今月の1冊WEBSPECIAL / BOOKREVIEW

yoraba「寄らば斬るぞ! 新国劇と剣劇の世界」

監修:児玉竜一
編者:羽鳥隆英
出版社:早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
発行年月:2014年11月

 

 

 

 2014年に早稲田大学での企画展『寄らば斬るぞ! 新国劇と剣劇の世界』と並行して刊行された本書は、同大学で坪内逍遥により演劇の基礎を学んだ澤田正二郎が1917年(大正6年)に設立した「新国劇」の意義を再考する論考集であり、また、同企画展の資料を効果的に散りばめた図録集としても見応えのある一冊である。
 タイトルの「寄らば斬るぞ!」というのは、澤正が帝国劇場で上山草人の『ファウスト』を観劇中に客と喧嘩になり、そのときの澤正の様子に端を発した表現で、鋭く迫力のある語調が新国劇の剣劇の魅力そのものを代弁している。もっとも、新国劇と言えば、こうして剣劇をまず連想させるが、それ以外にも初期の翻訳劇であったり、戦後の社会事件を扱ったものであったり、あるいはスポーツものまで、多様なジャンルについても詳しく言及され、新国劇のことを包括的に捉えている印象がある。
 さらに、新国劇の懐の深さを証明する論考として、他の芸能、娯楽との連携についてたびたび言及されている。なかでも、新国劇と映画との関係については複数の論者が注目している。新国劇は戦前には、当時新興の松竹映画(澤正映画出演第一作『懐かしき刀(力よ響け)』、伝統的な牧野(省三)映画(『國定忠治』)、さらに芸術的衣笠映画(衣笠の聯合芸術家協会第一作『月形半平太』)などと接触を持ち、戦後日本の主権回復後には、島田正吾・辰巳柳太郎の両看板以下、座員たちの時代劇への出演が目立ち、1950年代の黄金期の時代劇を大いに盛り立てるというように、日本映画と要衝で交流を図ってきた。こうした事実に着目しながら論考が展開され、従来は歌舞伎との関連で語られることが多い時代劇映画において、新国劇が果たしてきた役割を今後さらに検討していく必要性を抱かせるものであった。本書の編集を担当した羽鳥隆英氏が映画学の取り組むべき課題を提示してくれているが、本書は新国劇の豊かな歴史を教示してくれているだけでなく、今後探究されるべき豊かな研究的可能性を紹介した充実した読み物であった。

 

(北浦寛之/国際日本文化研究センター

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