今月の1冊WEBSPECIAL / BOOKREVIEW

Film Archiving_Jacket_1 [更新済み]「日本におけるフィルムアーカイブ活動史」

著者:石原香絵
出版社:美学出版
発行年月:2018年3月

 

 

 

 神戸映画資料館にはつい最近まで一体全部で何本あるのか分からなかったほどの映画フィルムが収められているが、これらは当館の安井喜雄館長が中心となって収集したものが元になっている。映画フィルムは、誰かが集めようと思わない限り勝手に溜まっていくものではない。あまり知られていない事であるが、「勝手に溜まっていく」はずの映画会社ですら自社で製作した映画を全てを持っているわけではないのである。

 石原香絵氏の『日本におけるフィルムアーカイブ活動史』は、この「映画を集める」という事が日本でどのようにして行われてきたのか、あるいは行われてこなかったのかを各方面に丹念な調査を行いまとめたものである。日本における映画保存の中枢である国立映画アーカイブ(旧東京国立近代美術館フィルムセンター)の設立へ至る歴史的経緯から、国内での映画復元の先鞭をつけた育映社という小さなフィルム現像所、そしてアーカイブの理念や現在のデジタル化の状況まで網羅的に扱っている(神戸映画資料館も登場する)。また興味深いことに日本におけるアーカイブ活動は始終国際的な環境に取り巻かれていて、1920年代からの国際映画機関への日本政府の関与や、戦前戦後を通じた川喜多かしこの活躍だけではなく、敗戦時にGHQや旧ソ連・中国に接収された映画フィルムの動き、さらには植民地台湾の産物である樟脳がフィルム原料としてコダック社と取引されていた事など、20世紀の世界史と切り離す事ができない事も知ることができる。

 本書はそのタイトルどおり日本におけるフィルムアーカイブ活動の歴史、そして現況を包括的に知るための唯一無二の書籍であり、映画に限らずアーカイブについて学びたい人の教科書となる事に間違いない。NPO法人映画保存協会の代表でもある石原氏自身の活動については触れられていないのが残念だが、こちらは近年立て続けに出版された高槻真樹氏の『映画探偵』岡田秀則氏の『映画という《物体X》』で詳しく紹介されている。『映画探偵』は映画を集める人についての、『映画という《物体X》』は集めた映画および映画にまつわる資料を扱う人についての本であると言えるので、併せて読むと映画保存とは何なのかという理解が一層得られるに違いない。

(衣川太一/神戸映画保存ネットワーク客員研究員)

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