う良江(長宗我部陽子)はトイレで講師・緒方(北山雅康)の恥かしい姿を偶然見てしまったことから身の危険を感じるようなる。そしてある日、教室で死んでいる女生徒(猪原美代子)を発見した良江は、彼女が自分の身代わりに殺されたのだと確信する。

Bプログラム大工原正樹監督 中短篇集
「赤猫」
(2004/42分/DV)
監督:大工原正樹 脚本:井川耕一郎 撮影:福沢正典
出演:森田亜紀、李鐘浩、藤崎ルキノ、永井正子
私(李鐘浩)の出張中、妻の千里(森田亜紀)が流産した。風呂の電球を替えようとして、椅子から転落して流産したのだ。退院後の千里は何もしゃべらず、マンションのベランダからただ遠くを見つめているだけだった。だが、ある夜、ふとしたことをきっかけに、千里は流産に至る経緯を私に話しだした。

「姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う」(2010/49分/HDV)
監督:大工原正樹  脚本:井川耕一郎  撮影・照明:志賀葉一
録音・整音アドバイザー:臼井勝 音楽:中川晋介
出演:長宗我部陽子、岡部尚、森田亜紀、高橋洋、光田力哉
蠱(こ)とは古代中国の呪術である。母の葬式を終え、かつて暮らした町をぶらりと訪れた妙子(長宗我部陽子)と治(岡部尚)は、次第に心に巣食うバケモノ「あいつ」の幻に襲われ始める……。
「恋の季節」(2013/9分/HD)
監督・脚本:大工原正樹
出演:仲村怜緒、二宮未來、松下仁、市沢真吾、大迫茂生
映画美学校で脚本を教える真理恵(二宮未來)はロビーで自分を触った痴漢(大迫茂生)を捕まえ責めたてる。同じころ、MAルームで自慰をしているところを先輩(松下仁)に見られてしまった瑶子(仲村怜緒)は、真理恵と痴漢の諍いを見てある決心をする。

《料金》1プログラムあたり
一般1200円 学生・シニア1000円
会員一般1000円 学生会員・シニア会員900円

《割引》当日、2プログラム目は200円引き

ロシア・ソヴィエト映画 連続上映
第9回 キラ・ムラートワ

2014年6月28日(土)・29日(日)
旧ソ連とルーマニア間で領土争いが繰り返されていたベッサラビア(現モルドバ共和国)生まれで、ウクライナを中心に活動するキラ・ムラートワ監督の2作品を上映する。2013年のロッテルダム国際映画祭では最新作が上映され特集が組まれるなど、約50年にわたり活躍する女性監督。

「長い見送り」
Долгие проводы
(1971/95分/35mm)
オデッサフィルム(ウクライナ)
監督:キラ・ムラートワ
脚本:ナタリア・リャザンツェワ
撮影:ゲンナジー・カリューク
音楽:オレーグ・カラワイチューク
出演:オレグ・ウラジーミルスキー、ジナイーダ・シャルコ
離婚した母親と、思春期の多感な息子のあいだの葛藤を、瑞々しくも大胆なタッチで描いたムラートワの監督第2作。「ロング・グッドバイ」を意味する原題を持つこの作品と、これとは真逆のタイトルを持つ単独監督デビュー作『短い出会い』の初期2作はアイロニカルにも「地方メロドラマ」と称される。キャメラの繊細な動き、突飛なモンタージュ、音とイメージのずれなど、その斬新な映像センスがすでに比類ない才能を感じさせる驚くべき傑作。党の要請に部分的に従わなかったために、この作品は16年間お蔵入りとなり、ムラートワは以後長きにわたって映画を撮れなくなる。次第に壊れてゆく母親を演じるジナイーダ・シャルコの、ジーナ・ローランズを彷彿とさせる神経症的な演技がすばらしい。

「灰色の石の中で」
Среди серых камней
(1983年/83分/35mm)
オデッサフィルム(ウクライナ)
監督・脚本:キラ・ムラートワ
原作:ウラディミール・コロレンコ
撮影:アレクセイ・ロジオーノフ
出演:イーゴリ・シャラーポフ、スタニスラフ・ゴヴォルーヒン
舞台はおそらく19世紀のロシア。母を亡くしたばかりの少年ワーシャは、妻の想い出に浸って自分を見てくれない父親を避けるようにひとり街を遊び歩くうちに、同い年ぐらいの兄妹と知り合い、奇妙な浮浪者たちが隠れすむ教会の地下に入り浸るようになる。子供向けの物語を借りた大人のための寓話。『長い見送り』の直後からすでにシナリオが書き始められていたが、度重なる検閲によって細部の改変を強いられ、ムラートワはついには完成作から自分の名前を外してしまう。絶えず動き回り、いっせいに話し始める人物たち。理解しがたい行動と、反復される支離滅裂な言葉。混沌としたイメージは、これ以後の作品に共通するものであり、むしろ『長い見送り』以上にムラートワ作品の特徴が現れていると言ってもいい。

作品解説:井上正昭

主催:神戸映画資料館、アテネ・フランセ文化センター
協力:ロシア映画社

《料金》入れ替え制
1本あたり
一般1200円 学生・シニア1000円
神戸プラネットシネマ倶楽部会員1000円 学生・シニア会員900円
アテネ・フランセ文化センター会員1000円

《割引》
当日に限り2本目は200円引き


「こどもこそミライ ‐まだ見ぬ保育の世界‐」
2014年7月4日(金)〜8日(火)

講演:「どの子もよっといで! ─インクルーシブ保育のつくりかた─」
7月6日(日)13:00〜 *参加無料(要・映画半券。前日までの鑑賞者も可)
講師:堀 智晴(ほり・ともはる/元大阪市立大学教授)堀は、障害のある子どもの保育・教育について、実践研究をしてきた。その中で、障害のある子ない子が共に育ち合い、学び合っていくことが大事だと考えるようになった。また、これまでの保育と教育を再考する必要も出てきた。
今回の映画は、そのような子どもたちの育ち合いの保育実践の一端をみていただく。大阪で一番早くから障害のある子どもも共に保育をしてきた聖愛園は、もう40年の歴史がある。日本が、今年の1月に批准した「障害者権利条約」においても、障害のある子の教育は、インクルーシブ教育(障害のある子もない子も、共に学び合う教育)であるべきだと謳っている。
乳幼児期から、子どもたちが多様な他者(仲間)たちと出会い、共に生活し育ち合っていくことは、障害があるなしにかかわらず、現代子どもたちには一層必要なことではないかと考える。この映画をヒントに、現代の子育て、保育、教育のあり方について一緒に考えましょう。
字幕付き上映
聴覚障害のある方に映画をお楽しみいただく為に字幕付きで上映します。
7月5日(土)・6日(日) 11:00の回

「こどもこそミライ
‐まだ見ぬ保育の世界‐」

(2013/84分/HDV[ブルーレイ上映])
編集・監督:筒井勝彦
製作:オフィスハル
プロデューサー:筒井勝彦、秋葉清功、佐舗和生
企画:宮川 勉(小学館『新 幼児と保育』編集部)、筒井勝彦(オフィスハル)
撮影:秋葉清功、山口正芳、石﨑俊一
音楽:近藤久美子、稲葉 光、阿部浩二(トリンダージ)、近藤裕圭子、熊田 洋
唄:塩澤直美
イラストデザイン:ソ・ミジ
撮影協力:りんごの木、森のようちえんピッコロ、社会福祉法人路交館、保育所 聖愛園
配給:「こどもこそミライ」上映委員会
出演:りんごの木の子どもたち、柴田愛子、青山 誠、森のようちえんピッコロの子どもたち、中島久美子、聖愛園の子どもたち、野島千恵子、保育士・保護者のみなさん、常磐会学園大学 国際こども教育学部、堀 智晴

「きみたちこそ未来、みんなで手をつなぐともっと大きくなるよ!」

横浜にある「りんごの木」では、その日に園でおこったさまざまな出来事をテーマに子どもたちが自分の言葉で話し合います。一生懸命話し合って、心のもやもやを出し合って、結論はすぐにでないけど、子どもたちは考えます。
ここにはまったく新しい保育のかたちがあります。
「森のようちえんピッコロ」は、山梨の森の中にあります。この園の子どもたちは一日中、自然のふところに抱かれて全力を出しきって遊んでいます。それは子ども本来の姿であり、まさに人間の原点をみるようで、わたしたちに自然と人間のつながりの大切さをもう一度気づかせてくれます。
大阪の「保育所聖愛園」はインクルーシブ保育を実践している園です。インクルーシブ保育とは、ハンディのある子もない子もみんな一緒に育ち合う保育のことです。この園の子ども同士の助け合いの姿をぜひご覧ください。そしてその保育の現場に存在する、一片の詩情に胸をふるわせてください。

[公式サイト]

併映『屋敷林の手入れと子どもたち(中瀬幼稚園)』(11分)
  『わこう村 和光保育園の子どもたち』(18分)

《料金》
一般1200円 シニア1100円 学生1000円 こども(未就学児)無料
会員1000円

サイレント映画鑑賞会 バスター・キートン再び
2014年7月12日(土)・13日(日)  *12日のみ生演奏付き上映

「キートンの蒸気船」Steamboat Bill Jr.
(アメリカ/1928/69分/16mm)
監督:チャールズ・F・ライスナー、バスター・キートン
脚本:カール・ハルボー
出演:バスター・キートン、アーネスト・トレンス、マリオン・バイロン、トム・ルイス

無表情の、小柄な青年が、ひとりぽつんと立っている。青年の背後には、二階建ての家。サイクロンの強風にあおられ、家の壁はぐらぐらと不安定にゆれている。どっしりと重い壁は、やがてゆっくりと倒れる、何も気づかぬ青年の頭の上に。だが、奇蹟が起きる。二階の小窓が彼の体をすりぬけ、青年は間一髪で命拾いする・・・
この小柄な青年は、名をバスター・キートンという。キートンが主演し監督もしたサイレント喜劇映画では、運命は、彼をしばしばきまぐれにもてあそぶ。そのくせ運命は、いつでも彼の味方をするのだ。
「映画史上最高のスタントアクション」として知られるこの「壁ギャグ」は、バスター・キートンの映画を観たことがない人でも、きっとどこかで目にしているだろう。ジャッキー・チェンをはじめ、さまざまな映画やドラマ、CMで引用されてきた。
しかし、キートンとまったく同じ状況でこのアクションを再現しえた人は、誰もいない。なぜなら、キートンは、このギャグに文字通り命を賭けたからだ。壁の重さは2トンあり、小窓はとんでもなく小さかった。わずか数センチの誤差で、キートンは確実に壁の下でぺしゃんこになる可能性があったのだ・・・
サイレント長編『キートンの蒸気船』において、このアクションは生まれた。今回、神戸映画資料館において、本作を生伴奏つきフィルム上映で観られるということは、すなわち、歴史の目撃者となることにひとしいのである。もちろん、「壁ギャグ」以外にも見所はたっぷりだ。名優アーネスト・トレンスとキートンの父子愛や、新人女優マリオン・バイロンとの可憐な恋物語。クライマックスの嵐のシーンの迫力には、度肝をぬかれることまちがいない。

キーボード演奏をつとめるのは、無声映画伴奏で活躍いちじるしい「深海無声團」のメンバー、藤代敦さん。モダンでエレガントな演奏には定評がある。いつもはプラネットプラスワンを拠点に、活動弁士大森くみこさん、伴奏家のMomeeさんとのチームで活動しており、3月には資料館で『海底王キートン』の弁士上映も成功させている。今回はソロでの演奏ということで、これもまた楽しみだ。
映画上映につづいて、筆者が講師をつとめる講座《コメディ学入門》を開催する。もちろんテーマは「バスター・キートン」。作品鑑賞とあわせてご参加いただければ、幸いである。(いいをじゅんこ)

演奏:藤代 敦(キーボード) *12日のみ生演奏付き上映

いいをじゅんこさんの「第8講コメディ学入門 バスター・キートン入門」(7月12日)と合わせてお楽しみください。

《料金》
一般1400円 学生・シニア1200円
会員1200円 学生会員・シニア会員1000円

《割引》*12日[第8講コメディ学入門] 参加者は200円引き
*13日(演奏なし)は200円引き

知られざるヨーロッパ映画
2014年7月19日(土)〜22日(火)
「もだえ」Hets
(スウェーデン/1944/96分/16mm)
監督:アルフ・シェーベルイ
脚本:イングマール・ベルイマン
撮影:マルティン・ボディン
音楽;ヒルディング・ローセンベルイ
出演:アルフ・チェーリン、スティグ・イェレル、マイ・セッテルリング

カリギュラと呼ばれる陰険なラテン語教師に苛まれる高校生ヤン=エーリク。裕福な家庭に育ち理想を抱く彼がタバコ屋で働く娘と恋に落ち……。1946年の第1回カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞。脚本は監督デビュー前のイングマール・ベルイマン、監督は『令嬢ジュリー』で知られるアルフ・シェーベルイ。

「沈黙の歓び」Vaxdockan
(スウェーデン/1962/95分/16mm)
監督:アルネ・マットソン
脚本:エヴァ・ゼーベルグ
撮影:アーケ・ダルクビスト
音楽:ウルリク・ノイマン
出演:ペール・オスカルソン、ジオ・ペトレ、トル・イセダル、エルサ・プラヴィッツ

デパートの夜間警備員をつとめる若い男が、マネキン人形を見初めアパートに持ち帰る。人形に語りかけ愛撫する男。いつしか人形は男の狂気の愛に応え始める……。監督は『春の悶え』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞したアルネ・マットソン。主演は『Sult』でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した名優ペール・オスカルソン。

「処女のめざめ」
Una Vergine per un Bastardo
(イタリア/1965/86分/16mm)
監督・脚本:エドワード・ダイン
製作:ジョゼフ・ジュストマン
撮影:ブルーノ・レティツィア
音楽:ウーゴ・カリーゼ
出演:マリサ・ソリナス、ダン・ハリソン、ハインリヒ・レーウィンケル

生まれつき言葉をしゃべれない青年パコが、酒場をきりもりする少女シータと兄妹のように仲良く暮らす地中海のある孤島。そこへ仲間を裏切った強盗犯が流れ着き、盗んだ宝石をちらつかせて少女を誘惑する。島の風物を活かした画面作りや、歌で物語を紡いでゆく手法が新鮮。スタッフは一部変名が使われているが、アメリカB級映画の作り手が中心のようだ。少女シータを演じるのは、『ボッカチオ’70』やベルトルッチの『殺し』で知られるマリサ・ソリナス。

「続絶叫」La Nuit la Plus Longue
(フランス/1965/80分/16mm)
監督・脚本:ジョゼ・ベナゼラフ
撮影:アラン・ドローブ
音楽:チェット・ベイカー
出演:ヴィルジニー・ド・サラン、アラン・ティスィエ、ウィリー・ブラジオ

資産家の娘が誘拐団に森の中の邸宅に連れ去られ監禁される。ボスの連絡待つ一味は仲間割れをはじめ…。監督はエロティックな作風で知られるジョゼ・ベナゼラフ。本作でも女性同士のSMショーなどが見られるが、隠し撮りと思われる市街のシーンなど随所に初期ヌーヴェル・ヴァーグの影響が見られる。

プラネット・シネマテーク
《会費》 1本あたり
会員1200円 会員学生・シニア1000円
《割引》当日2本目は200円引き
*非会員のかたは、1日会員(登録料100円)のご登録をお願いします。

伊福部昭 生誕100年記念
伊丹映画祭 記録映像 特別上映

2014年8月9日(土)・10日(日)
ゴジラ音楽で有名な作曲家・伊福部昭(1914−2006)の生誕100年を記念して今年は記念コンサートや出版などが相次いでいる。かつて兵庫県・伊丹は伊丹グリーン劇場を中心に特撮ファンのメッカだった一時期があり、1987年から始まった伊丹映画祭でも盛んに特撮映画が上映され映画音楽コンサートも開かれた。今回は、第1回と第7回の伊丹映画祭で行われた伊福部昭関連の記録映像をまとめて上映する。

「ゴジラ生誕40周年記念 映画音楽コンサート」(97分)
1993年の第7回伊丹映画祭で開かれたゴジラ生誕40周年記念コンサートを記録したもの。この日は伊福部昭の音楽を佐藤勝が指揮するという前代未聞の夢のような音楽会の実現であり、全国から多くのファンが詰めかけた。今回は画質音質の良い原版による初めての上映である。
■プログラム
交響ファンタジー1番エミーのテーマ(「ゴジラ対キングギドラ」より)
交響ファンタジー2番バトラのテーマ(「ゴジラ対モスラ」より)
交響ファンタジー3番メカゴジラのテーマ(「ゴジラ対メカゴジラ」より)
Gフォースマーチ(「ゴジラ対メカゴジラ」より)
宇宙大戦争マーチ(「宇宙大戦争」より)
作曲:伊福部昭 指揮:佐藤勝 司会:伊藤幸純 演奏:大阪シンフォニカー
主催:伊丹映画祭映画音楽コンサート実行委員会
1993年11月23日 伊丹市立文化会館にて収録

「ゲネプロ(総稽古)の様子」(23分)
ゴジラ生誕40周年記念コンサートのゲネプロ(総稽古)の様子を記録したもの。

「伊福部昭 映画音楽を語る」(78分)
1987年の第1回伊丹映画祭にゲストとして招かれた伊福部昭の発言をまとめたもの。伊丹市立文化会館ホールでのコンサート(SF交響ファンタジー第1番 演奏:大阪シンフォニカー 指揮:金洪才)での発言に加え、その前夜に伊丹グリーン劇場で開かれたファンの集いでの発言を完全収録。

《料金》一日通し

一般 予約:2800円 当日:3000円
会員 予約:2500円 当日:2800円
 
*7月1日よりご予約受付開始(開催日前日の18時締め切り)
info@kobe-eiga.net 宛に、お名前、連絡先(電話)、参加希望日を書いてお送りください。
追って予約受付確認のメールを差し上げます。

協力:伊福部家


「文学映画化の諸相 チェザレ・パヴェーゼの場合」関連上映
ストローブ=ユイレとレナーテ・ザミ
2014年8月16日(土)・17日(日)

kumokara01「雲から抵抗へ」
Dalla nube alla resistenza
(1978/105分/35mm)
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:サヴェーリオ・ディアマンティ
イタリアの作家チェザレ・パヴェーゼ(1908-1950)の未完の神話的対話篇集「レウコとの対話」の6篇「雲」「キマイラ」「盲人たち」「狼人間」「客」「火」を映画化した第一部と、パヴェーゼ最後の長編小説「月と篝火」を圧縮再構成した第二部からなる。
 
Pavese01「チェザレ・パヴェーゼ
トリノ‐サント・ステファノ・ベルボ」

Cesare Pavese Turin – Santo Stefano Belbo
(1985/64分/デジタル[ブルーレイ上映])
監督:レナーテ・ザミ、ペトラ・ゼーガー
チェザレ・パヴェーゼの生地サント・ステファノ・ベルボと、彼が自ら命を絶ったトリノの街をカメラは訪れる。彼の最後の2つの小説『孤独な女たちと』と『月と篝火』のテクストやパヴェーゼの手紙・日記・写真を頼りに、この作家の生と創作を辿る。また彼と親交のあった人物達が生前のエピソードを物語る。

 

レナーテ・ザミ Renate Sami
1935年、ベルリン生まれ。1975年にドイツ赤軍派に属した映画作家ホルガー・マインスの獄中死を契機に、監督第一作『いずれ誰もが死ぬ、ただ問題はいかに死ぬか、そしていかに生きたかだ』(1975)を撮り上げる。それまでは映画製作とは無縁だった。
『チェザレ・パヴェーゼ トリノ—サント・ステファノ・ベルボ』(1985)では、作家パヴェーゼの小説を基にこの作家ゆかりの地を訪れる。また彼女が18歳で初めて訪れたエジプトを題材に『ピラミッドと共に』(1990)を制作。その他の作品に、『ブロードウェイ 95年5月』(1996)、スーパー8で撮りためられた映像にパヴェーゼの詩や音楽を重ねた『映画日記1975‐85』(2005)、『リアーネ・ビルンベルクの工房と彼女の父ダーヴィット・バルフ・ビルンベルクの物語』(2007)など。最新作は自宅の窓の外の壁から時間の流れを捉えた『一年』(2011)。

作品解説:渋谷哲也
協力:レナーテ・ザミ、アテネ・フランセ文化センター、神戸ファッション美術館

[関連企画] 8月16日(土)文学映画化の諸相 チェザレ・パヴェーゼの場合
講師:渋谷哲也(ドイツ映画研究)

《料金》入れ替え制1本あたり
一般1200円 学生・シニア1000円
会員1000円 学生会員・シニア会員900円

《割引》
当日に限り2本目は200円引き

ロシア・ソヴィエト映画 連続上映
第10回 グルジア特集1

2014年9月13日(土)~15日(月・祝)
パラジャーノフ、イオセリアーニ、ダネリヤなど、特異な才能を生み出した旧ソ連のグルジアを特集する。

denenshi01「田園詩」
Пастораль
(1975/98分/35mm)グルジアフィルム
監督:オタール・イオセリアーニ
脚本:オタール・イオセリアーニ、レヴァズ・イナニシヴィーリ他
撮影:アベサロム・マイスラッゼ
音楽:エカテリーナ・ポポーヴァ
出演:ナナ・イオセリアーニ、タマーラ・ガバラシヴィーリ、ミハイル・ナネイシヴィーリ、レーリ・ザルディアシヴィーリ
グルジアのとある奥深い農村に学生音楽家たちが休暇を兼ねて楽器練習に訪れ、再び都会に帰るまでの束の間のひと時が描かれる。監督にとってソ連時代最後の長篇作品となった本作にはグルジア映画特有のコミカルなたとえ話の体裁もなければ、主人公もあらかた不在で、筋書きは意識的に排除され、第一作「落ち葉」の冒頭で描かれていた農村風景の変奏として描かれていくかに見える。しかし、農村の方言はグルジア人にも分からぬ言葉で、都会人と村人たちのそれぞれの世界は互いに閉じたままで、いつまでも出会うことがない。本作はこの出会いの不在をまるで唯一の主人公であるかのように映し出している。(東海晃久)

 

marathon01「秋のマラソン」
Осенний марафон
(1979/94分/35mm)モスフィルム
監督:ゲオルギー・ダネリヤ
脚本:アレクサンドル・ヴォローヂン
撮影:セルゲイ・ヴロンスキィ
音楽:アンドレイ・ペトローフ
出演:オレーク・バシラシヴィーリ、ナターリヤ・グンダレヴァ、マリーナ・ネヨーロヴァ、エヴゲーニィ・レオーノフ
舞台は70年代末のレニングラード。大学教員で翻訳家でもある主人公ブズィーキンはタイピストのアーラと不倫。子供が欲しいと言われるも、妻ニーナと別れる勇気のない彼はいつもの優柔不断さから二人のあいだで引き裂かれ続ける。ソープオペラ的題材を用いながらも、ダネーリヤは主人公を同僚や隣人たちとのあいだをピンボールのように弾いていっては、自らの得意とするシチュエーションの虜に仕立て上げる。不甲斐ないと罵られるべきブズィーキンは次第に観る者の前に、自らの吐き出した糸に絡みとられていく蜘蛛の悲哀を帯び始める。(東海晃久)

 

短篇集
kekkon01「結婚」
Свадьба
(1964/20分/35mm)グルジアフィルム
監督:ミハイル・コバヒーゼ
バスで知り合った女性にプロポーズを決意した若者の運命。セリフや言葉を排し、映像と音楽だけで作られた映画大学の卒業制作。60年代グルジアの映像実験の代表作。

kasa01「傘」
Зонтик
(1967/20分/35mm)グルジアフィルム
監督:ミハイル・コバヒーゼ
自由に跳ね回る傘をつかまえ、軽やかにスキップする男に少女が引き寄せられる。グルジアの監督コバヒーゼは、軽妙な短編で注目されるも、実験性ゆえに不遇をかこった。

arabesque01「ピロスマニのアラベスク」
Арабески на тему Пиросмани
(1986/20分/35mm)グルジア記録映画スタジオ
監督:セルゲイ・パラジャーノフ
グルジア出身のパラジャーノフが、グルジアの国民的画家の運命と作品に捧げたオマージュ。様々な映像手法を駆使しつつ画家の生涯と作品に迫るドキュメンタリー。

 

主催:神戸映画資料館、アテネ・フランセ文化センター
協力:ロシア映画社

《料金》入れ替え制
1本あたり
一般1200円 学生・シニア1000円
神戸プラネットシネマ倶楽部会員1000円 学生・シニア会員900円
アテネ・フランセ文化センター会員1000円
《割引》
当日に限り2本目は200円引き

筒井武文監督特集 part1
2014年10月4日(土)・5日(日)
自主製作でサイレント映画や3D映画に挑戦し、『オーバードライヴ』(2004)や『孤独な惑星』(2010)などの劇場用映画やドキュメンタリーも手がけ、映画史を体現するかのような筒井武文監督の多彩なフィルモグラフィを辿る。

トーク「筒井武文監督のサイレント映画講座」
10月4日(土)17:30(終了予定19:30) 参加費:1000円
聞き手:いいをじゅんこ(クラシック喜劇映画研究家)

readymade01「レディメイド」
(1982/60分/16mm)
監督:筒井武文 脚本・撮影:高瀬伸一録音:平方宏明 助監督:城戸俊治 製作:西村朗
出演:小野寺里美、西野公平、犬童一心、鈴野志紋、鈴野麻衣、筒井紀美子

readymade02筒井監督が東京造形大学在学中に手がけた記念すべき長篇第一作で、16mmフィルムのシネマスコープ作品。親戚の子どもとともに遊園地に来た若いカップル。はぐれた子どもたちの行き当たりばったりな迷走が、関係のない別のカップルたちをも巻き込み、遊園地を迷路に変える。

 

yumeko04「ゆめこの大冒険」
([オリジナル:1986]/活弁版:1987/染色サウンド版:2011/70分/16mm)
監督・脚本:筒井武文 撮影:宮武嘉昭、熊谷朋之
音楽:蓮舎通治 助監督:諏訪敦彦 製作:西村朗
出演:かとうゆめこ、すずきやすし、宮原清、にわ望、高橋孝英、沖山美紀、チーコ

1986年製のサイレント映画の傑作。画面に充溢する映画愛と作品の完成度に脱帽すること必至。1987年劇場公開時のパンフレットにある前口上を解説に代えて。
“この映画は無声映画です。生まれたまんまの映画が持っていた「みずみずしさ」と「ロマン」とドキドキするような「楽しさ」を詰め込んで、キネマトグラフィ『ゆめこの大冒険』ができあがりました。ひとりによる「二役」、くるくる変わる「変装」、荒唐無稽な「夢物語」。宝石をめぐって、宝石泥棒とピクニックの一行、謎の男が巻き起こすソフィスティケイション・スラップスティック。なつかしくて新しい世界に、さあ、どうぞ。”

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作品に寄せられたコメント

戦争が起きて、アーカイヴ所蔵のフィルムが四散したとする。そんな混沌の中で『ゆめこの大冒険』のフィルムが瓦礫の中から発見されたとしたら、誰もがためらいなく映画黎明期のサイレント傑作群の棚に『ゆめこ』を入れ直すだろう。しかし、それは『ゆめこ』が再現とか、懐古のレベルにあることを一切意味しない。筒井武文がキャリア最初期の『ゆめこの大冒険』に封じ込めたのは、映画の原初的な喜びなのだ。必見!!!!
──濱口竜介(映画監督)

想像以上に楽しい気持ちにさせられました。スクリーンから湧き出る作り手の遊びごころに、映画の持つ豊かさに何かハッとさせられました。
──北川喜雄(映画撮影)

この映画の根底に感じるもの。それは紛れもなく「映画への愛情」で、それはひたすら美しい。
僕は、こんな愛を疑う世界の中で、筒井さんのように映画を愛せたなら、と心底嫉妬しました。
──野原位(映画監督)

 
筒井武文監督ロング・インタビュー(取材・文/ラジオ関西『シネマキネマ』吉野大地)

筒井武文
東京造形大学在学中より映画を撮り始める。フリーの助監督、フィルム編集者を経て、自主制作映画『ゆめこの大冒険』(1986)を完成させ劇場公開。映画制作と並行して、東京藝術大学大学院映像研究科、映画美学校などで後進の育成につとめるほか、映画批評を執筆。現在、「キネマ旬報」のレビューコーナーを担当している。最新監督作は、映画美学校第10期高等科生とのコラボレーション作品『孤独な惑星』(2011)。

 

《料金》入れ替え制1本あたり
一般1200円 学生800円
会員1000円 学生会員600円
《割引》
当日に限り2本目、あるいはトーク参加は200円割引

サイレント映画『時』 生演奏上映
11月8日(土)16:00〜

 
21世紀の異端映画作家・木村卓司の代表作『時』を、今回は生演奏とともに上映します。
演奏は、活動写真弁士・大森くみこさんと活躍中の深海無声團のメンバーである藤代敦さん。

「時」(2012/サイレント/60分/DVD)

監督:木村卓司
演奏:藤代 敦(キーボード)

 

 

一瞬一瞬、見えないはずの時が猛々しく発露し姿を現す。それは霧の様に実体のない幻想で意識下の深遠に降りて行く。日だまりの様にこの上なく心地のよいものだ。──木村卓司
『シネマトグラフ オブ エンパイア』(2009)、元町映画館が出来るまでを描いた『街に・映画館を・造る』(2011)で知られる木村卓司。その最新作『時』は、闇と光を往還する独自の世界である。
 
作品に寄せられたコメント
 

作者の「気持ちはよくわかる」という反応は、決して誉め言葉ではない。ただ、「気持ちはよくわかる」という反応が積極的な意味を持つケースも、ごく稀に存在する。木村卓司の『時』がそれにあたる。この作品を撮った監督の「気持ち」は、とめどもなく「高貴」なものだからである。
──蓮實重彦(映画評論家)

手で覆われた女の胸。平面の画面のはずが一瞬、たゆやかな膨らみの感触を漲らせる。そんなバカなと画面を凝視する頃には、「時は後戻りするはずないだろう」と笑うかの如く画面が呆けていく。そんな一瞬と流れと集約を、戯れ事としてではなく、作り手の過剰な激しさとして画面に焼き付けていく。実は、私が見たときは画面が一度フリーズを起こしたのだが、監督の呪いにも似た念に呼応しているかのようだった。
──家久智宏(「劇場分子」No.33 より)

ふわりと風に揺れるカーテンの影の向こうに横たわる女性の絵がどうしてこんなにもなまめかしくみえるのか。世界が垣間見せてくれる美しい一瞬が切り取られてゆく……。
──伊藤久美子(シネルフレ ライター)

過去への痛いほどのあこがれと欲望を満たしてくれるのは映画だけ。うまれたての映画が持っていたあの卑俗さと野蛮と高貴と可笑しさが、無声映画『時』には満ち満ちてる。
──いいをじゅんこ(クラシック喜劇研究家、ライター)

映画の中で、男は女(女体?)を渇望しているように見えました。石像や写真、絵画の女に対して男は倒錯した欲望をぶつけています。『さらばズゴック』では感じられなかった人間的なモチーフが『時』には感じられたのです。それも、極めて激しい形で。
人間のいない世界をひたすら追求した『さらばズゴック』から、人間のいる世界(女のいる世界?)を作り手は求め始めている。
──井土紀州(映画監督)

いやまあなんとも前衛的な……。ビデオカメラのレンズ性能を確認する実証実験のような……。サイレントで60分もあるのに眠くはならなかったです。ともかく一度観てもらうしかないと思います。
──太田耕耘キ(ぴんくりんく編集部)

『ラ・ジュテ』は静止画の連続の中に動画がワンカット入っていたが、今から考えると映画的に素朴である。がしかし、本作は静止している映像が、映画表現の命そのものである編集という躍動を得た幸福に満ちている。編集点が次から次へと圧倒的な間隔/感覚で放たれる時、そこに観客は別次元のゆらぎを得るのである。人はそれを時間と呼ぶのであろう。まさしく映画が司れるもの、時である。私は確かにこのスクリーンで映画の時間が醸造される瞬間を見た。
──金子光亮(「劇場分子」No.33 より)

木村卓司の映画は孤独だ。滅び行くものの大いなる黄昏の僻地に立っている。滅び行くものの絶壁のしかし明確にある、縁(エッヂ)に立っている。いま数多くの映画が生まれ上映を終えていくが木村卓司の『時』はいま立たされている絶壁の縁(エッヂ)が幻などではなくくっきりそこに存在することを知らしめてくれる時間である。
──木村文洋(映画監督)

触手のようなキャメラが平面像の女体をまさぐる。すると静止していたはずの被写体が一瞬息を吹き返したように動き出す。この瞬間に戦慄を覚える。この個人映画作家が自宅の納屋から発見されたという戦前のポルノグラフィーに眼差しを向けると、そこに津山三十三人殺しが実験映画と交差する時空が出現する。そして我々は思い出す。映画は3D技術など使わなくとも初めから立体映像だったのだと。
──葛生賢(映画批評家、映画作家)

普通、人が「時」を感じているものを接写で破壊している映画だと思いました。
──高橋洋(映画監督)

木村卓司さんは膨大な量の映画を観る。ふつうそれだけ観る人の撮る映画は自分の好きな映画を再現─更新する方向に向かうと思うが木村さんはそうはしない。『時』は膨大な数の触覚性に満ちたカットをつるべ打ちし観る者に眩暈を強いる映画だ。リビドーに満ちてつるべ打ちされる膨大なカットは一つ一つが木村さんの射精だ。なんと絶倫な人だろうか。自分が撮れる映画を撮る。木村さんは映画ファンだけではなく映画作家だったのだ。
──常本琢招(映画監督)

物質の肌理(きめ)がいずれ時間の肌理を浮き立たせる。それは禁欲とは無縁の激しい欲望の結実した姿でもある。日本の同時代でそのように感じることは少ないが、嗚呼自分もこのように撮ることができたなら、と思わずにはいられなかった。
──濱口竜介(映画監督)

60分のサイレントの自主映画と聞けば、はっきりいって悪い予感しかしない。だが、勧められて渋々『時』を見た私にもいくつかのことは断言できる。この作家が、無声映画を「音を差し引かれた映画」だとはまったく考えていないということ。長くキャメラを回していれば「時」が映るなどというおめでたい発想とはまるで無縁だということ。そして、映画館の暗闇でみんなして息を凝らしてスクリーンを見つめつづけるという経験を絶対に必要としている映画だということ。最後に、これがもっとも肝腎なことだが、めっちゃエロいです。
──藤井仁子(映画評論家)

《料金》
一般1500円 学生・シニア1300円
会員1300円 学生会員・シニア会員1100円


[貸館]映画上映者の国際交流!日本・インドネシア編
上映&トーク「上映者と作り手の幸福な連携」
創作の拠点に神戸を選んだ濱口竜介監督に、地域と上映コミュニティの意味を聞く
2014年11月19日(水)17:00〜20:30
会場:神戸映画資料館

indonesien01街なか、ネット、スマホ…。映像があふれる今、暗闇の中で大スクリーンに向かう映画体験は、かけがえのない特別なものです。日本では80年代から主要都市のミニシアターで世界の映画、個人映画、名作クラシック、ドキュメンタリー映画のような多様な映画が上映されてきました。インドネシアでは、国際映画祭で評判の作品を各地域で巡回上映する活動が始まったところです。
今回、インドネシアでインディペンデント映画の製作や上映をしているゲストを迎え、日本の作り手、上映者、観客と出会う数日間を企画しました。インドネシア映画と日本映画を並べて見て語り合い、両国の映画環境について共通の課題を探りながら交流する事業に、ぜひご参加ください。
[公式サイト]
17:00~
エドウィン短編集
 Edwin’s shorts
(2002~2008/インドネシア/DVカム/43分)
監督:エドウィン Edwin
カンヌ映画祭・監督週間の初インドネシア短編『木の娘・カラ』を含む、エドウィン監督の多彩な初期短編。『ゆっくりな朝食』『犬と結婚した女』『とても退屈な会話』『傷にまつわる話』『フラフープ・サウンディング』。斬新でタブーに挑む作品群は、インドネシア本国ではどんな風に上映されているのだろう?(協力:大阪アジアン映画祭)

18:00~
不気味なものの肌に触れる

Touching the Skin of Eeriness
(2013/日本/Blu-ray/54分/出演:染谷将太、渋川清彦、石田法嗣、ほか)
監督:濱口竜介 Hamaguchi Ryusuke
東京藝大在籍中の『PASSION』、東日本大震災で津波被害を受けた人々の「対話」を撮った『なみのおと』ほか東北記録映画三部作(共同監督:酒井耕)など、国内外で高い評価を受ける濱口監督。「即興演技ワークショップin Kobe」など商業性にとらわれない異色の創作活動を続ける。本作は豪華なキャストを迎え、不穏な人間模様を描く。

19:00~20:30 トーク
ゲスト:濱口竜介(映画監督)、田中範子(神戸映画資料館支配人)、インドネシアの皆さん
アート系上映館の多い神戸に活動拠点を移した濱口監督に、インドネシアの上映者たちが話を聞く。作り手にとって地域とのコラボ、上映者の存在とは?

インドネシアから来日
メイスク・タウリシア(映画プロデューサー&KOLEKTIF代表)Meiske Taurisia
インドネシア映画で初めてベルリン国際映画祭コンペ部門にノミネートされた『動物園からのポストカード』(監督:エドウィン)のプロデューサー。ほか『空を飛びたい盲目のブタ』など、世界の主要映画祭に選ばれる秀作を製作し続ける。バビブタ・フィルムズ代表。ファッション学校と映画学校でも教鞭をとる。2014年に映画制作者と地域上映コミュニティをつなぐ独立配給プラットフォームKOLEKTIFを設立。
アドリアン・ジョナサン(映画ライター、『Cinema Poetica』編集長)Adrian Jonathan
2010年より仲間たちとジョグジャカルタで映画評を発表。ポストカードで無料配布する形から、インドネシア映画文化を総合的に評し分析するウェブサイトの運営に展開。映画上映、討論会、批評家ワークショップの主催者。映画リサーチ (KONFIDEN FOUNDATION)、映画祭の作品選定(Festival Film Solo)なども。2013年、ベルリン映画祭タレント・キャンパスに招待参加(映画批評部門)。
サリ・モフタン(映画祭企画、ラインプロデューサー)Sari Mochtan
環境や再生エネルギー関係の職を経て、ナン・アハナス監督『囁く砂』『ベンデラ―旗―』など多くの製作現場でラインプロデューサーを務める。ジャカルタ国際映画祭で半数以上のイベントを担当する。

 

本プログラムは「多様な映画の観客育成プロジェクト(日本・インドネシア編)」の一環として開催されます。

主催:ドキュメンタリー・ドリームセンター、NPO法人独立映画鍋、KOLEKTIF
後援:駐日インドネシア大使館
協力:神戸映画資料館、Planet + 1、名古屋シネマテーク、アレイホール、アテネ・フランセ文化センター、大阪アジアン映画祭、東京国際映画祭、Jogja NETPAC Asian Film Festival, Festival Film Dokumenter Yogyakarta
協賛:Tembi Rumah Budaya、ガルーダ航空
助成:国際交流基金アジアセンター、アーツカウンシル東京

《料金》1,000円(全プログラム通し)
《会場》神戸映画資料館
お問い合わせ: Tel:070-5664-8490 (11:00~18:00) Email: doc.dream.center@gmail.com
URL www.eiganabe.net


ロシア・ソヴィエト映画 連続上映
第11回 グルジア特集2

2014年11月22日(土)~24日(月・祝)
グルジア映画の新時代を開いたと言われるレゾ・チヘイーゼとテンギス・アブラーゼの作品を上映。

senkawokoetew「戦火を越えて」
Отец солдата
(1964/92分/35mm)
グルジアフィルム
監督:レゾ・チヘイーゼ
脚本:スリコ・ジゲンティ
撮影:レフ・スーホフ、アルチール・フィリパシビーリ
音楽:スルハン・ツィンツァーゼ
出演:ゼルゴ・ザカリアーゼ、ケテワン・ボチョリシヴィリ、ウラジミール・プリワツェフ、アレクサンドル・レベデフ
第二次大戦中のグルジア。戦争で負傷した息子を見舞いに行こうとした農夫が、なりゆきでドイツへ反撃する部隊の兵士となってベルリンまで行くが……。英雄物語ではない個人的体験として戦争を描く。テンギス・アブラーゼと共同監督した『青い目のロバ』(1955)によりグルジア映画の新時代を開いたと言われるレゾ・チヘイーゼ監督作品。

 

naegiw「ルカじいさんと苗木」
Саженцы
(1973/90分/35mm)
グルジアフィルム
監督:レゾ・チヘイーゼ
脚本:スリコ・ジゲンチ
撮影:アベサロム・マイスラーゼ
音楽:ノダル・ガブーニャ
出演:ラマーズ・チヒクワーゼ、ミシコ・メスヒ
幻のナシの苗木を探して、グルジアを旅するルカじいさんとその孫が主人公のロードムービー。二人は道中で出会った人々に助けられながら旅を続ける。昔ながらのもてなしの美徳を保ちながらも、大きく変貌していく町や農村、人間の姿が描かれる。

 

kibounokiw「希望の樹」
ДРЕВО ЖЕЛАНИЯ
(1977/108分/35mm)
グルジアフィルム
監督:テンギス・アブラーゼ
原作:ゲオルギー・レオニーゼ
脚本:レヴァズ・イナニシヴィリ、テンギス・アブラーゼ
撮影:ロメール・アフヴレディアニ
音楽:ベジーナ・クヴェルナーゼ、ヤコヴ・ボボヒーゼ
出演:リカ・カヴジャラーゼ、ソソ・ジャチヴリアニ、ザザ・コレリシヴィリ、ソフィコ・チアウレリ
ロシア革命前の、グルジア東部の小さな村。美しい娘が羊飼いの恋人から引き離され、金持ちと結婚させられたことから起こる悲劇をコーカサス地方の豊かな自然を背景に描き出す。美しくも残酷な処罰のシーンや、愚かしくも魅力的な村人たちが印象的な、アブラーゼのグルジア史三部作の第二作。

 

主催:神戸映画資料館、アテネ・フランセ文化センター
協力:ロシア映画社

《料金》入れ替え制
1本あたり
一般1200円 学生・シニア1000円
神戸プラネットシネマ倶楽部会員1000円 学生・シニア会員900円
アテネ・フランセ文化センター会員1000円
《割引》
当日に限り2本目は200円引き

これまでのプログラム|神戸映画資料館

※内容は予告無く変更する場合があります。

※作品によっては、経年退化で色褪せしている場合がございます。予めご理解ご了承の上、ご鑑賞くださいますようお願い申し上げます。