プログラムPROGRAM
2016 8

『ホース・マネー』公開記念
ペドロ・コスタ監督 『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』
2016年8月6日(土)・7日(日)

ポルトガルの鬼才ペドロ・コスタの新たな傑作『ホース・マネー』の公開に合わせて、『ヴァンダの部屋』と『コロッサル・ユース』を35mmフィルムで上映。この濃密な体験は劇場でしか味わえない!

vanda_01「ヴァンダの部屋」No Quarto da Vanda
(ポルトガル・ドイツ・フランス/2000/180分/35mm)
監督・脚本・撮影:ペドロ・コスタ
編集:ドミニック・オーヴレイ
録音:フィリップ・モレル、マシュー・エンベール
配給:シネマトリックス

あの街においてきた、わたしの魂を。
「ここ」は、リスボンの移民たちの住む街。名前は、ヴァンダ。私はここで暮らしている。壊れかけた家々、廃墟、ジャンキー(麻薬中毒)、鳴り響く工事の音・・・。こんなとこ、悪魔も住まない。でも、ここにいる、太陽がおおきく見える「この場所」に。
ゲットーにデジタルカメラを持ち込み、2年間、そこに暮らし、とらえた「捨てられた」街と人々の姿。ドキュメンタリー/フィクションという区分を無効にする、あまりにも「美しく」「濃密な」映像と物語、そして時間。

「小津安二郎」を思わせる光と「パンク」な音響が
リスボンで交錯する“奇跡”の体験

世界各地の映画祭で上映される度に、熱狂的な支持を得、劇場公開が熱望されていた、本作の監督はペドロ・コスタ。オリヴェイラ、ストローブ=ユイレが自らの後継者と断言する、ポルトガルの若き鬼才。『ヴァンダの部屋』における人々の日常をとらえ、一度も動くことのないカメラは、多くの観客に小津安二郎の映画を連想させ、ペドロ・コスタ自身も、小津からの大きな影響を公言している。
人々が暮らす暗闇の空間に射し込む光、そして屋外のラテン的なあたたかい光に満ち溢れた静謐な映像と、舞台となる移民街に鳴り響くノイズ(ルビ:破壊音)。映画の臨界点を遥かに越えた「未知の体験」=“奇跡”を、今、体感する。

→「ヴァンダの部屋」公式サイト

 

CY_01「コロッサル・ユース」Juventude em Marcha
(ポルトガル・フランス・スイス/2006/155分/35mm)
監督:ペドロ・コスタ
撮影:レオナルド・シモイショ、ペドロ・コスタ
編集:ジュアン・ディアス
録音:オリヴィエ・ブラン、ヴァスコ・ペドロソ
音楽:オイス・トゥパロイス
配給:シネマトリックス

愛する妻よ、俺の手紙は着いたか?
お前の返事はまだ来ないが、そのうち届くだろう・・・

古くからカーボ・ヴェルデ諸島出身のアフリカ系移民が多く住む、リスボン北西郊外のフォンタイーニャス地区。住民たちは開発に伴い建てられたばかりの近代的な集合住宅へと強制移住させられる。そんな移民労働者の一人で、34年この地区に住んできたヴェントゥーラは、突然、妻のクロチルドに家を出て行かれてしまう……。

1997年の『骨』、2000年の『ヴァンダの部屋』に引き続き、フォンタイーニャス地区にカメラを持ち込み、撮影された本作は、同じテーマでの第3作目となる。現場にはデジタルカメラと録音機(DAT)、三脚などの最小限の機材でのぞみ、照明はほぼ自然光のみで撮影された。出演者には、ヴェントゥーラやヴァンダをはじめ、プロの俳優は一人もいない。すべて、その地区の住人やペドロ・コスタの知人・友人たちである。しかしこの映画をドキュメンタリーか劇映画かを分類することは不可能であり意味がない。ペドロ・コスタにおいては、映画はドキュメンタリー、フィクションの枠を越え、人間についての、土地についての壮大な叙事詩となる。

→「コロッサル・ユース」公式サイト

《料金》入れ替え制
一般:1500円 学生・シニア:1300円
会員一般:1300円 会員学生・シニア:1200円

→「ホース・マネー」公式サイト


ストローブ監督近作特集
2016年8月13日(土)・14日(日)

レクチャー:ストローブ映画から照射する「ストローブ=ユイレ」
8月13日(土)16:45〜 参加無料
渋谷哲也(ドイツ映画研究)
2006年ダニエル・ユイレが亡くなった後、ジャン=マリー・ストローブは単独監督として次々と短編映画を発表している。それは最高にユニークな映画作家夫妻の創作活動の後奏曲かと思いきや、まったく新しい作家映画の始まりを告げるものだった。今回の上映作品では彼らの旧作の自己引用が、まったくアクチュアルな文脈を獲得している。歴史の位相と現代性との弁証法に徹底的にこだわったストローブの『共産主義者たち』は、ストローブ=ユイレの集大成であると同時に、今までにない若々しい輝きを放つ傑作となっている。

Aプログラム
statue01「ミッシェル・ド・モンテーニュのある話」
Un conte de Michel de Montaigne
(フランス/2013/33分/デジタル[ブルーレイ上映])
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール
ソルボンヌ大学北のポール・パンルヴェ小公園にあるポール・ランドフスキ作のモンテーニュの坐像を捉えながら、『エセー』第2巻第6章「実習について」が朗読される。一度しか体験できない生から死への移行を省察する。

 


Normandie01「影たちの対話」

Dialogue d’ombres
(フランス/2014/28分/デジタル[ブルーレイ上映])
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:レナート・ベルタ
ストローブ=ユイレが1954年に映画化を構想したという、ベルナノスの1928年の同名小説の一部を映像化した。一組の男女が川辺の木陰で愛の対話を展開する。ノルマンディのフレール近郊で撮影された。フランソワーズ役はコルネリア・ガイサー、ジャック役はベルトラン・ブルデール。


VENISE01「ヴェネツィアについて(歴史の授業)」

À propos de Venise
(スイス/2014/24分/デジタル[ブルーレイ上映])
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール
河岸の波と木の枝を映した長廻し2ショットに重ねて、バレスの旅行記「愛と悲しみの聖地」(1903)の一篇「ヴェネツィアの死」第3章「アドリア海の水平線上に漂う影たち」一節が朗読される。最後に『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』(1968)よりカンタータ BWV205のアリア「いかに楽しく笑うや」が引用される。

 

Bプログラム
KOMMUNISTEN01「共産主義者たち」
Kommunisten
(フランス、スイス/2014/70分/デジタル[ブルーレイ上映])
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール
マルローの同名小説(1935)に基づく「侮蔑の時代」で始まり、続けてストローブ=ユイレの旧作5本『労働者たち、農民たち』『フォルティーニ/シナイの犬たち』『早すぎる、遅すぎる』『エンペドクレスの死』『黒い罪』からの抜粋で構成される。


Algerie01「アルジェリア戦争!」

La guerre d’Algérie!
(フランス/2014/2分/デジタル[ブルーレイ上映])
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール
ある男がもう一人の男を銃で脅しながら、かつてアルジェリア戦争で上官の殺人命令を拒否して上官を殺害し逃亡した顛末を話す。精神分析医ジャン・サンドレットのテクストに基づくシネトラクト(政治ビラ映画)。

 

作品解説:渋谷哲也
協力:アテネ・フランセ文化センター

《料金》入れ替え制
一般:1400円 学生・シニア:1300円
会員一般:1300円 会員学生・シニア:1200円

《割引》当日2プログラム目は200円引き


くにづか100円上映会
2016年8月19日(金) 11:00〜

新企画の第一回目は、夏休み期間中ということで、子どもと大人が一緒に楽しめる映画を上映します。
鑑賞料はワンコイン100円!
 

《料金》 100円
(アスタくにづか4番館1階の「コミュニティハウス」では、先着30名様に招待券を進呈)

主催:くにづかリボーンプロジェクト、アスタくにづか神戸市保留床テナント会


映画史のミッシングリンクを追え! 2 Days

この夏、ルポライター鈴木義昭が長年温めてきた『「世界のクロサワ」をプロデュースした男 本木荘二郎』(山川出版社)が刊行される。そして、神戸大学の映画研究者・板倉史明による1960年代後半から1970年代におけるピンク映画の製作体制の研究論文(『戦後日本の産業空間:資本・娯楽・興行』所収/森話社)も間もなく発表される。
近年、世界的に高まりつつあるピンク映画研究の最前線を上映とトークでお届けする二日間。初日は黒沢明映画のプロデューサーで後にピンク映画に転じた本木荘二郎関連作品を中心に、二日目は昨年10月に逝去された女優の香取環さんを追悼するプログラムを組んだ。

 

「世界のクロサワをプロデュースした男 本木荘二郎伝」刊行記念
本木荘二郎とその時代
2016年8月20日(土)
baisyunbou02「売春暴行白書」
(1970/72分/パートカラー/16mm)葵映画
監督:渡辺護 脚本:門前忍 撮影:池田清二
出演:青山リマ、大月礼子、千原和加子、浅香なおみ(鈴木いづみ)、吉田純、太田彰二、国分二郎
ラピュタ阿佐ヶ谷で大規模な特集上映が組まれるなど再評価への気運が高まる渡辺護監督。この『売春暴行白書』は長らく失われたと考えられていたが、西原儀一から鈴木義昭が譲り受け神戸映画資料館に寄託した葵映画作品フィルムの中に含まれていた。プリントは良好な状態とは言い難いが補修をすれば上映に耐えると判断、今回のみ特別に上映することにした。「ピンクの黒澤」という異名のあった渡辺護は、「黒澤明作品」をこよなく愛する映画監督だった。本木荘二郎が切り拓いた「ピンク映画」の世界に、東京・滝野川の映画館の息子で黒澤明のように映画好きな青年だった渡辺護のような監督が生まれたのは奇縁だったか。


manokuti02「魔の口紅」

(1949/66分/16㎜)映画芸術協会
企画:本木荘二郎
監督:佐々木康 脚本:鈴木兵吾
原作:斎藤良輔 撮影:石本秀雄
音楽:万城目正
出演:水島道太郎、喜多川千鶴、月形龍之介、浜田百合子
「山の手劇場」を舞台に活動するレビュー劇団で、人気女優が自殺したあと妹がその劇団に入ったが、それから次々と不思議な事件が起き、ついに姉の貞操を奪った悪魔は警察に捕まる。山本嘉次郎、成瀬巳喜男、黒澤明、谷口千吉らによって設立された映画芸術協会の作品で、後にピンク映画監督に転身した本木荘二郎が企画。西条八十作詩・万城目正作曲の主題歌「花の宴」など歌う場面も多い。なお上映プリントは、トップのクレジット部分とラストの一部が欠落しています。ご了承ください。

トーク① 8月20日(土)15:50〜18:00 参加無料
鈴木義昭
(映画史研究家/ルポライター)
参考上映
『ヌード肉体まつり』(製作年不詳/10分/35mm/監督:相良武雄)
『狂熱の果て(監督:山際永三)』予告篇(1961/3分/35mm/大宝映画)
ほか多数

 

追悼・香取環 ミッシングリンクを生きた女優
2016年8月21日(日)
mesuwana02「牝罠」
(1967/72分/パートカラー/16mm)葵映画
監督・脚本:西原儀一 撮影:池田清二
照明:森康 製作:後藤充弘
出演:香取環、中原美智、森三千代、渚マリ、田中敏夫、山田晴生、椙山拳一郎
結婚式を控えた農家の一人娘・陽子(香取環)は、三人の若者に襲われ純潔を散らされる。上京し銀座のホステスに、やがてバーを経営するまでになるが、その肉体には男を憎み狂わす魔性が棲みついていた。美しさゆえに都会の中でもがき苦しみ流転し堕ちていく女。日活出身の香取環と宝塚映画出身の西原儀一が、独立プロ全盛期に結実させた伝説的作品。


hikisakareta02「引裂れた処女」

(1968/72分/パートカラー/16mm)葵映画
監督:西原儀一 脚本:千葉隆志(西原儀一)
撮影:池田清二
出演:香取環、白川和子、清水世津、中尾有理、時沢芳恵、矢島広志、名和三平、松浦康
清純で健康的なホステスの雅美(香取環)は結婚を申し込まれる。男の実家があるという温泉町へと連れられて行くが、待っていたのは女の生き血を吸う売春組織だった。壮絶な地獄絵図の中で「女王」香取環がもがく。「団地妻」以前の白川和子が盲目の少女で登場するのも必見。

トーク② 8月21日(日)15:55〜17:00 参加無料
鈴木義昭
(映画史研究家/ルポライター) × 板倉史明(神戸大准教授)
参考上映
『激情のハイウェー』(部分)(1965/8分/カラー/35mm)
西原儀一監督のピンク映画監督デビュー作品、葵映画第一作
ほか

《料金》入れ替え制
一般1200円 学生・シニア1000円
会員一般1000円 会員学生・シニア900円

《割引》2本目は200円引き

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[シアター内で同時開催]本木荘二郎、幻のピンク映画ポスター展
提供:東舎利樹ポスターコレクション

特設ページ:さよなら、香取環 鈴木義昭

関連記事
・なぜ、いま「本木荘二郎」なのか!?
・香取 環の部屋


これまでのプログラム|神戸映画資料館

※内容は予告無く変更する場合があります。

※作品によっては、経年退化で色褪せしている場合がございます。予めご理解ご了承の上、ご鑑賞くださいますようお願い申し上げます。