プログラムPROGRAM

[貸館]望月優子特集上映
2018年12月28日(金)13:00〜16:00

望月優子(1917-1977)は、『日本の悲劇』(木下惠介監督、1953年)、『米』(今井正監督、1957年)、『荷車の歌』(山本薩夫監督、1959年)などで演じた、労働と育児に粉骨砕身する母の役柄から「日本のお母さん」とも称された、戦後日本映画史を代表する名優のひとりです。1960年代以降は、農山漁村問題を中心とする社会問題について積極的にメディアで発言し、3本の中編映画と複数のテレビ番組を監督し、あるいは1971年には社会党の公認候補として参議院議員に選出されるなど、「映画女優」に留まらない多彩な活動を展開しました。今回は近年発見された監督作『ここに生きる』と、主演作にして知られざる佳作の『末っ子大将』を上映し、併せて、映画研究者の斉藤綾子氏(明治学院大学教授)に、映画女優、監督、社会活動家としての望月優子の多面的な仕事についてお話を伺います。

[上映作品]
「末っ子大将(暴れん坊大将)」
(1960/50分/16mm)
製作:新日本プロ 企画:大阪母親プロ 配給:新東宝
監督:木村荘十二 原作:村田忠昭 脚本:依田義賢
撮影:木塚誠一 音楽:大木正夫 美術:小林三郎
出演:望月優子

1930年代にP.C.L~東宝の看板監督のひとりとして活躍した木村荘十二は、1941年に満洲に渡り、当地で敗戦を迎える。新中国での留用期間を経て、1953年に日本に引き揚げた後は、もっぱら独立プロダクションの児童映画を監督した。本作は大阪母親プロの公募に当選した村田忠昭の原作を、村田の創作の師だった依田義賢が脚本化して製作されたもので、小品ながら、依田の脚本、木村の演出、主演の望月優子の演技のいずれも精度の高い佳作といえる。

 

「ここに生きる」
(1962/40分/DVD上映)協力:国立映画アーカイブ
製作:オオタ・ぷろだくしょん 全日本自由労働組合
監督:望月優子 撮影:安承玟(アン・スンミン) 音楽:伊藤翁介 ナレーション:矢野宣

朝鮮帰国事業に関する第1作『海を渡る友情』(東映教育映画、1960年)、混血児差別問題に関する第2作『おなじ太陽の下で』(東映教育映画、1962年)に続く、望月優子監督の第3作目。全日本自由労働組合の委託により、当時国会に提出されていた緊急失業対策法改正案に対する反対運動の一環として製作された。炭鉱離職者、被差別部落出身者、女性など、全国の失業対策事業の日雇労働の現場で働く人びとの日々の労働と生活を、実際の作業現場や組合事務所・託児所などの現場で撮影した記録映像と、職業俳優を交えた再現ドラマパートを交錯しつつ映し出す。撮影の安承玟は、後に李學仁(イ・ハギン)監督『異邦人の河』(1975年)などの撮影監督も担当するが、ここでも水面やボタ山の地表、アスファルトの質感を叙情的に見せる映像が鮮烈な印象を残す。

 

[参考上映]
幻灯「にこよん」(1955)
製作:全日自労・飯田橋自由労働組合
脚本・演出・撮影:桝谷新太郎 配給:日本幻灯文化株式会社
※神戸映画資料館所蔵オリジナルフィルムから作成したニュープリントを上映。

映画『ここに生きる』を製作した全日自労は、映画のみならず、複数の幻灯を自主製作している。全日自労の飯田橋分会の失対日雇労働者たちが自主製作した幻灯『にこよん』は、その先駆的な試みであり、脚本・演出・撮影を担当した桝谷新太郎は、当初、満洲からの引揚後に失対日雇労働者となった自身の体験を基に執筆した脚本を、仲間の女性労働者たちの意見を受けて、女性を主人公に変更して改稿した。1950年代の時点で「女性の労働問題」にフォーカスした異例の映像作品であり、同じく全日自労が製作した『ここに生きる』の「女こども」へのフォーカスとの連続性も興味深い。

 

[トークセッション]
「女性映画作家・望月優子」(仮)
斉藤綾子(明治学院大学教授・映画学)
聞き手・鷲谷花(大阪国際児童文学振興財団特別専門員)

 

《参加費》無料

主催:JSPS科研費共同研究18K02022「近現代日本の社会運動組織による「スクリーンのメディア」活用の歴史・地域的展開」(研究代表者:鷲谷花)

これまでのプログラム|神戸映画資料館

※内容は予告無く変更する場合があります。

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