レポートWEBSPECIAL / REPORT
2017 6

神戸映像アーカイブプロジェクト「ノンフィルム資料の保存と活用」
公開講座:映画関連資料の現在

開催日:2016年12月11日(日)
会場:神戸映画資料館
主催:神戸ドキュメンタリー映画祭実行委員会
神戸市 平成28年度まちの再生・活性化に寄与する文化芸術創造支援助成対象事業

記録② 実践報告3
講師:田中晋平(神戸映画保存ネットワーク客員研究員)

モデレーター:板倉史明(神戸大学准教授/神戸ドキュメンタリー映画祭実行委員会委員)
板倉:では引き続き、3番目のご発表に移らせて頂きたいと思います。3番目は映画保存ネットワーク客員研究員の田中晋平さんです。この神戸映画保存ネットワークが現在この神戸映画資料館の所蔵資料の整理をしているという関係にあるのですが、その客員研究員として今日はお話し頂きます。田中晋平さんはこれまでは戦後の自主映画の歴史についてずっとご研究をされて来ておりますが、そのなかでやはり、どういうふうに映画が上映されたのかということを考える際にはこのノンフィルム資料、ポスターだったり当時の上映記録だったり、そういった資料を活用されて来たということもあって、現在、神戸映画資料館のノンフィルム資料の整理に携わっておられます。よろしくお願いします。

 

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神戸映画資料館の所蔵するノンフィルムの整理と活用

kobe01 よろしくお願いします。神戸映画資料館は2007年に開館して来年で10周年を迎えます。もともと1974年に大阪で誕生したプラネット映画資料図書館が長年収集してきた資料を母体として、映画フィルムに加えて映画関連書籍、ポスターなど、膨大なノンフィルムの保管・整理作業を進めてきました。国でも自治体でもない民間のアーカイブという性質のため、予算や保存場所に苦労し続けてきた歴史がありますが、だからこそ他の機関が収集の対象としない資料まで積極的に収集してきた面もあります。実は私自身は、今年の6月から映画資料館の活動に加わったので、アーカイブの仕事に関わってからとても日が浅い人間です。もともと1970年代頃に関西で活動していた自主上映グループに関心がありまして、当時のシネクラブの会報や上映会のチラシなどの資料を閲覧させてもらうために資料館を訪ねていました。ビデオやDVDもなく、過去の名作や海外の観たい映画を観るのが容易でなかった時代に、自分たちでフィルムを輸入したり、映画を観る場所を確保していた活動に興味があって、70年代から自主上映を行なってきたプラネットの活動も取材したいと考えていました。つまり最初は資料館が所蔵しているノンフィルムに研究対象として接していたわけです。

さておおよそですが、現在神戸映画資料館が所蔵している映画フィルムは、約17,000本、書籍・映画雑誌が10,000冊あります。あと映画祭のカタログやパンフレット、シナリオ、ポスター、チラシ、ロビーカード、絵看板、あるいは映写機材や撮影機材、編集機材、録音機材といった技術資料も多く抱えています。書籍や雑誌の一部はシアターの横にある閲覧室やロビーで読むことが可能ですが、ほとんどの資料は倉庫にある程度整理された状態で保管しています。すべてを紹介することはできませんので、今回は簡単に資料収集の経緯に触れてから、地域のボランティアや大学の研究者と共に進めてきたノンフィルムの整理と活用の状況をお話します。

ノンフィルム資料とは

先ほど岡田さんの講演で、「ノンフィルム」とはどのようなものかが非常に明確化されましたが、そこでも映画史から失われたフィルムの存在が書籍や雑誌とか、紙媒体のポスターとか写真などに、かろうじて痕跡を留めているということが述べられていました。これを拡張すれば、ノンフィルムは、映画が過去に製作された経緯や、映画をさまざまな場所で鑑賞してきた人々の文化の記憶なども、甦らせる媒体として捉えられるのではないか思います。

kobe02 たとえば、こちらは戦前からおそらく駄菓子屋などに置いてあったもので、子供たちがお菓子を買った値段に応じて、紐で束ねられている袋を引くと、中に映画スターの写真などが入っているものです。子供たちが出入りするような場所にも浸透していた映画文化を伝える資料かと思います。

kobe03 こちらは海外から購入したフィルムを上映する際にスクリーンに投影していた日本語字幕のスライドです。少し技術的な話になりますが、このスライドをセットしたプロジェクターと、スピードコントロールが付いたカセットデッキをシンクロナイザーで繋いで投影するという方式がかつて採られていました。画像は、ルネ・ラルー監督の『ファンタスティック・プラネット』とジャン・コクトーの『オルフェ』のスライドです。他にも字幕投影のシステムはありますが、それぞれ上映する人たちの試行錯誤の痕跡が認められます。後ほど、こうした映画文化の地層を浮かび上がらせるようなノンフィルムも紹介したいと思います。

収集方法

まず神戸映画資料館のノンフィルム資料が、どのように収集されてきたかという点ですが、元々はプラネット映画資料図書館の設立時に当初のメンバーが本や雑誌などを持ち寄っていた段階がありました。そこから館長の安井喜雄さんが古書展などで購入してきた資料も加わります。また目的別の分類に馴染まないような映画人やコレクターの個人資料、京都文化博物館では「文庫形式」として整理されているとのことでしたが、たとえば佐藤重臣のような有名なコレクターやその遺族の方から寄贈されたもの、あるいは映画館やかつての映画サークルなどから寄せられた資料も多くあります。成城大学の鷲谷花さんが映画資料館の所蔵している昔の労働運動関係の幻灯の調査研究、ワークショップなどを開催していますが、その資料も過去に全大阪映画サークル協議会から寄贈されたものです。このいま喋っているマイクやそのスタンドと普段上映で使っている35ミリの映写機も、東京の西武百貨店池袋店にあった「スタジオ200」で使用されていたものです。他にも映画会社やテレビ局から譲り受けた台本・ポスター・プレス資料があります。
ではこうした資料の整理状況についてですが、やはり苦労を重ねてきた歴史があります。話題の入り口として、2009年にミシガン大学から出版され、今年日本語訳が出たマーク・ノーネスさんとアーロン・ジェローさんの『日本映画研究へのガイドブック』という本に触れておきます。日本映画の研究者向けにアーカイブの情報や基本文献などを記した本ですが、フィルムセンターはもちろん、京都文化博物館、東映太秦映画村の情報も記載されています。その中に神戸映画資料館も、すごく重要な情報源で「型破りなアーカイブ」と紹介されていますが、次のようにも書かれているんです。「資料館の分類システムは大きく3つのカテゴリーにしか分けられていない。フィルムの場所、機材の場所、書類の場所。それぞれの場所はカタツムリのような空間になっていて、迷路のようで何とか通り抜けられる幅しかない。つまり資料へのアクセスに問題がある。安井館長が覚えてなければその資料はもう存在していないも同然である。神戸映画資料館ではコンピューターで利用できるカタログを作成中だが、ほとんどの資料は未だに箱や紙の束の中だ」、と。実際、こうした指摘がなされざるを得ない状況が続いてきたことは、2010年頃にまとめられた神戸映画資料館の年間報告に記した資料の整理状況からも確認できます。その報告によると、まずプラネットが大阪で活動していた時代は、資料が山積みにされ、未整理のまま部屋に置いてある状態が長く続いていました。神戸映画資料館の設立後、上映活動と共に収集してきたフィルムの状態の確認、同定調査が進められる一方、開館当初から書籍や雑誌、パンフレットなどは、書誌情報のデータ入力を始めています。ただ、そのほかのノンフィルムの整理作業は「未分類」や「中断」と記されていて、要するにあまり進んでいませんでした。しかし、こうした状況は2013年から神戸市の助成を受けて行なわれている「神戸映像アーカイブプロジェクト」の中で神戸映画資料館のフィルムの調査と共にノンフィルムの整備を進められてきたことで徐々に改善しています。今回モデレーターを務めて頂いている板倉史明さんもプロジェクトを中心的に進めてくださっていますが、その中で掲げてきたのが「市民参加型のアーカイブ事業」というものです。
映画資料館は、開館当初から神戸や新長田という地域でどういう役割を果たすのかということで、試行錯誤をしてきました。エジソンのキネトスコープが日本で最初に公開された街で、淀川長治が生まれた神戸は、映画というメディアと深い繋がりをもつ都市です。たとえば、地元紙の神戸新聞で兵庫県の映画史をテーマに連載している「キネマコウベ」に資料提供を行なってきました。また、阪神・淡路大震災を経験した街の記憶を継承する試みとして、市民が撮影した震災の映像を上映し、その記録映像集を閲覧室で視聴できるようにしています。こういった地域との関わりの中でノンフィルム資料の整理・保存に関しても、市民の方々に参加を求めてきました。映画と街の歴史に関心を向けてもらったり、世代の異なる市民や学生の交流の機会、場にもなればと考えています。

ノンフィルムと地域連携

kobe04 そもそもノンフィルムの大きな特徴として、専門家でなければ扱うことの難しい映画フィルムと比べ、すべてではありませんが、気軽に整理作業に参加できる点が挙げられます。具体的には、現在は映画資料館が入っている「アスタくにづか」のビルの中に空いている部屋を借り、月1回のペースで市民のボランティアの方々に参加してもらい、分類したチラシをファイルのポケットに封入していく作業を進めています。「トライアルウィーク」という兵庫県の中学生たちが職場体験などを通じて地域について学ぶ取り組みがありますが、その一環としてチラシの整理を手伝ってもらったこともあります。単純作業ですが、気になった映画のチラシの情報やデザインの面白さなどに見入っている子供たちの姿も見られました。

kobe05 地域の中での技術資料の活用例も少し紹介します。これは神戸映画資料館のすぐ近くにある小学校を改修した「ふたば学舎」で今年の10月に行なわれた「ホーム・ムービーの日」というイベントの模様です。地域や家庭の中に残っているフィルムを持ち寄って上映するという試みで、近年世界中で開催されています。神戸でも2007年の開館時からほぼ毎年この「ホーム・ムービーの日」を開催していますが、8ミリのフィルムなどを上映するために映画資料館の映写機などの機材を持ち込んでいます。こういう技術資料の保存は、資料的価値や上映会での活用のみでなく、たとえば現在の映画資料館で使用している映写機が壊れた場合などに、同じ型の映写機の中から修理に必要な部品を確保するということもあり得ます。倉庫の中でもかなりのスペースを占めますが、そういった実用性からも保存の意義を強調できます。

ノンフィルムの研究活用

地域の大学と資料館との関わりという点では、神戸大学で2013年から2014年の期間の地域連携事業「映像を媒体としたアーカイブと地域連携」において、板倉さんや大学院生を中心に映画資料館所蔵のスチール写真3,000点、プレスシート、ポスター約1,500点の分類作業を行ない、目録を作成してもらいました。映画資料館で発見された森紅の映画フィルムに入っていたホノマトンというアマチュア用の録音レコードの調査も進めてもらいました。また過去に神戸学院大学でも、学生を中心に資料館所蔵の映画ポスターを邦画・洋画・アニメ・成人映画などに分け、邦画は配給会社ごとに、洋画は製作国ごとに分類する作業と目録作りを行なってもらったことがあります。
先程のガイドブックのように、神戸映画資料館には海外の研究者からも問い合わせが寄せられます。市民ボランティアの方々の場合とは違い、研究者は他の機関の所蔵している資料とも見比べながら、資料のコンテクストを再構成していくということを行います。さまざまなノンフィルム資料のネットワークの中で、それぞれのアーカイブが持っている書籍やポスターなどの価値を判断し、研究に活用していくわけです。これまでにも映画資料館のノンフィルムに注目して、映画の配給とか興行、宣伝の歴史などについて記事や論文も執筆されてきました。たとえば岡田さんの講演でも取り上げられていた、戦前期の日本の映画館が毎週無料で発行していた映画館プログラムを、神戸映画資料館では約4,000冊所蔵してます。当時の観客はこれを読んで上映作品の予告情報を知り、投稿欄などで他の観客とコミュニケーションをとっていました。神戸にあるプログラムの半数以上は関西圏の映画館が発行していたもので、いまそれを早稲田大学の演劇博物館が持っているプログラムと照らし合わせながら東京大学大学院の近藤和都さんが資料のスキャンと作成したデータファイルの分類を進めています。

kobe06これは戦後の関西圏における映画文化の貴重な資料の事例ですが、かつて梅田にあったATGの封切館だった「北野シネマ」で発行していた『Art Cinema Osaka Group』という冊子です。さらにその観客の有志が集まって「大阪シネクラブ研究会」という組織が生まれ、ヨーロッパの古典映画や海外の名作などを上映していました。こういった冊子や上映活動は、報告をしている私自身が関心をもっておりまして、今後調査や研究を進めたいと考えております。

kobe07他にも過去の自主上映や映画祭などへの関心から、専門的な知識が必要な特集上映のチラシの分類を行なっていますが、こちらは70年の万国博覧会の会期中に大阪で開かれていた「第1回日本国際映画祭」のチラシです。当時の東映の社長だった大川博が中心となり、各映画会社が集って開催されました。近年も大阪万博自体は、建築や現代美術などへの関心から注目される機会が多いですが、多くの映画人が来日したり、世界各国からの日本未公開作品が上映されたこの映画祭については、これまでに調査・研究がなされてきた形跡がほとんどありません。当時は撮影所システムの崩壊していった転換期でもあり、70年に日本でこうした催しを映画会社が主導した意義を考える上でも、重要な資料ではないでしょうか。

kobe08これは先日亡くなった荒戸源次郎が製作・配給・興行にのりだして作った鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』のチラシです。本作は「シネマ・プラセット」という移動式のドーム型映画館を東京タワーの下に設置して、その中で上映されて大きな話題を呼びましたが、チラシには、上映作品の第2弾として内藤誠監督の『時の娘』、そして第3弾に題未定の大和屋竺監督の作品が予告されています。この作品は後に『スイング』というタイトルに決まるようですが、結局映画としては完成していません。

kobe09こちらは70年代後半に全国の自主上映グループが集まった「シネマテーク・ジャポネーズ」という組織で共同配給していた映画の上映会のチラシとパンフレットです。当時日本で見る機会の少なかったポーランド派の映画などを輸入し、字幕も自分たちで作って上映を行いました。こうしたノンフィルムを保存しておかなければ、現在の多様化した映像環境の中で、観たい映画を自ら上映する活動の意義を想像することは、難しくなっていくのではないでしょうか。

kobe10最後にお見せするのは京都のシネマ・ダールという上映グループとプラネット映画資料図書館が共同で開催した上映会の写真です。シネマ・ダールの景山理さんは、後に大阪で『映画新聞』を発行し、1997年にシネ・ヌーヴォという映画館を開館します。その景山さんも70年代に上映活動を続けていた頃、プラネットが収集していた過去の映画の関連資料を活用させてもらって、上映会のチラシやパンフレットを作成していました。それから40年経っていますが、プラネットが上映グループや研究者にフィルムやノンフィルムを提供し、公開してきた、歴史があって、現在の神戸映画資料館の活動も存在します。
簡単に資料館のノンフィルムの収集や整理状況、活用事例などをご報告しました。今日お越しの一般の方や研究者の方も、よろしければアーカイブの活動にご協力頂きたいと思います。ただノンフィルムの保存や公開の方法については、まだまだ手探りの状態で倉庫に積み重ねているだけの資料もたくさんあります。保存場所自体も整理拡充が必要です。後のディスカッションや明日の勉強会も踏まえて、今後の方向性を探りたいと思っています。ありがとうございました。

板倉:田中さんどうもありがとうございました。どう研究に活用していくのか、そしてどうノンフィルムを資料館の外に開いて行くのかということで地域の連携だったり、あとは機材の活用というのが非常に興味深かったと思います。どうもありがとうございました。。


→記録① 基調講演


→記録② 実践報告1

→記録② 実践報告2[準備中]

→記録② 実践報告4

順次公開を予定しています。
記録③ ディスカッション[準備中]


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