プログラムPROGRAM

エドガー・G・ウルマー入門
2015年8月23日(日)・24日(月)

講座:〈亡命〉映画作家エドガー・G・ウルマーが辿ったまわり道
8月23日(日)16:30〜 参加費1000円
井上正昭(翻訳・映画研究)
〈亡命〉という言葉は適当ではないかもしれない。しかし、エドガー・G・ウルマーという映画作家が生涯置かれていた状況を知れば知るほど、”exile” という言葉こそそれにふさわしいと思えてくる。『日曜日の人々』の制作に共に携わったワイルダー、シオドマク、ジンネマンらがハリウッドで成功を収める姿を横目で見ながら、同じヨーロッパ移民組のなかで彼らよりも遙かに映画的才能に恵まれていたはずのウルマーだけは、なぜ生涯日陰の道を歩まねばならなかったのか。ヨーロッパで生まれ育ち、そこで映画デビューし、その後渡米してハリウッドで成功をつかみかけた矢先に、メジャーで活躍する道をなかば完全に断たれ、マイナー映画、アンダーグラウンド映画、少数民族向け映画、はては健康PR映画といった、ありとあらゆる映画の周縁をさまよい続けた、真にマージナルな映画作家ウルマー。彼の映画にはヨーロッパの影がいつもちらついて見えるのだが、その一方で、晩年、ヨーロッパで映画を撮ることを余儀なくされてからも、彼はハリウッドで成功する夢を決して諦めなかった。いわば、ヨーロッパとアメリカの狭間で帰るべき場所を失ってしまった故郷喪失者。そしてそんな故郷喪失者たちは、『黒猫』や『恐怖のまわり道』を始めとする彼の映画作品の中でも暗に繰り返し描かれてきた。ウルマーはしばしば〈B級映画の王者〉などと呼ばれる。たしかにそれは間違ってはいない。しかし、この呼称がウルマーという映画作家を型にはめてきたことも事実である。この講座では、伝説と事実が分かちがたく入り交じり、いまだ謎に満ちた彼の生涯を、新資料にもとづいて改めて辿り直しながら、より大きな視点からウルマーの映画について再考してみたい。そしてそれは、表には描かれることのなかった、映画史の影の領域を浮き彫りにすることにもなるはずである。

「日曜日の人々」生演奏付き上映
8月24日(月)18:40〜 ピアノ演奏:柳下美恵
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「日曜日の人々」Menschen am Sonntag
(ドイツ/1930/73分/DVD提供:株式会社ブロードウェイ)
製作:モーリツ・ゼーラー、ハインリッヒ・ネーベンツァール
監督:ロバート・シオドマク、エドガー・G・ウルマー 脚本:ビリー・ワイルダー、カート・シオドマク
撮影:オイゲン・シュフタン 撮影助手:フレッド・ジンネマン
編集:ロバード・シオドマク(クレジットなし)、オイゲン・シュフタン(クレジットなし)
音楽:オットー・シュテンツェル 美術:モーリツ・ゼーラー
出演:エルヴィン・シュプレットシュテーサー(タクシー運転手)、ブリギッテ・ボーヒャート(レコード店員)、ヴォルフガング・フォン・ヴァルタースハウゼン(ワイン店員)、クリストゥル・エーラース(エキストラ女優)、アニー・シュライヤー(モデル)
後にハリウッドで名を馳せる監督らが一堂に会し、ラフな脚本だけを頼りに、素人俳優を使ってほぼ即興で撮り上げた彼らの記念すべき処女作。当時のベルリンの日常を活写したこの映画は、『伯林-大都会交響楽』などの前衛作品を受け継ぐ一方で、その斬新な映画作りはヌーヴェルヴァーグを遙かに予告しており、今見ても新鮮である。
Photo by スズキマサミPhoto by スズキマサミ

 
 

wifeofmont「モンテ・クリストの妻」The Wife of Monte Cristo
(アメリカ/1946/78分/16mm/日本語字幕無し)
製作会社:PRC(Producers Releasing Corporation)
製作:レオン・フロムケス 共同製作:ジャック・D・グラント
監督:エドガー・G・ウルマー 脚本:ドルカス・コクラン
脚色:エドガー・G・ウルマー、フランツ・ローゼンワルド(アレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』より)
脚本監修:シャーリー・ウルマー(クレジットなし)
撮影:エドワード・A・カル(アドルフ・エドワード・カルの名前で)、オインゲン・シュフタン(クレジットなし)
編集:W・L・バジエ(ダグラス・バジエの名前で)
音楽:パウル・デッサウ 美術:エドワード・C・ジュエル
舞台:グレン・P・トンプソン 衣装:モナ・バリー
出演:ジョン・ローダー(警察長官ド・ヴィルフォール)、レノール・オベール(モンテ・クリスト伯爵夫人)、チャールズ・ディングル(ダングラール男爵)、フリッツ・コートナー(メイヤール)、エドゥアルド・シャネリ(ジャック・アントワーヌ)、マーティン・コスレック(モンテ・クリスト伯爵)

PRC時代のウルマー作品としては破格の製作費をあてて作られた冒険活劇。スタッフ・俳優の大部分が中欧系移民で占められ、『日曜日の人々』の名キャメラマン、オイゲン・シュフタンも撮影に協力している。ワイマール時代のドイツ映画を思わせる夜の街頭風景や、ラングの『M』を彷彿とさせる悪夢めいた裁判シーンが目を惹く。

 

hersisterssecret「ある姉妹の秘密」Her Sister’s Secret
(アメリカ/1946/83分/16mm/日本語字幕無し)
製作会社:PRC(Producers Releasing Corporation)
製作:ハインツ・ブラッシュ(ヘンリー・ブラッシュの名前で)
監督:エドガー・G・ウルマー
脚本:アン・グリーン(ジーナ・カウスの小説『Die Geschwister Kleh』[英題「Dark Angel」]より)
脚本監修:シャーリー・ウルマー(クレジットなし)
撮影:フランツ・プラナー 編集:ジャック・W・オギルヴィー
音楽:ハンス・ゾマー 美術:エドワード・C・ジュエル
舞台:グレン・P・トンプソン
出演:ナタリー・コールマン(トニ・〈アントワネット〉デュボワ)、マーガレット・リンゼイ(ルネ・デュボワ・ゴードン)、フィリップ・リード(ディック・コノリー)、フェリックス・ブレサート(カフェ店主ぺぺ)、レジス・トゥーミイ(ビル・ゴードン)、ヘンリー・スティーブソン(デュボワ氏)

ウルマーがPRCで撮った最後の作品で、彼には非常に珍しいメロドラマ。画面の華麗さでは敵わぬものの、繊細な感情描写はダグラス・サーク作品と比べても少しも遜色がない。ウルマーの隠れた傑作の一つである。原作の舞台をウィーンからアメリカに移し替えてあるが、ウルマーのコスモポリタニズムは随所に垣間見える。

 

作品解説:井上正昭
協力:株式会社ブロードウェイ

《料金》入れ替え制
演奏付き上映 一般1500円 学生・シニア1400円 会員1300円 *招待券のご利用不可
上記以外(日本語字幕無し) 一律700円 *当日に限り2本目は200円割引

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