神戸映画資料館 新発掘
珍しいフィルムを発掘すべく努力している成果をお披露目する映画祭であるが、本年はマキノ映画3作品に加え、軍人の宮井幾三による「りすぼん丸」や前田直による「鳥海」など珍しい軍内部の様子を描くホームムービー、これまで半分しか見ることのできなかった『富士の地質』の長尺版、無声版しか見ることができなかったアニメ『あひるの子』『お猿の大漁』のトーキー版など見どころ満載である。
安井喜雄(神戸映画資料館館長)
11日(土)15:00
マキノ映画特集①

『膝栗毛木曽街道』
1930年/ 76分[16fps]/無声/16mm
マキノプロダクション御室撮影所
監督:金森万象 原作:十辺舎一九 脚色:東艸之介 撮影:田辺憲治
出演:中根龍太郎、マキノ登六、浅間昇子、桂武男
『祇園小唄 絵日傘』でお馴染の金森万象監督作品。木曽路を旅する二人の凸凹コンビが路金五十両を盗まれた駆け落ちの男女に出会い助けるコメディ時代劇。
弁士:大森くみこ
伴奏:天宮遥(ピアノ)
解説:羽鳥隆英(日本映画史研究/熊本県立大学准教授)
11日(土)17:00
マキノ映画特集②

『管原傳授手習鑑 手習兒屋』
1927年/ 48分[16fps]/無声/16mm
マキノプロダクション御室撮影所
監督:マキノ省三 撮影:田中十三
出演:大谷友三郎、松浦築枝、市川小文治、玉木悦子、中根龍太郎、松尾文人、杉狂兒
歌舞伎、人形浄瑠璃、義太夫などでお馴染み「菅原伝授手習鑑」四段目「寺子屋の段」の映画化。忠義のため我が子を犠牲にした藤原時平に仕える松王丸夫婦の悲哀を描く。
『史劇 萬壽の姫』
1922年/ 15分[16fps]/無声/デジタル(元素材:16mm)
東亜キネマ京都撮影所 監督:マキノ省三
万寿姫は御伽草子「唐糸草子」の主人公。源頼朝を討とうとして捕らえられた木曽義仲の女房唐糸の娘。頼朝に歌舞を披露して褒美に母を放免してもらった。牧野教育映画部製作『萬壽姫』の改題と思われる。田中映画社旧蔵フィルム。フィルム後半は劣化でデジタル化不可のため前半のみ上映。
弁士:大森くみこ
伴奏:天宮遥(ピアノ)
解説:羽鳥隆英(日本映画史研究/熊本県立大学准教授)
12(日)16:30
軍人が撮影したホームムービー

■宮井幾三陸軍大尉撮影16mmフィルム
陸軍砲兵大尉だった宮井幾三が撮影したフィルムで軍内部の様子が写されている。
『魚雷飛来実況』1942年/6分[16fps]/無声/デジタル(元素材:16mm)
魚雷により撃沈しつつある「りすぼん丸」から脱出した兵士たちの様子や上海の街並み。
『要塞整備實況』1942年/16分[16fps]/無声/デジタル(元素材:16mm)
陸軍重砲兵学校富士分教所における要塞整備訓練の様子。
■前田直海軍大佐撮影16mmフィルム
海軍大佐だった前田直(まえだなおき)が撮影したフィルムで、遺族から寄贈を受けた。
『巡洋艦戦隊』1935年/29分[16fps]/無声/16mm
巡洋艦「鳥海」(旧仮名「てふかい」)を船内外から撮影した日常風景や海軍記念日の様子。
『伯林』1933年/13分[16fps]/無声/16mm
ベルリン市街の情景やScala 歌劇場、ナチス党大会など。
解説:衣川太一(フィルム資料研究家)
13日(月・祝)11:00
新デジタル化コレクション

『曽我夜討』
1926年/2分[16fps]/無声/(元素材:9.5mm)
朝日キネマ 木村白山
曽我兄弟の物語を忠実にアニメ化。
『あっぱれ安さん』
1931年/8分[16fps]/無声/(元素材:9.5mm)
製作:大石郁雄
大河内伝次郎の弟、伝五郎が高田の馬場で十八人斬りするアニメ。本来はレコード・トーキー。
『あひるの子(トーキー実写併用版)』
1932年(トーキー版年不詳)/8分/(元素材:16mm)
横浜シネマ商会 原案・脚色:青地忠三 作画:村田安司
アンデルセン童話のアニメ化。アニメの前後に童話を読む少女の実写が挿入されたトーキー版。
『お猿の大漁(トーキー版)』
1939年/4分/(元素材:16mm)
横浜シネマ商会 原案、脚色:青地忠三 作画:村田安司 音楽:コロムビア・オーケストラ 指揮:杉田良造
村田安司の本格的トーキー・アニメ第一作。なまずのような怪魚にお猿が追われて大騒動。
『富士の地質』
1941年/25分/(元素材:16mm)
東宝文化映画部 演出:秋元憲 脚本:亀井文夫 撮影:八木仁平 音楽:深井史郎 解説:徳川無声
脇水鐵五郎著「日本風景誌」(1939年、河出書房)より亀井文夫がシナリオ執筆。霊峰富士は神聖で不動と教えられていたが、図解アニメを挿入するなど富士を科学的視点で描き、自然の摂理によって常に変化していることを示した。田中映画社旧蔵16mmフィルムのデジタル化で冒頭タイトル欠落。
『紅葉狩』
1941年/11分/(元素材:35mmネガ)
新興キネマ京都撮影所 演出:木藤茂 脚本:毛利喜久男 撮影:興吉宥 音楽:望月太明吉
出演:羅門光三郎、雲井八重子
鹿狩りにやってきた平維茂の一行が紅葉見物の女性たちの酒宴に参加するが、夜になると美女は鬼となり、激しい攻防の末に鬼を討ち果たす。本来は4巻ものだが短く編集され「妖怪紅葉狩」と改題されている。
台湾 × 沖縄
沖縄が日本復帰する1972年以前の1966年に沖縄で撮影された台湾・沖縄の合作映画『琉球の恋』『夕陽西下(せきようせいか)』。この2作品のフィルムはサンフランシスコのチャイナタウンにある元映画館で2019年に発見され、国立台湾映画・視聴文化センターが修復して甦った。ちなみに、同時期に合作三部作として製作された『太陽は俺のものだ』(監督:西條文喜)のプリントはいまだ発見されていない。
12日(日)11:00
『琉球の恋』

『琉球の恋』
台湾・沖縄/1968年/ 90分/デジタル 提供:国立台湾映画・視聴文化センター
製作:瑞昌影業、琉球映画
監督:リン・フーディ 脚本:ホー・ファン 撮影:リン・ツァンティン 音楽:ツェン・チャンイン
出演:ヤン・ミン、チャン・チンチン
沖縄で海運業を営むリン一家。家業を継ぐことを期待されている次男のホンハイがライバル社の娘と恋に落ち…。
12日(日)13:00
『夕陽西下(せきようせいか)』

『夕陽西下(せきようせいか)』
台湾・沖縄/1968年/ 108分/デジタル 提供:国立台湾映画・視聴文化センター
製作:瑞昌影業、琉球映画
監督:リン・フーディ 脚本:ウー・フェイション 撮影:リン・ツァンティン 音楽:ツェン・チャンイン
出演:ヤン・ミン、チャン・チンチン
惹かれ合う台湾人牧師と沖縄の少女の恋。年齢差や文化の違い、そして第二次世界大戦末期の台湾で牧師が負った心の傷を二人は乗り越えてゆけるのか…。
12日(日)14:55 参加無料(当日の鑑賞者対象)
世良利和(沖縄映画研究)
返還映画
アメリカ議会図書館が所蔵していた1400本にも及ぶ戦前・戦中期の日本映画のフィルムが、1967年から順次日本側に返還された。そのなかから、近年、映画史的に再評価の進んだ『月夜鴉』と、ミュージカルの要素を取り入れた特撮も見どころの『兵六夢物語』を上映。
13日(月・祝)13:30
『月夜鴉』

『月夜鴉』
1939年/100分/35mm 英語字幕付 作品提供:国立映画アーカイブ
松竹京都 監督:井上金太郎 原作:川口松太郎 脚本:秋篠珊次郎、依田義賢 撮影:杉山公平 美術:山田竹二郎 音楽:稀音家三郎治
出演:飯塚敏子、髙田浩吉、藤野秀夫、富本民平、伏見直江
三味線の女師匠(飯塚)が弟子(高田)を育てる芸道物として、勝気な年上女性と小心な年下男性の恋愛をスクリューボール・コメディタッチで描いた傑作。井上金太郎は無声映画期に監督昇進後、阪東妻三郎や月形龍之介らと組んで活躍した名匠で、筆名・秋篠珊次郎により脚本も手がけた。「芸道3部作」以前の依田義賢執筆作という点でも興味深い。(解説文:国立映画アーカイブ)
前説:板倉史明(映画研究/神戸大学教授)
13日(月・祝)15:30
『兵六夢物語』

『兵六夢物語』
1943年/67分/35mm 作品提供:国立映画アーカイブ
東宝映画 監督:青柳信雄 原作:獅子文六 脚本:如月敏、志村敏夫 撮影:伊藤武夫 特殊技術:圓谷英一 美術:安倍輝明 音楽:栗原重一
出演:榎本健一、高峰秀子、霧立のぼる、黒川彌太郎、柳田貞一、中村是好、如月寛多
鹿児島の伝承にもとづく獅子文六の児童小説を原作とした道徳映画。市川崑が製作主任(助監督)、円谷英二(圓谷英一)が特殊技術を手がけている。薩摩の下級侍・兵六(榎本)は母想いの青年だが、生来の気の弱さで失敗を繰り返していた。ある日、化け物が出るという森に入った兵六は不思議な少女(高峰)に出会い…。(解説文:国立映画アーカイブ)
単独プログラム
11日(土)10:30
『フィルム 私たちの記憶装置』

『フィルム 私たちの記憶装置』
Film, the Living Record of Our Memory
カナダ・スペイン/2021年/120分
監督:イネス・トハリア・テラン
© El Grifilm Production
125年以上も前に撮影された映画をいまもみることができるのはなぜだろう──米国ジョージ・イーストマン博物館のL.ジェフリー・セルズニック映画保存学校を修了したスペインのドキュメンタリー作家イネス・トハリア・テランは、複数のフィルムアーカイブでの実務経験を経て、本作を3年がかりで完成させた。映画の発掘、復元、上映に並々ならぬ情熱を傾けるフィルムアーキビストたち、ジョナス・メカス、ケン・ローチ、ヴィム・ヴェンダースといった映画作家の声、そして欧米、アジア、アフリカから集めた夥しい数のアーカイバル・フッテージとともに、映画を文化遺産として救済する人々の地道な取り組みが鮮やかに照射される。2022年の本映画祭で日本初上映した本作を今年も上映。
11日(土)13:00 参加無料
ホームムービーの日 in 神戸

ちいさなフィルムのためのちいさな祭典! 世界各地で同時開催
みなさんのホームムービーを見せてください!
フィルム上映:みなさんからお寄せいただいたホームムービー
司会:金千秋(FMわぃわぃ)
上映フィルム募集中
地域や家庭に眠るフィルムを持ち寄る上映会です。
個人的な記録(映像)が、地域の、そして時代の記憶を呼び覚まします。
この機会に、みなさんの思い出を映像とともに甦らせてください。
フィルムをお持ちのかたは、事前に事務局(神戸映画資料館内)までご連絡ください。
お寄せいただいたフィルムは、傷みや内容を確認後、持ち主の方と上映のご相談をします。上映させていただいたフィルムは、その後も内容を簡単に見られるようDVD化してお渡しいたします。
連携企画
13日(月・祝)12:10 参加無料
アニメーション調査研究

解説:佐崎順昭(映画史研究)
新デジタル化コレクションで上映されるアニメ作品『曽我夜討』(木村白山)、『あっぱれ安さん』(大石郁雄)、『あひるの子』『お猿の大漁』(共に村田安司)の解説に加え、文化庁メディア芸術アーカイブ推進支援事業「神戸映画資料館所蔵アニメーションフィルムのデジタルアーカイブ事業」の取り組みと、その成果の一端であるウェブ版「日本アニメーション映画史」について紹介する。
共催:NPO法人プラネット映画保存ネットワーク
令和7年度文化庁メディア芸術アーカイブ推進支援事業「神戸映画資料館所蔵アニメーションフィルムのデジタルアーカイブ事業」
![]()
13日(月・祝)17:00 参加無料
全農映の記録映画
米の流通が大きく転換した1950年代に、全国農村映画協会(全農映)が製作した記録映画を紹介する。
『隣り同志』1955年/33分/16mm
全国農村映画協会 委託:米穀予約売渡推進本部
脚本・監督:青戸隆幸 撮影:広川朝次郎
新しく始まった米の予約売渡制度を描く。
『米つくりのしごと』1958年/13分/16mm
全国農村映画協会 文部省選定教育映画(社会科)
脚本・監督:並木晋作(岩崎太郎)
春から秋までの米つくりを、播種準備から調整、俵装まで順を追って描く。
解説:安岡健一(日本近現代史/大阪大学准教授)
企画:上田学(メディア考古学/立命館大学教授)
◉ 共催:科研費25K03669(立命館大学)

