2025年3月7日(金)〜16日(日)
『映像の発見=松本俊夫の時代』全5部作
この作品は、日本戦後映画史、映画批評史における松本俊夫の役割を検証する目的で制作された。松本俊夫の活動領域に従い、Ⅰ記録映画、Ⅱ拡張映画、Ⅲ劇映画、Ⅳ実験映画、Ⅴ映画運動(映画批評)の5部作となる。これは、松本が映画、映像のジャンルをまたいで活動し、また映画、映像の役割を拡張、進化させてきた、日本はもとより、世界でもほとんど例を見ない先端的な映像作家(こう名乗ったのも、松本が最初である)であることを示している。それと、1950年代後半から、日本の批評活動の理論的指導者という側面を持ち、63年に刊行された第1評論集「映像の発見」は、同時代からその後の世代の映画を志す人々に、「バイブル」と呼ばれるほどの影響力を与えた。取材は、2003年から始まり、06年川崎市市民ミュージアム、12年愛媛県久万美術館における大規模な回顧展のドキュメントを含め、13年まで続けられた。松本俊夫とその関係者20名の証言は、松本の映像のもつ意味に限らず、日本の戦後という時代そのものを浮かびあがらせる。
『映像の発見=松本俊夫の時代』(2015/計700分/デジタル)
監督:筒井武文 撮影:瀬川龍、小野寺真、鈴木達夫
照明:市川元一 録音:山崎茂樹 サウンドデザイン:森永泰弘
編集:山崎梓 プロデューサー:武井登美 製作:プロダクション・バンブー
3月7日(金)・8日(土)
第Ⅰ部 記録映画篇(137分)
主な登場人物:藤原智子、湯浅譲二、観世栄夫、一柳慧、工藤充、佐々木守
松本俊夫の映画活動は、広い意味での記録映画から開始された。55年、新理研映画に入社し、実験工房、円谷プロと組んだ『銀輪』(55)を皮切りに、59年にフリーになってからも、注目作を作り続けた。57年に教育映画作家協会の機関紙に発表した映画人の戦争責任を問うた論文は、反響を巻き起こし、「記録映画」創刊に発展した。『安保条約』(59)、『西陣』(61)等は賛否両論に別れ、だんだんと映画を撮ることが困難になり、活動をテレビ、ラジオ、演劇に拡大するが、そこでも問題が起き、約3年半映像作品の活動が停止する。67年『母たち』のベネチア映画祭グランプリで劇的に復活する、松本俊夫の創作活動を松本とその協力者の証言で追う。主な出演者は、藤原智子、観世栄夫、湯浅譲二、一柳慧、工藤充。プロデューサーの工藤によるベトナム戦時下の取材をどうやって実現させたかという証言は必見である。
第Ⅱ部 拡張映画篇(153分)
主な登場人物:西嶋憲生、かわなかのぶひろ、波多野哲朗、金井勝、坂尻昌平、高山英男
1968年から70年にかけては、日米安保や大学改革をめぐる大衆や学生の運動、映画においては映画祭粉砕、万博に対する反対運動が吹き荒れた時代である。松本俊夫はそれらの運動にコミットし、作品としては、映像と観客の関係を変えようとする、エクスパンデッド・シネマに取り組んだ。西嶋憲生によるエクスパンデッド・シネマ講義、高山英男、畠山滋による「映像の発見」出版裏話、佐々木守による松本俊夫と大島渚の関係をめぐる証言、かわなかのぶひろや波多野哲朗による時代をめぐる貴重な発言等、複数の声が社会のなかでの松本俊夫の立ち位置を測定する。日本初の3面マルチ作品『つぶれかかった右眼のために』(68)が、これらの証言とカット・バックされ、2時間かけて、当時の世相を浮かび上がらせる。そして、時代は70年大阪万博へと向かっていく。そこでの、せんい館「スペース・プロジェクション・アコ」での試みはいかなるものであったのか。
3月9日(日)・10日(月)
第Ⅲ部 劇映画篇(140分)
主な登場人物:中条省平、渡辺哲也、菊池滋、押切隆世、佐々木伯
長篇劇映画処女作『薔薇の葬列』(69)は、松本俊夫のデータ・ベースともなる重要作である。ここでは松本俊夫が劇映画4作品を含む全作品に通底するテーマを語る。そして、15歳で「季刊フィルム」誌に、『薔薇の葬列』論を発表した早熟の中学生だった中条省平が、劇中劇の主人公として、『修羅』(71)の撮影現場の証言を含め、松本俊夫の時代に先駆けたセンスを語る。『修羅』の興行的失敗から、その後の松本は思うように劇映画が撮れなくなる。3年間公開されなかった『十六歳の戦争』(73)での製作中の困難を助監督だった菊地滋、撮影の押切隆世が語る。ようやく実現した長年の企画『ドグラ・マグラ』(88)では、助監督の佐々木伯が撮影の鈴木達夫との関係を、金井勝が共同脚本の大和屋竺との確執を証言する。また松本本人に逆らうように、その映像快楽主義を語る坂尻昌平、作品相互間の関係性に着目する西嶋憲生の批評も重要である。
第Ⅳ部 実験映画篇(109分)
主な登場人物:川村健一郎
第Ⅳ部のプロローグでは、2006年当時川崎市市民ミュージアム学芸員だった川村健一郎が、松本本人を展示準備中の会場に案内する。実験映画を制作、理論の両面から牽引した時代を振り返る松本俊夫。実験映画篇では、松本のグラフ・コンテが紹介され、自らの実験映画が投影されるスクリーンの前で自作の背景とテクノロジーを松本本人が語る。『気=Breathing』(80) では、武満徹の音楽に聴き入っているようだ。情念と形式的実験がきわどい均衡を保つ松本俊夫の映像世界は、80年代末に大きく変容する。作者本人が作中人物として登場し、東欧の崩壊による世界情勢の力学の変化を語り出すのである。そして、最後の質問に答え、長年の作品制作中断の意味を苦渋に満ちた言葉で語り出す。本作品では、松本俊夫の複数化をさらに加速させる。回顧展会場に舞台が転じると、そこには松本俊夫の遺作(!)が展示されている。
3月15日(土)・16日(日)
第Ⅴ部 映画運動篇(161分)
第Ⅰ部から、第Ⅳ部までで、松本俊夫の創作活動の全容を追ったわけだが、第Ⅴ部は取材を通して起きた疑問の数々を解き明かすべく、2012年、筒井武文が取り壊される寸前の自宅書斎に松本俊夫を訪ねた、全体の補巻とも言えるパートである。加えて、同年に開催された愛媛県久万美術館で開催された松本俊夫回顧展「白日夢」の展示がカット・バックされる。芸術運動、映画批評、戦争責任、論争、近代の超克、万博問題、共闘し別れた同志、自らの創作活動について、松本俊夫は何を語るのか。そして、プロローグでのアテネ・フランセ文化センターでの松本と筒井のトークの撮影が、盟友の鈴木達夫であり、その手持ち撮影の健在ぶりも見逃せない。この作品全体が、松本俊夫の次回作実現のために撮られたことも付記しておきたい。
《料金》1本あたり(当日2本目は200円割引)
一般:1700円 シニア(65歳以上)・障害者:1200円 ユース(25歳以下):1000円 会員:1200円
予約受付
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