プログラムPROGRAM
2015 11

Printロカルノ国際映画祭凱旋『ハッピーアワー』公開記念
濱口竜介の軌跡 東京=東北=神戸

 

11月14日(土)・15日(日)
21日(土)〜23日(月・祝)
28日(土)〜30日(月)

 

人間描写と映画表現、このあまりにもかけ離れた二つの作業を、完全に平等に、かつ同時に行おうとする濱口竜介は、果たして映画の救世主なのか、それとも破壊者なのか…今後の映画史が決めてくれるだろう。
黒沢清(映画監督)

 

濱口竜介監督 来館日決定
*都合により、下記の通り監督挨拶の回を変更いたします。何卒ご了承くださいますようお願いいたします。(11月12日更新)
14日(土) 監督挨拶は中止となりました
15日(日)最終回 すべての回の上映終了後、監督挨拶
21日(土)最終回の上映終了後、監督挨拶

第1週

nanikuwanu01「何食わぬ顔」

(2003/98分/8mm[DVCAM上映])
製作・監督・脚本・編集:濱口竜介
撮影:渡辺淳、濱口竜介、東辻賢治郎
録音:井上和士 音楽:David Nude、ROMAN
出演:松井智、濱口竜介、岡本英之、遠藤郁子、石井理絵

友人に言われるままに亡兄の遺作となる8ミリ映画を撮影する野村。彼の煮え切らない態度が周囲を戸惑わせる。

技術的な諸々の難点を除けば(これは大学の映研で撮られた8ミリ映画なのだ)、濱口竜介が既に濱口竜介であることが驚異的だ。的確な演出とショット割り。映画と映画内映画の関係を複雑かつ緻密に構成した脚本。しかもここには、若さと仲間との親密さから来る瑞々しさが溢れている。

 

PASSION01「PASSION」
(2008/115分/HD[Blu-ray上映])
製作:東京藝術大学大学院映像研究科
プロデューサー:藤井智 監督・脚本:濱口竜介
撮影:湯澤祐一 照明:佐々木靖之
録音:草刈悠子 美術:安宅紀史、岩本浩典
編集:山本良子 助監督:野原位
出演:河井青葉、岡本竜汰、占部房子、岡部尚、渋川清彦

同級生の結婚を祝福する若者たち。しかしそこで男の浮気が発覚し、カップルは別々の夜を過ごすことになる。

濱口竜介の名を世界に知らしめた記念碑的作品。5人の男女の恋愛感情がもつれ合い、ほんのわずかのきっかけでさえ激しく変化する様が、緻密に構成された脚本と周到でねばり強い演出の下に、繊細に、かつエモーショナルに描かれる。そして緻密さと周到さに支えられ、偶然を超えた次元で、今や伝説となった映画の奇跡が訪れる。

 

THE_DEPTHS01「THE DEPTHS」
(2010/121分/HD[Blu-ray上映])
製作:東京藝術大学大学院映像研究科・韓国国立フィルムアカデミー
プロデューサー:原尭志、シム・ユンボ
監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介、大浦光太
撮影監督:ヤン・グニョン 照明:後閑健太
整音:金地宏晃 美術:田中浩二
編集:山崎梓 助監督:菊地健雄
出演:キム・ミンジュン、石田法嗣、パク・ソヒ、米村亮太朗、村上淳

韓国人カメラマン・ペファンは日本滞在中に男娼のリュウをモデルとして見出すも、過酷な運命が二人を待つ。

東京藝術大学と韓国国立映画アカデミーの共同製作。キャストだけでなくスタッフも混成チームという容易ならざる状況を、濱口は作品そのものの危うい魅力へと転化し、韓国/日本、ホモセクシャル/バイセクシャル/ヘテロセクシャル、大人/子供、金持ち/貧乏人、堅気/ヤクザといった境界線の上で登場人物達を漂流させる。
 
*15日(日)の回は英語字幕版での上映

 

第2週

naminooto01「なみのおと」

(2011/142分/HD[Blu-ray上映])
製作:東京藝術大学大学院映像研究科
プロデューサー:藤幡正樹、堀越謙三
監督:濱口竜介、酒井耕
撮影:北川喜雄 整音:黄永昌

2011年7〜8月に撮影された岩手県から福島県沿岸部の、津波被災者6組11人への対話形式インタビューの記録

酒井耕と共同監督で、東日本大震災についてのドキュメンタリー。濱口と酒井は、震災の爪痕を撮影したり、地震発生時の記録映像を引用したりはせずに、被災者の証言を記録することに集中する。その際二人は、ドキュメンタリーでは掟破りともされかねないある方法を用いるが、これは被災者の表情により迫るための真摯な試みだ。

 

kesennuma01「なみのこえ 気仙沼」
(2013/109分/HD[Blu-ray上映])
製作:サイレントヴォイス
プロデューサー:芹沢高志、相澤久美
監督:濱口竜介、酒井耕
実景撮影:佐々木靖之 整音:鈴木昭彦

2012年1月から2013年3月に行われた宮城県気仙沼市に暮らす7組11名への対話形式インタビューの記録。

人口が減り続け復興の未来の見えない気仙沼だが、未来への希望を人々は微かに見ようとしている。濱口と酒井は『なみのおと』の方法論を受け継ぎながらもそこに着目し、震災に直接関わる内容を超えて、被災者の過去をも掘り起こそうとする。喋るのが苦手な人にあえてカメラの前で語らせることで、確かに見えてくるものがある。

 

shinchimachi01「なみのこえ 新地町」
(2013/103分/HD[Blu-ray上映])
製作:サイレントヴォイス
プロデューサー:芹沢高志、相澤久美
監督:濱口竜介、酒井耕
実景撮影:北川喜雄 整音:鈴木昭彦

2012年1月から2013年3月に行われた福島県新地町に暮らす6組10名への対話形式インタビューの記録。

震災後約一年、原発事故後の不安と海の汚染や海産物の風評被害の下にある福島県新地町という、被災地の中でも相当に微妙な状況の下で、濱口と酒井は、『なみのおと』の特異な方法論を先鋭化・徹底化させながら、複雑なものを単純化せず、分かり易くせずに提示し、観客に共有させようと、あるいは共有の困難さを示そうとする。

 

utauhito01「うたうひと」
(2013/120分/HD[Blu-ray上映])
製作:サイレントヴォイス
プロデューサー:芹沢高志、相澤久美
監督:濱口竜介、酒井耕
撮影:飯岡幸子、北川喜雄、佐々木靖之
整音:黄永昌

宮城県に暮らす語り手による東北地方伝承の民話語り。これは同時に彼らを訪ね続けた聞き手の記録でもある。

酒井耕との共同監督作品で被災地に取材しながら、ここで濱口と酒井が取り上げるのは民話(昔話)を語る老人達である。取材やインタビューの経験から触発されたこの作品では、語りは聞き手の反応があってのコミュニケーションであることが浮き彫りにされ、さらには映画とは何かの根源さえも問われることになるだろう。

 

第3週

shinmitsusa01「親密さ」

(2012年/255分[途中休憩あり]/HD[Blu-ray上映])
製作:ENBUゼミナール
監督・脚本:濱口竜介 撮影:北川喜雄
編集:鈴木宏 整音:黄永昌
助監督:佐々木亮介 制作:工藤渉
劇中歌:岡本英之
出演:平野鈴、佐藤亮、伊藤綾子、田山幹雄

ともに演出家であり、恋人同士でもある令子と良平は互いに傷つけ合いながら舞台劇『親密さ』初演を迎える。

4時間を越える大作だが、ENBUゼミナールの演技コースの修了作品としてスタートした企画である。映画と映画内の舞台劇の関係においてだけでなく、それぞれの中でも、現実と虚構が複雑、微妙に交錯し続け、虚実の彼岸にあるリアリティーの核心が胸を揺さぶる。美し過ぎるラストが、岡本英之の音楽とともに脳裡に焼き付く。

 

eienni01「永遠に君を愛す」
(2009/58分/HD[Blu-ray上映])
製作:竹澤平八郎 監督:濱口竜介
脚本:渡辺裕子 撮影:青木穣 照明:後閑健太
録音:金地宏晃 美術:原尚子 編集:山崎梓
助監督:佐々木亮介 音楽:岡本英之
出演:河井青葉、杉山彦々、岡部尚、菅野莉央、天光眞弓、小田豊

結婚式当日の花嫁、永子は幸福の絶頂…のはずが、永子には婚約者・誠一に言い出せない秘密があった。

秀れた監督でもある渡辺裕子の脚本は、普通に映画にすればこの上なくウェルメイドなスクリューボール・コメデイーとなったはずだ。しかし濱口は普通ではない。生まれ落ちたのは、凍りついた笑いと不思議な解放感が共存する怪作である。ヒッチコックの『スミス夫妻』に匹敵するこの異常事態を、あなたは見ずにいられるのか?

 

bukimi01「不気味なものの肌に触れる」
(2013/54分/HD[Blu-ray上映])
製作:LOAD SHOW、fictive/
監督:濱口竜介
脚本:高橋知由 撮影:佐々木靖之
出演:染谷将太、石田法嗣、渋川清彦、瀬戸夏実、水越朝弓、河井青葉、村上淳

斗吾(トウゴ)の暮らす町に弟・千尋が引っ越して来た。その日以来斗吾の町では不穏なできごとが起こり始める。

わずか55分の内に、自らを異質性に向けて解放し変容し続ける濱口の特異性が凝縮されている。脚本の高橋知由、踊りの指導を担当し出演もしている砂連尾理らとの出会いが濱口に進化/深化をもたらしている。染谷将太と石田法嗣の踊りの官能性と荘厳さ、不可解かつ表面的には不連続な物語にもかかわらず一貫して持続するエモーション、端正さと異様さとが入り交じるショット構成等々、必見。

 

作品解説:木村建哉

 

運のいい映画たち
月並みだけれども自作への思いは、ただただ感謝の言葉に集約される。カメラの前に立ってくれた人たち、カメラの後ろにともにいてくれたスタッフたち、その状況自体を可能にしてくれたすべての人たちにお礼を言いたい。ありがとうございます、私たちが時間を費やした作品は幸運なことに、まだ見る意味を失っていないらしいですよ、と。運のいい映画たち。その字の通り、まだまだどこまでも運ばれて欲しいし、新たに、もしくは何度でも、観客の元まで届くことを願う。

濱口竜介

濱口竜介
1978年、神奈川県生まれ。東京大学文学部卒業後、助監督やテレビ番組のADを経て、東京藝術大学大学院映像研究科に学び、修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。東日本大震災後、東北に拠点を置き、被災者へのインタビューから成る『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(共同監督:酒井耕)を制作。『なみのこえ』が山形国際ドキュメンタリー映画祭のコンペティションに選ばれる。2012年、4時間を越える長編『親密さ』を完成させ、東京・渋谷で「濱口竜介レトロスペクティヴ」開催、2週間のレイトショーで1500人の動員を記録する。2013年春、染谷将太を主演にむかえた新作『不気味なものの肌に触れる』を引っ提げ神戸に移住。関西のミニシアター5館を横断する特集上映「濱口竜介プロスペクティヴ」を開催。自ら企画した「即興演技ワークショップ in Kobe」の参加者を演者にむかえ長編劇映画『ハッピーアワー』を監督。本作は今年のロカルノ国際映画祭で主演の4人が最優秀女優賞を受賞、12月からの劇場公開に期待が集まっている。

 

《料金》
3回券 3000円  1回券 一般:1300円 学生・会員:1100円
*3回券は複数人で使用可 *3回券は『親密さ』には使用できません
「親密さ」 前売[日付指定]1800円 当日 一般:2000円 学生・会員:1800円
*「親密さ」前売券について
10月19日より、神戸プラネットシネマ倶楽部会員およびサポーター会員限定で先行予約を受付(精算は鑑賞当日)。メールに会員番号・氏名・鑑賞日を記入しお申し込みください。10月26日より一般発売開始。神戸映画資料館および元町映画館にてお買い求めください。

『ハッピーアワー』神戸先行公開
12月5日(土)〜 元町映画館 078-366-2636

HH1


これまでのプログラム|神戸映画資料館

※内容は予告無く変更する場合があります。

※作品によっては、経年退化で色褪せしている場合がございます。予めご理解ご了承の上、ご鑑賞くださいますようお願い申し上げます。