神戸映画資料館

WEB SPECIAL ウェブスペシャル

所蔵図書紹介「人が集まる、文化が集まる! まちの個性派映画館」


著者 美木 麻穂

出版社 パイ インターナショナル
発行年月 2024年11月20日

 

まず手に取ると丁寧な装丁が期待度をMAXにしてくれる。ebookでは味わえない感触にいざなわれてパラパラとページをめくると、なんとオールカラーページという贅沢さ。さて、中身をみていこう。

タイトルにあるとおり個性派映画館が6章立てで紹介されており、それとは別に9つのコラムが程よい間隔で挿入されている。コラムのうち約半分は映画関係者からの寄稿であり、中には海外の映画館や劇場の昨今の事情を垣間見ることができる文章も。本編で紹介されている日本の映画館との比較も楽しめるし、旅好きな人なら日本だけでなく海外も旅しているような感覚にもなる。アートに敏感な人にとってはコラム「御成座の絵看板コレクション」がエモーショナルだろう。とにかく幅広い要素がギュッと圧縮された美味しい本なのだ。

著者はイラストレーターであり圧倒的な取材力と画力。レトロな佇まいを残す建物から、この本が上梓された2024年開設の劇場まで、なんと88ものシアターを載せていることは驚きだった。イラストによる語りは映画というストーリーを扱う場所と相性が良く、写真も半分くらいの割合で各々の映画館を物語っているものの、著者の非常に深い洞察を感じる。身近な関西のミニシアターとならんで、神戸映画資料館やプラネットプラスワンも紹介されているが、過大も過小もなく等身大の情報がそこにあり、一般読者に近いフラットな目線が素晴らしい。

最後に付け加えたいのは、この本は映画にそれほど興味が無くても建築や街歩きが好きなら直ぐにでも出かけたくなる優秀なガイドブックでもある。カフェやコミュニティスペースを備えた施設も多いし、リノベーションの斬新さに心を打たれて現地で見たくなってしまうのだ。住所や問い合わせ先はもちろん、巻末に都道府県別のINDEXがあるのも心憎い。どのページを開いても温かみがあり、映画文化や映画館への愛が伝わってくる一冊だ。

 

藤田 真由(神戸映画資料館スタッフ)

ARCHIVE旧サイトアーカイブ

PageTop