プログラムPROGRAM

[貸館]故川本年邦氏遺贈資料特集
-幻灯と映画:知られざる非劇場映写文化-

2018年9月8日(土)

 
東京都出身の川本年邦さんは、陸軍少年航空兵として立川基地で敗戦を迎え、復員後は家業の大工として働くかたわら、地元の子どもたちのために「子どもセンター」を実家の一隅で開催し、お風呂の開放や、読書・勉強会、幻灯と映画の映写などのさまざまなレクリエーション活動などを行ってきました。1998年に川本さんは福島県浪江町に移住し、山中での自給自足の生活を始めますが、2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故により、自宅付近が放射線量の高い計画的避難区域に指定されたため、避難生活を余儀なくされた川本さんは、同じく避難生活を送る子どもたちや高齢者のために、避難所や仮設住宅の集会所などで、長年愛用してきた幻灯機と幻灯フィルムによる映写活動を続けました。
川本年邦さんは2016年春に逝去され、占領期以来長年にわたって活用されてきた幻灯機と幻灯及び映画のフィルムは、ご遺族から神戸映画資料館に寄贈されました。今回は遺贈資料のうち、映写可能なフィルムを上映し、知られざる昭和期の非劇場スクリーン映写文化の貴重な資料をご紹介します。

 

映画上映 13:30〜
『まんが太郎』(東映教育映画部、1958年)
監督:津田不二夫
川本年邦氏の遺品に唯一含まれていた16mm映画フィルム。マンガが大好きな小学生の太郎君が、マンガ読みたさに非行に走りかけるが、先生と友達の助けによって読書好きの少年として更生するという物語。少年少女マンガ雑誌が月刊から週刊へと本格的に移行しようとするマンガ文化の爆発的な発展期に、「教育」側の視点から見たマンガと読者の関係が映し出される点でも興味深い。
 

幻灯上映 14:00〜
『カナリヤ』(1947年頃)
製作:光画図書研究所 作:中山侑 繪:石田一良
植民地台湾で活動した文学者の中山侑が、戦後に内地に引揚げた直後に台本を執筆したと思しき知られざる幻灯作品。フィルム及び説明台本に製作年の記載はないが、製作元の光画図書研究所(現在の東京光音)は1947年に設立、翌48年5月に社名を「東京光音研究所」と改めているため、おそらく1947年から48年春までの間に製作されたものと考えられる。

『デブ君とヒョロ長君の防犯』(1949年以前)
製作:警視庁防犯課 原作:野辺愛之助 作画:村田亨
警視庁防犯課の製作による、家庭での防犯の心がけを呼びかける社会教育幻灯。フィルム及び説明台本に製作年の記載はないが、「L.」で始まる占領当局の検閲記号が付されているため、検閲が実施されていた1949年以前に発売された幻灯と考えられる。作画者の村田亨は戦前から教育紙芝居運動にも携わっていた人物だが、本作では異様にデフォルメされたデブ君ヒョロ長君のキャラクターが強烈である。

『胡桃割り人形』(1949年以前)
製作:小西六写真工業株式会社 原作:ホフマン 作画:清水崑
小西六写真工業株式会社(現コニカミノルタ)は、自社製のさくらカラーフィルムを使用した幻灯シリーズ「コニグラフ」を販売していたが、本作はその初期の作品で、「L.」で始まる検閲番号が付されているため、1949年以前の占領期に発売されたものと考えられる。ホフマンの原作を、漫画家清水崑の作画により幻灯化しており、バレエの華やかなイメージとはまた異なる、きわめて個性的な絵柄が印象的である。

その他、参考上映あり

幻灯口演:鷲谷 花

 
レクチャー 14:40〜(終了予定15:00)
「川本年邦氏の幻灯上映活動と寄贈資料について」(仮)
鷲谷 花
(大阪国際児童文学振興財団特別専門員)

 

《参加費》無料

主催:JSPS科研費共同研究18K02022「近現代日本の社会運動組織による「スクリーンのメディア」活用の歴史・地域的展開」(研究代表者:鷲谷花)

これまでのプログラム|神戸映画資料館

※内容は予告無く変更する場合があります。

※作品によっては、経年退化で色褪せしている場合がございます。予めご理解ご了承の上、ご鑑賞くださいますようお願い申し上げます。