ホームムービーと小型映画の可能性
地域や家庭に眠る映画フィルムを内容を問わず持ち寄って上映する国際的な記念日「ホームムービーの日」は世界各地で2003年から始まり、今年が20回目となります。この映画祭では持ち寄りフィルム上映に加えて、ホームムービーの映像を活用したドキュメンタリー作品、そして連携企画としてシンポジウムを実施します。
15日(土)13:00 参加無料
ホームムービーの日 in 神戸
ちいさなフィルムのためのちいさな祭典! 世界各地で同時開催
みなさんのホームムービーを見せてください!
フィルム上映:みなさんからお寄せいただいたホームムービー
司会:金千秋(FMわぃわぃ)
上映フィルム募集中
15日(土)14:10
NDUと布川プロの新発掘フィルム
NDU(日本ドキュメンタリストユニオン)を牽引した布川徹郎が没後10年となる今年、NDU最初期のメンバーで『出草之歌 台湾原住民の吶喊 背山一戦』(2006)で知られる井上修が6月に亡くなった。ニューヨークのジャパン・ソサエティで今春開催された沖縄映画特集で『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』(1971)、『アジアはひとつ』(1973)が上映されるなどNDUへの再評価が高まる中、これまで上映の機会がなかった2作品を上映し、NDUについての研究者である中村葉子が布川や井上について語る。
『東京‘69 – 青いクレヨンのいつかは . . . .』
1969年/28分/16mm/日本社会党東京都本部、NDU
1967年、東京都は美濃部亮吉による革新都制に移行。この映画は日本社会党東京都本部による都の抱える様々な問題を都民に考えてもらうための宣伝映画である。これまで布川の発言にも登場しなかった謎の映画だが、現存フィルムの最後にNDUとクレジットされており、生前の井上に確認したところ間違いないようだ。新宿を戦車が走る『鬼っ子 闘う青年労働者の記録』(1969)と同じシーンが登場するなど作風がユニークで、単なるPR映画でないことは言うまでもない。
『治安出動草稿 お昼の戒厳令』
1981年/29分/S8mm/磁気トーキー/布川プロダクション
1981年9月1日、新宿を中央会場として1200万人の参加によって開催された第2回・六都市合同防災訓練をその抗議行動を含めて記録した。新宿区職員だった伊達政保から「たいへんだ! 自衛隊の指揮下で俺たちは動くことになった」と聞いた布川や朝倉恭司、三井峰雄ら計8人のカメラマンで8mmフィルムを回したが、これまでその完成作品を見た人は皆無の状況だった。これまでのNDUの特集には入っておらず、今回、三井峰雄の尽力で上映できることになった。
解説:中村葉子(大阪公立大学講師)
15日(土)15:45
『海でなくてどこに』Where but into the sea
『海でなくてどこに』
2021年/72分
企画・調査研究・歴史考証:菅野賢治 監督・撮影・編集:大澤未来 デザイン・効果:宮森敬子、美術・広報:レイチェル・ウォルズ、音楽:ヘニング・シュミート、写真・コーディネーション:小畑美史、プロデュース:関口清
第二次世界大戦期のジェノサイドを免れた元・ユダヤ難民、マリア(1920年生まれ)の歩んだ道を辿るドキュメンタリー映画。ポーランドからリトアニアに逃れ、杉原千畝が発給した通過ヴィザによりウラジオストックから日本海を渡り敦賀に上陸、神戸に移動し滞在。日本政府と兵庫県は、滞留するユダヤ難民たちの処遇に困り果て上海へ送るが、そこでオーストラリア行きの船のチケットを入手しようやく安住の地が見つかる。難民が常に直面している問いは「ここではなく、どこに行けばよいのか」であり、紛争が多発する現在の状況もユダヤ・ジェノサイドにともなう難民たちが口にしていた問いと変わらずに繋がっている。
神戸映画資料館は、かつて寄贈された戦前の上海を記録したホームムービーや、神戸、ウラジオストックなどの映像を提供し活用していただいた。東京理科大学教授の菅野賢治を中心にした「マリルカ・プロジェクト」の研究成果として発表したものを劇場公開用に再編集した作品で、今回がアジアでの初上映となる。
トーク:菅野賢治、大澤未来、宮森敬子
協力:マリルカ・プロジェクト
15日(土)18:00 参加無料
〈シンポジウム〉デジタル映像アーカイブの未来研究
「8mmフィルムの可能性」篇
8mmフィルムのはかりしれない魅力と国内における救済・長期保存・デジタル化・活用の可能性について、多領域にわたる幅広い研究成果を通して考察します。
◉イントロダクション
「神戸映画資料館所蔵8mmフィルムの特徴」板倉史明(神戸大学)
◉発表
「ブルーフィルムの歴史的価値とアーカイブをめぐる課題」吉川 孝(高知県立大学)
「医学写真(動画)試論——毛利智恵・隆彰による胎児撮影を中心に」木下 千花(京都大学)
「木下惠介のホームムービーとその地域利活用に向けて」久保 豊(金沢大学)
「鬼塚巌の世界-労働者が記録した水俣-」小泉 初恵(一般財団法人水俣病センター相思社)
コメンテーター:常石史子(獨協大学)
◉ディスカッション Q&A
共催:科学研究費補助金・基盤研究(B)「デジタル映像アーカイブの未来研究」(研究代表者 ワダ・マルシアーノ ミツヨ)
企画協力:映画保存協会
16日(日)15:00 参加無料
パテ=ベビー100年記念『9 1/2』
『9 1/2』
ルクセンブルグ/2022年/45分
日本語字幕無し
製作:INEDITS Amateur Films / Memory of Europe
制作:Home Movies – Archivio Nazionale del Film di Famiglia
パテ=ベビーと呼ばれる9.5mmフィルムは、1922年にフランスのパテ社で生まれました。個人用に設計された最初のフィルム形式で、これにより映画は個人で撮影・上映を楽しめるものになりました。
『9 1/2』は、世界23機関が所蔵する9.5mmアマチュアフッテージを使ったモンタージュ作品。日本からは福岡市総合図書館、京都のおもちゃ映画ミュージアム、神戸映画資料館の3館が映像を提供しました。
フィルムアーカイブの現在
映画保存やフィルムアーカイブの魅力を余すところなく伝える新たなドキュメンタリーが誕生しました。題して『フィルム 私たちの記憶装置』。失われたと思われていた無声映画が思わぬところから発見されることが時折ありますが、その一例として本作が紹介する『男一匹の意地』(1921)もあわせて上映します。
ゲストプログラマー:石原香絵(映画保存協会)
共催:プラネット映画保存ネットワーク
16日(日)10:00 |21日(金)13:30
『フィルム 私たちの記憶装置』
『フィルム 私たちの記憶装置』
Film, the Living Record of Our Memory
カナダ・スペイン/2021年/120分
監督:イネス・トハリア・テラン
→公式サイト
125年以上も前に撮影された映画をいまもみることができるのはなぜだろう──米国ジョージ・イーストマン博物館のL.ジェフリー・セルズニック映画保存学校を修了したスペインのドキュメンタリー作家イネス・トハリア・テランは、複数のフィルムアーカイブでの実務経験を経て、本作を3年がかりで完成させた。映画の発掘、復元、上映に並々ならぬ情熱を傾けるフィルムアーキビストたちが世間の注目を集めることは滅多にないが、ジョナス・メカス、ケン・ローチ、ヴィム・ヴェンダースといった映画作家の声、そして欧米、アジア、アフリカから集めた夥しい数のアーカイバル・フッテージとともに、映画を文化遺産として救済する人々の地道な取り組みが鮮やかに照射される。
解説:石原香絵
16日(日)13:30
『男一匹の意地』
『男一匹の意地』
WHERE LIGHTS ARE LOW
アメリカ/1921年/68分/無声/染色
作品提供・作品解説:国立映画アーカイブ
製作:ハヤカワ・フィーチャー・プレイ 監督:コリン・キャンベル 脚本:ジャック・カニンガム 撮影:フランク・D・ウィリアムズ
出演:早川雪洲、山本冬郷、木野五郎、グロリア・ペイトン、関操
ハリウッド映画史最初期の大スター・早川雪洲主演による“オリエンタル・メロドラマ”。多くの日本人俳優が中国人を演じており、中でも早川との死闘を繰り広げる山本冬鄕が強烈な印象を残す。上映素材は、ユーゴスロヴェンスカ・キノテカ(セルビア・ベオグラード)に保管されていた現地公開版の可燃性ポジから2K解像度でデジタル複元されたもの。
伴奏:柳下美恵(ピアノ)
追悼・関西ゆかりの映画人
神戸の街と深い繋がりのある二人の映画作家を追悼するため、その代表作を上映して、生前の足跡を辿ります。実験的でパーソナルな映像表現の可能性を探求し、「生態系」シリーズなどを制作、国内外で活躍した小池照男(1951-2022)さん。長編8mm作品『夢で逢いましょう』などで関西自主映画界を牽引した植岡喜晴(1954-2022)さん。特異な映画を生み出したお二人の活動を回顧する場を設け、関西の映像文化の豊かな地層を発掘します。
企画担当:田中晋平(神戸映画資料館研究員)
16日(日)16:00
小池照男
小池照男『生態系 -5- 微動石』1988年/17分/8mm
小池照男『生態系 -20- ストーン』2013年/18分
小池照男『生態系 -27- 密度1』2018年/14分
小池照男『衝』1995年/8分
小池照男さんは、1972年に神戸大学に入り、その後、実験映画・個人映画の自主制作・自主上映活動をはじめ、83年に仲間と「ヴォワイアン・シネマテーク」を結成しました。代表作「生態系」シリーズなどを晩年まで発表し続け、他領域のアーティストとのコラボレーションも積極的に行い、ハンガリーRETINA映画祭で審査員を務めるなど、世界の映像作家との親交も深めます。神戸映画資料館では2020年11月に個展が開催されました。
トーク:田中晋平(神戸映画資料館研究員)
23日(日)13:00
植岡喜晴①『夢で逢いましょう』
『夢で逢いましょう』
1984年/135分/8mm
監督・脚本・撮影:植岡喜晴、製作:一瀬隆重、植岡喜晴 美術:和賀健夫、音楽:向井千恵
出演:ひさうちみちお、紀秋桜、あがた森魚、手塚眞、今井萌、紅萬子、辰巳琢郎、はりけーん・ばんび、上海太郎、神戸浩、矢野ひろみ、利重剛、村上知彦、川崎ゆきお、今泉了輔、森晴樹、槍魔栗三助
1970年代末に関西学院大学SF研究会の仲間と映画制作を開始した植岡喜晴監督は、8mmフィルムで『夢で逢いましょう』を発表し、関西自主映画界の中心的存在となります。天国と地獄、夢と現実を駆け巡る自在な想像力が圧巻の映画を、ひさうちみちおや劇団そとばこまちのメンバーらが出演して彩りました。神戸発掘映画祭2018内で開催された「JISYU vol.7 関西自主映画のみた夢:植岡喜晴特集」で久方ぶりの上映が実現しました。
協力:植岡喜晴アーカイブプロジェクト、シネアスト・オーガニゼーション大阪
23日(日)15:45
植岡喜晴②『Look of Love』
『Look of Love』
2005年/108分 提供:PLANET+1
監督・脚本:植岡喜晴 製作:映画美学校 制作:伊藤寛子、深田晃司 撮影:末武和之、河戸浩一郎 美術:堀内浩一、近藤聖治、芝切聡子 編集:近藤聖治、水野智治、天野隆太
出演:戸田昌宏、葉月蛍、温水洋一、遠山智子、永井正子、今岡信治、植岡虹蔵、植岡道蔵、神戸浩、高橋洋、瀬々敬久、柳ユーレイ
1986年に『精霊のささやき』で商業映画を監督し、関西テレビのDRAMADASなどの仕事も手掛けた植岡監督は、やがて東京の映画美学校で講師をつとめます。美学校生とコラボレーションした本作は、隣家を覗く青年、母親に捨てられた子供たち、異国から来たデリヘル嬢といった人物が登場、逃走の果てに宇宙まで至るという超異色映画。8mmフィルムで撮影されたのちデジタルで完成、大阪アジアン映画祭2006などでも上映されました。
協力:植岡喜晴アーカイブプロジェクト、シネアスト・オーガニゼーション大阪
新発掘された日本映画
国立映画アーカイブの「発掘された映画たち2022」で上映され、大きな話題となった清水宏監督作品『明日は日本晴れ』が関西初登場。神戸映画資料館の発掘作品に加え、轟夕起子研究者が発掘した『今日われ恋愛す』を取り上げる。
21日(金)15:50 |22日(土)13:00
『明日は日本晴れ』
『明日は日本晴れ』
1948年/65分/35mm 作品提供・作品解説:国立映画アーカイブ
製作:えくらん社 監督:清水宏 脚本:関澤新一 撮影:杉山公平
出演:水島道太郎、三谷幸子、國友和歌子、日守新一、御庄正一、荒木忍、明美京子
『蜂の巣の子供たち』(1948)に続く清水宏の戦後第2作。松本常保が設立した独立プロ・えくらん社の第1回作品でもある。バス1台のみを使ってロケーション撮影という、戦前の『有りがたうさん』(1936)を想起させる設定だが、戦争や過去の出来事によって傷ついた人々がふとした仕草や台詞によって実存を輝かせるさまは比類なく、戦後の清水の新たな展開を示す重要作と言えるだろう。
解説(22日):大澤 浄(国立映画アーカイブ)
22日(土)14:50
神戸映画資料館 新発掘
近年入手した9.5mmフィルムを新たにデジタル化した2作品に加え、珍しい『花咲爺』2作品を16mmで上映。『モダン怪談 100,000,000円』は映画保存協会の第一回「映画の里親」プロジェクトにより復元された作品とは別素材で若干の相違があるようだ。
『モダン怪談 100,000,000円』
1929年/21分/松竹キネマ
監督:斎藤寅次郎 原作:大森文雄 脚本:池田忠雄 撮影:武富善男
出演:斎藤達雄、松井潤子
『当世新世帯』
1927年/18分/阪妻・立花・ユニヴァーサル聯合映画
監督:小沢得二 原作、脚色:宮本一八 撮影:高樹泰策 出演:堀川浪之助、泉春子
以上、9.5mmからデジタル化
『教訓童話 花咲爺』
1924年/16分/16mm/マキノ・プロダクション(等持院)
監督:衣笠貞之助 脚色:衣笠貞之助、宮崎安吉
出演:関操、別所益枝、横山運平、森静子
『花咲爺』
1940年/36分/16mm/トーキー/新興キネマ
監督:寺門静吉 脚本:武田昌夫 撮影:輿吉宥 音楽:武政栄策
出演:葛木香一、三保敦美、荒木忍、市川男女之助
伴奏:天宮遥(ピアノ)
22日(土)16:40
『今日われ恋愛す 第一部 愛慾篇/第二部 鬪爭篇』
『今日われ恋愛す 第一部 愛慾篇/第二部 鬪爭篇』
1949年/111分(不完全)/35mm 作品提供:国立映画アーカイブ
製作:C.A.C. 監督:島耕二 原作:田村泰次郎 脚本:小川記正 撮影:渡辺公夫
出演:轟夕起子、森雅之、宇野重吉、野上千鶴子、月丘千秋、利根はる江、村上冬樹、加藤嘉、石黑達也、藤原釜足、清水將夫
本作は、田村泰次郎原作の『肉体の門』(マキノ正博、1948年)のヒットに続き、当初は田村・マキノ・轟のトリオで企画されたが、マキノの体調悪化等で、監督を島耕二に変更して映画化された。現存しないと思われていたが、轟夕起子研究で知られる山口博哉氏が2017年に発見し、国立映画アーカイブ「発掘された映画たち2022」で今年公開された。
22日(土)18:35 参加無料
『今日われ恋愛す』の復元作業
解説:野原あかね(IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)、山口博哉(映画史家)
共催:科研費「田中栄三資料のカタロギングによる新派映画の基盤的研究」(神戸学院大学/研究代表者:上田学)
特別プログラム
23日(日)18:00 参加無料
石井岳龍監督トーク
大学連携企画(神戸芸術工科大学)
日本大学芸術学部初年時の1976年に8mm映画『高校大パニック』で注目され、その後も商業映画の世界で異彩を放ってきた映画監督・石井岳龍(2010年に聰亙から改名)。2006年から神戸芸術工科大学で映像教育に携わり、『生きてるものはいないのか』(2012年)、『シャニダールの花』(2013年)、最新作『自分革命映画闘争』(2023年公開予定)は、すべて大学構内と神戸の街で撮影された。今年『映画創作と自分革命』(アクセス)を上梓した石井監督が、神戸での映画創作と教育活動を振り返る。石井監督の発掘映像も上映予定。
ゲスト:石井岳龍(映画監督)
聞き手:田中晋平(神戸映画資料館)、武田 峻彦(神戸芸術工科大学)
*上映素材は記載以外はデジタル