ワークショップWORKSHOP
2009 8

神戸映画ワークショップ2009
「準備セミナー」レポート

坂庄基(ワークショップサポートスタッフ)
現代を生きる私たちにとって、映像とは生まれたときから当たり前のように存在していたものである。しかし、映像技術の発達とは裏腹に、私たちは以前よりも映像と真摯に向き合っていないのではないだろうか。主任講師・富岡邦彦氏のそんな問いかけから神戸映画ワークショップ2009前記講座はスタートした。確かに、映像が氾濫し無意識のうちに消費されていってしまう現代社会において、私たちは「映像の読み方」という大切なものを徐々に失いつつあるように思われる。富岡講師は最初の講義で、そのような傾向が確実にあることを指摘した上で、そうあってはならないと警鐘を鳴らした。では、我々が失いつつあるこの「映像の読み方」とは一体どのようなものなのか?富岡講師はまず映画の歴史を振り返ることから授業を始めた。

突然100年以上の時を遡って、映画が発明されるまでの歴史的過程から話し始めた富岡講師に面食らった受講生もいただろう。しかし、現在我々があまりに手軽に接している映画というものがどのように誕生したのかを知ることは、これから映像製作の現場に携わっていこうという志を持っている人々にとって避けては通れないプロセスであるだろう。なぜなら、ただカメラを置いて事物をありのままに記録するところから始まった映画が、現在の形になるまでに経験してきた進化の過程を知ることはつまり、映画とは実際どのような要素で構成されているものであるのかを考えてみる良い機会になるからだ。

例えば、「映画はたくさんのショットの組み合わせによってできている」という今では至極当然のように思われる事実は、最初期の映画には当てはまらない。なぜなら、当時は「ショットを割る」という概念が存在していなかったからだ。それでは、ショットを割ることによって何が映画にもたらされたのか? このように、映画が徐々に独自の画期性を獲得していった歴史的過程を探っていくことは、それぞれの技法が作品上で担っている役割を再確認していくことに繋がる。そしてそのような行為によってなされる分析から身についていく観点こそ、まさに「映像の読み方」であるに違いない。それは、これから映画作品の誕生に関わっていこうとする人々にとって最良の手引きとなるであろう。

思うに、映画製作に携わるということは、映画とまったく新しい関係を築くことを意味するであろう。「消費する側」から「生み出す側」への転換。そこには、以前とは異なる映画との関係が間違いなく成立している。しかし、ビデオ・カメラが一般家庭に当たり前のように普及し誰もが容易に映像を撮れてしまう現代、「自主映画」というタームはあまりに曖昧だ。下手をすれば、素人の自己満足に終始してしまう可能性もある。むやみやたらにカメラを回して事物を捉えただけの作品は、もはや「映画」とは呼べないだろう。本ワークショップが目指すのは、自主的に制作した作品を最終的に「映画」というフォーマットできちんとかたちにすることができる人材の育成である。そのためには、実践だけではなく、「映像の読み方」という基本的だが一番難しいと思われることも受講生は習得していく必要があると思われる。このような理論的な知識も含めて、本ワークショップでは映画と新しい関係を築くために最低限必要な何かを確実に得ることができるだろう。神戸映画ワークショップは、将来映画製作に関わっていきたいと考える人々にとって、その世界に足を踏み入れるための絶好の機会となるはずだ。

5月9日 第1回

(コース合同)
映画が誕生した歴史的な背景を富岡講師が説明後、神戸映画資料館収蔵の文化映画『四つの魂』(森要監督 1925年)を上映。上映後、映画作品の感想も含めて自己紹介。その後、今回のワークショップの課題台本が配付される。今回はあるクラシックな日本映画のシナリオを使用。主に裁判シーンを含んでいる。

5月23日 第2回

(制作・監督コース)
課題台本の舞台となる1961年について当時のニュース映画などを見ながら考察する。その後、『The Unchanging Sea』(D.W.グリフィス監督 1910年)を見る。この作品では、同じ構図で海を捉えたシーンが何度も映し出されるのだが、それらのシーンから感じ取れる感情は毎回異なっている。そのようなことに注目しながら、短編の1つのお手本として観賞。その後、この作品がいくつのシーンで構成されていたのかを数え、各シーンを分析。

(俳優コース)
どのようにして身振りだけで相手に意思を伝えるのか?また、見ている側はそれをどのように感じるのか?実際に無言で演技をすることによって、これらのことを考察する。

6月6日 第3回

(制作・監督コース)
キャスティング、ロケーション、各スタッフの役割などに言及しながら、映画製作全体の大まかな流れについて説明。また、課題台本を用いて香盤表(各シーンの出演者、撮影場所、必要な小物などが詳細に記載されている撮影スケジュール表)の作り方を学ぶ。その後、『ばかのハコ船』(山下敦弘監督 2002年)の脚本の1シーンを受講生それぞれがカット割りし、完成品と見比べる。

(俳優コース)
自分が普段演じたくない(自分に向いていない)と思うキャラクターを演じて、見ている側がどのようにそれに反応するかを見る。あえて自分に向いていないと思われるキャラクターを演じてみることで、あらゆる可能性を試し、自分の中にある壁を壊してみようと努力してみる。

6月20日 第4回

ゲスト講師として万田邦敏監督が参加。富岡講師を聞き手として、主に最新作『接吻』の製作過程を振り返っていただく。小池栄子、豊川悦司、仲村トオルら主要キャストのキャスティングに関してや、万田監督が固執する「三角関係」という主題に関してなど多岐にわたるお話をしていただく。その後、各コースに分かれる。

(制作・監督コース)
もう一度台本を読み直してシノプシスを作成。それぞれのシノプシスをもとに、演出上重要になるであろうポイントを発表する。その後、「裁判をいかに映画にするか」というテーマのもと、『接吻』で実際に裁判シーンを演出された万田監督に再びお話をしていただく。

(俳優コース)
実際にカメラを回しながら、あらかじめ設定だけが決められたキャラクターを全員が演じ、台本なしの即興で1シーン撮ってみる。その後それを見直して、それぞれの演技におけるクセを確認する。

7月4日 第5回

(制作・監督コース)
課題台本を読み返しながらカット割りを行う。その後、それぞれの受講生がどのようにカットを割ったのかを全員で確認しながら、カットを割る際に重要となるポイントを話し合う。

(俳優コース)
全員で台本の読み合わせ。その後、一時的にそれぞれの受講生にキャラクターを割り当てる。

(コース合同)最後に、演出のイメージをつかませるために、製作・監督コースの受講生の前で俳優コースの受講生に実際に課題台本のシーンを演じてもらう。



 

2009 前期講座

【俳優コース】【監督・制作コース】

神戸映画ワークショップ2009前期・夏期集中講座への申込み受付は終了しました
 

8月22日(土)特別公開講座「日・韓の俳優を通して映画を知ろう」
「日・韓の俳優を通して映画を知ろう」
一般の方もご参加いただけます。

  
俳優、監督、制作スタッフ、技術
 これらを求めるすべての俳優、製作者に向けたワークショップ

俳優コースは、映像における演技の具体的な実習を通じて“どう映るのか”を体験し、映像作品に求められる演技を学びます。
制作・監督コースは世界のインディペンデント映画の現状をふまえた制作術を指導します。
自主映画制作に必要な過程を丁寧に追うことで、全体の流れと、制作スタッフならびに俳優に求められる具体的な役割を実践しながら学んでいきます。
夏期集中講座では、両コース合同で日本映画のクラシックシナリオの一部を映像化します。
「撮影準備セミナー」の三ヶ月間は、個々の受講者が講義の内容を咀嚼し、発展させる重要な期間です。
 
 
 日 程 
【撮影準備セミナー】全7回 ほぼ隔週土曜日 各13:00〜18:00

コース講義概要
5月9日(土)   1ガイダンス     (合同)制作部・演出部・俳優部それぞれの役割認識
5月23日(土) 2シナリオの読み方 (俳優)台詞なし=動きだけで表現

(制作)シナリオをいかに映像化するのか
6月6日(土) 3シそれぞれの準備 (俳優)未知のキャラクターを引き出す

(制作)制作概論
6月20日(土) 4シナリオの展開 (合同)ゲスト講師:万田邦敏監督
7月4日(土) 5映画制作のチームワーク (俳優)課題シナリオを使って演技の実習

(制作)制作スケジュールを組む
7月18日(土) 6撮影講習1 (俳優)キャラクターと演技の幅の見せ方

(制作)撮影技術実習
7月19日(日) 7撮影講習2 (俳優)撮影開始前の準備仕上げ

(制作)撮影技術実習・制作ミーティング

 
*「撮影準備セミナー」受講者の中から「夏期集中講座」の監督、制作主任、カメラマンのチーフを選抜します。
  
 
【夏期集中講座】8月11日(火)〜23日(日) 全10回[編入コースは10日(月)から 全11回]

コース講義概要
8月10日(月)
13:00〜18:00
編入のための予習 (編入コースのみ)
8月11日(火)
13:00〜18:00
班分け (俳優)2篇の課題シナリオを演技分析

(制作)班組、スタッフ編成決定
8月12日(水)
13:00〜18:00
演出・演技計画 (俳優)演技プランの実践

(制作)演出計画作り
8月14日(金)
13:00〜18:00
オーディション (合同)シナリオにしたがって仮配役を決め、班同士でキャストを調整。
8月15日(土)
13:00〜18:00
撮影準備1 (合同)リハーサル 制作部はロケハン、小道具の準備
8月16日(日)
13:00〜18:00
撮影準備2 (合同)リハーサル 撮影日程決定 演出と撮影の方針
8月17日(月)
11:00〜20:00
撮影本番1 (合同)撮影実習
8月18日(火)
11:00〜20:00
撮影本番2 (合同)撮影実習
8月19日(水)
11:00〜20:00
撮影本番3 (合同)撮影実習
8月20日(木) 編集・演技確認 (俳優・21日)ラッシュで演技確認
(俳優・22日)日・韓の俳優を通して映画を知ろう〜ゲスト講師を招いて
〜22日(土)   (制作・班ごとに日程調整し、3日のうちの1日)編集実習
8月23日(日)
13:00〜18:00
合評会 (合同)合評会・ゲスト講師:万田邦敏監督

*追加特別授業
22日(土)俳優コース「日・韓の俳優を通して映画を知ろう」
日本と韓国の映画の世界でそれぞれ活躍中である2人を招き、今の日本と韓国の映画の世界の話を聞く会。
主に俳優が感じる映画現場やスタッフなどの話と、現場での俳優たちの対応の仕方などを生で聞きながら日本と韓国の今の映画を覗いてみよう。
ゲスト講師:チョン・マンシク(俳優)、や乃えいじ(俳優・声優)
  
 講 師 
[制作・監督コース]
主任:富岡邦彦(プラネットプラスワン代表)
講師:唐津正樹(映画監督)、桝井孝則(映画監督)
ゲスト講師:万田邦敏(映画監督)
[俳優コース]
講師:全リンダ(俳優)
ゲスト講師:チョン・マンシク(俳優)、や乃えいじ(俳優・声優)
  

富岡邦彦(映画プロデューサー/映画祭ディレクター/PLANET+1代表)
黒沢清監督の脚本を担当、その後関西にて山下監督の作品を数本プロデュースし、現在は上映室PLANET+1を運営。海外のインディペンデント系映画祭のプログラムも担当。アジア圏でのインディペンデント映画のネットワークを拡げつつある。

全リンダ(俳優)
舞台・映画出演にとどまらず、大阪芸術大学大学院で実技博士号(舞台)を、アジアの大学で初めて修得するなど幅広く活躍。

唐津正樹(映画監督)
海外の映画祭でも上映された『赤い束縛』で注目される関西映画界のホープ。

桝井孝則(映画監督)
思考ノ喇叭社に所属し、関西で映画を製作している。作品は『罠を跳び越える女』がある。

万田邦敏(映画監督)
1956年東京生まれ。立教大学在学中は映画サークル、パロディアスユニティで黒沢清らと8mm映画を撮り、『四つ数えろ』(78)などで注目される。PRビデオの演出をしつつ映画雑誌等に映画評の執筆、テレビドラマの演出を経て96年中編『宇宙貨物船レムナント6』で劇場映画監督デビュー。02年の長編第1作『Unloved』は、カンヌ国際映画祭批評家週間に正式出品され、エキュメニック新人監督賞、レイルドール賞をダブル受賞。その後の主な作品に、阪神淡路大震災を描いた『ありがとう』(06)、最新作『接吻』(08)がある。
  参加日:6月20日(土)シナリオの展開、8月23日(日)合評会

チョン・マンシク(俳優)
1974年韓国出身。劇団「白首狂夫」所属。舞台や映画への出演多数で、出演映画に、『極楽島殺人事件』(07/監督:キム・ハンミン)、『ス』(07/監督:崔洋一)、『オーロラ姫』(08/監督:パン・ウンジン)などがあるほか、インディーズ作品へも積極的に参加している。
  参加日:8月22日(土)追加特別授業「日・韓の俳優を通して映画を知ろう」

や乃えいじ(俳優・声優)
大分県出身。劇団「PM/飛ぶ教室」所属、関西小劇場を中心に客演多数。第6回関西現代演劇俳優賞 男優賞受賞。TV、ラジオ、CM、ゲームのキャラクターボイスなどでも活躍する。
  参加日:8月22日(土)追加特別授業「日・韓の俳優を通して映画を知ろう」

 募集要項 
募集人数: 監督・制作コース・・定員20名
      俳優コース   ・・定員20名

       *各コースとも、定員になり次第、締め切ります
受講資格: 18歳以上、経験の有無は問わず
 
登録料 : 5,000円
(2008夏期講座参加者は不要)
 
受講料 : 2009前期講座(撮影準備セミナー+夏期集中講座)…63,000円
     (申込受付を締め切りました)
 
      夏期集中講座 編入コース
     (申込受付を締め切りました)…45,000円
 
 会 場  神戸映画資料館
 運 営  神戸プラネット
 総合プロデュース  PLANET+1
 協 力  KyotoDU、新長田まちづくり株式会社
2008夏期講座受講生の声 
 

理論的でよかった。演じることは楽しかったです (俳優コース・女性)
・リンダさんの授業でよかった (俳優コース・女性)
・役の感情に入ることができた時は、とても楽しかった (俳優コース・女性)
・同じシナリオでも作る側の解釈が全然違うし、役者さんによっても、キャラクターの考え方への多様さがとても面白い。映画はたくさんの人が集まって作るものだから、そこで衝突もあるけど、いろいろと意見を出し合えるのが良い (俳優コース・女性)
・俳優、制作の両面から理解できる (俳優コース・男性)
・短時間の間に全く別の役柄を作りこみ、即演じるという機会を与えていただき、力試しにもなったし、監督の意向に柔軟に対応するということを心がけることで、凝り固まった演技がほぐされた気分。撮影が短時間と限られることで、満足いかない演技が否応なしに完成品として並べられてしまう怖さ、撮り直しという甘えのきかない集中力・緊張感が心地よくもあった。欲を言うなら、もっとしんどくてもよかった。あまりに楽しかったので! (俳優コース・女性)
 
・様々な過程を経験することで、色々な人間関係を築くことができた (制作コース・女性)
・ドラマティックなもの、当たり前のもの、いろいろ表現したい気持ちがさらにふくらみました (制作コース・女性)
・また、みんなで集まりたい (制作コース・女性)
・いろんな人たちの制作風景を見て、比較できた (制作コース・男性)
・今後、映画をみる上で、「つくる方の視点」をもって観ることができそう (制作コース・男性)
いろいろな方と出会えたことは大きな利点 (制作コース・男性)
・普段とは違う環境の中、自分のスタイルでできない中、いろいろ考えられた (制作コース・男性)
・これから自主制作をしていく上で、その流れを経験でき、大きな収穫に (制作コース・男性)
映画作りの難しさと楽しさ (制作コース・男性)

 
 お問い合わせ 
神戸映画資料館
078-754-8039
info@kobe-eiga.net


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