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収蔵図書紹介「東映任侠映画120本斬り」


著者 山根貞男

出版社 筑摩書房(ちくま新書)
発行年月 2021年8月10日

1960年代後半から一代ムーブメントを築いた東映が誇る任侠映画を「日本映画時評集成」(国書刊行会)などで知られる映画評論家の山根貞男が網羅的に解説する本著。なんとその総数120本。

興隆期、絶頂期、転換期の3つに区分された本書 。『網走番外地』や『昭和残俠伝』などのブランド作品をはじめ、『シルクハットの大親分』や『まむしの兄弟』など知る人ぞ知る作品も網羅されている。もう一度言うが120本の解説が本書には含まれている。

私はこの本を10代、20代に勧めたい。
と言うのも「任侠」とかそういうジャンルは30代の私も含めて若い世代はそうそう劇場で観る機会はなかったと思う。映画館で働いていた頃、お客様から「高倉健とかがやる、任侠映画とか上映しないの?」と言われたこともある。そして「あの頃は良かった」と言う意見も多数いただいた。おそらくシニアの方々の意見だろう。一方、今の10代20代はどうだろうか。観る媒体が増えたが本書で紹介されている「任侠」映画にこのような解説書無しにたどり着く人が何人いるだろうか。

私自身、紹介映画でも一部しか観たことがない。また映画館で観たことがあるのは『網走番外地』や『唐獅子牡丹』くらいだ。そんな私でも鑑賞したくなる映画の数々。

作品ごとの紹介をはじめ、筆者の任侠映画に対する「愛」が伝わってくる。任侠映画といえば刑務所を出所するところから始まったり、喧嘩のシーンから始まったりと過激なシーンが冒頭から繰り広げられることも多い。しかし本書を読むと、主人公とヒロインの恋物語やそこに入ってくる第三者を含めた三角映画が描かれていたり、復讐するために周りのものを何でも利用するなど「THE悪」というものも数名いる。この物語の作り方は正攻法、今観ても、何度観ても面白い。

「しかし120本。一体どれから観れば良いか分からない」。そんな人もいるだろう。何しろ山根さんのこの著書、とにかく全部観たくなるからすごい。アレもコレも状態だ。そんな中でも特におすすめであり、山根さんによる解説文を読んで、グッときた作品がある。それは 『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』(監督:佐伯清/1966年)だ。山根さんの紹介文を引用すると本作の紹介文章の最後に「ほかの任侠映画とは微妙に違う硬質の抒情が結晶する」と締めくくられる。私も本作を観て、ほかの任侠映画にはない心の揺れが感じ取れた。もちろん演者の演技力とか目力といった細かい所作の積み重ねでラストまで観客を導いてくれるのだが、高倉健さんの撮り方がなんとも憎い。本著は映画のあらすじに丁寧に触れつつ、一番の見所、任侠映画の「楽しみかた」を提供してくれる。少なくとも私は読んだ後、もう一度映画を楽しみたくなりレンタルショップに走った。

宮本裕也(映画好き 学生)

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