神戸映画資料館

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鈴木仁篤&ロサーナ・トレス作品特集 鈴木仁篤監督インタビュー

『TERRA』

ポルトガルで共同映画制作をおこなう鈴木仁篤監督とロサーナ・トレス監督の三作品が3月16日(土)・17日(日)に神戸映画資料館で上映される。いずれも言葉を切り詰めた、画と音の力で豊かさを感じさせる映画だ。この特集を前に、鈴木監督にインタビューをおこなった。

 

──映画を熱心にご覧になり始めたのはいつ頃でしょうか。

小さい頃は映画を観る機会はあまりありませんでしたが、高校生の頃、松山市にフォーラム松山が開館して通い始めました。高校卒業後は京都で自主上映団体〈スペース・ベンゲット〉の人たちと知り合い、通い詰めていました。当時開館したばかりの京都文化博物館でも、日本の古典映画をたくさん観る機会がありました。

──そうして映画を観ていくうちに、自分で作ろうとは思いませんでしたか? 初監督作『丘陵地帯』(2009)の前に習作やスケッチ的な映像作品は撮っておられなかったのでしょうか。

映画をもっと深く知りたいと思いましたが、当時はどうすればよいか分かリませんでした。映画を観まくっているあいだに、自主映画や低予算の映画を制作している人たち、演劇関係の人たちと知り合う機会があって手伝ったりしていましたが、集団作業は苦手だったので自分で作れるとは思っていませんでした。沖縄に移り住んでからは、写真を撮り初めました。

──沖縄に住まれていた時期の体験は、のちの映画制作に影響をもたらしたでしょうか。

沖縄の人々の暮らしから多くのものを学びました。島々の祭事や御嶽を訪ね歩いたり、農作業を経験したり、焼き物や染物などの作業をお手伝いしているうちに、物の見方を自然と学んだのかなと思います。

──沖縄のあと、ポルトガルへ行かれた理由を教えてください。映画制作が目的だったのでしょうか。

沖縄に住んでいるときに、土や漆喰などを使った家づくりやお店の内装もやっていました。ヨーロッパ各地の土を使った建築を見て回ったり、作業のお手伝いをしながらヨーロッパを放浪して、映画を観ていました。ポルトガルに土を使った版築の家がたくさんあると耳にしたのと、ポルトガル映画を知りたいと思ってポルトガルへ行って、シネマテークに通って国中を旅しました。映画のセミナーで知り合ったロサーナさんとポルトガル南部をあちこち巡り、彼女が持っていた小さなビデオカメラで時々撮影していましたが、映画を作ることは考えていませんでした。

『丘陵地帯』

──そこから『丘陵地帯』はどのように作られたのでしょう。

ロサーナさんとあちこち行っているあいだに、彼女が地域の宣伝のための数分のクリップ制作の依頼を受けました。編集をしているうちに映画になりそうな感じがしたので、クリップとは違うものを作り始めました。

──それまで多くの映画をご覧になって来られて、撮影中に「あの映画のような画を撮りたい」と思うことはあったでしょうか。ロサーナ監督と撮影に関して事前に決めていたことはありますか?

実際の撮影場所に行って決めるのであって、事前に何かしらのアイデアがあるわけではありません。

──『丘陵地帯』でインタビューを撮っておられないのは、おふたりの好みでしょうか。しかしその分、編集は難しくなりますね。

インタビューはあまり好きではないので、やらないでおこうと思っていました。撮影の段階でどうまとめるかは考えていなかったので、編集に長い時間がかかっています。

──映画で聴ける音はカメラマイクで録音されたものですか?

カメラマイクの音をそのまま活かしたところもありますが、古い小さなカメラだったため、モーター音が混ざったりして使うことが出来ず、後から作った音がたくさんあります。

『レイテ・クレームの味』

『レイテ・クレームの味』

──第2作『レイテ・クレームの味』(2012)は趣が変わり、室内のシーンが多い作品です。舞台となる家屋はどこでしょう。

ポルトガル中部のロサーナさんの祖母と、そのお姉さんが暮らす家です。ロサーナさんのお父さん、そして彼女自身も幼少期に暮らしていた家です。

──どのような経緯で、その家で撮影することになったのでしょう。

クリスマスにロサーナさんの家族がその家に集まった時に初めて訪れ、彼女の祖母がレイテ・クレームをつくるのを見ました。とても素敵な家でしたので、ここで撮影できないかとロサーナさんに提案しました。何回も訪ねては、そこに滞在しながら撮影していました。

──各カットの構図や光などは直感だけで撮れないと思ったのですが、いかがでしょう。また演出のアイデアはどのように生まれたのでしょう。

いわゆるドキュメンタリーをつくるつもりはなかったし、「これが映画になればいいな」と考えていました。一緒に住んで、彼女たちと生活しながら「こんなシーンがあってもいいのではないか」と、ロサーナさんと相談しながらつくっていきました。

──さらにこの映画で感じるのは蓄積された「時間」です。姉妹の動くスピードからは年齢が窺えるし、家そのものに宿った長い時間も感じ取れます。壁にかけられた写真や画からも、家や人物の持つ時間が垣間見えます。

家自体に歴史があって、そこに彼女たちが暮らしている。それを感じ取れたらと思いました。写っているものすべてに歴史や時間を感じます。

──何気なくごく短い会話からも姉妹の生活を見事にすくい上げています。

たくさん撮影した中から、二人で議論しながら選びました。

──作品全体がワンシーンワンカットで構成されているのは、編集でそうなったのでしょうか。ひとつのショットの長さはどう決められるのでしょう。

特に前もって構成があったわけでなく、編集でこの形になりました。ショットの長さは全体のバランスを考えながら編集で決まります。

──編集するうえで『丘陵地帯』との違いはありましたか?

編集の進め方は作品ごとに異なります。『丘陵地帯』は、何より音の作業に時間がかかりました。

──レイテ・クレームはポルトガルのお菓子ですね。作品全体で見ればレイテ・クレームにまつわるシーンはそう多くありません。それでもタイトルに使った理由はなぜでしょうか。

レイテ・クレームはポルトガルの家庭では人気のあるお菓子です。それは懐かしい祖母の家を思い起こさせます。

『TERRA』

──続けて、最新作『TERRA』(2018)を制作したきっかけを教えてください。

『丘陵地帯』を作った後、同じ地域で別の映画が作ること出来たらと思っていたのですが、すぐには出来ずに『レイテ・クレームの味』を作りました。その後、ある日バーで炭焼きをやっている人に会い、その場所を訪ねると、池のそばの素敵なロケーションに炭窯が二つありました。とても惹かれたので、そこへ通って撮影を始めました。

──作業についての説明は一切ありませんが、観客は見ていくうちにおぼろげに男性が何をしているか把握できます。鈴木監督は炭焼きの流れをご存じでしたか?

沖縄にいるときに炭作りを見たことがありました。炭焼きの工程を説明したいとは思いませんでした。

──ラストカットが素晴らしいです。あの画は撮影の段階で最後に使えると思っておられましたか?

たとえよいものが撮れても、それを映画に使えるかどうかは分かりません。炭焼きと並行して色んなことを同時に撮っていたので、編集するまでは全く分からなかったです。

──『レイテ・クレームの味』を経て、『TERRA』で再び自然を撮られている印象も受けました。毎回違う試みを心がけておられるでしょうか。また、今後の構想があれば最後にお聞かせください。

特に意識していません。コロナ禍のあいだに撮影した素材はありますが、それが映画になるかどうかはまだ全く分かりません。

(2024年3月)
取材・文/吉野大地

2024年3月16日(土)・17日(日)鈴木仁篤&ロサーナ・トレス作品特集

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