ヴェルナー・シュレーター映画祭2015
7月17日(金)〜20日(月・祝)
オペラ・狂気・愛と死を主題に先鋭的な映像作品を発表し続けたヴェルナー・シュレーター。古典映画・演劇に傾倒しつつ、一方でウォーホルなど実験映画のエッセンスを受け継いだ独自の映像美学はファスビンダーやダニエル・シュミットにも大いに影響を与えた。今回はシュレーター初期から中期の代表作6本を一挙上映。
トーク「シュレーター映画と西洋芸術・思想」
7月18日(土)17:25〜 参加費600円
鈴木創士(フランス文学)・渋谷哲也(ドイツ映画研究)
鈴木創士氏をゲストに迎え、かつてミシェル・フーコーがシュレーターについて述べた「パッション(情熱・受難)」というキーワードを手がかりに、シュレーターの映画に織り込まれた様々な西洋芸術や思想、その古さと新しさの混在するコラージュの手法を紐解いてみたい。
レクチャー「ニュージャーマンシネマにおけるシュレーター」
7月19日(日)15:25〜 参加無料
渋谷哲也(ドイツ映画研究)
ドイツ敗戦の年に生まれたシュレーターは、彼なりの鋭いセンスで戦後ドイツの停滞した空気を芸術的に引き裂いた。そこで彼の映画の手法やモチーフ等から、彼の映画の政治的な内包と他のニュージャーマンシネマの映画監督(ファスビンダー、クルーゲ、シュミット、ジーバーベルク)との関係性を検証する。
「アイカ・カタパ」Eika Katappa
(西ドイツ/1969/143分/DVD上映/*一部日本語字幕無し)
監督:ヴェルナー・シュレーター
撮影:ヴェルナー・シュレーター、ロベルト・フォン・アッケレン
出演:ギゼラ・トロヴェ、カルラ・アウラウル、マグダレーナ・モンテツマ
若きシュレーターの実験映画の集大成。9つのパートに分かれ、奇数パートは脈絡のない映像・音楽・言語がコラージュされる。偶数パートは映画やオペラの場面の再現で、2部『ニーベルンゲン』、4部『リゴレット』、6部『トスカ』、8部『椿姫』である。北国ドイツの南国イタリアへの憧れと苦悩が通奏低音となる。
「爆撃機パイロット」Der Bomberpilot
(西ドイツ/1970/65分/DVD上映)
監督:ヴェルナー・シュレーター
撮影:ヴェルナー・シュレーター
出演:カルラ・アウラウル、マーシャ・エルム、マグダレーナ・モンテツマ
ドイツ第二テレビ(ZDF)の放映用映画として製作された奇想天外な歴史ドラマ。ナチ時代に舞台で活躍した3人の女優たちが、第二次大戦中と戦後のアメリカ占領下の時代を生き抜いてゆく。鍵十字のはためく悪趣味なレビュー演出は、シュレーター自身によれば「不真面目なナチ・オペレッタ」とのこと。
「マリア・マリブランの死」
Der Tod der Maria Malibran
(西ドイツ/1972/104分/DVD上映)
監督:ヴェルナー・シュレーター
撮影:ヴェルナー・シュレーター
出演:マグダレーナ・モンテツマ クリスチーネ・カウフマン キャンディ・ダーリング
19世紀に実在したオペラ歌手マリア・マリブランの生涯をモチーフとしつつ、全般に童話・絵画・オペラへの憧憬を散りばめた。人の顔と身振りへの注目により限りなく純粋な映像ドラマを生み出したシュレーター初期の代表作。彼の常連女優マクダレーナ・モンテヅマの七変化の怪演も見どころ。
「ウィロー・スプリングス」
Willow Springs
(西ドイツ/1973/78分/DVD上映)
監督:ヴェルナー・シュレーター
撮影:ヴェルナー・シュレーター
出演:マグダレーナ・モンテツマ、クリスチーネ・カウフマン、イラ・フォン・ハスペルグ
異郷アメリカの荒野で生活する3人の女、彼女たちは他人と交流せず女の自立を守ってきたが、ハワイ出身の青年が入り込んできたことで均衡が乱されてゆく。マリリンやガルボなどアメリカの女優神話を再現する試みであり、シュレーターのオペラ的身振りが西部劇と交錯し衝撃の大団円へと向かってゆく。
「ナポリ王国」
Nel Regno di Napoli(Neapolitanische Geschwister)
(西ドイツ/1978/130分/DVD上映)
監督:ヴェルナー・シュレーター
撮影:トーマス・マウホ
出演:ロメオ・ジーロ、アントニオ・オルランド、ティツィアーナ・アンブレッティ
シュレーター初の商業映画。ナポリを舞台に第二次大戦末期から70年代までのある貧しい一家の年代記が語られる。初期ヴィスコンティのネオレアリスモを引き継ぐように素人の出演によるドキュメンタリータッチと濃厚なオペラ的身振りが融合し、資本家やコミュニストに翻弄される人々の姿を浮き彫りにする。
「オーストリア映画博物館にて―監督、「ナポリ王国」を語る」
Werner Schroeter im Österreichischen Filmmuseum
(オーストリア/1978/16分/DVD上映)
編集:シュテファン・ドレスラー、クリスティアン・ケテルス
協力:ヴェルナー・シュレーター、ペーター・コーンレヒナー
ウィーンでの『ナポリ王国』上映に際しての会場の質疑応答を記録したもの。映画製作の背景やナポリの事情を語っており、映画の副次資料として大変興味深い。
「愚か者の日」
Tag der Idioten
(西ドイツ/1981/106分/DVD上映)
監督:ヴェルナー・シュレーター
撮影:イヴァン・スラペータ
出演:キャロル・ブーケ、イダ・ディ・ベネデット、イングリット・カーフェン
女優デビュー間もないキャロル・ブーケを主演に迎え、社会で生きられない一人の女の彷徨と精神病院での生活を描く。映画は内と外、狂気と正常、不安と平静の境界を絶えず揺るがせ、最終的に逃げ場の見出せない非情な現実世界を見せつける。叫びと囁きと恍惚のポリフォニーが展開する映画的受難劇。
ヴェルナー・シュレーター Werner Schroeter
1945年生まれ。少年時代にラジオでマリア・カラスを聴いて心酔する。ミュンヘン映画大学に入学するが数週間で退学し、自主的に8ミリや16ミリの実験映画を撮って各地の映画祭で注目を集める。1969年に長編第一作『アイカ・カタパ』を発表、幅広く才能を注目された。以後独自の映像スタイルを貫き、ニュージャーマンシネマの中でもっとも異色の存在として個性を発揮している。1972年以降は演劇やオペラの演出と活動の場を広げた。日本公開作は『薔薇の王国』(1986)、『マリーナ』(1991)、『愛の破片』(1996)。2010年65歳で死去。彼の撮影監督だったエルフィ・ミケシュが生前の彼の姿を捉えたドキュメンタリー『MONDO LUX』が2011年に公開。
*「アイカ・カタパ」はドイツ語と英語の科白は日本語字幕有り。オペラの歌詞とナポリ方言の科白は字幕なし。
共催:大阪ドイツ文化センター、神戸映画資料館
協力:アテネ・フランセ文化センター、渋谷哲也
《料金》1プログラムあたり
一般 600円
大阪ドイツ文化センタードイツ語講座受講生・神戸プラネット会員 500円(会員ポイント対象外)