レポートWEBSPECIAL / REPORT

神戸映像アーカイブプロジェクト「ノンフィルム資料の保存と活用」
公開講座:映画関連資料の現在

開催日:2016年12月11日(日)
会場:神戸映画資料館
主催:神戸ドキュメンタリー映画祭実行委員会
神戸市 平成28年度まちの再生・活性化に寄与する文化芸術創造支援助成対象事業

記録② 実践報告4
講師:森下明彦(メディア・アーティスト/美術・音楽・パノラマ愛好家)

モデレーター:板倉史明(神戸大学准教授/神戸ドキュメンタリー映画祭実行委員会委員)
板倉:では最後になりましたが、4番目のご発表に移らせて頂きます。ご発表頂きますのはメディアアーティストでもあり美術・音楽・パノラマ愛好家でもいらっしゃる森下明彦さんです。これまで実験映画の自主製作もされて来た映像作家でもあり、幅広く映像メディアの文化や歴史についてご研究をされて来た方で、個人の資料、ノンフィルムのコレクターという立場からのお話しをして頂けるかと思います。ではよろしくお願い致します。

 

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横断的に見る ──── メディアの生態系

 ご紹介頂きました森下です。一番私が困っているのは、私がいったい誰かということなんです。未だに私は自分が果たして何をやってて、世の中に「こういうことをやっている森下です」とキチンと言えないんですね。今日もそういう得体の知れない、いわば鵺みたいな存在であることが、結局私がやってることに全て反映しているということをお話しして責めを塞ぎたいと思います。皆様方には今日2枚資料をお渡ししています。一つはA3の紙を折ったレジュメですね【別添】。基本的には今日私が言いたいことをこれに大体書いていますので、全部お話しするということはなくて部分的にここは大事だというところを取り上げていきたいと思います。それからもう一つは自己PRになりますけれど、こういうチラシを入れております(チラシ提示)。私がやっていることの一つの社会化の実験的な試みであるというと非常に大げさな言い方ですけれども、例としてお出ししております。
 それでまず私は誰か、ということですが、たとえばこのレジュメの私の名前の横に、「メディア・アーティスト」とあり、その後スラッシュなんですね、問題はここからです。「美術・音楽・パノラマ愛好家」と。これはたとえば講演会やトークに呼ばれたときに肩書きをどうしましょうというとき、新しい分野にいった際に付け加えてるんです。「パノラマ」というのはあとで説明しますが、私が昔から手掛けてきた分野です。3年ぐらい前に美術家のやなぎみわさんのお芝居に少しだけ呼ばれたとき、「肩書きどうする?」と訊かれて、じゃあパノラマやっているし、お芝居もパノラマに関するものでしたから新しく入れました。本来今日ここで話すためには「ノンフィルム愛好家」と入れなきゃいけなかったんですけれども、忘れてしまいまして、先ほどの岡田秀則さんの基調講演はじめ皆さんの非常に素晴らしい話を聴きながら、ああいけないと思っていたところです。
 私自身は正直言いますと映画マニアではないんです。1年間に400本も観たということは一切なく、もともと美術の分野から映像を活用していくということで始まっています。ですから先ほどの田中晋平さんの発表にあった阿部マーク・ノーネスさんとアーロン・ジェローさんの『日本映画研究へのガイドブック』の英語版の表紙に、飯島正の『シネマのABC』という本が見えましたが、あそこで使っている画像は多分ハンス・リヒターの『リズム23』(絵巻物)だと思います。ああいう世界がもともと私の固有の分野なんです。最近美術家が美術館で発表する作品に映像をたくさん使い始めていますが、そのはるか以前の70年代ぐらいから、いわゆる実験映画という形で取り組んでまいりました。ただ基本的には映画はあまり観てなくて、こういう実験映画のことを調べる中で、教養として、たとえばエイゼンシュテインを観たといったところです。あまりフィルムや映画に関するこだわりはないんです。ただし同じメディアですからどこかで共有するところがあって、必要に迫られて研究をしたり、あるいは資料が集まったというところです。
 じゃあ私の場合、どういう視点で今日皆さんにお話出来るかというと、「横断的」ということじゃないかと思っています。たとえば映画といっても、実は突然発明されて僕らに飛び込んできたわけではありません。最近話題になっているらしいですが、ヴァイタスコープの大阪での試写が日本最初であったとか、あるいは先ほども神戸でキネトスコープが公開されたということが言われましたけど、実はその前に幻灯というメディアが盛んになっていたのです。これは別に私だけじゃなく、今日いらっしゃっている松本夏樹さんもずっと以前から言っておられる。メディアというのは一つの単独のメディアだけでは存在し得ない、必ずその前があるし、同時代に興った別のメディアもあるだろう。先ほど神戸映画資料館の話でも、1950年代の労働運動で幻灯というメディアが活用されて、それが残されていて、今は鷲谷花さんという研究者が研究したり、再現上映したりしていて非常に面白いんです。幻灯は映画にも繋がっていくし、日本でいうと紙芝居にも繋がっていく。私のところにいろいろ集まってしまったものの中に紙芝居もたくさんありますし、私自身も作家としてはたとえば紙芝居の新作を作ったり、幻灯の作品を作ったりしています。そのようにメディアが一つの豊かな生態系を作っていることを強調したいと思います。ですから今回の主旨は、映画あるいはノンフィルムということに集中していますが、同時にフィルム以外のメディアに関する視点なり眼差しを忘れないで頂きたいと思います。
 
 レジュメに書きましたように、「ビブリオテーク」と勝手に騙っておりますが、奇しくも映画図書館(BiFi)ですか、パリのラングロワの所の名前と同じですが、本当に他意はありません。フランス語がキチンと読めないくせにフランス語が好きだということで、「ビブリオテーク208」と付けたということです。「208」というのは今借りている部屋の番号です。先程言いましたように私は自分のアイデンティティを分かっていなくて、まあ美術から映像に入ってきたと申し上げましたけれども、軽佻浮薄で、ちょっと興味があると何か手を出したりする。そういうことで映画に絞るとか、「これだけがある」といういわゆるコレクションではありません。コレクションの要件の一つは、単に集めるだけではなく、ある領域を定めてそこは完璧に集めるということだと思うんですけれども、そうでもなく、実に中途半端な存在だということを申し上げておきます。ですから収集に関しても、先ほどから皆さんがお話しになっていて、いろいろご苦労をされているんですけれども、私の場合は行き当たりばったりと言っていいと思います。最近それじゃいけないなと思って一つだけキチンとやろうとしていることがありますが、あとは本当にたまたま出てきたら買うとかですね。一つ鉄則があって、迷ってはいけない、出てきたら第一印象が良ければ買う。それだけは守っています。迷っていたら二度と手に入りません。過去に痛い経験があって、次でもいいかなと思っていたら、もう一生会えないということがあります。ですから本当に個人的な研究ですとか興味で集めたものが多いです。場所としては神戸市の三宮の市役所の裏にあります。今は個人的な伝手でお越し頂いた方に対応しているということで、積極的にこういうものがあるよと外に対してお話はしておりません。

morishita01 これはまだ出来た頃で、本棚すらないときです。ちなみに一番左にあるのは、アタナシウス・キルヒャーの著作です。ここではお見せ出来ませんが『光と影の偉大な術』もあります。幻灯の図版が初めて載った本だと言われているのが欲しくなって、何年かかけてキルヒャーの本を4冊ほど買ってしまい、その内の1冊です。先ほど写真で見せていただいた京都文化博物館のように綺麗にはなっていなくて、本当に個人の図書館ですので、こんな感じでやっております。

morishita02 私は美術、映像だけじゃなくて、他にデザインの歴史などの研究もやっています。先ほど「横断的」と申しましたが、要するにメディアの歴史をやるということだから単に映画だけに留まらない、他のメディアとの相関的な関係を大事にしたいということになります。でもそうすると、より広くなりますから、今までのお話しのように映画あるいはノンフィルムをやるだけでもものすごく大変なのに、さらに他のメディアまでお前やれるのかといわれても絶対やれません。だから結局、中途半端で終ってしまっています。

morishita4 借りているスペースはもともと一時画廊で、一部分は資料を溜めずにこういう空間を作っていました。今はここも可哀想な状況になっています。それで、何をしているかというと、先ほどのチラシがそうなんですが、この些細な資料室に来て頂くのは忍びない、あるいは無理なので、「移動美術資料室」ということで私の方から出かけて行っております。
 その「移動美術資料室」を何回かやっていますが、それについて少しお話しします。神戸にC.A.P.という美術家の皆さんの集団が場を置いている、かつてブラジルへ向かう方々のための神戸移住センターだった面白い場所があります。そこに出かけて20回ほど観て頂きました。このレジュメにも書きましたが、確かに個人のプライベートなコレクションというか雑多なものたちではあるんですが、何とかして社会に開きたい。図書館とかフィルムセンターのような組織でもないが、パブリックでありたいというところの一つの妥協策といいますか知恵といいますか。
 大阪に出かけて行って、主に美術的な観点からの「アーティスツ・ブック」というジャンルがあるんですけれども、それを皆さんにご覧頂いたこともありました。
 お手元にお配りしたチラシには来年1月から月1回、「移動美術資料室」が西宮に行くということでお渡ししております。やや会費が高いので非常に恐縮ですが、ご興味があればいらして頂ければと思います。

パノラマ解説絵図「【仮題:普仏戦争セダンの戦い】」(大阪難波停車場前パノラマ館/1891年1月)

パノラマ解説絵図「【仮題:普仏戦争セダンの戦い】」(大阪難波停車場前パノラマ館/1891年1月)

 あとは具体的な実例のお話、あるいは問題提起として、僕もよく分からない資料がたくさんあって、お知恵を拝借できればと思います。これはパノラマという明治時代にあった非常に大きな360°の円周が絵になって、その中に人間が入って観察するものです。残念ながら日本には残っていないんですが、海外にはまだ30箇所ぐらい残っています。これは難波の、ちょうどヴァイタスコープの試写が行われたという福岡鉄工所があった場所の少し北、今の髙島屋の東側あたりにあった非常に大きな日本を代表するパノラマ館の解説の図です。これはセダンの戦いという普仏戦争がモデルになっているものですが、中に入って絵に描かれたものを見て、解説を読んで、勉強するためのものでした。縦長のものは結構出回っていて、『大阪春秋』(第127号)という雑誌で復刻版が付録にもなっていますが、この横長のものは珍しいのではないかと思ってお見せ致しました。

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パノラマ館ポスター【?】「普仏戦争大油画」(発行元不詳【大阪難波停車場前パノラマ館?】/19世紀末)

 これがよくわからないので今日持ってきたんですが、普仏戦争の大油画パノラマとされていますが、南北戦争のポスターが書き変えられているんですね。だから真ん中にグラント将軍がいます。こんなことができていいんだろうか。ただし絵としてはすごく綺麗で、パノラマ館がもっているきらびやかさと、萩原朔太郎も詩にしているある種の悲しみがよく表われたポスターじゃないかと思います。ところがこの左下にポスターを作った製版の会社が出ているんです。それが京都の新京極の七宝堂というところです。新京極といいますとご存知のように京都で最初に映画が上映されたところですが、実は北の方に一つパノラマ館があったんですね。今はMOVIX京都のところにあった。
 そういうことで、若干時期はずれますが、実は京都の場合あるいは大阪の場合もそうですが、映画上映会場の近くにパノラマ館があったのです。大阪難波でシネマトグラフ、あるいはバイタスコープが上映されたときには、さっきの難波のパノラマ館はもうなくなっていましたが、他の場所にありました。同じように京都も新京極のパノラマ館は多分なくなっていたはずですが、京都市内の別のところにまだパノラマ館があった。そういうことを考えるのに役に立つ一つの資料じゃないかと思いますし、先ほどから言ってますように横断的にメディアの生態系を見ていく必要があると思っています。

「全世界唯一観物 シネマトグラフの広告」(仏国自動幻画協会/19世紀末)

「全世界唯一観物 シネマトグラフの広告」(仏国自動幻画協会/19世紀末)

 これも教えて頂きたいんですけれどもリュミエールのですね、京都での上映の後に仏国自動幻画協会が作っていたらしいポスターです。これがまた右下にハンコが押してあって、先ほどのと同じ新京極の七宝堂なんです。こうなりますと印刷の歴史、あるいは印刷を担っていた会社のことを勉強しなきゃいけないということで、ますます拡散して中途半端になるということです。

絵葉書:駒田好洋(20世紀初頭)

絵葉書:駒田好洋(20世紀初頭)

 こちらはこの前たまたま300円で買って来た駒田好洋の写真です。駒田好洋の写真は結構あるんですが、彼が率いていた二つの楽隊が出てくるんですね。東京高等音楽隊とか何とか、その写真で重要だと思うんです。ちなみに絵葉書というのはご存知のように私製の絵葉書が解禁されたのは1900年ですから、おそらくそれ以降ですね。

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「ベビーノート」(札幌ベビー映画會合/第2号/1927年7月)、「ベビーシネマ」(京都ベビーシネマ協会/第1巻第9号/1928年10月号)、「ベビーキネマ」(ベビー・キネマ・クラブ/第2号/1927年9月)

 先ほど、適当に集まったものをそのまま留め置いてると言いましたが、一つだけ今頑張って調べているのが、田中晋平さんの発表にもありました森紅という方を初めとする戦前の、特に関西のアマチュア映像作家の存在です。そのアマチュア映画の作家たちがパテーベビーのクラブを作っていました。パテーベビーならそういう雑誌を集めなきゃいけないということで、今頑張ってやっております。中央は、「京都ベビーシネマ協会」の雑誌で、以前に神戸映画資料館でその映画が上映されたんですが、若葉馨という俳優さんが自分の娘を使って撮影していました。ちなみにこの頃に依田義賢さんも俳優としてこういうアマチュア映画に出演していたということが別の雑誌に記録されています。右は大阪でできたもので、左が札幌の同好会の雑誌です。これは今フィルムセンターや神戸映画資料館のリストを見てもなかなかなくて、あっても断片的で、戦前の映像の研究者のネットワークみたいなものを作っていかなきゃならないのかなと思っています。

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「パテーベビー映写会」ポスター(名古屋パテーベビー倶楽部/1920年代〜30年代)

 最後にお見せするのは、名古屋で行われたパテーベビーの映写会のポスターです。パテーベビーは撮影だけではなく、今のTSUTAYAでDVD借りるように、パテーベビーになった有名な作品を家庭で観たり、あるいはこのような上映会で、アベル・ガンスの『ナポレオン』が当時上映されていました。残念ながらこういうノンフィルム資料にありがちなことですが年号がなく、この場合は曜日すらないので、いつのことか少し分からない。1920年代か30年代かなと思っています。
 本当に取り止めもない話でしたが、一つだけ繰り返しておきますと、「ノンノンフィルム」といいますか、メディアの生態系というところで、幅広く見ていく必要があるんじゃないかということを申しまして私の報告にしたいと思います。どうもありがとうございました。

板倉:森下さんどうもありがとうございました。映画の歴史に留まらない、その他の文化や芸術、芸能との横断性という観点からノンフィルム資料を位置付け直すということの重要性を教えて頂いたような気がします。どうもありがとうございました。
ではこのあと休憩をはさんでディスカッションを始めたいと思います。


→記録① 基調講演


→記録② 実践報告1

→記録② 実践報告2[準備中]

→記録② 実践報告3

順次公開を予定しています。
記録③ ディスカッション[準備中]


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