今月の1冊WEBSPECIAL / BOOKREVIEW

「女優 岡田茉莉子」

著者:岡田茉莉子
出版社:文藝春秋
発行年月:2009年10月
『女優 岡田茉莉子』は勇気の書物である。猥雑であるがゆえに強かでもあり、また親密でもあったであろう撮影所時代の日本映画界が、やがて猥雑さだけをあとに残して壊れてゆく過程のなかで、一人の女優でありまた人間として、そして道半ばからは夫君というよりも恋人と呼ぶのがふさわしい吉田喜重との二人三脚で、毅然として自己の信念を貫いてきた著者の紡ぐ平易な言葉には、ときには周囲の凡俗を睥睨するかのような冷厳さが籠るが、それがいささかも高慢に響かないのは、著者が自分自身に対してこそ誰よりも最も冷厳であることを、本書を通じて、あるいは銀幕を通じて、我々がよく承知しているからであろう。映画産業よりもよほど猥雑な映画研究の世界に生きる私に、本書は限りない勇気を与えてくれている。
(羽鳥隆英)

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