ワークショップWORKSHOP

神戸映画ワークショップ2009
「準備セミナー」レポート

坂庄基(ワークショップサポートスタッフ)
現代を生きる私たちにとって、映像とは生まれたときから当たり前のように存在していたものである。しかし、映像技術の発達とは裏腹に、私たちは以前よりも映像と真摯に向き合っていないのではないだろうか。主任講師・富岡邦彦氏のそんな問いかけから神戸映画ワークショップ2009前記講座はスタートした。確かに、映像が氾濫し無意識のうちに消費されていってしまう現代社会において、私たちは「映像の読み方」という大切なものを徐々に失いつつあるように思われる。富岡講師は最初の講義で、そのような傾向が確実にあることを指摘した上で、そうあってはならないと警鐘を鳴らした。では、我々が失いつつあるこの「映像の読み方」とは一体どのようなものなのか?富岡講師はまず映画の歴史を振り返ることから授業を始めた。

突然100年以上の時を遡って、映画が発明されるまでの歴史的過程から話し始めた富岡講師に面食らった受講生もいただろう。しかし、現在我々があまりに手軽に接している映画というものがどのように誕生したのかを知ることは、これから映像製作の現場に携わっていこうという志を持っている人々にとって避けては通れないプロセスであるだろう。なぜなら、ただカメラを置いて事物をありのままに記録するところから始まった映画が、現在の形になるまでに経験してきた進化の過程を知ることはつまり、映画とは実際どのような要素で構成されているものであるのかを考えてみる良い機会になるからだ。

例えば、「映画はたくさんのショットの組み合わせによってできている」という今では至極当然のように思われる事実は、最初期の映画には当てはまらない。なぜなら、当時は「ショットを割る」という概念が存在していなかったからだ。それでは、ショットを割ることによって何が映画にもたらされたのか? このように、映画が徐々に独自の画期性を獲得していった歴史的過程を探っていくことは、それぞれの技法が作品上で担っている役割を再確認していくことに繋がる。そしてそのような行為によってなされる分析から身についていく観点こそ、まさに「映像の読み方」であるに違いない。それは、これから映画作品の誕生に関わっていこうとする人々にとって最良の手引きとなるであろう。

思うに、映画製作に携わるということは、映画とまったく新しい関係を築くことを意味するであろう。「消費する側」から「生み出す側」への転換。そこには、以前とは異なる映画との関係が間違いなく成立している。しかし、ビデオ・カメラが一般家庭に当たり前のように普及し誰もが容易に映像を撮れてしまう現代、「自主映画」というタームはあまりに曖昧だ。下手をすれば、素人の自己満足に終始してしまう可能性もある。むやみやたらにカメラを回して事物を捉えただけの作品は、もはや「映画」とは呼べないだろう。本ワークショップが目指すのは、自主的に制作した作品を最終的に「映画」というフォーマットできちんとかたちにすることができる人材の育成である。そのためには、実践だけではなく、「映像の読み方」という基本的だが一番難しいと思われることも受講生は習得していく必要があると思われる。このような理論的な知識も含めて、本ワークショップでは映画と新しい関係を築くために最低限必要な何かを確実に得ることができるだろう。神戸映画ワークショップは、将来映画製作に関わっていきたいと考える人々にとって、その世界に足を踏み入れるための絶好の機会となるはずだ。

5月9日 第1回

(コース合同)
映画が誕生した歴史的な背景を富岡講師が説明後、神戸映画資料館収蔵の文化映画『四つの魂』(森要監督 1925年)を上映。上映後、映画作品の感想も含めて自己紹介。その後、今回のワークショップの課題台本が配付される。今回はあるクラシックな日本映画のシナリオを使用。主に裁判シーンを含んでいる。

5月23日 第2回

(制作・監督コース)
課題台本の舞台となる1961年について当時のニュース映画などを見ながら考察する。その後、『The Unchanging Sea』(D.W.グリフィス監督 1910年)を見る。この作品では、同じ構図で海を捉えたシーンが何度も映し出されるのだが、それらのシーンから感じ取れる感情は毎回異なっている。そのようなことに注目しながら、短編の1つのお手本として観賞。その後、この作品がいくつのシーンで構成されていたのかを数え、各シーンを分析。

(俳優コース)
どのようにして身振りだけで相手に意思を伝えるのか?また、見ている側はそれをどのように感じるのか?実際に無言で演技をすることによって、これらのことを考察する。

6月6日 第3回

(制作・監督コース)
キャスティング、ロケーション、各スタッフの役割などに言及しながら、映画製作全体の大まかな流れについて説明。また、課題台本を用いて香盤表(各シーンの出演者、撮影場所、必要な小物などが詳細に記載されている撮影スケジュール表)の作り方を学ぶ。その後、『ばかのハコ船』(山下敦弘監督 2002年)の脚本の1シーンを受講生それぞれがカット割りし、完成品と見比べる。

(俳優コース)
自分が普段演じたくない(自分に向いていない)と思うキャラクターを演じて、見ている側がどのようにそれに反応するかを見る。あえて自分に向いていないと思われるキャラクターを演じてみることで、あらゆる可能性を試し、自分の中にある壁を壊してみようと努力してみる。

6月20日 第4回

ゲスト講師として万田邦敏監督が参加。富岡講師を聞き手として、主に最新作『接吻』の製作過程を振り返っていただく。小池栄子、豊川悦司、仲村トオルら主要キャストのキャスティングに関してや、万田監督が固執する「三角関係」という主題に関してなど多岐にわたるお話をしていただく。その後、各コースに分かれる。

(制作・監督コース)
もう一度台本を読み直してシノプシスを作成。それぞれのシノプシスをもとに、演出上重要になるであろうポイントを発表する。その後、「裁判をいかに映画にするか」というテーマのもと、『接吻』で実際に裁判シーンを演出された万田監督に再びお話をしていただく。

(俳優コース)
実際にカメラを回しながら、あらかじめ設定だけが決められたキャラクターを全員が演じ、台本なしの即興で1シーン撮ってみる。その後それを見直して、それぞれの演技におけるクセを確認する。

7月4日 第5回

(制作・監督コース)
課題台本を読み返しながらカット割りを行う。その後、それぞれの受講生がどのようにカットを割ったのかを全員で確認しながら、カットを割る際に重要となるポイントを話し合う。

(俳優コース)
全員で台本の読み合わせ。その後、一時的にそれぞれの受講生にキャラクターを割り当てる。

(コース合同)最後に、演出のイメージをつかませるために、製作・監督コースの受講生の前で俳優コースの受講生に実際に課題台本のシーンを演じてもらう。

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