収蔵フィルムで綴る戦前記録映画


【特集1】 収蔵フィルムで綴る戦前記録映画

神戸映画資料館が収蔵するフィルムの中から明治、大正、昭和にかけて作られた戦前記録映画をまとめて上映し、日本の記録映画作家たちが辿った苦難の歴史を振り返る。プログラムは「記録映画の創世記」「教育映画」「企業の宣伝紹介映画」「長編記録映画」「満蒙開拓啓蒙映画」「文化映画」「ホームムービー」の7つのカテゴリーとし、全17プログラムで構成した。

戦後すでに70年が経とうとする今日、大半の日本人が戦争を知らない世代となり、戦前の日本人の考えや時代背景などを理解し難い状況になっている。今回の大特集では当時の人々がどのように教育され悲惨な戦争に巻き込まれて行ったのかを記録映画を観ることで振り返り、明るい未来へと繋ぎたい。なお、今回の上映フィルムは欠落部分の多いものも多数存在するが、資料価値が高いのでそのまま上映する。フィルムの材質劣化や送り穴の欠損などにより映写機に掛からないものはデジタル上映とした。ご了承ください。

安井喜雄
(神戸映画資料館館長)

 



明治二十八年の両國大相撲明治から大正にかけての実写フィルム集。アメリカ帰りの土屋常二(ジョージ)が撮影した日本映画史上有名な明治の大相撲の記録や、北米で撮影されたと思われる戦闘の再現シーンを含む日露戦争、大阪安治川河口の爆発火災の惨状、大阪の澤田順介が撮影したシベリアに派遣された日本軍、関係者の証言から明治40年代と推定される別子銅山、帝キネ封切館「中井座」などが写る奈良町の貴重な記録など。

明治二十八年の両國大相撲 (撮影・土屋常二/1900/11分/16コマ/無声/35mm)

懐ひ起せ日露大戦 (製作・杉本商会/1905頃撮影/1932 /9分/16コマ/無声/35mm染色)

大阪倉庫の爆発 (天活大阪/1917/5分/16コマ/無声/35mm染色)

西比利亜派遣軍之情況 (撮影・澤田順介/1921頃/14分/16コマ/無声/35mm染色)

別子銅山・採鉱より精錬 (撮影・寺田活動写真店/1910年代/9分/16コマ/無声/35mm/DVカム上映)

奈良町の風景 (帝国キネマ演芸・中井座〈推定〉/1920/21分/16コマ/無声/35mm/DVカム上映)

関東大震災実況

関東大震災実況

摂政宮(後の昭和天皇)が尾上松之助の演じる「史劇楠公訣別」を見学する実写や、溝口健二作品などのカメラマン高阪利光ら日活の撮影技師が駆け付けて撮影した関東大震災と、後に震災の復興を描いた題名不詳のトーキー作品、田泉保直撮影による明治の白瀬中尉南極探検フィルムに解説を入れトーキー化した「白い大陸」など。「史劇楠公訣別」のオリジナル・ネガは重要文化財に指定されたが、今回の上映プリントにはネガには存在しない摂政宮の帰還するシーンが含まれている。

摂政宮殿下活動写真展覧会御台覧実況・史劇楠公訣別 (1921/6分/16コマ/無声/16mm)

関東大震災実況 (日活向島/撮影・高阪利光、伊佐山三郎/1923/21分/16コマ/無声/35mm染色)

題名不詳・関東大震災もの (1930年代/10分/35mm)

白い大陸・白瀬南極探検の壮挙 (構成・中川順夫/撮影・田泉保直/1957/24分/35mm/DVカム上映)

東京から青森まで

東京から青森まで

昭和初期の無声映画時代、映画館のみならず教育現場でも様々な無声の教材映画が利用された。大正12年創立の横浜シネマ商会は社長の佐伯永輔、教育者の青地忠三、線画の村田安司ら有能な人材を得て「さくらグラフ」「アテナライブラリー」の名称で数多くの教育映画を製作販売した。教室では教員が弁士を務めたであろう無声の横浜シネマ3作品に加え、全日本映画教育研究会監修で短篇映画各社が製作した「小学校地理映画体系」全13作品の内、大阪のサワタ映画製作所(社主・澤田順介)が担当した「近畿地方」を上映。

捕鯨船 (横浜シネマ商会/編集・青地忠三/1928/16分/16コマ/無声/16mm)

日光大観 (横浜シネマ商会/1931/8分/16コマ/無声/16mm)

東京から青森まで (横浜シネマ商会/監修・青地忠三/1931/14分/16コマ/無声/16mm)

小学校地理映画体系・近畿地方 (サワタ映画製作所/1935/26分/16コマ/無声/16mm)

蝉の一生

蝉の一生

十字屋映画部の仕事を振り返るプログラム。レコードや楽器の販売店である十字屋は大正10年から9ミリ半パテ・ベビーの販売を始め、社内に十字屋映画部を創設。「マーベルグラフ」の名称で劇映画の縮写版を販売。昭和初期に16ミリも扱い始め、国産映写機「ベル」の製造や映画教育雑誌の出版。十六ミリ映画教育普及会を組織して昭和9年から「通俗科学映画全集」「理科映画体系」として多数の作品を製作販売。太田仁吉の指導の下、鈴木喜代治、丸子幸一郎、小林米作、奥山大六郎らその後の日本の教育映画を支えた名カメラマンが活躍した。ここでは「理科映画体系」4本を一挙上映。

塩の話 (十六ミリ映画教育普及会/監修・太田仁吉/1935/16分/16コマ/無声/16mm)

蝉の一生 (十六ミリ映画教育普及会/監修・太田仁吉/1936/15分/16コマ/無声/16mm)

もんしろ蝶の話 (十六ミリ映画教育普及会/監修・太田仁吉/1937/15分/16コマ/無声/16mm)

地層の話 (十六ミリ映画教育普及会/監修・太田仁吉/1937/14分/16コマ/無声/16mm)

我等の明治

我等の明治

東洋紡績の女子工員の作業、寄宿舎生活、授業やお稽古事教室、病院など福利を紹介する「少女の躍進」と、明治製糖の砂糖製造工程を描く「製糖の実況」、南洋で採れたカカオビーンが明治の製菓工場に運ばれチョコレートなどに加工される「伸びゆく明治」、東京・京橋にある明治製菓本店の女子店員の作法を指導する「我等の明治」。

少女の躍進 (深田商会映画部/構成・岩田酉介/1939/27分/16コマ/無声/16mm)

製糖の実況 (1927/21分/16コマ/無声/35mm染色)

伸びゆく明治 (写真科学研究所/1936/9分/35mm)

我等の明治 (写真科学研究所/1936/10分/35mm)

北進日本横浜シネマが南洋諸島を描いた「海の生命線」( 1933)に続き、その姉妹編として樺太や千島列島に長期取材した作品。林業や漁業などの開発状況を描くとともに自然や風物を紹介。同じ素材から作られたと思われる「産業の樺太」(YouTubeにアップ)に含まれないシーンも多く、樺太ではウイルタ(オロッコ)やニブフ(ギリヤーク)という先住民の暮らしぶりが映っており民族学的にも資料価値が高い。

北進日本 (横浜シネマ商会/総指揮・佐伯永輔/1934/55分/16mm/DVカム上映)

ニュース映画発達史・躍進のあと朝日世界ニュースを中心に明治、大正、昭和の主なニュース映画を取り入れて日本近代史を構成したもの。生駒雷遊、中村茂、竹脇昌作の名調子で解説され、途中に映画現像、編集、効果音録音などの製作現場の様子が紹介される。伊藤博文暗殺の安重根(アン・ジュングン)逮捕のハルビン駅の情景なども挿入され、歴史的にも価値ある映画。

ニュース映画発達史・躍進のあと (朝日新聞社/構成・大内秀邦/1941/73分/35mm/DVカム上映)

空の神兵・陸軍落下傘部隊訓練の記録宮崎県新田原にあった陸軍落下傘部隊の訓練を描いた作品で、入隊した若者が立派な落下傘兵に成長する姿を描く。高木東六作曲による主題歌「空の神兵」は誰もが知る流行歌にもなった。陸軍航空本部が監修しただけあって本物の航空機や兵器が多数登場し見応え充分。

空の神兵・陸軍落下傘部隊訓練の記録 (日本映画社/演出・渡辺義美/1942/55分/16mm)

マレー戦記・進撃の記録日本軍の英領マレー及びシンガポール進攻作戦を描く。映画は輸送船団に始まり、マレー半島を列車、戦車、自転車などで南下、敵が破壊した橋を修理しながら快進撃が続き半島最南端ジョホール・バルに到着。続いてシンガポール総攻撃に移り、ブキテマ高地で激戦の末、大勝利。有名な山下奉文・パーシバル会談や敵兵捕虜の様子など。

マレー戦記・進撃の記録 (山下兵団報道班・日本映画社/構成・飯田心美/1942/71分/16mm)

航空基地解説:日中戦争中の 1941年 5月から 6月の間、山西省南部で行われた日本軍と中国軍の戦闘「中原作戦(中原会戦)」を3名のカメラマンが約1ヶ月決死的撮影を敢行した実戦記録映画。音楽は「空の神兵」の高木東六。この戦闘で中華民国国民革命軍には夥しい死者と捕虜が出たが、映画は捕虜の様子も捉えている。

航空基地 (大阪毎日・東京日日新聞社映画部/演出・高木俊朗/1941/72分/16mm)

興亜の礎

興亜の礎

満州事変以降国策による満蒙開拓移民を啓蒙する映画が数多く作られた。移民団は日本の各地で結成され、農業研修や軍事的な訓練を渡航前に受け「満州開拓移民団」として大陸に渡った。また、拓務省は15歳から19歳までの青少年たちを募集し茨城県下中津村内原の内地訓練所で満蒙開拓を担う人物を育成し「満蒙開拓青少年義勇軍」として大陸に送った。これらの映画は内地訓練の様子や満蒙での入植地の様子を詳しく紹介する。

鋤の光・大東亜の建設へ (満州移住協会/1937/47分/16コマ/無声/16mm)

我等は若き義勇軍 (大日本文化映画製作所/1939/10分/35mm/DVカム上映)

興亜の礎 (国策文化映画協会/撮影・高城泰策/1940年頃/12分/35mm/DVカム上映)

実る大陸 (大日本文化映画製作所/撮影構成・日向清光/1940/10分/35mm/DVカム上映)

展び行く開拓団

展び行く開拓団

満蒙開拓に旅立った義勇軍の活動を描く拓務省製作の国策映画「御稜威に副はん」をはじめ、開拓団や義勇軍の活躍を描く啓蒙映画の数々。なお、御稜威(みいつ)とは天皇の威光、権力を表す表現。

展び行く開拓団 (大日本文化映画製作所/構成・恒吉忠康/1939/21分/35mm/DVカム上映)

御稜威に副はん (拓務省・日本電報通信社活動写真部/1940年頃/30分/35mm/DVカム上映)

満蒙開拓青少年義勇軍・内地訓練篇 (同盟通信社/1940年頃/11分/35mm/DVカム上映)

子供と工作

子供と工作

1939年の映画法の制定によって「文化映画、時事映画の上映」が義務づけられ、これらの文化映画が映画館で盛んに上映された。大藤信郎アニメが挿入される「子供と工作」や、伊勢志摩・和具の漁村を詩的に描いた「和具の海女」。大宅壮一が製作した我等の兵器シリーズの一篇「戦車」。

子供と工作 (十字屋文化映画部/演出・渡辺義美/1941/20分/16mm)

和具の海女 (横浜シネマ/演出・上野耕三/1941/25分/16mm)

我等の兵器・戦車 (理研科学映画/演出・安積幸二/1941/18分/16mm)

警察犬

警察犬

警視庁防犯課警察犬訓練所における警察犬訓練の様子を描く「警察犬」、長良川の鵜飼を鵜匠の立場から描いて伝統の尊さに迫る「鵜匠」、鉄に熱を加え鍛え鉄製品を作る技を高木東六作曲のリズムに乗せて描いた「鍛錬」、国歌君が代をフィルムに定着させた「聖壽万歳」。

警察犬 (第一映画社/演出・持田米彦/1941/13分/35mm)

鵜匠 (松竹文化映画製作所/監督・松村清四郎/1941/21分/16mm)

目で見る工作術・第二篇 鍛錬 (日本映画社特別映画製作所/19分/35mm/DVカム上映)

聖壽万歳 (君か代映画製作所/撮影・国産活動写真協会/6分/35mm/DVカム上映)

空の第二陣

空の第二陣

明治43年に始まる日本国の軍用機の歴史を紹介し、小学生から大学生までの航空教育の実践を滑空機(グライダー)を中心に描いた「空の第二陣」、日本赤十字社の救護看護婦の養成と病院船での活躍を描く「戦ふ女性」、石川啄木の短歌に渋谷村や小樽、札幌などの情景を重ねた「啄木の歌」。

空の第二陣 (大日本飛行協会/演出・山口順弘/24分/35mm/DVカム上映)

戦ふ女性 (朝日映画/監督・永富映次郎/1939/16分/16mm)

啄木の歌 (理研科学映画/演出・山下武郎/1942/15分/16mm)

日本の姿・都市の建築美

日本の姿・都市の建築美

スパイへの警戒を訴える「防諜線を行く」、皇国臣民の心の支え神社の意義を紹介する「神ながらの道」、東京・大阪の近代建築や京都の日本建築を描く「都市の建築美」、昭和13年度総予算80億円(内、戦費48.5億、一般会計31.5億)の財源確保のため貯蓄を訴える「八拾億円」、廃品を回収し資源を確保、貯蓄を敢行し国民精神総動員で戦い抜くことを決意する「國策読本」、国民的愛唱歌を画面に合わせ観客が歌うように作られた「愛國行進曲」。

防諜線を行く (国民教育映画協会/演出・櫻庭喜八郎/1941/11分/35mm/DVカム上映)

神ながらの道 (1940年頃/17分/35mm/DVカム上映)

日本の姿・都市の建築美 (1940年頃/10分/35mm/DVカム上映)

國策短篇シリーズ・八拾億圓 (聯合映画社/構成・大島屯/1940年頃/11分/35mm/DVカム上映)

國策読本 (加治商会/1940年頃/8分/35mm/DVカム上映)

愛國行進曲 (鱗映社/1938/11分/35mm/DVカム上映)

大阪百景

大阪百景

大阪の夕凪橋に金物屋を営む播計一(播秀蓉)は、大阪や京都の風景を多く撮影している。京都の帝国キネマ太秦撮影所や、知恩院における東亜キネマのロケーション、日活、新興キネマ、寛プロ、そして宝塚キネマの市川龍男、大谷日出夫主演「艶姿影法師」撮影風景。大阪の労働者を描いた「パンの為に」や天保山、心斎橋、通天閣など大阪の情景を集めた「大阪百景」ほか。そして、四国松山で活躍したアマチュア映画作家・岡本達一の「秋の横顔」を参考上映。

太秦スタジオめぐり (撮影・播秀蓉/1930年代/18分/16コマ/無声/16mm/DVカム上映)

「パンの為に」「大阪百景」ほか (撮影・播計一/1930年代/34分/16コマ/無声/16mm/DVカム上映)

秋の横顔 (撮影・岡本達一/1931/9分/16コマ/無声/16mm)


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