うたう幻灯会
2013年11月30日(土)
静止画像の拡大映写メディアである幻灯(スライド)は、映画に比べて費用もかからず、運用も簡単なため、誰にでも作り、上映することのできる草の根の映像メディアとして、戦後の社会運動や文化運動で広く活用されました。当時の幻灯は、幻灯機を手で操作してフィルムを1コマずつスクリーンに映写し、ナレーションやせりふをその場で読み上げながら上映されていました。「画面が動かない」デメリットも補いうる、ライブ・パフォーマンスにおける工夫の余地の大きさが、幻灯というメディアの独自の魅力のひとつだったといえるでしょう。今回は神戸映画資料館が所蔵する1950年代の社会運動に関連する貴重な幻灯のコレクションの中から、とりわけ「ライブ・パフォーマンス」面を重視して作られたと思しき3本の作品を、生演奏とコーラス付で上映します。
第一部 14:00〜15:15
上映「ぶどうぱん―三越斗争の記録―」
(1953年?)
製作:全三越労働組合
後援:全日本百貨店労働組合連合会・官公庁映画サークル協議会
配給:日本幻灯文化社
戦後初のデパートの女性従業員による労働争議として大きな社会的反響を呼んだ、1951年12月の全三越労組の賃金ベースアップ要求・組合幹部不当解雇反対ストライキを記録する幻灯。原作の同名詩集『ぶどうぱん』と共に、三越闘争支援のカンパ集めを主目的として製作されたものと考えられる。1950年代に数多く作られた労働争議記録・支援幻灯の中でも初期の代表作のひとつで、台本の朗読のみならず、コーラスやハミングなどの「うたごえ」やピアノ伴奏などの効果が指定されている点も、後に続く作品に影響を与えた可能性がある。
講演「三越争議(1951)と『ぶどうぱん』―60年後に振り返るその成果と蹉跌」
谷合佳代子[大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)館長]
第二部 15:30〜16:30
上映「戦争案内」
(1959年?)
原作:ベルトルト・ブレヒト
編集:関西幻灯センター 古志峻・田窪清秀・高原宏平
製作:日本幻灯文化株式会社
版権所有:ドイツ民主共和国 ベルリン オイレン・シュピーゲル社
1955年にドイツ民主共和国・ベルリンで出版されたブレヒトの写真詩集『戦争案内 KRIEGFIBEL』の幻灯版。各国の新聞・雑誌に掲載された戦争報道写真に、ブレヒトによる4行詩を付したオリジナルの写真詩集から、約半数にあたる38コマを抜粋・編集して構成されている。個人で読むための書籍として発表された原作を、幻灯/スライドというメディアの特性を活かし、多数に向けた上映・上演のために翻案する試みとしても興味深い。ドイツ第三帝国の権力者たち、軍需工場、爆撃機のコックピット、防空壕から空を見上げる市民、破壊された市街、殺し殺される兵士たち、生命を脅かされる子どもたち、「戦争」のさまざまな局面が万華鏡のように映し出される。
上映
「わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん』
(1954年)
製作:東大セツルメント川崎こども会
作画:加古里子
絵本作家・児童文学者として知られる加古里子(かこさとし)が、東大セツルメント川崎こども会での活動の一環として創作した一連の幻灯作品のひとつ。1951年にまず掛図式の大型紙芝居として創作した作品を、さらにカラーの幻灯として改作したもの。加古里子の絵本作家としてのデビュー後、再度紙芝居化(童心社)、絵本化(偕成社)されているが、それぞれの画面構成はかなり異なっている。音楽の好きな国の住民たちが、意地悪な悪魔に妨害されながらも、楽器を盗まれれば動物や虫の鳴き声で、動物や虫を盗まれれば自分たちの歌声で、にぎやかな音楽を奏でつづける本作からは、子どもたち主体で運営されていたセツルメント幻灯会の楽しい雰囲気が伝わってくる。
ピアノ伴奏:山川亜紀
合唱・朗読:田中裕介、神矢匡
*各作品に、適宜伴奏やコーラスを付して上映します。
《参加費》1000円(一部・二部通し/高校生以下は無料)
共催:「戦後社会運動資料としての幻灯の再発見・再評価とアーカイヴス間連携による資料保管・公開体制の構築」(研究代表者:鷲谷花)、プラネット映画資料図書館、神戸映画資料館
*この事業は公益財団法人三菱財団の助成により行われます
[貸館]
グリゴリー・オステル来日イベント第2弾
ロシア・アニメーションの魅力〜シナリオライターとしてのオステル
2013年12月24日(火)19:00〜21:00
スペシャルゲストはロシアでもっとも人気のある児童文学作家オステル。ソ連時代にオステルが原作を書いたアニメーションの上映を交えながら、作品の創作秘話や背景を語ってもらいます。12月中旬に邦訳が出るオステルの代表作『悪い子のすすめ』をモチーフにしたCG作品(ロシアのこどもたちの作品、神戸大学大学院生の作品)も紹介します。ほのぼのとして茶目っ気あふれるオステル・ワールド、どうぞお楽しみに!
【上映予定作品】(日本語字幕、解説付き)
ワンという名の子猫 (Котёнок по имени Гав,1976)
38オウム(38 попугаев, 1976)
ミミナガちゃんと仲間たち(Ушастик и его друзья, 1979)
バーバ・ヤガーは反対! (Баба-Яга против!, 1980)
その他、当日をお楽しみに!
スペシャル・ゲスト:グリゴリー・オステル
聞き手:毛利公美(オステル作品翻訳者)
司会:楯岡求美(神戸大学准教授)
グリゴリー・オステル
1947年、旧ソ連オデッサ(現ウクライナ)生まれ。ゴーリキー文学大学卒業。ソ連時代はアニメのシナリオなどを数多く手がけた。ペレストロイカ以後『悪い子のすすめ』が大ヒット。その他、算数の文章題をもじった『問題集』、大人の世界を子供の眼で面白おかしく描いた『パパママ研究』、自在な筋の発展から「ロシア児童文学初のハイパーテクスト」とも言われる長編『いろいろの話』など。2002年ロシア連邦国家賞受賞、ロシア連邦功労芸術家。2012年にはすぐれた児童文学作家に与えられるチュコフスキー賞を受賞。
主催:国際交流基金
共催:神戸大学大学院国際文化学研究科 メディア文化研究センター:研究プログラム「メディアの変容と文化の公共性」
《料金》入場無料 当日先着順、ロシア語通訳つき
《会場》神戸映画資料館
年忘れ上映『喜劇 特出しヒモ天国』
2013年12月27日(金)〜29日(日) 13:30〜
「喜劇 特出しヒモ天国」
(1975/78分/35mm)
製作:東映
監督:森崎東 原作:林征二
脚本:山本英明、松本功
撮影:古谷伸 音楽:広瀬健次郎
出演:山城新伍、池玲子、芹明香、藤原釜足、川谷拓三、川地民夫、カルーセル麻紀、殿山泰司
松竹を出た森崎の解放感と、実録路線に移行して間もない東映の荒々しいエネルギーとが結合した稀有なる一作。わずか78分でストリッパーに寄生するヒモの生態を一気呵成に描く。軟体動物のごとき芹明香が絶対異物として見る者を圧倒。そして子どもをつくりたい聾唖の若夫婦の健気。大船から来た同志を歓迎するため現場を訪れた深作欣二と工藤栄一がそのままカメオ出演し、屋台での大乱闘を愉しげに熱演している。セールスマンの昭平(山城新伍)は、ストリップ小屋の手入れに巻きこまれて運悪くブタ箱へ。おかげで会社は馘、仕方がないのでそのまま支配人の座に収まるのだが——。(藤井仁子)
[関連企画] 12月29日(日)15:10
連続講座:映画批評 第5回 森崎東党宣言!
講師:藤井仁子(映画批評) ゲスト:濱口竜介(映画監督)
《料金》
一般1200円 学生・シニア1000円
会員1000円 会員学生・シニア900円
*招待券のご利用不可
《割引》
講座[第5回 森崎東党宣言!] 参加者は100円引き