今月の1冊WEBSPECIAL / BOOKREVIEW

seitokenetsu「性と検閲 日本とフランスの映画検閲と女性監督の性表現」

著者:園山水郷
出版社:彩流社
発行年月:2015年8月

 

 

 

猥褻とはなにか。
本書に『愛のコリーダ』を監督した大島渚の言葉の引用がある。「およそ表現されたものはすべて『猥褻』ではない。大胆に言えば、心の中にタブーを持つ人間ほど『猥褻』を感じるのである。子どもは何を見ても『猥褻』を感じたりしない。何かを見たくてしかたがないくせに、心の中にタブーがあって自らそれを禁じている人間があえてそれを見ようとする時『猥褻』が試される。その時、彼が見たかったものがすべて見せられたと感じる時、『猥褻』は消え、その心の中のタブーは消え、ひとつの解放がうまれる」
例えば身近なものなら立ち入り禁止の看板、映画なら上映禁止作品など禁じられたものに魅力を感じる人は多い。ではなぜ禁じられるのか。なぜいけないという気持ちがうまれるのか。どこがいけないのか。本書は日本初のハードコアポルノと言われた上記の『愛のコリーダ』や公開当時に猥褻物公然陳列容疑で監督の武智鉄二が起訴された『黒い雪』、著者の園山が映画の中の「性」に興味をもつきっかけとなった『ベーゼ・モア』、世界中で大ヒットを記録した女性向けソフトコアポルノの『エマニュエル夫人』、 日本で事実上のヘア解禁のきっかけとなった『美しき諍い女』など世間や社会を揺るがした様々な「性」の映画の紹介を絡めながら、時代と共に変化していく「性」と、著者や著名人が唱えた猥褻とはなにかという問題提起を共に読み解く1冊となっている。
全体は3部構成で、第1部は日本映画の検閲の変遷、第2部はフランス映画の検閲の変遷、第3部は女性監督が描く性について書かれている。
特に第1部の最後に掲載されている日本の検閲機関である映倫の審査員のインタビューは興味深い。一見、表現の自由と相反するようにみえる映倫だが、倫理面から映画を見る重要性やレイティングの必要性、法令への抵触の問題など表現の自由について改めて考えさせられる。
読後は映画の「性」の部分への新たな目が開かれて自分の中の猥褻観が更新され、そして観たい映画リストが更に長くなるのであった。

(佐々木直子/神戸映画保存ネットワーク スタッフ)

これまでの今月の1冊|神戸映画資料館