インタビューWEBSPECIAL / INTERVIEW
2017 5

『PARKS パークス』 瀬田なつき監督インタビュー

『パークス』 ⓒ2017本田プロモーションBAUS

『パークス』
ⓒ2017本田プロモーションBAUS

劇場用長編としては6年ぶりとなる瀬田なつき監督の最新作『PARKS パークス』が関西でも公開を迎えた。未完の50年前の音楽をきっかけに若者たち、そして東京・井の頭公園の過去と今とをつなぐ展開は重層的でありながら、この上なく軽やかだ。その折々にはさまれる「つまずき」も青春映画の陰影を深め、音楽が彩る多幸感とあわせて本作の魅力となっている。脚本・編集も手がけた監督にお話を訊いた。

 

──『5windows』(2012)が屋外=街で上映されたり、監督の映画と「街」とは少なからぬ縁があるように思います。撮る上でも街は魅力的な被写体ですか?

そうですね。街や風景は結構自由に撮れる印象があります。完全にフリーに、というわけではないですが、背景があれば撮れるなって。たとえ街が主役にならなくても、そこに住んでいる人には何か魅力がありますね。

──本作ではシナリオづくりの前から、吉祥寺をだいぶ歩かれたそうですね。

歩きました。私は吉祥寺生まれでもないし、子供の頃から井の頭公園に通っていたというような深い縁もありませんでした。今までは、バウスシアターに通う程度だったので、「まずは行ってみよう」と、色々なところを歩きました。

──監督は大阪府生まれですものね。

はい。たとえば私のように大阪で育った人でも楽しめて、これまで来たことが無くても吉祥寺に行ってみたくなったり、こんな街があるんだと知ってもらえるように──とはいえ、単純な観光名所巡りではない形で──街や公園を見せられれば。そういう思いで制作を始めました。

──関西で吉祥寺に似た雰囲気を感じる街はありますか?

考えてみたんですが、それに代わる場所があまり思い浮かばなくて。

──まず音楽についてお聞かせください。イメージを固めるために、監修を担当されたトクマルシューゴさんから、事前に多くの楽曲が送られてきたそうですね。

(劇中の)60年代につくられた曲を作るときは、日本の曲から海外のものまで当時の曲がドーッと送られてきて、「どういう方向性ですか?」と。海外の曲のほうがよく思えたので「こっちかな」と。「せつない曲よりは明るい曲を」という感じで、その中からざっくりとセレクトして、「こういう方向性でお願いします」というやり取りをしました。

──劇中歌『PARK MUSIC』(PARK MUSIC ALLSTARS)も、そのようにして出来上がっていったのでしょうか。

60年代につくられた曲から、広げていきました。60年代後半だとビートルズが上陸してしまうので、トクマルさんと相談して、それより前の時代の音に設定しました。で、ヴォーカルとギターでシンプルにつくられた曲がいいねって。ギターに、サイモン&ガーファンクルのようなデュエットが乗る構成にしてもらいました。

──60年代前半の音楽に、どんな印象を抱かれましたか?

やっぱりメロディーがはっきりしていて、歌詞が耳に入ってくるのをすごく感じました。今の楽曲は少し複雑な構成なので。

──20組以上のアーチストによる多くの楽曲が使われていますが、ミュージカルシーンはのぞいて、リハーサルや撮影時に現場で音楽を鳴らしていないですよね?

そうですね。現場で演奏しているシーン以外の曲は撮影しているときは一曲も出来ていなかったので、音楽は何も鳴ってなかったですね。

──監督の頭のなかでは、ある程度イメージとして鳴っていましたか?

いや、鳴っていませんでした(笑)。

──それにも関わらず、統一感が生まれた秘訣は?

『パークス』 ⓒ2017本田プロモーションBAUS

『パークス』
ⓒ2017本田プロモーションBAUS

それはトクマルさんや、参加してくださったみなさんの力ですね。編集を終えたあと、アーチストの方たちに「このシーンに合う、こういう方向性の曲を」と頼んでつくってもらいました。何度かやり取りはありましたが、20組ほどのミュージシャンはみんなバラバラなのに、それがひとつにまとまるのが不思議でしたね。私も最初は「どうなるんだろう?」と思っていたのが、面白い形で成立しました。私は「この音をこうしてください」と言えるほど音楽用語を知らないので、発注も「ちょっとセリフが聞きとりにくいので、どうしたらいいですか?」とか「あまり感情に寄り添いたくないんです」と抽象的なものでした。でも、それをトクマルさんがうまく変換して伝えてくださって、さらにいいものになっていきましたね。

──メインビジュアルにも使われている、公園でフィールド・レコーディングをおこなうシーン。そこで録った音は、実際に作品に活用されているのでしょうか。

そのままではないですが、録った音をジュラシック・パークスというバンドが公園で演奏するシーンに使っています。でも公園の音を公園での演奏シーンに使ったので、わかりにくくなってしまって(笑)。オリジナル・サウンドトラックでお聴きいただくと、染谷将太さん演じるトキオが『PARK MUSIC』(Jurassic Parks ver.)でラップするあたりに、鴨や象の鳴き声や鳥の羽音がささやかに入っています。トクマルさんに盛り込んでもらったので、画面をよくご覧になって、耳を澄ませて聴いていただければ。

──あのラップのシーンは、省略をうまく使ってテンポよく見せていますね。前に本作のゼネラル・プロデューサーの樋口泰人さんにお話を伺ったとき、「構成を追っていくと頭の体操にもなるし、画と音だけでも単純に気持ちいい映画だ」とおっしゃられていて、言い得て妙だと感じました。

そう言われれば、たしかに。どのシーンも「画と音だけでも好きだな」と思えるし、全体を通しても色々な見方が出来る。一枚のアルバムのように様々なシーンや音楽が集まっていて、トータルでも、パーツごとにも楽しめる作品になった気はします。

──全体で見ると、瀬田監督の「十八番」ともいえる形でタイムラインが編まれています。

今回は、井の頭公園100周年企画というのがまずあって、100年間の過去と今とちょっと先とを見せたい思いを、そのまま見せてしまった感じですね(笑)。回想よりは、「ふわっとした過去」というイメージで。過去をきっちりと再現するよりは、「イメージの過去」としてすっと入り込んでいけるほうが楽しいんじゃないかなと考えました。言葉では説明しづらいですが、不思議な形で過去と現在を行き来するストーリーになっています。

──その行き来がスムーズですね。

過去にいる存在の森岡龍さんや、過去と現在を往復して父の思い出を探す永野芽郁さんが、フラットに演じてくれたのが大きいように思いますね。

──過去のインタビューを読み返すと、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(2011)制作の頃は、『ビッグ・フィッシュ』(2003年)などの「嘘」をモチーフにした作品を参考にされたそうですが、今回は?

どういう話にしようかと色々悩んで、周りからも色々勧められて見ました。「街の映画」ということで、樋口さんからは「ウディ・アレン」と言われて、たくさん借りてきて見てみたり。でもそれが本作のどこに表れているかというと……ちょっとわからないですね(笑)。あとは音楽もので、参考になっていたかはわかりませんが、『クリーン』(2004)や『スクール・オブ・ロック』(2003)や『ジャージー・ボーイズ』(2014)なども。音楽をやっていなかった人が変わっていくという点ではつながっていますが、でもたいていの音楽映画はそうですよね(笑)。

──しかし、ミュージカルシーンとそのあとの展開からは、『ジャージー・ボーイズ』を思い出しました。多幸感と同時に空虚感もあって。そのバランスもいいなと感じました。

『パークス』 ⓒ2017本田プロモーションBAUS

『パークス』
ⓒ2017本田プロモーションBAUS

終盤に橋本愛さん演じるヒロイン・純が『PARK MUSIC』を歌うシーンがあって、橋本さんだけでなく、皆の表情がすごく素敵で幸せな気分になります。でもよくよく考えると、せつない部分もあるんですよね。

──もしかすると、青春ってそういうものなのかもしれないですね。

そうですね。そういう要素は入れたいなと考えていて。どこかにリミットがあって、将来のことを考えないといけなくなるまでの「ある時間」をうつせればいいなと最初に思っていました。

──ちなみに、瀬田監督の青春時代はどのようなものでしたか?

振り返ると……、どんよりですね(笑)。映画をたくさん見て楽しいという思いはありましたが、「この先どうなるんだろう」という、純と共通する不安もあって。でも、あまり反映させると暗い話になるので、自分の青春を物語に入れ混んだりはしてないです(笑)。橋本さんが演じることで、普通ならどんよりしそうなところが、ポジティヴというか、いい感じに混乱した様がうつっていてよかったなと思いました。

──葛藤はあるけれど、暗さは感じさせないですよね。映像面では光も効果的ですが、照明はほぼ自然光で?

夜のシーンで少しと、あと部屋のなかでちょっと焚きましたが、屋外のデイシーンは自然光で撮っています。

──光の柔らかさを重視してでしょうか。

カメラマンの佐々木靖之さんと、「この映画には作り込んでない公園を撮るほうが合っているんじゃないか」と事前に話しました。そうするためにスタッフも減らして、あまり時間をかけずに撮りたいときにさっと撮れる体制にして、照明で場所を固めずに、その場の空気や演技を撮っていこうと。ロメールが少人数のスタッフで撮っていたというエピソードもあるし、そういうフットワークの軽い小規模のスタイルで撮りたいと考えました。撮影をおこなった5月の光もとても綺麗で、それをそのまま撮れたのもよかったです。

──ほかに、佐々木さんと打ち合わせていたことはありますか?

シーンにもよりますが、役者の方が自由に動けるようにしようということで、なるべくカメラを動きに合わせるようにしました。多くの映画はバミり──立ち止まる位置──などを細かく決めますが、本作ではそういうことは一切せずに、好きなところに動いてもらい、それをカメラが追うスタイルでした。大きい流れの事前の段取りはするんですけど、現場で起こったことを切り取っていく。カメラマンだけでなく、録音や制作、助監督の皆で「それでいこう」と事前に打ち合わせました。

──俳優に委ねる部分が大きかったんですね。

「こういう設定なので、こんな気持ちで演じてください」と細かく言うのではなく、シチュエーションや「ちょっと楽しそうに」程度のことを二言三言言えば、皆さん理解して芝居をアレンジしてくださった。「これってどういうことですか?」と訊かれることもなかったので、そういう空気感もうつっているかもしれないですね。

──撮影では、オープニングの橋本さんが自転車で公園を駆けるシーンの滑らかさとスピード感もいいですね。トリュフォーの『あこがれ』(1958)も思い出しました。あれは改造した自転車を使ったとか?

電動自転車の後ろにリヤカーを付けて、それにカメラを乗せました。その電動自転車の後ろや脇を、橋本さんに移動してもらって撮ったんです。公園には車が入れないので、滑らかに並走するために佐々木さんが考案してくれた「公園システム」(笑)。これは今後も使えるんじゃないかと思いました。

──(自転車の画像を見せてもらい)なるほど、こうなっているんですね。映画の技術って、こうして進歩していくんだなと感じます(笑)。

ステディカムも使っていて、システムがアップデートしていきました。桜の時期に一日と、5月にもう1回撮影していて、2回目の撮影ではよりスムーズになっているかもしれません。

──自転車は監督の映画のトレードマークでもあるので、瀬田スタイルの最新型ですね。

でも、その周りを自転車に乗れなかった人たちが走りまくるという、謎の体育会系集団になっていました(笑)。橋本さんは、撮影用の自転車に近づいたり遠のいたりと、いい距離感を取ってくれて「さすがだな」と思いましたね。

──永野さんが演じるハルもユニークなキャラクターですね。彼女の存在が物語を多層的にしていて、様々な解釈をもたらします。たとえば樋口さんが、「井の頭公園の歴史をずっと見てきた弁天様の視点で描かれた物語にも見える」と話しておられて、なるほどと思ったのですが。

「弁天様視線説」ですよね。その説を唱えているのは、たぶん樋口さんだけかも(笑)。「樋口説」だけでなく、ご覧になった方それぞれの色々な見方がありますね。

──僕は、ハルを弁天様の化身・精霊ではないか思ったんです(笑)。

(笑)。でもそれはそれで面白いですね。いろんな方から様々な説を伺って、どれも「たしかに」と思えるんですよね。「ハル=精霊説」は初めてですが、そうかもしれないですね。ふわっとやって来て、純の背中を押して去っていくキャラクターですし。

──永野さんご自身が、フリーペーパー『PARKS パークスvol.4』で「ファンタジーな感じの役」と語っておられる通り、現実離れしたキャラクターですよね。

そうですね。これは……自分の意見を言ったほうがいいんでしょうか(笑)

──参考までに「瀬田説」を伺えれば(笑)。

『パークス』 ⓒ2017本田プロモーションBAUS

『パークス』
ⓒ2017本田プロモーションBAUS

「瀬田説」はですね、ハルはどこかから来て実在はするけど、途中から、もしかするとフィクションの人と捉えられるかもしれない。言い換えるなら「誰かの書いていた小説の登場人物かもしれないけど、そこからもはみ出てしまうような存在」。こう言うと「精霊説」に近くなりますけど(笑)。でも、私のなかでは実在する人物だったんです。

──「瀬田説」に基づいて、もう一度見てみないといけないですね。

でも、編集中に「天使のようだね」という話になっていたんです。だから「弁天様の申し子」かもしれない(笑)。

──逆に、純の書いているテキストの登場人物という見方も可能かもしれないですね。

そうですね。私はそういうイメージだったんです。裏返しになって、「純視点」でも見られるという発見がありました。後半から二転三転して、いろんな見方が出来ますよね。

──これだけいろんな説が錯綜(?)しているのに、最後までスムーズに見られて、メタ構造をあからさまに感じさせない編集も魅力だと思います。本作では、音楽先行でカットを割ることもあったのでは?

そうですね。劇中に演奏シーンが何箇所かあります。音楽をはめ変えたところもありますが、編集と同時進行で、音楽を付けるシーンがだいたいつながった時点で、トクマルさんに相談して「ここにこういう曲を付けたいんです」「じゃあこの人に頼みましょう」という流れでした。ざっくり決めながら編集して、新しく出来たら「次はこういう音で」と進めました。音楽チームの人は、普段はあまり劇伴をつくっている方々ではなかったので、「楽しんでつくってくれたらいいな」と思っていたのに、2週間とか3週間のすごくタイトなスケジュールで仕上げてもらったので、申し訳なかったです。あれ……、何だか反省みたいになってしまいました(笑)。

──いえいえ。編集するときに、つねに心がけておられることがあれば教えてください。

それはシンプルで、その人のいちばんいい演技や表情が見えるところ──主観的ですが──を選びます。人が魅力的に見えるところをメインにして、あとはそれがつながるようにがんばる感じ。撮影や別のスタッフの方は、「なんでこのカットを使っているんだ?」と疑問を持つと思うんですが、ポイントはそこですね。

──フィールド・レコーディングのシーンで、ハルが純とトキオに「この音を録って本当に意味があるの?」と問いかけます。映画づくりにも、それに似た状況がないでしょうか? 「このカット、必要なんですか?」という。

ああ……、その言葉は骨に沁みますね(笑)。編集する上で、「物語の効率」は少なからず考えないといけないことですが、でも人の面白い表情や動きはなるべく入れたい。その場でしか撮れなかったものは残したいですね。

──中盤に、橋本さんと麻田浩さんの「歳を重ねること」についての対話があります。前作から歳を重ねたことで、監督と映画との向き合い方に何か変化はありましたか?

映画への向き合い方……、うーん。つねに一杯一杯な感じはあります(笑)。歳を取っても成長していないのかもしれないけれど。でも、今までやったことのないことをやりたいなあと思います。麻田さんのセリフは、「寄り道を楽しむ」でしたね。私の場合は、洗練させていくよりも、新しい要素をたくさん入れていきたいですね。

──6年ぶりの劇場用長編をつくる上で、最も大きな挑戦は何だったでしょう。

かなり挑戦した気がしますね。ストーリーは重要ですが、そこからはみ出るものが、時間などの色々な要素と多層的に重なって、色々な見え方がするようになればいいなと。あとは公園がテーマだったので、重いものでなく、軽やかでスピード感のあるものにしたかった。その上で、登場人物たちの「その瞬間に起こっている何か」を多く取り込みたいと考えていました。撮り方も含めて。

──公園のボートのシーン。プロデューサーの松田広子さんによる本田拓夫さん(バウスシアター総支配人。本作では企画担当)へのインタビュー(『吉祥寺バウスシアター 映画から船出した映画館』所収)を読むと、バウスシアターの「バウ」は「船の先端」意味するそうですね。舳先を撮ったカットは、もしかしてそれを意識して?

いえ、今それを知って、これからはそう言おうと思いました(笑)。そうか、「バウ」って言うんですね。

──僕もこのインタビューで知ったのですが、そうらしいですね。では最後に、これから本作をご覧になる方へひとことお願いできますか?

吉祥寺や井の頭公園に行ったことの無い人も様々な楽しみ方が出来る映画だと思います。橋本さん、永野さん、染谷さんを見ているだけでも、あるいは曲を聴いているだけでもフックになるポイントがあると思うので、ぜひご覧ください。……ちょっとふわっしたPRですね(笑)。

──いや、いいと思います(笑)。付け加えると、樋口さんから、監督がシナリオを書きながら「自分には描きたいものが何も無いことがよくわかった(笑)」と冗談ぽく話していたと伺いました。また「物語よりも、表情や光や音のちょっとした変化だけで面白いものが撮れてしまう。それが瀬田マジック」ともお話されていて、随所にそれを感じました。

時間や空間など「こういうものを撮りたい」という抽象的なことはあるんですが、「このストーリーを語りたい!」というようなものが無いんですよね。……どうもマイナスなことを言っていますね(笑)。でも、訴えたいことや啓蒙したいことは無くて、見て体感してほしいという感じでしょうか。作品から何かを得てほしいというよりも、こういうカットとカットをつなぐとこんなことになるんだという、映画の原始的な楽しみを詰め込んだつもりです。

──むしろ最近は、そういう映画のほうが少ないかもしれません。つなぎが生むもの、そして瀬田マジックを楽しんでいただきたいですね。ありがとうございました。

(2017年3月 大阪にて)
取材・文/ラジオ関西『シネマキネマ』吉野大地

井の頭公園の映画『PARKS パークス』公式サイト
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