2022年12月11日(日)
[貸館]三宅弘之映画祭 その2 篠原哲雄監督に出会う
「三宅弘之映画祭」とは、多くの仲間から、そして多くの映画人から愛され、そして映画を誰よりも愛してきた故・三宅弘之を偲び、その名を、1人の映画ファンの名を冠した唯一無比の映画祭です。
今回の映画祭では、三宅弘之と親交の深かった篠原哲雄監督をお招きし、監督の作品とトークを提供します。トークイベントで紹介する作品を含めた上映4作品のいずれもが、現在劇場で観ることは難しく、希少な鑑賞機会となります。是非この際に、ご来場のうえご鑑賞下さい。
トークゲスト:篠原哲雄監督
10:00〜
①『本を贈る』
<関西初劇場公開 DVD上映> 102分 カラー ヴィスタサイズ
脚本:千勝一凜 撮影:木村重明 提供:東京都書店商業組合
出演:永池南津子、矢柴俊博、米野真織、福地祐介、宅麻伸、根岸季衣
今年の2月にYouTubeで配信された全9話の連続ミニドラマを1本の長編としてまとめた作品である。篠原監督は、以前から東京書店商業組合制作のYouTube番組で、<街の本屋さん>と深く関わって来てこられた。今や絶滅危惧種になりかねない街の本屋さんのため、書店組合と篠原監督が再びタッグを組み、満を持して発表されたのが本作である。自分の身近にいそうな普通の人達の、穏やかな日常、活動が淡々と綴られ、脚本も演出も自然体で、手作りの人肌感覚が心地よい。物語のメインは、出版社で小説家の編集者として働いていたヒロインが、実家の本屋の廃業危機に直面して、町の本屋さんの生き残りをかけた企画を立ち上げ、仲間と共に斬新なアイデアを出し合い活路を見出してゆくというもの。紙の本、本屋さんに対する熱い想いと共に、2つの淡い恋物語が隠し味として効いている。4月23日は<本を贈る日>とのこと。ドラマの最初と最後に、キリスト教の聖人サン・ジョルディの紙芝居がヒロインの声で語られ、その逸話で<本を贈る日>の由来が明かされる。
12:45〜
②『お茶をつぐ』 オムニバス映画『人生の着替えかた』より
<神戸初劇場公開 DVD上映>
36分 カラー 脚本:蛭田直美 撮影:上野影吾 企画・製作:アトリエレオパード
配給:アークエンタテインメント 出演:秋沢健太朗、木村達成、美紗央、篠田三郎
若者に人気の舞台で活躍中の秋沢健太朗主演の短編3部作「人生の着替えかた」の一編。<お茶をそそぐ>と<伝統をつぐ>をイメージしたタイトルが味わい深い。群馬県の沼田町を舞台に、抹茶の茶道ではなく、<合組(ごうぐみ)>という煎茶のブレンディング技法に着目した点がユニークである。伝統的な茶師だった父親が他界し、長男で聴覚障碍者の秋沢健太朗は後を継ぎたいが自信がなく悩んでいた。そんな時、東京の赤の他人の若者が、健太朗の父親からこの家を継ぐよう頼まれたと父親の遺書を持って乗り込んでくる。そこで、健太朗と東京のよそ者との跡目バトルが勃発。主人公が聴覚障碍者という設定が、主人公のコンプレックスと葛藤を助長して、見応えある成長ドラマになっている。手話のセリフが小気味よくジャブ効果を上げて、父親の息子への届かぬ思いにグッと来る。久しぶりに顔をみた篠田三郎の凛とした佇まいに、心が和む。脚本、演出、音楽など作品全体のハーモニーが程よく、上品な煎茶の旨み、渋み、ほのかな苦みを味わえる珠玉の作品である。
13:30〜
③『洗濯機は俺にまかせろ』
<ディレクターズカット版> <35ミリフィルム上映>
107分 カラー ヴィスタサイズ 脚本:松岡周作 撮影:上野影吾 製作・配給:ボノボ=スターボート
出演:筒井道隆、富田靖子、小林薫、鶴見辰吾、菅井きん、入江若葉、根岸季衣
筒井道隆と富田靖子が良い。大林の尾道3部作の3人の主演女優の中でも「さびしんぼう」の富田靖子が最もキュートって言えるけど、本作では打って変わって、出戻りのけったいな年上の女を演じていて微笑ましい。
漫画家志望の筒井道隆は、バイト先の中古電器店に住み込み、店番と修理を任されている。そんなある日、店の社長の一人娘である富田が雨に濡れて店に入って来る。そして筒井は離婚して出戻って来た年上女の富田に翻弄されることになるが、彼のことを恋する隣のパン屋の店員の若い娘とも色々ある。そしていい加減なところもあるが筒井が敬愛する先輩である小林薫と富田の関係も何かいわくありげである。こんな古典的な4角関係に、中古の電気製品が絡んでくるの物語が楽しい。篠原哲雄映画の中でもひときわユーモアに溢れ、楽しめる青春活劇である。
封切り公開時は102分版だったが、今回の上映にあたってはゼロ号試写用の107分のフィルムをディレクターズカット版として上映する。
15:55〜(終了予定18:00)
④<トークイベント>「篠原哲雄に出会う」
<DVDによる上映作あり>
「篠原哲雄に出会う」では、監督の若い頃の映画との出会いから、映画作りを志すようになった経緯、そして助監督を務めた森田芳光監督との思い出、自主映画作品の入賞、そして商業映画のデビューから現在までの歩みを語って貰うつもりである。
さらにヒューマンな作品が多いなかでエロティックかつサスペンスフルな作品を観て頂いた上で、ヒューマンな映画、エロティックな映画、ダークでサスペンスフルな映画と、幅広いジャンルに渡って発揮される篠原監督の演出術についても聞き及ぼうと考えている。
ここでメインに取り上げる映画は、いち早くデジタルで撮られた先鋭的な作品で、刑事を名乗る不気味な男と、団地のマンションに住むいわくありげな若い主婦の2人の登場人物の関わりようだけで、もっぱらストーリーが進み、そのモノクロ映像の緊迫感に息を呑み、引き込まれていく。そしてもう一人の登場人物として、高視聴率男優として活躍する俳優のブレイク前の若い姿を観ることができるのも一興である。
対談者:前田耕作(立命館大学映像学部講師)
三宅弘之
1947年兵庫県神戸市生まれ、2014年2月享年67歳逝去。
映画を愛し、人を愛し、酒を愛した彼は、出会ってきた多くの映画ファン、映画人に愛されて来ました。そして多くの映画を観続け、多くの映画について語り、多くのイラストを残して、逝きました。2013年『スクリーンの向う側』(風詠社)を上梓。3回忌にあたる2016年に渡辺武信さんと荒井晴彦さんを招き、第1回三宅弘之映画祭を神戸映画資料館で開催。
1986年1月に仲間を集めて発足させた映画サークルはKCC(京平シネマ倶楽部)として、彼が亡き後も続き、今年46周年を迎えました。KCCに在籍した会員は延べ70人を超え、現在も30人を超える会員が在籍。
三宅さんと映画を論じる人は、自分の映画への愛着を三宅さんのより濃密な愛着と重ね合わせることで、特定の映画への評価の違いを超え、同好の士が映画を語り合うという祝祭の中に入れるのである。こう考えてくると、三宅弘之という人間それ自体が、映画を語る祝祭の中で映画ファンを結びつける点で、いわば〝 歩く映画祭 〟なのだ。
by渡辺武信(「向う側を見続ける人」『スクリーンの向う側』解説文より)
篠原哲雄
1962年生まれ
大学卒業後、助監督として森田芳光、根岸吉太郎監督作品などに就く。
1989年:『RUNNING HIGH』PFF89特別賞を受賞。
1993年:『草の上の仕事』神戸国際インディペンデント映画祭でグランプリ受賞で脚光を浴びる。
1996年:『月とキャベツ』長編劇場映画デビュー。
2018年:『花戦さ』で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。
2021年:『犬部!』が長編劇場映画最新作。
私が三宅さんと出会ったのは、93年の頃でした。その年にしか開催されなかった神戸国際インディペンデント映画祭で「草の上の仕事」を観て頂き、湯布院で再会し親交が始まりました。神戸に行った際には元町のお店を訪ねたりもしました。ここ数年は年賀状のやり取りだけでしたが、「深呼吸の必要」をその年のベストワンに選んでくださり、年賀状に書いてくださった「監督は僕のベストワン監督のひとりなんだから・・・」という言葉はとても励みになりました。・・・
by 篠原哲雄(KCC通信増刊号『三宅弘之の今日もシネマ日和』の追悼文より)
主催:KCC(京平シネマ倶楽部)
※コロナ禍につき定員(38名)を超えた場合、入場できないことがあります。
ご来場頂く方はメールにて予約頂くことをお薦めします。
問い合わせ・予約用メールアドレス:magazine.kcc@gmail.com(担当:前田耕作)
予約に際しては上記の①~④のうち予約したい対象を明記してお申し込み下さい。