今月の1冊WEBSPECIAL / BOOKREVIEW

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「映画監督吉村公三郎 書く、語る」

著者:吉村公三郎
編者:竹内重弘
出版社:ワイズ出版
発行年月:2014年11月

 

 

 

 東京藝術大学に大学院映像研究科が設置される以前、実験授業と銘打ち、映画関連科目が開講されたことがある。当時、大学四年生の評者は元『キネマ旬報』編集長の白井佳夫氏が担当する講義「日本の古典映画」に参加し、自身の卒業論文の範に仰ぐため、白井氏が約半世紀前に早稲田大学に提出した卒業論文「日本映画論― そのリアリズムの発展」を翻刻した。後年の白井氏を予見する観念的な議論にはいささか閉口したが、印象に残る箇所もある。すなわち、13歳で敗戦を迎えた白井氏が、戦後の日本映画界の展開に伴走するなかで、黒澤明・木下恵介・吉村公三郎の三人を新時代の旗手と見なした事実である。
 『映画監督吉村公三郎書く、語る』は映画作家吉村公三郎の言葉を集めた労作である。今日では黒澤・木下と比較し、言及される機会の少ない吉村であるが、若き映画評論家の同時代的証言に鑑みても、特に被占領期から脱占領期における重要性は疑い得ない。本書に集められた吉村の膨大な言葉を念頭に置きつつ、吉村が作り上げた画面に向き合えば、新たな作家像が立体的に浮かび上がるに違いない。研究への意欲を掻き立てる書物である。

 

(羽鳥隆英/神戸映画保存ネットワーク研究員)

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