プログラムPROGRAM

早稲田大学演劇映像学連携研究拠点平成24年度公募研究「「映画以後」の幻灯史に関する基礎的研究」
昭和幻灯会
2012年8月26日(日)

第一部 19:00〜19:50
上映『ぼくのかあちゃん』(約20分)
レクチャー「《生活芸術》としての幻灯」講師:鷲谷花

第二部 20:00〜21:10
合唱付き上映『日鋼室蘭首切り反対闘争記録 嵐ふきすさぶとも』第一・二巻(約70分)

「幻灯」―光源とレンズを利用した静止画像の拡大映写装置―は、19世紀末の映画の誕生に際して、技術面でも興行文化面でも多大な影響を及ぼしたことから、もっぱら「映画以前」の映像メディアとして関心を集めてきました。反面、「映画以後」の幻灯の運命については、映画の大衆的メディアとしての本格的普及とともに歴史的役割を終え、衰退していったと、従来は理解されてきました。
しかし、日本における幻灯は、戦時国策教育メディアとして1941年前後に復興を果たし、占領期にも、視聴覚教育を重視した占領政策のもと着実に需要を伸ばし、そして戦後の一時期にめざましい発展を遂げることになります。幻灯は学校・社会教育の場で視聴覚教材として活用されたばかりでなく、誰にでも作り、上映することのできる映像メディアとして、社会福祉運動、労働運動、反基地運動、原水禁運動など、戦後に勃興したさまざまな社会運動の教育宣伝目的に幅広く活用されました。
今回は、神戸映画資料館に保管されていた貴重な幻灯フィルムを、幻灯機を用いて上映し、併せて1950年代の幻灯史に関するレクチャーを行います。「前映画」にも「映画の代用品」にも留まりきらない独自のポテンシャルをもつメディアとしての幻灯を再発見する貴重な機会にお立会いください。
第一部 19:00〜19:50
上映「ぼくのかあちゃん」
(1953年/約20分)製作:東大セツルメント川崎こども会
構成:加古里子 協力・配給:日本幻灯文化社
「セツルメント」とは、知識人が都市の貧困地区に住み込み、住民との親密な関係を築きつつ、物質的及び精神的環境を改善することをめざす地域福祉活動。1924年に発足した帝大セツルメントは、38年の左翼大弾圧に伴う関係者一斉検挙によって一旦途絶するが、49年のキティ台風被災の救援活動を機に東大セツルメントとして再組織され、以来、全国的な活動へと広がってゆく。今日まで日本を代表する絵本作家として活躍を続けている加古里子(かこ さとし)は、東大セツルメント復活直後から、川崎こども会の運営に参画し、会に集まる子どもたちと共同で紙芝居及び幻灯の創作活動に取り組んでいた。
当時の川崎こども会の幻灯活動は、『山びこ学校』の反響によって活気づく生活綴方・生活記録運動の流れを汲みつつ、創作・上映プロセスへの子どもたちによる自主的・積極的な参加を促すという方針を採っており、子どもたちの作文と児童画をアレンジして構成した本作もそうした実践のユニークな一例といえる。加古の自伝『絵本への道―遊びの世界から科学の絵本へ―』(福音館書店、1999念)によると、「『ぼくの母ちゃん』(一九五三年)はセツルの子どもに題材をとった生活もので、子どもの作文という形でやりました。雑誌に載った後で日本幻灯文化社が幻灯に作って出してくれました。本数は百本か二百本でした。これで入ってくる何がしかのお金が子供会の活動の資金にもなりました」(34頁)。
レクチャー「《生活芸術》としての幻灯」
講師:鷲谷花
早稲田大学演劇博物館招聘研究員。映画学、日本映像文化史研究。共編著に『淡島千景 女優というプリズム』(淡島千景、坂尻昌平、志村三代子、御園生涼子編著、青弓社、2009年)。
第二部 20:00〜21:10
「日鋼室蘭首切り反対闘争記録 嵐ふきすさぶとも」第一・二巻

合唱付き上映(約70分)
製作:日鋼室蘭労働組合 配給:日本幻灯文化社
合唱:日吉聖美、遠藤美香、田中裕介、中西金也
三井財閥傘下、日本最大の民間兵器工場として名高かった日本製鋼室蘭製作所は、朝鮮戦争特需景気下、在日米軍のいわゆるPD工場として兵器製造を再開し、経営合理化と労働強化を推し進める。1954年6月18日、会社は戦争特需終結とデフレ政策による業績悪化を理由に、976名の人員整理を含む合理化案を発表、これに反対する日鋼室蘭労働組合はストライキに突入、その後、第一組合と第二組合の分裂と相互対立など、事態は混迷を極めるが、争議開始以来224日目に中労委の斡旋案を労使双方が受諾することで収束に至った。最終的な解雇者は662名だった。
第一組合(旧労)の立場から争議の全過程を記録する、この全110コマに及ぶ長大な幻灯は、1952年10月17日に始まる日本炭鉱労働組合(炭労)主導の63日間の賃上げ要求争議を記録する『激斗63日 われらかく斗う』(製作:炭労、1953年)と並び、1950年代を中心に盛んに製作された労働争議幻灯の中でも、とりわけ成功した作品だったらしい。総評が1955年に主宰した組合員向けの文化講習会に際して、配給元の日本幻灯文化社の社員が、「日鋼室蘭の幻灯のように、正しくその闘いをあらわにし、国民の運命につながるものをもつならば、強く心に訴える作品になるということです。日鋼室蘭の幻灯は素晴らしい評判でした。いままで幻灯を馬鹿にしていたという神奈川鶴見の国鉄の労働者は『はずかしいけど涙が出た……』また、東京の日通両国支部では幻灯をみて『早速カンパしようじゃないか』と決められました。」(日本労働組合総評議会教育文化部『現代文化講座』、1956年、167頁)と発言しており、本作の影響力の強さが伺い知れる。

《料金》無料

主催:早稲田大学演劇映像学連携研究拠点平成24年度公募研究「「映画以後」の幻灯史に関する基礎的研究」(研究代表者:鷲谷花)
共催:プラネット映画資料図書館、神戸映画資料館

これまでのプログラム|神戸映画資料館

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