小川紳介監督全作品上映 番外篇 (一部、2本立て)
2008年10月31日(金)~11月2日(日)
「小川プロ訪問記」
(2001年/62分/DVcam)
製作・演出:大重潤一郎
撮影:堀田泰寛
出演:小川紳介、大島渚
日本デザイン会議の会場で上映するために大重潤一郎が大島渚を牧野に招き、牧野に居住する小川紳介との会話を記録したもの。その場限りの上映のため磁気録音プリント1本しか存在せず、そのプリントを小川がベルリンに持参したままになって長らく日本では見ることができなかった幻の作品。山形の映画祭で上映するためにベルリンから里帰りしたプリントと大重が保存していた残カットを補足して長尺版を作成、山形に続きベルリンでも再上映された。本来は16ミリ上映が望ましいが、当館保存フィルムは褪色激しく今回は色彩的に優れたDVカムで上映する。
「帰郷―小川紳介と過ごした日々」
(2005/41分/DV)
監督:大澤未来、岡本和樹
撮影:岡本和樹
録音:田中絵里
出演:飯塚俊男、木村迪夫、木村シゲ子、漆山輝彦、花屋義男、木村正喜、木村ミツ、木村義廣
山形県上山市にある小さな部落、牧野村。かつてこの村に、映画制作集団小川プロダクションが約20年にわたり住み着き、稲を育て、共同生活をしながら映画を制作した。長年、助監督として小川プロを支えた飯塚俊男さんにとって、小川プロでの生活、監督小川紳介と過ごした日々は何であったのか。村人にとって、小川プロは何であったのか。一人一人の心に残る小川プロの幻影。思い出を語る人々の姿から、現在の人々の生を記録する。
※この作品へのコメントがございます
「満山紅柿 上山 ― 柿と人とのゆきかい」
(2001/90分/16mm)
製作:上山名産紅干柿の記録映画を作る会
(第一期撮影)製作:小川プロダクション
監督:小川紳介
撮影:田村正毅
(第二期撮影)監督:彭小蓮
撮影:林良忠
(仕上げ)構成・編集:彭小蓮
『1000年刻みの日時計』に入れることができなかった「牧野物語・紅柿編」として撮影したフィルムを、作品として完成したいとの地元の声に応え、小川夫人である白石洋子が立ち上がった。小川の信奉者でもある中国の女性監督・彭小蓮と、その相棒の林良忠カメラマンを台湾から招いて追加撮影・編集・録音して完成したもの。幸いに小川は詳細な構成メモを残していたので、彭はその構成メモに従い忠実に仕上げた。山形の映画祭で上映した後、ベルリン国際映画祭をはじめ各国の映画祭で上映され好評だった。山形方言が聞き取りにくいので日本語字幕が付いている。「食」の映画としても見応え十分である。
《料金》
(一部、2本立て)
1プログラムあたり
一般1500円 学生・シニア1200円
会員1200円 学生会員・シニア会員1000円
《割引》
2プログラム目で200円引き
「帰郷 ― 小川紳介と過ごした日々」へのコメント
「小川紳介をめぐる伝説を 被写体となった古屋敷村、牧野村の農民たちの視点から切りとろうとした新しいアプローチが瑞々しい。小川プロとの祭の喧騒が去った後、村人たちの心にぽっかりとあいていた静謐な空虚をこの映画は静かに垣間見せてくれる。」
(佐藤真・映画監督)
「映画監督・小川紳介は、山形県上山市牧野という<ふるさと>を、太古からの残響、数百年前から伝わる反骨の血、数十年前に遡及する水の物語によって賦活した。いまは瞑り、心のなかで<ふるさと>となった小川さんと、ひとびとはいかに対話するのか。
記憶をめぐる旅を、このドキュメンタリーは、鮮やかに写しとっている。」
(鈴木一誌・ブックデザイナー)
日本のドキュメンタリー映画の巨人・小川紳介が率いる小川プロダクションは、1971年に三里塚・辺田部落の農民の離れに住み込んでから21年間、村に融け込み共同生活を続けながら映画を作り続けてきた。その最後の拠点となった山形県上山市の牧野村には、未だに小川プロと共に過ごした日々の記憶と痕跡が漂っている。
三里塚から飛んできた「赤い鳥」を頑なに拒む「村人たちのバリアー」が壊れた後に出現した幻のような陶酔。今はひっそりと何事もなかったように過疎の波に渫われていた。そこに、孫ほどに若いドキュメンタリー作家の卵が招きいれられるようにその懐に入っていった。
小さな村の、「映画作り」という大事件の後にポッカリあいた空白にむかって、村人たちが重い口を開いて静かに語りだす、その言葉と言葉の間に横たわる沈黙の重さに、この作品の作り手たちが気づいた時、この映画は小川プロの過去の記録を超えて、かつて夢を見た村人たちの現在のドキュメントになった。
稀代のカリスマ力をもつ小川紳介によって、共同生活と映画製作を両立させてきた小川プロの光と陰について、これまでバーバラ・ハマーの「Devotion」をはじめ、海外の映画作家の手による作品は何本か作られてきた。しかし、小川プロを受けとめた村人たちの世界に本格的に腰をすえて撮られた作品は初めてである。大きな祭りの後の村の暮らしは、いかに平穏そうに映ろうが、波風が立たないはずはない。しかし、この映画は、その波風を直接描こうとはせず、沈黙と残された風景で観客の側の想像力に任せる道をとった。
この若者たちを牧野村に誘った、元小川プロの助監督・飯塚俊男が、死後10年以上過ぎてやっと小川紳介の墓を訪れるラストシーンの静謐な空間に、この映画の作者たちの静かな主張が垣間見える。そして、心が揺さぶられる。(佐藤真 「1st Cut ver,2005」パンフレットより)