今から100年近く前のサイレント時代末期に生み落とされた、モダンでパンク、シュルレアリスティックでクレイジーなチャーリー・バワーズの作品たち。緻密なストップモーション・アニメーションと実写の融合(“バワーズ・プロセス”)による奇想天外な映像世界に加え、バワーズがのぞかせる喜劇王バスター・キートンのような憂愁と、キートンをもしのぐ狂気は観る者を驚かせ、笑わせ、時にはホラー映画のような恐怖さえも感じさせる。
そんなバワーズだが、アンドレ・ブルトンやクエイ兄弟など芸術家たちに賞賛されていながら、その実態はいまだに謎のまま。これほどの異能が、一体どうして歴史に埋もれてしまったのか……!?
そんな、自分の存在すら煙に巻いてしまった斜め上の天才バワーズの世界を、この秋、劇場で紐解く!!
ある日「たまごの殻が割れやすいのはおかしい!」と気づいてしまった、しがない発明家バワーズ。まさかの着眼点から(まったく仕組みのわからない)“割れないたまご製造機”を発明してひと山あてようと大奮闘する、記念すべき実写映画第一作。
(原題:EGGED ON|1926年|23分)
これが本当のロボットレストラン!? 愛する女性の父が経営する店を訪ね、結婚の承諾を得るはずが求人と誤解されたバワーズは……。まさにマシン・エイジならではの作品で、巨大機械を駆使してレストランの全作業を賄うワンオペの最終形態。
(原題:HE DONE HIS BEST|1926年|23分)
バワーズ再発見のきっかけとなった重要作。さる紳士に“ほらふきチャンピオン大会”へ招かれたのは、人生に絶望した若き発明家。万物が実る木を発明した彼の身に起きた“真実”とは、はたして……?ガンマンねずみ vs 無限猫の仁義にゃきバトルも必見!
(原題:NOW YOU TELL ONE|1926年|21分)
幽霊屋敷もののパロディで、アニメと実写がスピーディーに融合する怪作。「ひげの怪人」捜査のためスコットランド・ヤード(?)の探偵バワーズが相棒の謎生物マックと海を渡る。バワーズ屈指のハイパー・ナンセンス・ドタバタ劇について来れるか!?
(原題:THERE IT IS |1928年|22分)
稲田誠:contrabass, electric bass / 鈴木勝:electric guitar /森本アリ:sampler, gameboy, jews harp /山本信記:synthesizer, trumpet / Solla:piano, organ, andes25f
(原題:THE EXTRA-QUICK LUNCH|1918年|6分)
*調査の結果、公開年を1917年から1918年に修正。
(原題:A.W.O.L. or ALL WRONG OLD LADDIEBUCK|1918年|6分)
バワーズ工房による制作が確認されている人気カートゥーン「マット&ジェフ」シリーズの1本と、新聞漫画家出身のバワーズらしい風刺の利いたアニメーション。
伴奏音楽(短編アニメーション): OTOWA-UNIT
Kotaro Maruyama:keyboard / Toru Kunugida:percussion
上映時間 106分
*上映作品はすべて無声映画です。
日本上映用に新たに録音した伴奏音楽を付けて上映します。
1889年頃-1946年/米国アイオワ州出身
*生年は諸説あり
伯爵家の血筋で、5歳で綱渡りをマスターし6歳でサーカス一座に誘拐された(本人談)。カートゥーン「マット&ジェフ」のアニメーターを経て、自身が主演する無声短篇映画の制作をスタート。長く忘れられていたが、1960年代にフランスで発見されたことを皮切りに、眠っていたフィルムが世界各地で発掘される(今回上映する6作品のうち4本はフランス語版)。21世紀に入り現存する作品のデジタル修復が行われ、映画史に埋もれた天才の再評価が高まりつつある。
サイレント映画時代末期の1920年代後半、チャーリー・バワーズは20本の新奇な短篇映画を生み出した。実写のスラップスティックとストップモーション・アニメーションを融合させたその作品群は、他に類を見ないオリジナリティに溢れている。ほとんど偏執的なまでに精緻なバワーズのアニメーションは現代の観客をも驚愕させる。
しかし、チャーリー・バワーズは忘れられたアーティストであった。短篇『IT’S A BIRD』(1930年)を公開から7年後に観たアンドレ・ブルトンはその才能に驚愕し絶賛のコメントを残しているが、バワーズが脚光を浴びることはなかった。フィルムのほとんどは失われ、バワーズは映画史から消えた。
チャーリー・バワーズとは、いったい何者なのか。その生涯は今も謎に包まれている。チャールズ・R・バワーズは19世紀末(生年は1887年、1889年と諸説ある)米国アイオワ州のクレストという町で生まれた。バワーズ自身が語った“プロフィール”によれば、彼は伯爵家の血筋に生まれ、5歳で綱渡りの技を体得し、6歳でサーカスの一座に誘拐され、カウボーイ、調教師などさまざまな職を転々とした…。だがこのドラマティックな半生はほとんどが脚色だったのではと言われている。
バワーズが1910年代初頭に新聞漫画家だったことは確認されている。「シカゴ・トリビューン」などの大手紙で漫画を担当。新聞王ハーストがアニメーション映画化した「カッツェンジャマー・キッズ」の制作にも関わった。その仕事が著名な漫画家バド・フィッシャーの目に留まる。バド・フィッシャーは大人気漫画「マット&ジェフ」の原作者で、アニメーション版のシリーズ化にあたり制作スタッフを探していた。バワーズはフィッシャー工房の一つを任され、何人ものアニメーターを抱えたスタジオの責任者に就任する。
だが1920年代に入る頃からバワーズの関心はストップモーション・アニメーション(パペット・アニメーション)へ移っていく。英国出身の撮影技師ハロルド・L・ミュラー(この人物の経歴もよくわからない)と独立プロダクションを立ち上げ、1926年に最初の“実写”短篇作品『たまご割れすぎ問題』(Egged On)を発表。バワーズ自身が主演する喜劇“Whirlwind Comedy Series”と銘打ち20本の短篇を作った。撮影手法を“バワーズ・プロセス”と謳っているものの、それが何を意味するのかは謎である。
かくしてバワーズはアニメーターから“コメディアン”となった。本格的な喜劇の訓練を受けたわけでは(おそらく)ないバワーズには、動きで観客を笑わせる技術や才能はさほどない。それでも観客を惹きつける何かが彼にはある。例えば無表情で知られるキートンの憂愁や、永遠の少年ハリー・ラングドンの純粋さなど、同時代のアメリカ喜劇の影響を見てとることもできる。制作と主演を兼ねたのも当時の名だたるコメディアンたちと共通している。
ただ、バワーズがコメディアンを自認していたかどうかははかりがたい。1930年の国勢調査では彼は職業を「発明家」と申告していたという。映画の中でも発明家の役を演じることが多かった。一人のコメディアンが同じ職業を何度も演じるというのは、当時の喜劇映画では極めて稀なことである。バワーズのいかにも器用そうな手の動きや、仕事に打ち込む真剣さを見ていると、コメディアンというより職人と呼ぶにふさわしいという気がする。
1930年、初のトーキー作品『IT’S A BIRD』を発表。39年にはニューヨーク万国博覧会に出品された企業宣伝映画のアニメーションを担当しナレーションも務めている。すでに健康を害していたバワーズはその後、東海岸に居を移した。1946年没。当時の映画雑誌に掲載された訃報には「カートゥーン・アニメーションのパイオニアであったチャールズ・バワーズが57歳で死去」とある。
バワーズの死から20年を経た1960年代半ば、シネマテーク・ド・トゥールーズの創設者レイモン・ボルド(Raymond Borde 1920-2004)は、旅芸人から買い受けた大量のネガフィルムの中に奇妙な無声映画数本のプリントを見つけた。「ブリコロ(Bricolo フランス語で“日曜大工、修理屋”の意)」の愛称で呼ばれるそのコメディアンにボルドはたちまち魅了された。そしてそれがチャーリー・バワーズであることをつきとめた。 だがその後も一部のファンや専門家を除きバワーズが注目されることはなく、再評価の機運がようやく高まったのは90年代以降である。アーキビストのセルジュ・ブロンベルグ(『メリエスの素晴らしき映画魔術』監督/ロブスター社社長)が『ほらふき倶楽部』(Now You Tell One)を観て強い衝撃を受け、世界のアーカイブに眠るバワーズ作品の調査発掘に着手した。その調査の成果として初めてまとまったバワーズ作品がDVD化されたのが2003年。さらに本格的なデジタル修復作業が進められ、2019年にロブスター社から2枚組Blu-rayが発売された。
バワーズの再発掘は今も世界各地で進んでいる。現存しないと思われていた短篇『HOP OFF』(1928年)のフィルム(部分)が米国に存在するとの最新情報もある。日本でもあるいはコレクターの収集フィルムの中にひっそりと眠っていないとも限らない。チャーリー・バワーズは、まさに今よみがえりつつある天才なのである。
参考文献:
なみきたかし、伴野孝司、望月信夫、森卓也(1986)『世界アニメーション映画史』ぱるぷ
岡田秀則(2009)「NFCニューズレター 連載フィルムアーカイブの諸問題第73回『ノンフィルムの森⑤シネマテーク・ド・トゥールーズ』」東京国立美術館フィルムセンター
細馬宏通(2013)『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか アニメーションの表現史』新潮社
Goldmark, Daniel /Keil, Charlie (2011) Funny Pictures: Animation and Comedy in Studio-era Hollywood, University of California Press, Ltd.
Massa, Steve(2013) Lame Brains & Lunatics: The Good, The Bad, and The Forgotten of Silent Comedy, BearManor Media
赤塚若樹(2019)「ブラザーズ・クエイと「東欧的なもの」」首都大学東京人文学研究科人文学報
Axmaker, Sean(2019)Celebrating Bricolo, ブルーレイThe Extraordinary World of Charley Bowers, Flicker Alleyに添付のブックレット解説
Grayson, Eric(2020), A Charley Bowers Cartoon Detective Story, Cartoon Research URL: https://cartoonresearch.com/index.php/a-charley-bowers-cartoon-detective-story/ (2021年8月8日閲覧)
画像提供:スティーヴ・マッサ
Photos courtesy of Steve Massa
チャーリー・バワーズは自動器械装置づくりに憑かれている。しかも割れないタマゴ製造器の場合でいえば、部品はすべて人様のモノを盗んで調達するというのだから、その根性たるや、立派なものである。道を歩くうち、停めてあった自転車を目にするや、その一部分を手際よく外して頂く。それはまあいいとして、顎髭をこんもり生やした紳士がベンチで友人と語らっているのを見かけるや、向こう側からこっそり手を伸ばし、紳士に気づかれもせず、さらりと顎髭を剃り落として入手するのには、笑ってしまう。この調子で実験材料のタマゴを集め、複雑怪奇な器械装置を動かし、何度も失敗しながら実験に励むチャーリー・バワーズの姿を見守っていると、こんな思いが忽然と湧き上がってくる。これは単に発明狂の男を面白おかしく描いた映画ではないのではないか。ならば、何なのか。映画も一種の器械装置にほかならないことを考えれば、この作品は、チャーリー・バワーズがいかに映画という当時新発明の器械装置に夢中になっているかを物理的に表現しているにちがいない。
山根貞男(映画評論)
なんでもありのサイレント・コメディのなかでも極めつきに奇天烈なチャーリー・バワーズ作品は、時代を超越している。シュルレアリストたちが熱狂したといっても、バワーズの狂いっぷりには夢や無意識との近しさはまったくない。誰もが狂っているのに、わけの分からない混沌に陥るのではなく、奇妙なまでに冷静な論理に貫かれているのがバワーズの世界のおかしさなのだ。そのあっけらかんとした狂気は、遊び心に充ちた新しい伴奏音楽とあいまって、爽快な気分をもたらしてくれるはずである。
堀潤之(映画研究)
1960年代にフィルムが見つかっても、それがいったい何なのか、長いこと誰にもわからなかったのだという。すでにこの世から失われ、忘れ去られてしまった無数の初期映画のうちには、こんな映画がきっとまだまだあったのだと思うと苦しくなるけれど、いまはこのわずか数本の愛おしい映画たちが、多くの人々の手を介して21世紀の日本の私たちのところにまで届けられ、その初々しい姿を見せてくれることの奇跡を噛みしめたい。
常石史子(映画研究)
バワーズの映画ではナス(エッグプラント)から卵(エッグ)が生まれ、卵からは幼い車が生まれる。猫も木から落ちるし、マッチ箱の妖精だって活躍する。それらにこれといった意味やメッセージがなさそうなのが好きだ。人も物も動物も、バワーズの息が思いっきり吹き込まれている。生命の躍動を楽しみ、喜ぶことに、意味はいらない。バワーズが画面の動きすべてに満ちていて、こちらも嬉しくなる。自由になる。大好きです。
小田香(映画作家)
藪から棒にチャーリー・バワーズ。なぜ今、誰が誰に向けて、何のために? さっぱりわからないのが近頃まことに素晴らしい。大学の授業じゃあるまいし、おもしろい映画を見るのに理由など要るものか。だがしばし待たれよ。バワーズは本当におもしろいのか? 地球の物理法則を無視しつづけるバワーズ喜劇は、暴走に暴走を重ねるというよりも、真顔で淡々と語りかけてきた人の話に耳を傾けていると実は最初から全部支離滅裂だったことに気づかされるといった塩梅で、だから『怪人現る』のオチにたどりつく頃には「ああ、やっぱり……」と冷たい汗が背筋をつたうことになるのだ。何かヤバい封印が解かれてしまったような気がしてならないのだが、一足先に見た人間だけが呪われるというのは癪だから、この際一人でも多くの方が巻き添えを食うことを期待する。
藤井仁子(映画研究)
もう35年ほど前になるだろうか、パリの名画座のスラップスティック短篇の特集で、とびきり奇妙で、しかし、さっぱり訳が分からなかったものがあった。
「何、これ!?」 字幕がフランス語ということもあり、また当時はこれが何か調べるすべもなかった。今にして思うと、これが『全自動レストラン』であり、おそらく『ほらふき倶楽部』だった。
この2作を含むチャーリー・バワーズ驚異の全6作が日本語字幕付で見られる。時代は追いついた!!
筒井武文(映画監督/映画批評)
チャーリー・バワーズの狂気に出会うと、映画が全く違う姿で進化していてもおかしくなかったかもしれないと気づかされ、そこにほんのり明るい希望が見えるのです。
鈴木卓爾(映画監督/俳優)
装置やオブジェクトに対するチャーリー・バワーズのフェティッシュな執心が、映画に魔力と狂気をもたらす。
想像力の産物が、駒撮りによって実存化し、ライブアクションとの共存によって映像が生き生きと動き出す。
まさに活動写真(Animated Picture)!
映画史に忘れられたナンセンスをやっと堪能できる日が来て、とても興奮しています。
山村浩二(アニメーション作家)
チャーリー・バワーズ
もしかすると、まれなる変人映画監督を発掘したのではないでしょうか?
次から次へと溢れるアイデア。
アイデアを具現化するために、技術と技術の合せ技をやってのけるわけですが、なぜか漂うホームメイド感。
世界中で動く写真に夢中になっていた時代のおおらかさを垣間見ることが出来る貴重な作品群。
映画は20世紀の賜物なのだ。
1920年代にタイムスリップしてオンタイムで見てみたい。
井口奈己(映画監督)
バワーズが映画の天才としての地位を取り戻したのは、世界中のフィルムアーカイブや個人コレクターのおかげだ。
バワーズの映画を1本でも観れば、もっと観たくなる。
中毒性があるのだ。
セルジュ・ブロンベルグ(ロブスター社社長/プロデューサー)
ひろしまアニメーションシーズン2022 2022年8月20日
ニューガーデン映画祭2023 2023年3月12日
高知県立美術館 2023年8月20日
キッズ映画会 in 新長田 vol.2 『たまご割れすぎ問題』2023年12月29日
KITAKINEMA presents Vol.22024年3月31日
都道府県 | 劇場名 | 公開日 |
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宮城 | フォーラム仙台 | 上映終了 |
東京 | Morc阿佐ヶ谷 | 上映終了 |
東京 | ユーロスペース | 上映終了 |
千葉 | キネマ旬報シアター | 上映終了 |
神奈川 | 横浜シネマリン | 上映終了 |
シネコヤ | 上映終了 | |
静岡 | 静岡シネ・ギャラリー | 上映終了 |
長野 | 長野相生座・ロキシー | 上映終了 |
富山 | ほとり座 | 上映終了 |
石川 | シネモンド | 上映終了 |
愛知 | 名古屋シネマテーク | 上映終了 |
京都 | 京都みなみ会館 | 上映終了 |
大阪 | シネ・ヌーヴォ | 上映終了 |
兵庫 | 元町映画館 | 上映終了 |
神戸映画資料館 | 上映終了 | |
愛媛 | シネマルナティック | 上映終了 |
広島 | 横川シネマ | 上映終了 |
福岡 | KBCシネマ | 上映終了 |
沖縄 | 桜坂劇場 | 上映終了 |
『たまご割れすぎ問題』『全自動レストラン』『ほらふき倶楽部』『怪人現る』『とても短い昼食』『オトボケ脱走兵』
作品解説・フィルモグラフィ・年表
バワーズ再発見の経緯(セルジュ・ブロンベルグ)
論考(スティーブ・マッサ/宮本裕子/細馬宏通/筒井武文)
エッセイ(森本アリ)
バワーズの時代をイラスト付きで解説(かねひさ和哉、いいをじゅんこ)
通信販売はこちら »
お問合せ:神戸映画資料館 |
配給:プラネット映画保存ネットワーク 提供:Lobster Films |
企画協力・日本語字幕:いいをじゅんこ 録音・ミックス:和田真也 DCP作成:東山映像 宣伝美術 :椚田透(nix graphics) 予告篇:筒井武文、大川景子 公式サイト:相澤誠(ADW.Inc) 宣伝協力:ユカワユウコ パンフレット編集:田中範子、浅川志保 パンフレットデザイン:萩原こまき |
協力:古典喜劇映画上映委員会、旧グッゲンハイム邸、コミュニティシネマセンター、ユーロスペース、藤岡朝子、石原香絵、 井上正昭、常石史子、松村厚 |