プログラムPROGRAM

年別アーカイブ: 2019

ハワード・ホークス特集 1930年代編
2019年4月27日(土)〜29日(月・祝)
2019年5月3日(金・祝)〜5日(日)

アメリカ映画の巨匠ハワード・ホークスの1930年代の監督作8本を一挙上映!
連続講座「20世紀傑作映画 再(発)見」も併せて開催します。

 

「暗黒街の顔役」Scarface
(1932/93分)
監督・製作:ハワード・ホークス
脚本:ベン・ヘクト
撮影:リー・ガームス、L・W・オコンネル
出演:ポール・ムニ、アン・ドヴォラック、ジョージ・ラフト、ボリス・カーロフ

暗黒街の帝王アル・カポネの盛衰を、チェーザレ・ボルチアとルクレツィア・ボルチアの近親相姦的な兄妹の物語と重ね合わせて描いたギャング映画の金字塔であり、以後のこのジャンルの作品に決定的な影響を与えた。ジョージ・ラフトのコイン投げやボーリング場でのボリス・カーロフの最後など、今や伝説となっている名場面も数多い。ギャングの描き方などをめぐって検閲にひっかかり改変を余儀なくされ、エンディングも複数存在する。ブライアン・デ・パルマがアル・パチーノ主演で『スカーフェイス』(83) としてリメイクした。

 

「群衆の歓呼」The Crowd Roars
(1932/85分)
監督:ハワード・ホークス
原作:シートン・I・ミラー、ハワード・ホークス
出演:ジェームズ・キャグニー、ジョーン・ブロンデル、アン・ドヴォラック、エリック・リンデン

ワーナーでホークスがジェームズ・キャグニー主演で撮った2本のうちの一つ(もう一本は『無限の青空』)。レーサーでもあったホークスが、カーレースの世界を描いた活劇である。この作品あたりから始まる早口の台詞回しは、『ヒズ・ガール・フライデー』のオーバーラップするマシンガン・トークで頂点に達する。キャグニーがアン・ドヴォラックに肩を抱かれて泣くシーンは忘れがたい。男が泣く映画としても記憶されるべき一本である。ちなみにホークスは最晩年にもカーレースの世界を描いた『レッドライン7000』を撮っている。

 

「奇傑パンチョ」Viva Villa!
(1934/115分)
監督:ジャック・コンウェイ、ハワード・ホークス(クレジットなし)
脚本:ベン・ヘクト
出演:ウォーレス・ビアリー、レオ・キャリロ、フェイ・レイ、ドナルド・クック

メキシコ革命の英雄パンチョ・ビリャをウォーレス・ビアリー主演で描いた歴史活劇。『今日限りの命』をのぞくと、ホークスがMGMで作った映画はこれしかない。『大自然の凱歌』同様、監督を途中で降板させられた作品だが、実質的な監督はホークスだったと言われている(メキシコ・ロケをホークスが行い、それ以外の室内シーンなどをJ・コンウェイがMGMの撮影所で撮った)。この映画のパンチョは、『暗黒街の顔役』のトニー・カモンテらと並んで、ホークスが描いた最も強烈なキャラクターの一人である。紛れもなくホークスの作品でありながら、上記の事情からいささか過小評価されるきらいがあり、再評価が待たれる。

 

「特急二十世紀」Twentieth Century
(1934/91分)
監督・製作:ハワード・ホークス
脚本:チャールズ・マッカーサー、ベン・ヘクト
出演:ジョン・バリモア、キャロル・ロンバード、ウォルター・コノリー、ロスコー・カーンズ

傲慢で嫉妬深い舞台演出家と、彼を捨ててハリウッドに行った女優が、偶然同じ列車に乗り合わせたことから起きる珍騒動を描いたホークス初のスクリューボール・コメディで、これを彼のコメディの頂点と考える人も少なくない。いかにもホークスらしく、心理ではなく叫びとジェスチャーによって描かれる男女の活劇に終始圧倒される。ジョン・バリモア(ドリュー・バリモアの祖父)の芝居じみたキレ芸やキャロル・ロンバードのヒステリックな演技に加えて、列車の中であらゆる物や場所に「悔改めよ」と書かれたステッカーを貼り付けていく謎の老人など、ユニークな脇役たちが大いに笑わせてくれる。

 

「バーバリー・コースト」Barbary Coast
(1936/90分)
監督:ハワード・ホークス
脚本:ベン・ヘクト、チャールズ・マッカーサー
出演:ミリアム・ホプキンス、エドワード・G・ロビンソン、ジョエル・マクリー、ブライアン・ドンレヴィ

1849年、ゴールド・ラッシュに沸くサンフランシスコの賭博場を舞台に語られる、ギャング映画のようでもあり、西部劇のようでもあるピカレスクな物語。実在した女性エレオノール・デュポンがモデルになっている。ホークス自身はあまり気に入ってなかったらしいが、エドワード・G・ロビンソンの周囲に漂うヤクザな雰囲気や、港町に立ち込める霧が醸し出すホークスらしい抑制のきいたポエジーが忘れがたい名作。ホークス作品に計6回出演することになる超個性派俳優ウォルター・ブレナンのホークス初出演作品でもあり、その型破りで愛すべきキャラクターの魅力はこの作品ですでに存分に発揮されている。

 

「永遠(とわ)の戦場」The Road to Glory
(1936/103分)
監督:ハワード・ホークス
脚本:ジョエル・セイアー、ウィリアム・フォークナー
撮影:グレッグ・トーランド
出演:フレデリック・マーチ、ワーナー・バクスター、ライオネル・バリモア、ジューン・ラング

第一次世界大戦のフランス軍の塹壕戦を描いた戦争映画。フランス人ならだれもが知っている戦争映画の古典レイモン・ベルナールの『木の十字架』に部分的にインスパイアされている。好戦的な映画であるとはとても言えないが、あからさまに反戦的なわけでもなく、命をかけて任務を遂行してゆく男たちをただ淡々と描いてゆくところがいかにもホークスらしい。 二人の男が同じ女を愛するという物語は、『港々に女あり』『虎鮫』『大自然の凱歌』などのホークス作品でも繰り返し描かれるテーマである。歳をごまかしまでして息子の指揮する部隊に入隊して戦おうとする老齢の父親を、ライオネル・バリモアが印象的に演じていて忘れがたい。

 

「大自然の凱歌」Come and Get It
(1936/99分)
監督:ウィリアム・ワイラー、ハワード・ホークス
撮影:グレッグ・トーランド、ルドルフ・マテ
出演:エドワード・アーノルド、ウォルター・ブレナン、ジョエル・マクリー、フランシス・ファーマー

ウィスコンシンの大森林を舞台にした大作ロマン。原作者のエドナ・ファーバーは、それと知らずにホークスの祖父を作品のモデルのひとりにしていた。ホークスのルーツを知る上でも見逃せない一本である。プロデューサーと対立したためにホークスが監督を途中降板し、ワイラーがその後を引き受けた。前半のホークスの豪快な演出と、後半のワイラーの文芸メロドラマ調があまりにも違いすぎていて面白い。ホークスはこの映画を、たとえばイーストウッド(!)を使って西部劇としてリメイクしたいと思っていた。悲劇的な末路をたどった伝説の女優フランシス・ファーマーを見られる数少ない作品の一つでもある。

 

「赤ちゃん教育」Bringing Up Baby
(1938/102分)
監督・製作:ハワード・ホークス
脚本:ダドリー・ニコルズ、ヘイジャー・ワイルド
撮影:ラッセル・メティ
出演:ケイリー・グラント、キャサリン・ヘプバーン、チャーリー・ラグルス、バリー・フィッツジェラルド

これ以後、ホークス的世界に欠かせない住人のひとりになっていくケイリー・グラントが、ホークスと初めてタッグを組み、キューカーの『男装』に続いてキャサリン・ヘップバーンと共演したスクリューボール・コメディ。女に免疫のない博物館主グラントが、「赤ちゃん」(ベイビー)と呼ばれる豹を連れた令嬢ヘップバーンと出会ってしまったことから、デタラメな騒動が繰り広げられてゆく。登場人物全員が奇人変人という、何度見ても抱腹絶倒、茫然自失のクレイジーな大傑作。時代に先んじすぎたためか公開当時はまるでヒットしなかったが、今や映画史に残る古典である。

 

*全作品16mmフィルム上映

解説:井上正昭
協力:プラネット・プラス・ワン
 

《料金》入れ替え制1本あたり
一般1000円 学生700円 会員900円
《割引》当日2本目は200円引き

 


連続講座:20世紀傑作映画 再(発)見
第6回 ハワード・ホークス──〈一目瞭然の映画〉の謎

2019年4月27日(土)
講師:井上正昭(翻訳・映画研究)

このシリーズ講座では、映画史の節目を刻んできた傑作を毎回一本ずつ上映し、検証してゆく。時代の中から生まれながら、時代を超えて生き残る。古典とはそういうものだ。それは、つねに〈来るべき〉作品であり、映画館のような場所でそのつど〈発見〉される。このような観点から、作品を映画史の中にきっちりと位置づけ、それがいかにして生まれ、どのように受容され、それ以後の映画にどんな影響を与えたのかを検証する一方で、あたかも新作を見るように、その映画を純粋に味わい、どこにその〈映画的〉魅力があるのかを探ってゆく。

ジャック・リヴェットが「一目瞭然の映画」という言葉でその映画的知性を讃え、ゴダール、トリュフォー、スピルバーグ、ジョン・カーペンターなど、多くの監督たちから敬愛されてきた映画監督ハワード・ホークス。今回の「20世紀傑作映画再(発)見」は、いつもとは趣向を変えて、この稀有な映画作家の軌跡をたどる第一回目の特集上映の一環として行われる。『暗黒街の顔役』『赤ちゃん教育』『空軍』『赤い河』『遊星よりの物体X』など、あらゆるジャンルを手がけながら、ホークスは驚くべき一貫性をたもちつづけた。この機会に彼の作品をまとめて見た人は、〈作家性〉とでも呼ぶしかないものに否が応でも気付かされるに違いない。エクリチュールの透明さゆえに語り難い映画作家ではあるが、今回の講座では、一目瞭然であることがそのまま神秘でもあるようなホークス映画の魅力になんとか迫りたいと思う。

井上正昭
1964年生まれ。Planet Studyo + 1 で映画の自主上映にたずさわる。訳書に『映画監督に著作権はない』(フリッツ・ラング、ピーター・ボグダノヴィッチ/筑摩書房 リュミエール叢書)、『恐怖の詩学 ジョン・カーペンター』(ジル・ブーランジェ/フィルムアート社)、共著に『映画を撮った35の言葉たち』(フィルムアート社)がある。
ブログ「明るい部屋:映画についての覚書」

《参加費》  無料(要ハワード・ホークス特集のチケット半券)


第34回 くにづか月イチ上映会
2019年5月11日(土) 13:30〜
 

《料金》 無料
アスタくにづか3番館1階の「コミュニティハウス」で整理券を進呈

主催:くにづかリボーンプロジェクト、アスタくにづか神戸市保留床テナント会


収蔵フィルムで辿る組合映画史
2019年5月18日(土)・19日(日)、25日(土)・26日(日)

釜ヶ崎ではあいりん総合センターが閉鎖されようとするなど労働者を取り巻く環境が悪化する中、メーデーで盛り上がる5月の上映企画として収蔵フィルムの中から労働組合が製作や支援して作られた映画を一挙上映して日本の映画作家の格闘の歴史を振り返る。

第一週 5月18日(土)・19日(日)

Aプログラム
「号笛なりやまず」(1949/34分/16mm)
製作:労映国鉄映画製作団、川井徳一 脚本:大澤幹夫 演出:浅野辰雄 撮影:中澤博治 録音:安恵重遠 音楽:箕作秋吉 合唱:国鉄労働組合本省支部合唱団 製作担当:新世界映画社
ジャン・ミトリの『パシフィック231』と同年に作られた蒸気機関車映画の傑作。ナレーションを排し音楽と効果音、再現ドラマを交えて国鉄労働者の団結を訴える。

「白い機関車」(1955/37分/16mm)
製作:機関車労働組合 原作:小野春夫 脚本:野村企鋒 撮影監督:中沢半次郎 撮影:小松浩 録音:空閑昌敏 照明:若月荒夫 音楽:西出次郎 編集:河野亜秋和 協力:国鉄労働組合、日本教職員組合、電気産業労働組合、自由映画人連合会、劇団風の子 出演:原保美、城実穂、林孝一 監督:野村企鋒 配給:土田商事株式会社
雪深い村で蒸気機関車に憧れる少年が、毎冬恒例の「雪のコンクール」で教室全員が団結し雪の機関車を作る。機関区やC51、C57、D51などの勇壮も楽しい児童劇映画。

「号笛なりやまず」

「白い機関車」

 

Bプログラム
「失業 —炭鉱合理化との斗い—」(1959/35分/16mm)
企画:日本労働組合総評議会 製作:映画製作委員会 撮影班:京極高英、徳永瑞夫、瀬川浩、青島一夫、鈴賀隆夫、長谷川良雄、森谷玄
1956年、岸内閣により実施された「石炭鉱業合理化臨時措置法」。それにより失業した炭鉱労働者やその家族の生活苦を描く。劣悪な環境と安い賃金で働いてきた労働者は、資本家の利益だけを考える合理化を批判し就労確保に立ち上がった。

「日本の政治」(1959/21分/16mm)
製作:全逓信労働組合 協力:国民文化会議、自由映画人連合会、教育映画作家協会、他多くの人々の協力による 製作:日本労働組合総評議会、株式会社共同映画社 製作:坂斉小一郎、高林公人 構成:谷川義雄 編集:豊富靖 同:斉藤茂夫、柳沢武司、佐竹明典 撮影:宮沢進 録音:長谷川良雄 音楽効果:遠藤進 解説:清洲すみ子(東京芸術座)
1958年、第二次岸内閣が「貧乏」「汚職」「暴力」の三悪追放を公約したにもかかわらず、人々は夜遅くまで低賃金で働き相変わらず貧乏暮らし。政府の汚職も多発し、右翼の暴力に加え公安警察の暴力で自由が脅かされている。戦争の無い平和な日本を作ろうと訴える。

「三池のたたかい」(1960/12分/16mm)
製作:勤労者視聴覚事業連合会 演出:徳永瑞夫 協力:日本労働組合総評議会、日本炭鉱労働組合、三池炭鉱労働組合
三池闘争では第二組合による分裂工作、ヤクザや警官隊の暴力に対抗し闘いが続けられていたが、1960年3月29日、三井三池四山鉱正門前でピケを張っていた組合員の久保清さんがヤクザに胸を刺され死亡した。その組合葬の悲しみの中、三井資本の蛮行を批判する。

「失業」

「日本の政治」

「三池のたたかい」

 

Cプログラム
「炭鉱(やま) ─政策転換のたたかい─」(1961/33分/16mm)
企画制作:日本炭鉱労働組合 担当:株式会社共同映画社 製作:高林公毅、川久保勝正 脚本・演出:徳永瑞夫 撮影:上村竜一 録音:大野松雄 音楽:長沢勝俊
1960年、三池の闘いは終わった。三井、三菱、住友、麻生、日本の財界を主導する彼らの富は炭坑から生み出され、労働者は廃坑とともに捨てられて行った。石炭労働者は北海道と九州から石炭政策転換要求の旗をかかげて東京へと行進する。

「全逓青年婦人全国大交流集会」(1968/23分/16mm)
企画:全逓信労働組合 製作:三愛商事株式会社映画部
総指揮:外山彦一 構成:武部秋夫 制作:上野巌 撮影編集:山田晃 録音効果:水町正俊
1958年に結成された全逓の青年部・婦人部は安保反対斗争、三池斗争、団交再開斗争、電通合理化斗争、非常勤本務化斗争を闘う中、1968年8月10日、福島県裏磐梯に全逓青年婦人全国大交流集会を開き4700名の若者たちが集った。

「炭鉱(やま)」

「全逓青年婦人全国大交流集会」

 

Dプログラム
「ドキュメント輪禍 むちうたれる者」(1969/67分/16mm)
製作:ムチウチ映画製作委員会、大阪地方交通運輸労働組合協議会、近畿地方交通運輸労働組合会議 企画制作:大阪自主映画センター 制作:安西清尚 同助手:鈴木有、吉田昌一 撮影:吉国秀幸 同助手:上諸尚美、樫山強 脚本:康浩郎 同協力:蓬来泰三、加藤勝美 録音:丸岡浩、中村省一、岡栄秀、杉本直三 デザイン:高岡和弥 整理:竹本敦子 映像参加:井上青竜 音楽:上柴茂 出演:清水克彦、劇団道化座、集団ザ・プレイ 監督:康浩郎 同助手:小倉邦夫、入江博一 製作参加:私鉄総連関西地方連絡会、大阪交通労働組合、国鉄労組大阪地方本部、全自交大阪地方連合会、全日通労組大阪支部、国鉄労組南近畿地方本部、全自運大阪地方本部、国鉄動力車労組大阪地方本部、全港湾労組関西地方本部、国鉄動力車労組天王寺地方本部、鉄道弘済会労組関西支部、自動車運転手労組大阪支部、全運輸労組近畿陸運支部、日本交通公社労組関西地区本部、国鉄共済労組天王寺支部、国鉄労組関西本部、国鉄動力車労組関西地方評議会、都市交通労組関西地方協議会、全日通労組関西地方本部、兵庫県交通運輸労働組合協議会、京都府交通運輸労働組合協議会、和歌山県交通運輸労働組合協議会,奈良県交通運輸労働組合協議会、滋賀県交通運輸労働組合協議会
むちうち症と呼ばれるタクシー労働者の問題を前衛的映画手法で描く。関西の交通運輸労働組合や各種労働組合の支援を得て大阪自主映画センターが製作。万博前夜の大阪で新しい映画を目指す若いスタッフが結集した自主映画として知られる。

トーク:康浩郎監督(30分)

「むちうたれる者」

「むちうたれる者」

 

Eプログラム
「東京’69 ── 青いクレヨンのいつかは…」(1969/28分/16mm)
制作:日本社会党東京都本部 出演:江田三郎、美濃部亮吉
美濃部革新都政の課題と都民の考えるべきことを宣伝するための映画。タイトルの最後にNDUの文字が入る。これまで布川徹郎の発言には登場しなかった作品のため、フィルモグラフィーには記載されていない。

「鬼ッ子 —闘う青年労働者の記録—」(1969/78分/16mm)
企画:日本社会党東京都本部 制作:NDU(日本ドキュメンタリストユニオン) 協力:写真人連合組織部、早大フォトドキュメント研究会革命的フォトドキュメント作家集団、早大放送研究会革命的音響作家集団
米軍燃料タンク輸送阻止の闘いを主に、ベトナム反戦、反合理化闘争、日米安保阻止を旗印に共闘する国鉄青年労働者の姿を追う。自衛隊の戦車が街路を走るラスト場面は『青いクレヨンのいつかは…』にも使われている。

「青いクレヨンのいつかは…」

「鬼ッ子」

 

第二週 5月25日(土)・26日(日)

Fプログラム
「映画の灯は消さない ─大映斗争の記録─」(1972/17分/16mm)
製作 映演総連大映労働組合 ライプチヒ国際短篇映画祭特別賞受賞作品
大映社長の永田雅一は1971年に破産申告するまでの5年間に全国の主な劇場や東西両撮影所の一部と148世帯が住む社宅を一方的に売却した。この労働者を犠牲にした破産劇を仕組んだ富士・埼玉両銀行に組合員は抗議。自主上映を各地で行うなど組合員の闘いはつづく。

「黄色いゼッケン 闘争1000日の記録」(1974/32分/16mm)
製作:映演総連大映労働組合、大映闘争支援共闘会議 ナレーター:鈴木瑞穂 協力:日本フィルハーモニー交響楽団労働組合
大映は1971年暮れに倒産。労働者は経営の再開、退職金の保証、社宅に住む人の住居の安全を訴え闘った。東京撮影所支部、本社支部、北海道支部、中部支部、大阪支部、京都撮影所支部の闘いを紹介し、1974年の「大映斗争の完全勝利をめざす5.29大集会」に到る1000日の闘争を描く。

トーク:宮島正弘 撮影監督(30分)

「映画の灯は消さない」

「黄色いゼッケン」

 

Gプログラム
「反合理化闘争の記録」(1970/25分/16mm)
企画・製作:全逓信労働組合 製作:株式会社三愛商事映画部 ナレーター:石井敏郎 編集:山田晃 選曲:福島雄一郎 効果:水町正俊 協力:福岡地区本部、京都地区本部、北海道地区本部、愛知地区本部、全逓文学会
1968年から実施された郵便番号制度は郵便番号自動読取区分機の導入となり、合理化の波が郵政事業に押し寄せて来た。京都、札幌、福岡,名古屋の反合理化への闘いを記録した8ミリ・フィルムが16ミリに拡大され挿入されている。

「説得 ─かわち.1974.春─」(1974/56分/16mm)
企画・製作:全逓労働組合 スタッフ(アイウエオ順):浅沼幸一、岡田道仁、清水良雄、新谷のり子、新谷とおる、高岩仁、渡辺清、渡辺洋、三幸スタジオ、TBS現像所
東大阪市河内郵便局の一人が職制によって精神作案状態にさせられたのを契機に200日間の早朝学習会が行われた。未組織労働者へのオルグの模様を丹念に描写。学習とオルグを通し労働者の生の声を綴るドキュメンタリー。

「反合理化闘争の記録」

「説得」

 

Hプログラム
「合理化病 あなたは大丈夫か」(1975/50分/16mm)
製作:労働映画社、企画・制作:全逓信労働組合 スタッフ:浅沼幸一、高岩仁、高橋英明、田辺昌、古田牧子、芳地隆介、宮下雅則 現像所:東映化学工業
電報や電話交換など深夜に及ぶ苛酷な労働、頚肩腕障害や過労性腰痛症などに悩む郵便労働者たち。人間の健康に悪影響を及ぼす機械優先の職場環境。郵政合理化計画の犠牲になった労働者の嘆きを聞き人身保全を訴える。

「合理化病」

「合理化病」

 

Iプログラム
「前線 ─封建制100年との闘い─ 特定局の実態とその制度撤廃闘争の記録」
(1977/83分/16mm)
企画:全逓信労働組合 スタッフ(五十音順):一之瀬正史、伊藤惣一、岡田和夫、栗林豊彦、小池征人、高岩仁、高橋英明、田中充、土本典昭、土屋孝次、古田牧子 製作:労働映画社 現像:東映化学
全国の郵便局の四分の三を占める特定郵便局。局舎が私有であるため所有者が局長となり、世襲となることが多い。簡易保険や郵便貯金は国家の集金手段であり、資金は独占資本に流れている。全逓組合員は私有の弊害が多い特定局の撤廃を訴える。

「前線」

「前線」

 

Jプログラム
「喜びは鉄拳を越えて」(1979/37分/16mm)
企画全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部 製作:大阪センタープロダクション プロデューサー:栃尾惇 進行:山崎博彰 製作主任:山添哲也 音楽:さのよしひこ 唄:フォークグループ・ムジカ 美術:春日太郎 題字:栃尾紀子 ネガ編:宮脇浩 ナレーター:小池朝雄 録音:大貴スタジオ 協力:SCスタジオ 撮影:原博司、重清憲二、桜田純弘 照明:松田藤吉、森田耕造 脚本:安東民兒 監督:高橋一郎 製作協力:映像集団8の会
生コンミキサー車の労働者が1965年に結成した関西地区生コン支部。組合員のストライキに対し会社は暴力団や右翼や私服警察を動員し弾圧した。記録フィルムや裁判の再現場面を交え、労働者の闘いを描く。

トーク:安東民兒 監督(30分)

「自由への伝言 ─この辿る道─」(1984/51分/16mm)
監督:安東民兒 撮影:山添哲也、原博司 語り:久米弘子(弁護士) 協力団体:松山事件対策協議会、元大須事件被告団、メーデー記録映画製作協議会、共同映画株式会社、全日本うんゆ一般東京地区生コン支部、立命館教職員組合、劇団「未来」、国民救援会中央本部 企画:「自由への伝言—この辿る道—」製作上映実行委員会 制作:拘禁二法に反対する27人のジャーナリストの会
出演:山代巴、青地晨、福井駿介、吉原公一郎、椎名麻紗枝、松本清張、齊藤ヒデ、瀬戸内晴美、近田才典、田中悦子
治安維持法や公安条例による弾圧の体験や恐怖を作家や評論家にインタビュー。メーデー事件、砂川闘争、三池闘争など記録フィルムを交え公安警察の恐ろしさを描く。拘禁二法への考えを松本清張に、徳島のラジオ商殺し免罪事件の経験を瀬戸内晴美(現・寂聴)に訊くなど貴重な記録となっている。

「喜びは鉄拳を越えて」

「自由への伝言」

 

《料金》 カンパ制
*各プログラム1000円程度のカンパをお願いします


第35回 くにづか月イチ上映会
2019年6月2日(日) 13:30〜
 

《料金》 無料
アスタくにづか3番館1階の「コミュニティハウス」で整理券を進呈

主催:くにづかリボーンプロジェクト、アスタくにづか神戸市保留床テナント会


ロシア・ソヴィエト映画 連続上映
第27回 ゲオルギー・ダネリヤ追悼

2019年6月15日(土)・16日(日)

ゲオルギー・ダネリヤ監督が今年4月、88歳で亡くなった。日本では『不思議惑星キン・ザ・ザ』(製作1986年、日本公開1991年)の監督として知られてきたが、近年、『モスクワを歩く』などが上映される機会が増えたことにより、再評価の声が高まっている。

 

「モスクワを歩く」Я шагаю по Москве

(1963/73分/35mm)モスフィルム
監督:ゲオルギー・ダネリヤ
脚本:ゲンナージ・シュパリコフ
撮影:ワジム・ユーソフ
出演:ガリーナ・ポリスキーフ、アレクセイ・ロクテフ、ニキータ・ミハルコフ

1960年代前半の自由な空気のなか、青春を謳歌するモスクワの若者たちの一日を瑞々しいタッチで描く。当時18歳だったニキータ・ミハルコフが出演、撮影はタルコフスキー作品を多数手がけるワジム・ユーソフ。

 

「嘆くな!」Не горюй!

(1969/94分/35mm)モスフィルム、グルジアフィルム撮影所
監督:ゲオルギー・ダネリヤ
脚本:レヴァス・カブリアゼ
撮影:ワジーム・ユーソフ
音楽:ギア・カンチェリ
出演:ヴァフタング・キカビッゼ、セルゴ・ザカリアッゼ、アナスタシヤ・ヴェルチンスカヤ、ソフィコ・チアウレリ

人々の営みから滲むユーモア、そして死が、歌と踊りの宴会とともに描かれる。舞台は19世紀末のグルジアの小さな町。ペテルブルグで医学を修めた主人公・ベンジャミンが故郷で開業するも患者は集まらない。それを苦にせず呑気に暮らす彼を、姉のソフィコは心配し、裕福な町医者の娘との結婚を画策する。

 

「秋のマラソン」Осенний марафон

(1979/94分/35mm)モスフィルム
監督:ゲオルギー・ダネリヤ
脚本:アレクサンドル・ヴォローヂン
撮影:セルゲイ・ヴロンスキィ
音楽:アンドレイ・ペトローフ
出演:オレーク・バシラシヴィーリ、ナターリヤ・グンダレヴァ、マリーナ・ネヨーロヴァ、エヴゲーニィ・レオーノフ

舞台は70年代末のレニングラード。大学教員である主人公ブズィーキンはタイピストのアーラと不倫。妻ニーナと別れる勇気のない彼はいつもの優柔不断さから二人のあいだで引き裂かれ続ける。ソープオペラ的題材を用いながらも、ダネリヤは主人公を同僚や隣人たちとのあいだをピンボールのように弾いていっては、自らの得意とするシチュエーションの虜に仕立て上げる。

 

追悼 特別寄稿
 今更確認するまでもなく、ダネーリヤ作品が作られたのはブルジョア社会よりも「成熟しているはず」の社会主義の時代であり、未だ完全な「大人ではない」にしてもいずれは「大人になるはず」の社会であった。ところが、彼の主人公たちはいつも「大人げない」。ほんの軽はずみや意固地さのせいで取り返しのつかぬ状況に巻き込まれてしまう——『モスクワを歩く』では結婚をめぐる狂騒、『嘆くな!』では決闘沙汰、『秋のマラソン』では不倫による板挟み。このコンフリクト(矛盾)は止揚させ、主人公たちは元の鞘に収まるが、その仕儀はあのフーテンの寅次郎とは全く異なる。
 主人公たちはまるで旅の行き先も知らされぬまま暫し空港から出られぬ客のように映画の中に閉じ込められ、喜劇のようにも映るその事態は悲劇の様相を呈し、そこで「大人になる(あるいは、大人しくなる)」ための儀礼を文字通り「トランジット=通過」しなければならなくなる。ただ、もしこれだけを見て早計に自己形成を描くビルドゥングス・ロマンと判断してしまうならば、大いに作品を見誤ることになるだろう。そうではない。そこにわれわれが見るのは、大人になるためのこのトランジットがいつも「徒労」に終わってしまうということ、結局のところ「男」はいつまでも学ばない生き物であるということ・・・等々。またそのためか、ダネーリヤ作品で「女性」が描かれることはほとんどない(例外は1993年の『ナースチャ』)し、これは日本未公開作品であるが、少年が主人公を演じる初監督作品『セリョージャ』(1960年)やハックルベリーものの『どうしようもない奴』(1973年)に登場する「大人の男たち」は子供以上の存在ですらない。
 80年代にはもはや共産主義社会が樹立することを以前から謳っていたソ連社会がその成熟に達せぬまま90年代を迎えてしまった時、映画の外部にあった世界自体がダネーリヤ的神話空間を必要としない資本主義世界に飛躍するための「トランジット」と化す。その歴史的空間によってソ連映画は侵食されてしまう。それを如実に映し出しているのが『パスポート』(1990年)であるし、『コインの表裏』(1995年)であった。ダネーリヤはだがその最晩年において、歴史的成熟を遂に迎えられなかった時代に製作した『キン・ザ・ザ』のアニメ・リメイクに挑むのだが、思うにこれなどは、ソ連崩壊後30年を経てもあらゆる意味で成熟を果たせぬままの外部世界に向けて映画の内側から「キュー!」と叫んでいるように見えてならない。きっとそうに違いない。
 さて、八十八年というダネーリヤの大いなる「旅」は終わりを迎えた。だが、未だに日本で公開すべき作品は数多く残されている。いちファンとしてはこの宝の山を発掘してくれる人が今後大勢現れることを心から願ってやまない。合掌
東海晃久(ロシア文学者)

 
 
主催:神戸映画資料館、アテネ・フランセ文化センター
協力:ロシア映画社

《料金》入れ替え制
1本あたり
一般1200円 学生1000円
神戸プラネットシネマ倶楽部会員1000円
アテネ・フランセ文化センター会員1000円
《割引》
当日2本目は200円引き


最終章・新東宝ピンク映画 ラスト・フィルム・ショー in 神戸 vol.1
1980年代篇

2019年6月29日(土)・30日(日)

ご好評をいただきましたシリーズも最終章となります。名古屋で保管されていたプリントから6作品をセレクトし、3回に渡って上映します。

今回は1980年代に製作された2作品、若き大杉漣の演技が光る滝田洋二郎監督の傑作サスペンス『連続暴姦』と、ケン玉とセーラー服で一世を風靡したあの人気ドラマをパロディ化した渡邊元嗣監督の『ねらわれた学園 制服を襲う』。

 
「連続暴姦」

(1983/60分/35mm)新東宝映画
監督:滝田洋二郎 脚本:高木功 撮影:佐々木原保志 照明:守田芳彦 編集:酒井正次 助監督:桜田繁
出演:大杉漣、織本かおる、麻生うさぎ、末次真三郎、竹村祐佳、佐々木裕美、螢雪次朗

十三年前に姉を殺害したレイプ犯に戦いを挑む女性の姿を描いた傑作サスペンス。当時のズームアップ映画祭ベストテン第一位に輝いた、いまや日本映画の重鎮となりつつある滝田洋二郎監督の若き日のパワフルかつ野心的な傑作。レイプ犯を演じたデビュー間もない頃の大杉漣の体当たり演技は必見もの。

 

「ねらわれた学園 制服を襲う」(プリントタイトル『ねらわれた学園 制服に欲情』)

(1986/59分/35mm)日本シネマ
監督:渡邊元嗣 脚本:平柳益実 撮影:倉本和人 音楽:芥川たかし 編集:酒井正次 助監督:笠井雅裕
出演:橋本杏子、田口あゆみ、清川鮎、螢雪次朗、風見怜香、ジミー土田、渡辺正樹、池島ゆたか、藤冴子

父の命令で母のかたきをとるため愛染学園に転校した未来は敵である校長袋小路が生徒に売春させていることを知る。いよいよ復讐の時は訪れて…。セーラー服とヨーヨーで一世を風靡したあの人気ドラマをピンクに! 脚本平柳益実、監督渡邊元嗣コンビによるエポックメイキングな作品の一本。

 

協力:ぴんくりんく

《料金》入れ替え制1本あたり
一般1200円 学生1000円 会員900円
《割引》当日2本目は200円引き


連続講座:20世紀傑作映画 再(発)見
第7回 ネオリアリズムから遠く離れて──『無防備都市』再考

2019年7月7日(日)
講師:井上正昭(翻訳・映画研究)

このシリーズ講座では、映画史の節目を刻んできた傑作を毎回一本ずつ上映し、検証してゆく。時代の中から生まれながら、時代を超えて生き残る。古典とはそういうものだ。それは、つねに〈来るべき〉作品であり、映画館のような場所でそのつど〈発見〉される。このような観点から、作品を映画史の中にきっちりと位置づけ、それがいかにして生まれ、どのように受容され、それ以後の映画にどんな影響を与えたのかを検証する一方で、あたかも新作を見るように、その映画を純粋に味わい、どこにその〈映画的〉魅力があるのかを探ってゆく。

15:10〜 参考上映
「無防備都市」
Roma città aperta
(イタリア/1945/103分/16mm)
監督:ロベルト・ロッセリーニ
脚本:セルジオ・アミディ、フェデリコ・フェリーニ
撮影:ウバルド・アラータ
出演:アルド・ファブリッツィ、アンナ・マニャーニ、マルチェロ・パリエーロ

17:00〜(終了予定18:30) 講座
ロッセリーニの名前はネオリアリズムという言葉と分かちがたく結びついている。むろん、この映画作家はそんな言葉に収まってしまうような小さな存在ではないのだが、ロッセリーニに貼られたこのレッテルが、彼の地位を不動のものにする一方で、その全体像を見えづらくしてきたことも確かである。ネオリアリズムの誕生を世界に知らしめ、イタリア映画史上最も重要な作品と言われたりもする『無防備都市』でさえ、今見直してみれば、多くの人が抱いているネオリアリズムのイメージとはいろいろな点でズレていることに気づくだろう。今回の講座では、様々な要素が混在するこの〈不純な〉ネオリアリズム映画を、『戦火のかなた』や『ドイツ零年』はもちろん、ファシズム時代のイタリア映画などとの関係も探りつつ、さらにはメロドラマや映画的クリシェなどといった様々な観点からも、考察していく予定である。

井上正昭
1964年生まれ。Planet Studyo + 1 で映画の自主上映にたずさわる。訳書に『映画監督に著作権はない』(フリッツ・ラング、ピーター・ボグダノヴィッチ/筑摩書房 リュミエール叢書)、『恐怖の詩学 ジョン・カーペンター』(ジル・ブーランジェ/フィルムアート社)、共著に『映画を撮った35の言葉たち』(フィルムアート社)がある。
ブログ「明るい部屋:映画についての覚書」

《参加費》 参考上映付き  一般1500円 学生1000円 会員1200円


最終章・新東宝ピンク映画 ラスト・フィルム・ショー in 神戸 vol.2
深町章監督作品集

2019年7月13日(土)・14日(日)

ご好評をいただきましたシリーズも最終章となります。名古屋で保管されていたプリントから6作品をセレクトし、3回に渡って上映します。

今回は深町章監督の2作品、古典落語「牡丹灯籠」をピンク映画に置き換えた異色作『熟母・娘 乱交』と錯乱した女性の江戸川乱歩的猟奇世界を描いた『新・鍵穴』を上映します。初期から中期にはユーモアと皮肉がいりまじった喜劇タッチの作品が多く、90年代後半以降はよりドラマチックでシンプルな作風に変化し、後期にはあのブレッソンを思わせるほど無駄なものを徹底的にそぎ落としたスタイルを完成させた新東宝映画のエースでありピンク映画界の真の巨星です。その作品の根底には常に人間、特に女性に対する深くおおらかな愛情が流れています。

 

「新・鍵穴 絡みあう舌と舌」(プリントタイトル『和服エロス・蔵のなか 淫蜜な関係』)

(2005/63分/35mm)国映、新東宝映画
監督:深町章 企画:朝倉大介 脚本:岡輝男 撮影:清水正二 編集:酒井正次 録音:シネ・キャビン 助監督:佐藤吏
出演:葉月螢、里見瑤子、池田こずえ、千葉尚之、なかみつせいじ、丘尚輝、山口玲子

敗戦間もない頃、ある官僚の妻となった珠代は古い蔵の二階で夫が別の女と逢瀬を重ねているという疑いをもつ。突然現れた謎の青年が夫と女の情事を珠代に見せると約束するが…。江戸川乱歩的猟奇・幻想の世界を描いた岡輝男の脚本をピンク界の巨星深町章監督が葉月螢(現ほたる)とのコンビで映像化。

 

「熟母・娘 乱交」(プリントタイトル『母と娘 濡れまくら』)

(2006/57分/35mm)新東宝映画
監督:深町章 企画:福俵満 脚本:河本晃 撮影:長谷川卓也 編集:酒井正次 助監督:佐藤吏
出演:藍山みなみ、しのざきさとみ、里見瑤子、岡田智宏、川瀬陽太

章太郎はある日病弱な真夕美とその母美佐子と出会う。しばらくして美佐子が章太郎を訪れ、男を知らないまま死を宣告された真夕美を抱いてやって欲しいと頼むが…。名作落語「怪談牡丹燈籠」をベースにした河本晃の脚本を深町章が演出、哀感あふれる独特な味わいの作品に仕上げた。

 

協力:ぴんくりんく

《料金》入れ替え制1本あたり
一般1200円 学生1000円 会員900円
《割引》当日2本目は200円引き
《プレゼント》1日2作品ご鑑賞者に、ピンクリンク編集部による冊子「20世紀最初のピンク映画〜2001年・全新作紹介〜」または新東宝ピンク映画ポスターをプレゼント。無くなり次第終了。[提供:ぴんくりんく]


第36回 くにづか月イチ上映会
2019年7月15日(月・祝) 13:30〜
 

《料金》 無料
アスタくにづか3番館1階の「コミュニティハウス」で整理券を進呈

主催:くにづかリボーンプロジェクト、アスタくにづか神戸市保留床テナント会


『キュクロプス』
2019年7月5日(金)〜16日(火) [水・木休映]

「キュクロプス」
(2018/108分/ブルーレイ上映)
製作・監督・脚本:大庭功睦
撮影:川野由加里 照明:中村晋平
美術:矢野浩加 録音:加来昭彦 音楽:永島友美子
衣裳:白石敦子 ヘアメイク:金森麻里 編集:松本健作
音響効果:大河原 将、楳内日呂睦 VFX:田中貴志
制作部:澤井克一、佐藤大輔 助監督:桜井智弘
プロデュース:石塚紘太

出演:池内万作、斉藤 悠、佐藤貢三、杉山ひこひこ、あこ、島津健太郎、山中良弘、中野 剛、ディーゴ、新庄 耕

復讐に取り憑かれた一つ目の男キュクロプス
その目に映る真実とは──。

物語は、妻とその愛人を殺害した罪で14年の服役を終えた男・篠原が、事件が起きた街へ帰ってくる場面で幕を開ける。篠原の目的は、妻を殺した真犯人に復讐すること。
フランスの著名な画家オディロン・ルドンによる「キュクロプス」にモチーフを得たこの作品は、濡れ衣で投獄された男の復讐を軸にしたノワール映画であり、製作・監督・脚本を務めた大庭功睦による自主製作映画である。
国内初上映となったのは、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018」。上映後、「自主製作映画の域を超えている」「先が読めない展開に釘付けになった」などと高い評価を集め、シネガーアワードと北海道知事賞の2賞を同時受賞するという快挙を達成した。
また、 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018の国内長編部門、ドイツで開催された日本映画祭Nippon Connection 2018のNippon Visions 部門、オランダにて開催されたCAMERA JAPAN 2018にて上映されるなど、各映画祭で評価され、その注目を高めている。

ストーリー
妻とその愛人を殺害した罪により、14年の服役を終えた男・篠原(池内万作)が、事件が起きた町に戻ってきた。彼の目的は、妻を殺し自分を罠にはめた真犯人に復讐することーー
篠原は、事件の捜査を担当した刑事・松尾(佐藤貢三)と、その情報屋・西(斉藤 悠)の協力を得、真犯人がヤクザの若頭・財前(杉山ひこひこ)であることを知る。早速、財前殺害に向け、西の手ほどきを受けつつ銃撃の訓練を始める篠原。同時に、事件の記憶が蘇り、悪夢に苛まれ、亡き妻の亡霊との邂逅に安らぎを見出す篠原であった。
ある日、篠原は、ふらりと立ち寄ったバーで、亡き妻に瓜二つの女性・ハル(あこ)と出会う。一度目は、逃げるように店を後にした篠原だが、それ以降、事態は思わぬ方向に転がり始める。

→公式サイト

《料金》
前売:1200円
一般:1800円 大学・専門学校生:1500円 中高生:1000円
シニア:1100円 会員:1100円

*初日サービスDAY 1100円


神戸ゆかりの映画人・大重潤一郎監督 没後四年追悼上映
2019年7月20日(土)・21日(日)

大重潤一郎監督は鹿児島出身で1946年生まれ。岩波映画助監督を経て、35ミリ自主映画『黒神』でデビュー。大阪での上映を機に結婚し神戸に定住、その後東京に移住するも再び神戸に戻り大阪に事務所を設けて活動、阪神淡路大震災を体験し自然に対する畏敬の念が益々深まり、『光りの島』『風の島』など自然の中における人間の位置を常に自然の側から問いかける作品を製作。12年に一度行われ1978年が最後となった秘儀イザイホーの舞台、久高島を描く映画『久高オデッセイ』三部作を那覇に事務所を構え12年かけて製作。第三部の『風章』完成後、2015年7月22日享年69歳で永眠した。四年目の命日を前に、大重へのロング・インタビュー作品『友よ! 大重潤一郎 魂の旅』と遺作となった『久高オデッセイ 風章』を上映し、大重の偉業を偲ぶ。

 
「友よ! 大重潤一郎 魂の旅」
(2014/109分/DVD上映)
構成・編集:四宮鉄男 撮影・製作:森田恵子
語り:青山吉良 音楽:遠藤春雄 
協力:須藤義人、堀田泰寛、NPO沖縄映像文化研究所、海プロダクション、青山録音センター
製作協力:桜映画社、スリーエー工房
 
沖縄に定住し癌と闘いながら映画作りに専念する大重の仕事場を、朋友であるドキュメンタリー映画監督・四宮鉄男が訪ねてインタビュー。大重は沖縄で撮影し続ける思想を熱く語る。『まわる映写機めぐる人生』の森田恵子監督が撮影を担当。
 
 

「久高オデッセイ 風章」(三部作最終章)
(2015/95分/ブルーレイ上映)
沖縄映像文化研究所作品 監督:大重潤一郎 助監督:比嘉真人 演出助手:高橋あい 撮影:堀田泰寛、比嘉真人 整音:市川文武 整音助手:江藤直樹 編集協力:四宮鉄男、森田恵子 技術:重枝昭典 制作協力:岡野恵美子、山田宏道、伊豆有加、牧優佑 進行協力:大重生 製作:鎌田東二
語り:鶴田真由 音楽:新実徳英 

琉球王朝時代以降「神の島」と呼ばれてきた久高島では12年に一度、神女の継承式であるイザイホーが行われてきたが、1978年を最後に後継者不足のため途絶えた。大重は2002年から2014年までの12年間、未だにその地下水脈が流れる久高島を撮影し続け、『久高オデッセイ 第一部・結章』(2006)、『第二部・生章』(2009)に続いて完成した第三部の最終章である。大重の遺作となった。

 

参考上映
「未来の子供たちへ
 日本のナショナル・トラスト運動」

(1992/31分/35mm)
企画・脚本・監督:大重潤一郎 撮影:川口徹也 録音:岩橋政志、市川文武 選曲:園田芳伸 ナレーター:見城美枝子、宮内幸平 制作デスク:大重敦子 ネガ編集:今村和子 プロデューサー:橋浦方人 企画:日本ナショナル・トラスト協会 制作:UMI inc.
 
日本のナショナル・トラスト運動は1960年代に始まり、1983年に「ナショナル・トラストを進める全国の会」が結成され、さらに1992年に法人化され「社団法人日本ナショナル・トラスト協会」が誕生。この記念すべき年に、全国各地で美しい自然を未来へ繋げようと活動する人々の姿を、大重が得意とする自然描写の映像を交えて35ミリ・フィルムに定着した。
 

参考上映
「小川プロ訪問記(完全版)」
(完全版2001年[短縮版1981年]/61分/DVCAM上映[原版16mm])英語字幕付
監督:大重潤一郎 撮影:堀田泰寛
製作:日本文化デザイン会議
出演:小川紳介、大島渚
ベルリン国際映画祭2003フォーラム部門上映
 
仙台で開かれた第2回日本文化デザイン会議に呼ばれた小川紳介は撮影のために出席できなかったが、代わりにその語りをフィルム撮影して上映することになった。大重は大島渚監督と堀田泰寛カメラマンとともに山形・牧野の小川プロや『日本国古屋敷村』の舞台である古屋敷を訪ねて小川の熱い語りをフィルムに定着した。仙台では時間の関係で入れられなかった部分を、山形国際ドキュメンタリー映画祭での上映に際し追加編集して完全版を作成、その後ベルリン国際映画祭フォーラム部門に招待された。

 

《料金》
「友よ」+「風章」(2本立) 一般1500円 学生1000円 会員1200円
参考上映 一般800円 学生500円 会員700円


[貸館]荒木太郎 応援会
2019年7月27日(土)17:00

荒木太郎監督の自主制作作品『ハウスレス・ホーム』の上映と監督トーク。

「ハウスレス・ホーム」
(2003/52分/サイレント/スタンダード/35mm)R15
監督:荒木太郎 脚本:縄文人 原作:「いえづくりをしながら考えたこと。」(エクスナレッジ刊)
撮影:前井一作、横田障司、国枝礼樹 編集:酒井正次 タイトル画:寺田勉
タイミング:安斎公一 現像:東映化学
演出助手:下垣外純 制作:小林徹哉 協力:愛光、シネ・キャビン 製作:ペジテ、多呂プロ
出演:里見瑤子、佐倉萌、荒木太郎、縄文人、蛍雪次郎(特別出演)
内藤忠司、佐藤選人、谷崎ルキ、比嘉悠樹、渡辺昭一、山口公徳とその愛犬

 
本邦初公開「空想的脳内科学遊戯シリーズ ジェットマン」
(2019/約20分[現在編集中]/モノクロ/音楽付きサイレント/DV)
監督・脚本:荒木太郎 撮影照明:飯岡聖英 撮影照明助手:岡村浩代
主題歌録音:小林徹哉 主題歌「ジェットマン」 作詞作曲:荒木太郎 編曲演奏:安達ひでや 唄:稲葉良子
制作応援:広瀬寛巳 協力:ビッケ、シネ・キャビン
出演:小ポンチ、ミニコ、ボクチン、ぽん、たもつ(特別出演)
弁士(説明屋):荒木太郎
 
 

荒木 太郎(あらき たろう)
1961年2月16日生まれ
1982年『ポルノドキュメント トルコ特急便』(中村幻児監督/美保純主演/日活ロマンポルノ)で俳優としてデビュー。現在までに出演本数は270作品以上。
1995年度ピンク映画大賞・男優賞受賞
1996年『異常露出 見せたがり』(工藤翔子主演/大蔵映画)で監督デビュー。現在までに監督本数は90作品以上。
2000年度ピンク映画大賞ベストテン第1位『せつなく求めて OL編』
2001年度ピンク映画大賞ベストテン第4位『義姉さんの濡れた太もも』、同・次点『初恋不倫 乳首から愛して』、同・監督賞受賞
2002年度ピンク映画大賞ベストテン第7位『痴漢バス2 三十路の火照り』、同・10位『年上の女 博多美人の恥じらい』
2003年度ピンク映画大賞ベストテン第6位『美乳暴行 ひわいな裸身』、同・8位『隣のお姉さん 小股の斬れ味』
2004年度ピンク映画大賞ベストテン第2位『美肌家政婦 指責め濡らして』
2008年度ピンク映画大賞ベストテン第8位『悶々不倫 教え子は四十路妻』
2010年度ピンク映画大賞ベストテン第6位『癒しの遊女 濡れ舌の蜜』、同・第8位『義父相姦 半熟乳むさぼる』
2012年度ピンク大賞・優秀作品賞『さみしい未亡人 なぐさめの悶え』

 
主催:ぴんくりんく
協力:神戸映画資料館

《料金》 1500円


[貸館]映画「さんさん」完成披露試写会
2019年7月28日(日)開場 14:30 開演 15:00

2018年夏に撮影された「さんさん」の完成披露試写会です。本作品のほか、主題歌披露や別作品の特報も予定しております。
また、出演者の舞台挨拶も行います。

声しか知らない人に、初めて会った。

田所(水野祐樹)は、後ろ姿しか知らない優美(コノハコトノハ )に出会う。
優美は、いつも波の音より小さな声で歌っていた。
歌が繋ぐ、燦々と光輝く日常のカケラの物語。

監督・脚本:有安あり
プロデューサー:八十川勝
主題歌:コノハコトノハ
出演:水野祐樹、コノハコトノハ
   森野くるみ 北原夕 川瀬乃絵 星川恵美 熊田佳奈子 小寺克英 井口秀人



 

《料金》 1500円
予約・お問い合わせ→有安あり


ハワード・ホークス特集2 代表作と初期作品
2019年8月10日(土)〜15日(木) 振替え18日(日)
*台風接近により15日(木)休映、18日(日)に振替え

アメリカ映画の巨匠ハワード・ホークスの代表作『ヒズ・ガール・フライデー』『脱出』『赤い河』の3本とサイレント映画を含む初期作品5本を一挙上映。

 

「ヒズ・ガール・フライデー」His Girl Friday
(1940/92分/16mm)
製作:ハワード・ホークス
原作:チャールズ・マッカーサー、ベン・ヘクト
脚本:チャールズ・レデラー、ベン・ヘクト
出演:ケイリー・グラント、ロザリンド・ラッセル、ラルフ・ベラミー、ジーン・ロックハート

新聞記者たちの世界を描いたチャールズ・マッカーサーとベン・ヘクトによる大ヒット戯曲の2度目の映画化(3度目はビリー・ワイルダーの『フロント・ページ』。新聞記者上がりだったせいか、ヘクトが脚本に関わったホークス作品には、『暗黒街の顔役』や『バーバリ・コースト』のように決まって記者が登場する)。ホークスはお得意の性別逆転により、原作では男性だった主人公を女性に変えることで、この作品をスクリューボール・コメディの傑作に作り変えた。ロザリンド・ラッセルとケイリー・グラントによる丁々発止の掛け合いには何度見ても圧倒される。コメディ映画ではあるが、非情な新聞記者たちの描き方はほとんどハードボイルドと言っていい。サミュエル・フラーは、タイミングのなんたるかを知るにはこの映画を見ろと言い、ウェス・アンダーソンもこの映画が好きだと公言している。名作中の名作。

 

「脱出」To Have and Have Not
(1944/100分/16mm)
製作:ハワード・ホークス
原作:アーネスト・ヘミングウェイ
脚本:ジュールズ・ファースマン、ウィリアム・フォークナー
編集:クリスチャン・ナイビー
出演:ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール、ウォルター・ブレナン

ナチの支配下にある仏領マルチニック諸島を舞台に描かれる冒険譚。ヘミングウェイの原作、フォークナーの脚本、『カサブランカ』で一躍スターとなったハンフリー・ボガート。これら強烈な個性たちの集まりから、ホークスはどこを取ってもホークス的としか言いようのない映画を作り上げた。これがホークスの最高傑作かどうかは議論が分かれるだろうが、この作品がホークスのフィルモグラフィーにおいて最も神話的な作品のひとつであることは間違いないだろう。撮影と同時に進行していたボギーと新人女優ローレン・バコールの恋愛は当時センセーショナルな話題となり、今もってハリウッドの伝説であり続けている。いつもながらの変わり者を演じるウォルター・ブレナンも最高だ。彼の「死んだハチに刺されたことはあるかい?」や、バコールの「口笛の吹き方はわかる?」は、映画ファンなら誰もが知っている名台詞。

 

「赤い河」Red River
(1948/133分/16mm)
製作:ハワード・ホークス
原作:ボーデン・チェイス
撮影:ラッセル・ハーラン
編集:クリスチャン・ナイビー
出演:ジョン・ウェイン、モンゴメリー・クリフト、ジョーン・ドルー、ウォルター・ブレナン

西部劇作家と見なされることも多いホークスだが、生涯で彼が撮ったウェスタンは5本だけである。『赤い河』はその記念すべき最初の一本であり、ホークスとジョン・ウェインとの長きにわたるコンビの始まりでもあった。年齢以上の老け役を演じているウェインは、この作品で初めて自分の演技をつかんだ。『駅馬車』のフォードがこの映画のウェインを見て、「あのでくの坊にこんな演技ができるとは思わなかった」と言ったという話は有名。ウェイン演じる病的なほど頑固なボスと対立し、反乱を企てる息子のような存在を演じるモンゴメリー・クリフトもまた、この作品でスターの座をものにした。男臭い西部劇ではあるが、肩に矢が刺さっても顔色ひとつ変えず、子供じみた男たちよりもずっと賢い、「ホークス的女性」の典型と言ってもいいジョーン・ドルーが放つ強烈な存在感もまたこの作品の魅力の一つである。

 

「無花果の葉」Fig Leaves
*素材状態が良くないことを予めご了承ください
(1926/71分/サイレント/ブルーレイ上映)
製作:ウィリアム・フォックス
原作:ハワード・ホークス
出演:ジョージ・オブライエン、オリーヴ・ボーデン

アダムとイヴを主人公に、古代から現代へと時代が変わっても変わらない男女の関係を描いた傑作サイレント・コメディ。エデンの園のころから女はなにかと洋服を欲しがり、男はなんとかそれをやり過ごそうとする。原始時代篇で、新聞配達人が家に投げ入れる新聞が重たい石版で出来てたり、出勤するときの乗り物が恐竜だったりと、冒頭からナンセンスなギャグの連続で笑わせてくれる。コメディとはいえ、家庭での夫婦の関係をまともに描いた作品は、ホークスのフィルモグラフィにおいて極めて例外的であり、そういう意味でも見逃し厳禁の一本である。

 

「ファジル」Fazil
*素材状態が良くないことを予めご了承ください
(1928/77分/サイレント/ブルーレイ上映)
製作:ウィリアム・フォックス
脚本:シートン・I・ミラー
出演:チャールズ・ファレル、グレタ・ニッセン

アラブの王子と奔放なパリジェンヌとの悲惨な結果に終わる結婚を描く、オリエンタリズムたっぷりのラブロマンス。トーキー以後のホークスでは考えられない題材をあつかっているところが実に興味深い(これ以外に中東を舞台にしたホークス作品としては、古代エジプトを描いた『ピラミッド』 がある)。ホークスが結婚というテーマをまともに描いた映画は、サイレント時代のこの作品が最後と言っていいだろう。この当時、ホークス自身の最初の結婚生活も事実上破綻していたことを考えると、より興味深く見ることができる作品かもしれない。ホークス史上最も濃厚なラヴシーンが見られる映画でもある。ゴンドラの唄が聞こえてくるとき、切り返すキャメラによって、ヴェネチアの運河をはさんで二人の視線が交わるシーンは、この映画で最も美しい瞬間であろう。

 

「港々に女あり」A Girl in Every Port
(1928/78分/サイレント/ブルーレイ上映)
製作:ウィリアム・フォックス
原作:ハワード・ホークス
脚本:シートン・I・ミラー
出演:ヴィクター・マクラグレン、ロバート・アームストロング、ルイーズ・ブルックス

この映画にはトーキー以後のホークス作品の特徴となるさなざまな要素が詰まっており、この映画でホークスは初めてホークスになったと言えるかもしれない。ライバルであり親友でもある二人の船乗りが同じ女(ルイーズ・ブルックス)に惚れてしまう。ホークスはこれとほとんど同じ物語を『虎鮫』でも繰り返し、さらには最晩年になってもこの映画をリメイクすることを考えていた(反復の作家ホークス)。男女の恋愛というよりは、男同士の恋愛にも似た友情を描いた映画で、サーカスのアクロバットを演じているブルックスも、どちらかというと脇役に近い扱いなのだが、水着姿で高飛び込みを披露し、男を惑わす悪女を演じるここでの彼女の存在感はやはり半端ない。この映画を見たドイツの監督パプストに抜擢されて、ブルックスは『パンドラの箱』のルルを演じ、その髪型とともに人々の記憶に永遠に刻まれることになるだろう。

 

「暁の偵察」The Dawn Patrol
(1930/108分/ブルーレイ上映)
脚本:ハワード・ホークス、ダン・トザロー、シートン・I・ミラー
出演:リチャード・バーセルメス、ダグラス・フェアバンクス・ジュニア

第一次世界大戦の戦闘機パイロットたちの世界を描いたホークスのトーキー第一作。上官と対立する主人公の新任士官を、『散りゆく花』の中国人役が鮮烈だったリチャード・バーセルメスが演じている(彼はこの約10年後に『コンドル』でもパイロット役を演じることになるだろう)。文字通り女が一人も出てこない男の映画だが、ライバルの二人の士官が過去に同じ女を巡って争ったことがあるという『永遠の戦場』を思わせる裏設定がいかにもホークスらしい。これが初のトーキーにもかかわらず、役者のセリフは抑制され、さらには多くの場面で、フレーム外から聞こえてくる声を使った斬新な演出が試みられていることに驚く。空中シーンが売り物の映画だったが、シーンのアイデアを巡ってホークスは、『地獄の天使』のハワード・ヒューズと裁判沙汰にまでなる(2人は数年後に『暗黒街の顔役』で仲良く手を組むことになるのだが)。

 

「光に叛く者」Criminal Code
(1931/97分/ブルーレイ上映)
製作:ハリー・コーン 脚本:シートン・I・ミラー
撮影:ジェームズ・ウォン・ホウ、テッド・テツラフ
出演:ウォルター・ヒューストン、フィリップス・ホームズ、ボリス・カーロフ

『ビッグ・ハウス』や『仮面の米国』などの流れを受けて作られたトーキー初期の刑務所もの(この映画のモブ・シーンには『ビッグ・ハウス』のセットが流用されている)。正当防衛の殺人で重すぎる刑期を宣告された主人公が投獄されている監獄に、その刑を宣告した裁判官が、刑務所長として赴任してくる。主人公を次第に理解してゆき、更生するチャンスを与えようとする刑務所長を、ホークス作品の出演はこれが最初で最後のウォルター・ヒューストンが、いつもながら見事に演じていて実に素晴らしい。まだフランケンシュタインで有名になる前のボリス・カーロフが、すきあらば所長を殺そうとする囚人の役を、主役を食うくらいの存在感でエキセントリックに演じているのも注目だ。カーロフはこれに続いて『暗黒街の顔役』にも出演し、印象的な死の場面を演じている。

 

解説:井上正昭
協力:(株)ダッサイ・フィルムズ、プラネット・プラス・ワン

《料金》入れ替え制1本あたり
一般1000円 学生700円 会員900円
《割引》当日2本目は200円引き


第37回 くにづか月イチ上映会
2019年8月17日(土) 13:30〜

《料金》 無料
アスタくにづか3番館1階の「コミュニティハウス」で整理券を進呈

主催:くにづかリボーンプロジェクト、アスタくにづか神戸市保留床テナント会


これまでのプログラム|神戸映画資料館

※内容は予告無く変更する場合があります。

※作品によっては、経年退化で色褪せしている場合がございます。予めご理解ご了承の上、ご鑑賞くださいますようお願い申し上げます。