今月の1冊WEBSPECIAL / BOOKREVIEW
2010 6

立命館大学映像学部現代GP 「映像文化の創造を担う実践的教育プログラム」 報告書 (2009年度) 映像文化の創造と倫理

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発行:立命館大学映像学部
発行年月:2010年3月
 生活の様々な局面において急速なデジタル化が進む現在、多様な映像メディアの展開によって映像文化そのものに対するニーズは高まり続ける中、それが単なる「消費」の対象として扱われる傾向が見られるのもまた事実であろう。殊に映画に限っていえば、シネコンの乱立によってスクリーンの数は年々増加している一方、通常大手の映画館では掛からないような作品を上映するミニシアターの相次ぐ閉館に象徴されるように、上映される作品の多様性は徐々に失われつつある状況にあると言えるのではないだろうか。これはまさに、映画をめぐる環境が「消費」主導型の市場原理に飲み込まれてしまっているのだと見做すことができるだろう。このような状況下において、映像に「文化」としての価値をいかに見出していくのか、そしてそれを認知してもらうために一般の人々に対してどのような働きかけを行うのか。これは映画のみならず映像について考える上ですべての人々が意識しなければならない問題であるはずだ。本書は、立命館大学映像学部における特殊講義「映像文化の創造と倫理Ⅰ アーカイヴと映像マネジメント」の2009年度講義の模様を採録した報告書である。前半では映画フィルムや資料を次世代に継承するための「アーカイヴ作業」、後半では映画を文化政策の対象として捉えて地域活性化の活動等に結びつけようと試みる「映像マネジメント」が講義の中心に据えられている。本講義における最大の特徴は、毎回これらの活動に第一線で携わっている人々がゲスト講師として講義を担当する点であろう。フィルムはもちろんのこと、短命に終わった映画規格やチラシ等の宣伝材料も等しく文化遺産として扱うことの意義、そしてそれらを活用していくための場を設ける必要性が現場における貴重な体験談を通じてダイレクトに伝わってくる本書は、読む人すべてに「映像は重要な文化遺産である」という認識を与えてくれるはずだ。また、「アーカイヴ作業」と「映像マネジメント」双方の一翼を担っている神戸映画資料館にとっても、本書は示唆に富んだ内容となっている。
(坂庄基/神戸映画資料館スタッフ)


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